この話が第3章の8話目で、折り返し点になります。残り7話。
「て・い・こ・く! て・い・こ・く!」」
帝国コールが鳴り響く、エ・ランテル城門前特設リング。先に断っておくが、ここは帝国ではない……そう帝国ではないのだ。
「ふざけるなー。貴様ら、ここをどこだと思っているのだっ!!」
一体感溢れるエンディングを迎えた雰囲気をぶち破ったのは、王国第一王子のバルブロだった。
自国で帝国コールを目の前にして黙っていられる立場でもないし、性格的にも無理だった。大柄な肩をいからせて、大股に乱暴に歩いてズンズンとリングへと近づく。当然周りを固めていた親衛隊も一緒だ。
観客達は水を差されたことに不快感を覚え、件の人物に抗議の眼差しを向ける。罵声などが飛ばなかったのは、誰だか知っていたわけではなく親衛隊が取り巻いているからだった。
「神聖なリングの上ですなぁ」
須永は飄々としている。
「まあ、正確に申し上げると帝国プロレスのリング上ですぞ。リ・エスティーゼ王国
あえて丁寧にフルネームで呼ぶ。第一王子という言葉が客席に伝播していく。
「王子……」
「王子だってよ」
「あれが?」
好意的な反応はほとんどなかった。
「ふざけるなっ、ここは王国の領土……それも、王家の直轄領だぞっ!」
「ふざけてなどいませんぞ。我々は常に真剣なのです。それにどこにあろうともここが、我々にとって神聖な場所、リングであることに変わりはないのです」
須永はバルブロの怒気に1歩も引かない。そもそもの領域が違うので当然ではあるが。
「なんだと! なんだその態度はっ」
「そうだぞ、王子に対し無礼極まる」
バルブロと取り巻きの1人がリングに足をかけようとする。
「止まれっ! そこから先はド素人が入ってくる場所ではないのですぞ」
「ド素人だとぉ?!」
「では、プロだとでも? もしこのリングに上がる勇気があるなら上がってみなさい」
「なんだとぉ? この俺様に勇気がないとでも?」
バルブロは、腕に覚えがある方だ。実際腕力には自信がある。
「先に1つだけ言っておきますが、このリングの上では身分は関係ない。貴族だろうと平民だろうと王族だろうとね。対等に扱われるのですよ。それでも命のやり取りをする覚悟があるのであれば、上がってみなさい」
ハッキリとわかる殺気を放つ。先程まで楽しげにマイクパフォーマンスをしていた明るい須永の姿はそこにはなかった。
「なにが命のやりとりだ。貴様らのは所詮ごっこ遊びだろうがっ!」
「そうだ、そうだ」
「貴様らごとき我々の相手ではない!」
親衛隊が声を揃える。
「ヤレヤレ……目が節穴のようですなぁ」
「まったくだよ。いっておくが、このリングにいる4人とも、そこの素人集団とは力量が違うんだけどねぇ」
「だな。知らないというのは恐ろしい。ま、昔の俺もそうだったがな」
「なんならあがってきたら? 勇気があるならね。おうじさまぁ」
リング上の4人はリングに立つ重みを知っている。
「貴様ら許さんっ!」
親衛隊と王子は、エプロンサイドにあがってしまった。
「それはこちらのセリフですぞ。神聖なリングに土足で上がり込むとは……」
「スナっちゃん。やっちゃっていいの?」
真っ先に臨戦態勢になったのはティだ。
「ちょっと待って貰おうか」
だだだっと駆けてきてコーナーポストに飛び乗った男がいた。
「王子が手を出すまでもねぇ。このイグヴァルジさまがこいつらをなぎ倒してやるぜ」
そういうが早いかリングへと降り立つ。
「なんか、弱そーなのきたよ。スナっちゃんどーする」
「任せますぞ」
「はーい。じゃあ相手してやるよ。さて、イグヴァだっけ? 何秒持つかなぁ。41秒くらいかなぁ?」
ティはニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「チッ、ふざけやがってこの俺様の力を見せてやんぜ」
イグヴァルジは剣を抜いて斬りかかる。当然反則だ。
「何それ、それで全力? 遅すぎて止まって見えちゃうんですけど」
ティはさっとかわすと次の瞬間にはコーナーポストの上にいた。あくびまでしている。
「何っ?」
「いっくよー。タイガーショット!」
ティはコーナーを蹴り凄い速さでイグヴァルジに迫ると、顔面をシュートした。
「ひぶっ!」
そのまま場外へぶっ飛び白目をむき失神してしまう。
「ただ今の対戦は、0分8秒。タイガーショットにより、タイガー・ジェット・ティ選手の勝ち」
「あーあ、つまんねー。弱すぎ。41秒どころか8秒……」
「なっ……あいつ、この都市最高のミスリルだろ?」
バルブロが口を滑らした。
「おや、ご存知だったようですな」
「う……」
「第一王子と冒険者には面識などないかと思っておりましたが、どうやらお仲間だったようで」
「しらん」
「まあ、よいですが、そろそろ降りられてはいかがですかな? それとも、まだやりますか?」
須永は穏やかに尋ねる。
「くっ、くそっ」
すごすごとリング下へ降りる。
「お帰りはあちらですぞ」
「ふざけるなっ! ここは直轄領だ。帰るのはお前らだ」
「もう一度言いますが、ここがどこであれ、今私が立っている場所は、帝国プロレスの神聖なリングです。覚悟なきものは上がれない。そういう場所ですぞ」
「き、きっさまー!」
バルブロはもう一度エプロンに上がろうとするが、躊躇してしまう。
「か・え・れ! か・え・れ!」
「そうだっ! 俺たちの楽しみを邪魔するな、帰れー!」
「か・え・れ! か・え・れ!」
バルブロ相手に帰れコールが合唱される。
「お、王子……」
「なんだ貴様らっ! 私が誰だと」
狼狽える親衛隊と憤る王子に容赦なく罵声が飛ぶ。
「無能な王族だろー!」
「バカ王子ー!」
「誰のせいで高い飯になってるんだー」
「無策王子ー!」
「脳筋バカ王子だろーが」
「帰れー!」
散々である。個人が特定しにくい状況だけに今までの鬱憤ばらしとばかりに爆発したようだ。
「貴様らー、ここは王家の直轄領だぞ! 貴様らこそ出ていけっ!」
言っては行けない一言というものはある。
「出ていってもいいぞ? 困るのは税収が減るお前らだけどな」
「そうだ、そうだ」
「みんなで出ちまうか!」
売り言葉に買い言葉……。
「貴様等っ、反逆罪に問うぞっ!」
「やれるもんならやってみろ! リングに上がれもしない腰抜け王子が」
このヤジに笑い声がおきる。
「きっ貴様らっ」
「とっとと帰れ、腰抜け!」
「こっしぬけっ! こっしぬけっ!」
バルブロは肩を震わせ、顔を真っ赤にしながら観客達を睨みつけるが、効果はまったくない。
「か・え・れ! か・え・れ! か・え・れ! か・え・れ!」
場内から巻き起こる大合唱。さすがのバルブロも、勝ち目も居場所もないことを理解し引き下がるしかなかった。
「さて、とんだハプニングがありましたが、プロレスにはつきものです。さて、今日はここまでですかな。もし、お困りのことがございましたら、ご連絡ください。では、またお会いしましょう。エ・ランテルの皆様。グッドラック! です」
「じゃあネー」
手を振りながら4人は退場していく。
「て・い・こ・く! て・い・こ・く!」
帝国プロレスコールが再び鳴り響く。
リングサイドに、イグヴァルジを残したまま……。
なおイグヴァは、人格者のモックナックが回収したそうです。
帝国プロレスに参戦して欲しいキャラクターは?
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ガゼフ・ストロノーフ
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森の賢王
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ラキュース
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バルブロ
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