ダンディ須永率いる帝国プロレスは、王国内のとある開拓村で近隣の村人と試合を見に来た旅人合わせて、500人ほどの前でプロレスを披露していた。
これはぜひ来て欲しいという嘆願書がレエブン侯経由でジルクニフのもとに回ってきたからだ。ジルクニフはレエブン侯経由で王家からの許可を得ている。ちなみに、エ・ランテル興行の前に日程は決まっており、予定通りに開催された。バルブロとレエブンの間で一悶着あったらしいが、帝プロはノータッチである。
村おこしプロレスと称し観戦料は無料な上、帝国プロレス側が持ち込んだ食材で食事を振る舞うという大サービスつきだ。村おこしというよりも、食料難に苦しむ村に炊き出しにいったついでに、娯楽であるプロレスを披露するような感じが近いのかもしれない。
さすがに参加選手はいつもより少ないが、その分精一杯のプロレスを見せていた。興行参加選手は、主力組の須永、ティ、カイザーに若手数人である。
リング上では、本日のラストマッチが行われている。対戦カードは、ダンディ須永対タイガー・ジェット・ティのシングルマッチである。これは現在の帝プロにおける黄金カードだった。
「行くぞ、てんめぇぇー!」
須永をニュートラルコーナーへ振ったティは、反対コーナーから助走なしで2連続側転。そこから体を捻るとバク転を2回、さらに空中バク転……いわゆるバク宙を決めて右エルボー。しかも、助走なしとは思えぬ速さで決めた。
「がふっ」
須永は、コーナーにもたれかかるように倒れこむ。
アクロバティックすぎる大技に観客は反応を忘れていたようで、一瞬静まりかえったが、そのあとに大きな歓声に変わった。
「すごい……」
「すごい、凄い!」
「人ってあんな動き出来るんだね」
最前列で見ていた少年少女が感動の声をもらす。
「まだまだこれからだよ。見ておきな、嬢ちゃん達」
ティはいつの間にか、ダンディの背にあるコーナーポストの上にいる。
「い、いつの間に……」
「速すぎてわかんなかったよ」
「ほえ……」
とても目が追いつく速さではなかった。
「いくよー!」
ティは、自ら手拍子を始め観客がそれに続く。
「そりゃっ!」
ティはこともなげに隣の青コーナーへ飛び、さらに反対側の赤コーナーへ。そして須永と正対するニュートラルコーナーへ移動した。
簡単にやっているが、コーナー間の距離は10メートル。着地しているのは僅かなスペース上だ。跳躍力とバランス感覚がないとできない芸当だった。
「つあっ!」
そして、高く飛び上がると須永の真上から急降下し、延髄を膝を揃えてぶち抜いた。
このアクションは、"フロム・スリーコーナーtoコーナー"とでも名付けるべきだろうか。なお、ティ本人は最後の延髄へのダブルニーを、2人の運命……"ダブルディスティニーハンマー"と称し、何故か須永戦のみ使用している。だから、フィニッシュにはいたらないがフェイバリットホールドの一つだ。
「グアハッ……」
ダメージを受けた、須永は場外へと転げ落ちる。
「チッ、逃げやがったね……」
フラフラと立ち上がる須永をみて、ティはロープへと走り反動をつけて踏み切り、頭からトップロープの上を飛び越え、場外へと飛んだ。
「飛べ! こんのやろう」
空中で縦回転し、踵を須永の顔面に浴びせ、そのまま背中から押しつぶす。
大技"トペ・コンヒーロ"が決まり、場内は大歓声。どよめき、ざわめきがなかなか収まらない。
「まだまだいくぞー!」
ティが客席を向いてアピールしていると、後ろからその細身の腰に手が回る。
「ちょ、スナっちゃんまだ明るいってぇぇぇぇ!」
ティはぶっこ抜かれるように横抱きに抱え上げられると、後頭部から地面へとバックドロップで叩きつけられた。それもえげつない角度で。
「皆様、これが"バックドロップ"です。あまたあるバリエーションの1つですが」
須永は初めての観客達に技の説明をする。その間に、ティは転がって、リング下に潜り込んだ。
「あのおねーちゃん、なにしてるのかな?」
「なんだろね?」
客席の姉妹は首を傾げ、ティが隠れたリング下をずっと見ている。
「すながーっ!」
やがて姿を現したティは、両手に鈍く光る
「喰らえええっ!」
「おっと」
超高速の2連続突きを、須永はそれぞれの脇で腕を抱え込むことで回避。そのままガチッと"かんぬき固め"を決めた。
「アギギッ……」
「反則はいけませんなぁ……トオリャッ!」
そのまま後方へと"かんぬきスープレックス"で投げ飛ばす。
「では、私からプレゼントです」
須永は、いつの間にか手に持っていた長机をダウンしているティへ叩きつけた。
「ま、これも反則なんですがね」
「セブンティーン!」
そう。ここは場外である。
「あと3カウント以内に戻らないと負けとなります」
ルール説明のアナウンスが入り、場内はそういうルールなんだとザワザワしはじめる。
「おっと、そうでした。トニーレフェリーは厳しいですからなぁ……」
須永はさっさとリングに滑り込む。なお、トニーレフェリーにレフェリング指導したのは須永なのだが。
「エイティーン!」
ここで、ティが長机を蹴り飛ばして起き上がった。
「いてー」
「ナインティーン!」
「やば! "疾風走破"」
ティは速度を上げる武技を発動、超速でリングへ、ヘッドスライディング!
「ふー。やばかったぁ……」
片膝をついて、立ち上がろうとした瞬間……リングに閃光が走る。
「
左腿を踏み台に、須永の右膝がティの虎覆面の中央を貫く。
「ごべぇ……」
倒れ込むティのロープ側の足を抱え込み、片エビ固めでフォール。
そのまま3カウントが入り、勝負は決まった。
「24分13秒
ターラータッタッタッター ♪ と、いつものように須永のテーマがかかる。
「本日はありがとうございました。初めてのプロレスはいかがでしたかな? 楽しんでいただけましたでしょうか?」
「すごい、すごすぎるよ!」
少女のはしゃぐ声。それに続く観客達の拍手が答えだった。
「ありがとうございます。我々帝国プロレスは、まだまだこれからの団体です。人材は広く求めていますので、興味ある方はいつでもご連絡ください」
「スナっちゃんが、優しく厳しく教えてくれるよ……アイタタ……」
ティは、鼻を気にしているが、特に怪我はなさそうだった。
「ティと組める女性などは空き枠ですな……プロレスは、厳しく楽しくですよ。鍛錬あってこそですからな。では、またお声がけくだはい」
「see you again。またねー チュッ!」
ティは少年に向けて投げキッス。ぽわーんとなる少年。隣に座っていた少女は真剣な顔であり、少年のことは気にかけていなかった。
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