帝都アーウィンタールにある闘技場には、大勢の観客が詰めかけていた。観客の半数は若い女性であり、彼女たちのお目当てはエルヤー・ウズルスである。
性格にはかなり難アリなのだが、見た目は悪くないどころか、良い部類に入るし何より"不敗の剣士"の異名通りに負けなしの強さがある。人間よりも強い種族が多いということもあってか、この世界の女性は強さに惹かれる傾向にあった。
「ただいまより、本日のメインイベントをおこないます」
場内に声を拡大するマジックアイテムを使った闘技場アナの声が響き渡る。
「結構な入りじゃないか」
闘技場の高い位置に設置されている貴賓室のなかで、高価な衣服に身を包んだ金髪の男が呟く。
「そうですわね、陛下」
それに応えたのは、金髪の女性剣士レイナースである。
「まあ、せっかく皇帝たる私が出張ってきたのだ。こうでないとな」
バハルス帝国の若き皇帝"鮮血帝"ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは楽しげである。先日部下であるレイナースから自分よりも遥かに強い男がいるとの情報を聞き、自らそれを確かめるために、急遽ここにやってきたのだ。
「対戦相手は不敗の剣士、エルヤー・ウズルスか」
「いけ好かない野郎ですが、腕は確かですぜ」
護衛として傍にいる帝国四騎士筆頭のバジウッドが微妙な顔をする。
「ほう……まあ、役にたつのであれば、別に構わないんだがな……ま、その点も含めてみさせてもらうとするさ……」
ジルクニフは出自を問わず、優秀な人材を集めている。かつては戦場で敵対国の戦士長を自ら勧誘したことがあるくらいだ。
「ま、俺も見定めさせてもらいますよ」
バジウッドは心得ているとばかりにニヤリと笑った。
「ああ。''雷光"の目、信用しているぞ」
ジルクニフは、目線を闘技場内へと向ける。
「さあ天武の入場に続いて、"不敗の剣士"に負けを教えると豪語する、挑戦者……ダンディ須永の入場です」
闘技場アナの紹介に場内からブーイングが飛ばされる。
(ま、今は仕方ないかな)
須永が通路を通って、場内へと姿を見せる。
今日は、薄い紫のロングパンタロンに、同じ色の二ーパット、レガースを装着。上半身は左肘に同色のエルボーパットを身につけており、入場用の白い袖なしのガウンを着ている。その背中にはスカイブルーの文字でSUNAGAと書かれていたが、その文字は闘技場の観客には読めない。
「逃げなかったことは褒めてさしあげます」
「それは、こっちのセリフですな」
エルヤーと須永は闘技場の中央で睨み合った。エルヤーの後ろにはエルフが3名控えていた。
「なお、この試合は、皇帝陛下も御覧になっておられます」
進行役からの紹介を受け、貴賓室の皇帝ジルクニフが姿を見せると、若い女性達から黄色い歓声があがる。その歓声の大きさは、エルヤーよりも遥かに大きく、ジルクニフは満足して席についた。
「はじめっ!」
両者が離れた、須永がガウンを脱いで身構えたところで、試合開始が告げられた。
「ヘイ、ボーイ。カモン、カモン!」
須永は言葉だけでなく、右手でおいでおいでと相手を煽る。
「なめやがって!」
エルヤーはまんまと挑発に乗り、距離を詰めると剣を振るう。太刀筋はするどく、結果を期待する歓声があがる。
「ぬんっ!」
須永はそれを避けようともせずに胸で受けた。
「……この程度でしたか。たわいもない…………なっ?」
エルヤーの剣は確かに須永を斬ったのだが、須永には傷一つついておらず、何も無かったように平然としていた。
「おおおっ!」
血塗れになっている姿を予想していた観客席がどよめく。
「なんだあれは……」
皇帝ジルクニフも驚きを隠せず、思わず腰を浮かせてしまっていた。
「うーん、もしかするとモンクが使うアイアンスキンという武技とかですかね。体を鉄のような硬さにするとかいうような……うろ覚えですが。それに須永とやらは、"重爆"の話通りに素手で戦うスタイルのようですし」
バジウッドが、納得のいく答えを返す。
「その程度ですかな?」
「ま、まだまだっ!」
エルヤーが袈裟斬りにするが、やはり須永は平然と受ける。傷はつかない。
「どうしましたかな?」
「おのれっ!」
2度、3度と剣を振るうも、やはり傷一つつかない。
(試しにと思ってパッシブの物理耐性を切ってみたんだけど、レベル差があるからなぁ)
そもそもプロレスラーは、格闘家の中でも相手の攻撃を受け止めることに長けている。故に耐久力は高い。
「どういうことですか、これは……おい、やつは魔法を使っているのか?」
「ひいっ……魔力は感知できていません」
エルヤーの苛立つ声に怯えたエルフが即座に答える。
(普段から暴力と恐怖で縛っているのか。本当にクズだなこいつは)
須永はそろそろ攻撃を仕掛けることにした。