「ただ今の試合は、25分10秒……ピープルズエルボーにより、勝者ダンディ須永! 」
須永のテーマ曲が流れ、試合終了を告げるアナウンスが流れる。
「決めたか、ダンディ」
「初めての技にしては盛り上がりましたな」
リングに戻ってきたカイザーとダンディはガッチリ握手をかわす。
「あれだけアピールして、あそこまで跳べば当たり前だろう。相変わらず派手な男だよ」
「金銀でキラキラした方が言いますかなぁ……」
「違いない」
2人は声をそろえて笑う。この2人は仲が良いようだ。
「あっちゃあ……やられちゃったかー。スナっちゃんにはなかなか勝てないなー。ほら、レインもいつまでも寝てないで、立ちなさいよ」
ティは右手を差し出し、レインを片手で引き起こした。
「いっっ……ただの肘落としがこんな威力とはな。あれから俺の人生どうなってんだか……」
「何言ってんの。アンタはプロレスラーでしょうが。だいたいスナっちゃん相手ならあれくらい普通じゃね?」
腰に手をあて、もーと口を尖らせる。試合中の獰猛さが消え、可愛らしい子猫のような愛嬌をみせる。
「やべ、スゲー可愛い……」
「萌えるわ……」
客席の男子達のハートにスッと入りこんで、ドスッっとわし掴む。
試合中は男子顔負けの戦いをみせ、Sっけを出して客を煽る。ナチュラルヒールであり、アイドル的存在でもある──そんな稀有な存在が、タイガー・ジェット・ティである。
なお、名前は虎のような獰猛さ、ジェットのような瞬発力……を表現したと、名付けた須永は語っていたが、実際には伝説のレスラーからインスパイアされたものだ。もちろんこの世界では誰も知らないが。
「プロレスラーか。まだまだだな俺は……」
「いいんじゃないかなー。まだまだってことは伸び代あるってことでしょー。……ありがとー」
ティは自分への声援があると、手を振って愛嬌を振りまき、相手が好みだと投げキッスの大サービス。これで失神する観客までいた。
もしここに素顔の彼女を知る者がいたら目を疑うであろう光景だったが、帝国プロレスにおいては平常運転である。
「そう、まだ先は長い。レイン、君は素晴らしい先読み力がありますしキレもある。ですが、カイザーのように声援を力に変えるのもプロレスラーには大事ですぞ」
須永はそういいながら、ティと続いてレインと握手をかわし、それにカイザーも続いた。戦い終わればノーサイド。今のところ軍団抗争などもなく純粋な試合内容で魅せている。
「まだまだ修行が足りんか」
「かったいなー。レイは頭固すぎんだよねー。まだ若いのにジジーみたい」
「ジジーだと?」
「いいから、アンタも手ぐらい振りなよ。意外と声援あるんだよ? 見た目悪くないからねー。中はジジーだけど」
軽口を叩きながら、ティは声援に応えて手を振る。
「声援か……」
レインは耳を澄ます。若い男性はティに、キッズからはカイザーへ。若い女性の一部は確かに自分へ声援を飛ばしている。レインは静かに手を上げ、地味にそれに応えた。
「王国のみなさん、こんにちは。帝国プロレスのダンディ須永と言います。本日はお忙しい中多数の御来場誠にありがとうございます」
須永は、声を拡大するマジックアイテムつまりマイクを使って語りかける。
「今日はプロレスをみていただきましたが、楽しんで頂けましたでしょうかな」
大きな拍手が須永の問いに対する答えだった。楽しかった! 凄かった! という声も飛ぶ。
「ありがとうございます。ところで、ティ」
「なーに? スナっちゃん」
こちらもマイクを手にしたティが甘い声を出す。
「その呼び方はやめろって言っただろう。ダンディ・ドラゴンの名が泣くわ……それにスナッチャーみたいだし」
「スナッチャーってなに? まあ、いいじゃん。私とスナっちゃんの仲なんだからさー」
「どんな仲だよ……」
須永は冷静なツッコミをいれる。
「えーひどいよー。毎日上になったり、下になったり、色々なところ絡ませあってんじゃん。突いたり突かれたりもしてるし……」
左右の人差し指同士をツンツンしながら内股になってしおらしくする。
「ブー!!」
客席から須永にブーイングが飛ぶ。特に若い男性から。女性ファンは眉を顰め、ヒソヒソと話しながら目は蔑むような抗議をするような目になっている。
「……コラコラ、誤解を招く表現をするんじゃないっ! みなさん完全に勘違いしてますぞ。これは全部プロレスの話ですからな。だいたいスティレットで突いてくるのはティの方ですし。それ、反則ですからな!」
「てへ」
ティは舌を出して誤魔化す。それを見て場の空気が和らぐ。
「なんの話をしようと……ああ、そうだティはカイザーに足をやられてましたが、大丈夫ですかな?」
「スナっちゃん……ぐす……鍛えているから大丈夫だよーって言いたいけど……オイ、カイザー! 痛てーんだけどぉ?」
槍玉に上がったカイザーは、両手を広げてやれやれというポーズをとる。
「なんだ、その態度っ」
ドンと足でマットを蹴る。
「アイタタ……」
「そりゃ、痛めた足でやれば痛いでしょうな。ところで、ティ……これがなにかわかりますかな?」
いつの間に、どこからか取り出した青い液体の入った瓶の印の入った側をまるで印籠のように見せつけた。
「そ、それは……バレアレ印の回復ポーションじゃん」
「この都市1番の薬師リイジー・バレアレ殿の作ですぞ」
須永はティの膝に振りかける。
「やっぱ効くねー」
ティは足の感触を確かめると軽やかにコーナーを蹴り、クルンと回転して着地。客席から拍手が起きる。ここはいわゆる、CMコーナーであった。
「さすがはバレアレ薬品店のポーションでしたな」
と言いつつ、ティ以外の3人はポーションを飲んだ。
「あれ、なんだか仲間ハズレなんですけどー」
「さて、今日はこれまでですな」
軽く無視して進行すると、客席から、「えーっ!」いう抗議の声が上がった。
「ありがとうございます。もっとお見せしたい技もありますし、色々な試合をお見せできます。また、ここに来ても良いですかな? もしよければ、団体名のコールでお応え願います」
須永の言葉に一瞬の沈黙。そして……。
「て・い・こ・く! て・い・こ・く!」
王国の王家直轄領で響き渡る帝国コール。
これは……ありえないことである。
ここは、王国の都市。
さすがにいつものように皇帝降臨はできないよね……。
代わりに……。
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