「ここが闘技場ですな。見ているだけでも気分が高揚してきますなぁ」
異世界へとユグドラシルアバターの姿のまま迷い込んだ須永は、バハルス帝国帝都アーウィンタールにある闘技場へと足を運んでいた。
オーガとゴブリンから助けた金髪の女性剣士、レイナース・ロックブルズから色々とこの世界の情報を得た須永は、手っ取り早く金を稼ぐ方法として教えられたこの場所にやってきていたのだ。なお、レイナースは皇帝直属の騎士になったばかりという話を聞いている。
(そもそもダンディ須永のスキルじゃ、戦うか、料理をするくらいしか金を稼ぐ方法なんて思いつかないからなぁ……)
ダンディ須永は日本だけでなく、アメリカ、メキシコで活躍し各国のリングでベルトを獲得。滞在先では、シェフ顔負けの腕前で自炊をし、レスラー仲間にも腕を披露することがあった……という設定がある。
もっとも、料理で稼ぐには材料や道具が必要なため、今すぐには無理な話だ。
(レイナースさんから、"城で働くなら紹介しますわよ"と言っていただいたけど……まあ、本当に困ったらそうさせてもらえばいいかなぁ)
この数日の間に彼女からは、色々な情報を得ている。
(帝国最強の存在____逸脱者_____と呼ばれている最強の魔法使いで、第6位階魔法までだって話は本当なんだろうか。もし本当だとしたら、第10位階魔法が使える100レベル魔法職なんかが転移してきたら……まさに
魔法職と比べたら、多様性は明らかに肉体派の須永が劣ることは否めない。
(ま、そんな時はスッと行って……)
ドスッ!
「おっと」
考えごとをしながら歩いていた須永は迂闊にも前から歩いてきた、粗末な布の服をきた女性とぶつかってしまう。
「あっ……」
100レベルプレイヤーである須永はこの程度のことではダメージは受けたりしないが、ぶつかった女性はバランスを崩してしまい、パリン! という音とともに地面へ倒れ込んでしまった。
「あ……」
女性の整った顔に怯えの色が浮かぶ。よく見ると彼女の耳は半分ほど切り取られている。その耳の形状から、彼女はどうやらエルフと見受けられた。
(確か、エルフの奴隷はこんな風にされるって話だったよな。ゲームの中じゃなくて、現実になるとやはり……愉快ではないな)
須永は基本的にベビーなので、悪行には腹が立つのだ。ただし、ヒールモードの時は別だが。
「大丈夫ですか?」
須永は優しい声音で語りかけながら、倒れた女性に手を差し伸べる。
「は……」
「なにをやっているんですか、このグズが」
若い剣士風の男が怒気をあらわに近づいてくると、返事も待たずに容赦なく全力でエルフの顔を右足の爪先で蹴り飛ばす。
「ぎゃうん」
エルフは、鼻から血を流しながら倒れ込む。
(女性の顔面にトーキックかよ、コイツ色々と反則だよ)
須永は怒りを覚える。
「大事なポーションを割るとは……」
倒れているエルフをもう一度蹴り飛そうと足を振り上げる。
「なにをしているのですか、貴方は」
須永はその蹴り足を左手で容易く受け止める。
「部外者が邪魔をするなっ!」
「残念ながら、私は部外者ではなく当事者ですな。なにしろ彼女は私とぶつかって倒れてしまったわけですからな」
「……なるほど……なら貴殿がポーションを弁償してくれるのですか?」
剣士は睨みつけながら尋ねる。
(ポーションの手持ちはあるけど、こいつに物は与えたくない)
須永も睨み返しつつ、答えを口にする。
「……それよりもっと楽しいことをしませんかな?」
「楽しいことだと?」
「ええ。見たところ貴方は腕に覚えがあり、力を持て余している様子。そこに倒れているものを含め、3人のエルフを痛ぶって鬱憤ばらしをしているとお見受けします。ならば、正しい方法で、エネルギーを消化するとよいと思われますな。……私と戦ってみませんかな?」
「なっ……なんだと……」
剣士は思いっきり動揺していた。初めてあった男に完全に見透かされていたのだ。
「……よいでしょう。この不敗の天才剣士、エルヤー・ウズルスに挑戦しようとは愚かですね。せっかくですから闘技場の大勢の観客の前で恥をかかせてやりましょう。ま、生きていればの話ですが」
「ふむ。決まりですかな。ああ、そちらはチームなのでしょう? 私は1対4で構いませんよ。ようは、ハンデキャップマッチですな」
須永はさらりと煽りを入れる。みるみるうちにエルヤーの顔が真っ赤になっていく。
「ふん、負けたときの言い訳にするつもりですか、姑息な」
「逆ですな。そちらがチームなら負けなかったという言い訳をできなくするためですぞ」
「ふん……名を聞いておきましょうか。対戦を組んでもらうにも名は必要ですから」
エルヤーはムッとしながらも、口調を崩さずに尋ねた。
「私ですか? 私の名前は、ダンディ須永。まあ、ダンディ・ドラゴンとも呼ばれていますがね」
須永は一呼吸置くと、口調を変える。
「おい、エルヤー! このダンディ須永が、お前に初の敗北の味を教えてやるから、首を洗って待ってやがれ、このゲス野郎!!」
須永はいつの間にか持っていた小道具のマイクを地面へと叩きつけた。