異世界プロレスinオーバーロード   作:NEW WINDのN

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帝国の人が出ない回です。

前回は青の薔薇でしたが。今回は……


第29話 爪痕

 

「これは良くないを通り越して、もはや絶望的かもしれん」

 王国六大貴族の1人に数えられる、エリアス・ブラント・デイル・レエブンは予想以上の事態の悪化に頭を抱えた。

 

 もともと王国は、貴族の派閥争い……いや足の引っ張り合いのせいで物事が上手く回っていない。それに加えて麻薬の蔓延、さらにはバハルス帝国との戦争による消耗が重なり、国力は徐々に低下し、崩壊の序曲が始まっていたのだが、最近になって状況はグンと悪化していた。

 

 3ヶ月前に行われたバハルス帝国との戦争が、いつもと違っていたのがひとつの原因である。

 

 レエブンはその時を思い出す。

 

 

「なんだと、8軍団出陣!?」

 

 この報には驚かされた。帝国の8軍団といえば全力出陣であり、本気で潰しに来た……としか言えない状況であった。帝都の守りは薄くなるが、帝国にはフールーダという切り札がいる。

 王国の多くの貴族は、魔法詠唱者(マジックキャスター)を侮っているが、レエブンは違う。やり方次第ではフールーダ1人に王国全軍が負ける可能性もあると考えていた。

 

「……準備状況からして、4軍団出陣はあるかと思っていましたが、まさか……8軍団とは。これは非常に不味い……」

 王国の兵士が徴兵された民兵中心であるのに対し、帝国は専業軍人である。兵士1人ひとりの質では話にならない。3人いや、4人がかり戦ってようやく互角に戦えるほどの差があった。

 帝国軍1軍団は1万人で構成されているので、8万となれば、単純に考えて32万ほどの動員が必要になるのだが……その計算は通じなくなっている。

 

「前回が痛すぎた……」

 

 前回の戦いにおいて王国は大きな被害を出している。それは帝国軍が強くなっていた──レベルが上がっていた──からである。

 専業軍人が訓練を積み、レベルアップしているのに対し、王国は戦争直前に招集するだけ。つまり現状維持にすぎない。進歩がないのは後退と同じと言われるが、実際そうである。

 過去最大の損失を強いられた王国は、多くの働き手を失い各種産業……とくに農業は一気に衰退している。

 産出量が減ったのに、納める税は変わらず……いやむしろ増えており、農村部では相当な反発を受けていると聞く。

 

「いまや5倍を持ってしても、抑えきれるかはわかりません」

 40万の動員が必要になるが、そんな兵力は簡単には集まらない。

 今回王国がかき集めた兵力はなんとか25万。税の減免を条件に出したり、各地の領主が苦心した結果の動員であるが、絶対数の不足以外に深刻な問題があった。

 

 それは食糧の不足である。参戦する兵士たちには食糧を持参するように促し、かつ城塞都市エ・ランテルに備蓄している食糧を使って戦争しているのだが……。

 生産力の低下により、各自の持参する量が少なかったり、またはまったく持っていないという兵が多く、さらには備蓄も異常に少ないことが判明した。

 

「なぜ、そんなことになった!」

 喚く貴族がいる中、レエブンはその理由を知っていた。

「高値で買い付けていた商人がいたようです」

 そう、宣戦布告より前から、食糧を相場より高値で買い漁ったものがいたのだ。

 まず、農村部に現れたその商人は税の支払いに困っていた農民から食糧を高値で買いあさる。

 その価格は相場の2倍に近く、重税に苦しむ農村部な民にとってはまさに救いの神だった。彼らは自分達の最低限の食糧すら下回る量しか残さず、現金に変えた。納税して残った金で都市で食糧を買えば良いとの考えで。

 現物または現金での納税が義務付けられているので、彼らはほぼ全員が現金を選ぶことになった。

 そして、彼らが買い出しに行く都市では物価が上昇しており、かろうじて彼らが生きる分を確保するのが精一杯という有り様だった。

 

 これは当然商人が、近くの都市でも同様に買い漁った結果だ。4割増だったそうだが、高く買ってくれるならと都市の商売人達は儲けのチャンスを逃さない。

 さらには地域を管理する貴族をまでもが欲にまみれ、3割増程度の金額でホイホイ売ってしまったのだ。

 王国の各都市はレエブンの支配下以外の地域はほとんどこのような状況であった。それは王都も例外ではなかった。

 

 農村からは入荷せず、都市では値段が高騰、国が全体的に食糧不足……。そうなってくると金がある貴族や商人が食糧を隠していると噂が流れ、不穏な空気になる……まさに悪循環。これでは持参する食糧がなくなるのは当然だった。

 

 そして、防衛拠点であり、前線基地にもなる重要拠点エ・ランテルでは、都市の備蓄を管理していた役人たちが備蓄品を横流しし、得た金を持って逃げるという事件が起きた。

 さらには役人不足になった所をつき、食糧倉庫が襲われるという負の連鎖が起き、備蓄は底をつく。おかげで、深刻な食糧不足となっているのだ。しかも、そんな状況の中収穫前の大事な時期に、この戦争が始まった。

 

 

「明らかに帝国は狙っていたな……」

 レエブンは、買い漁っていた商人は帝国の手の者であると確信していた。ただし、確証はない。

 

 そして戦争も異常な展開であった。

 

 なにしろ王国側の戦死者が1人もおらず0だった。これは戦わなかったわけではなく、戦った上で戦死者なし。ただし、やたらとケガ人は多かったのだが。

 

 これは異常であるとしか言えない。

 

「くそっ、わざとらしい真似を……」

 帝国からすれば、人をわざわざ減らす必要はない。戦争をすれば、王国の産業が衰え国力は落ちるのだ。

 だから、これは意図的なものだろう。わざと殺さないようにし、王国からすれば負けている実感はないから引くこともせず、帝国は長引かせるのが狙いだ。

 こうして戦争が長引いた結果さらに、怪我人が増えてしまい戦力はダウン、食糧は毎日消費されあっという間に底をつく。

 わざわざ徴兵され戦わされているのにろくな配給もない。そこに、帝国軍側からは肉を焼く匂いが風に乗って届くのだ。これはたまったもんじゃない。しかも、不思議なことに毎回食事の時間になると帝国側から王国側へ風が吹くという自然の悪戯のオマケつきだった。

 

 日に1度だけ。しかも少量の王国に対し、帝国軍は三度の飯に、1日一軍ずつ酒盛りまで始める始末。

 王国側の士気は地におち、上層部への不信もあり、夜が明けたら兵の数が減っていくことになる。監視をつけても監視ごと逃げるし、身寄りのない平民などは、朝になると対岸……つまり帝国に加わっていることもあった。

 

 これではどうにもならない。撤退をよぎなくされた王国は2つの条件を飲み講和に至った。

 ひとつ目の条件は、約半数の怪我人の治療を帝国側が行うこと。なお、彼らの意思で帰還のタイミングは決まる……こと。帝国からすでに大多数は帰還したが、なかには帝国に鞍替えしたものもいる。

 レエブンも知っているが、今の帝国は明るく活気があり、税も安い。

「善意という建前で、何を仕掛けようとしているのか……」

 

 そしてもうひとつの条件は、食糧の購入である。完全に足元を見られた王国は、敵対国である帝国から平時の3倍近い金額で食糧を購入することになる。背に腹は変えられない王国としては、従うしかなかった。

 

 そしてその輸送部隊とともに、今帝国で大ブームになっている帝国プロレスのエ・ランテル近郊での開催を認めることが追加された。

 

「さて、今日がそのプロレスの開催日か……何が起きるかな……何をみせてくれるのか? ダンディ須永よ」

 

 レエブンは足早に会場へと向かった。

 

 

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