「へ・い・か! へ・い・か!」
「攻め落とすよりも気分がよいものだな。請われて救けにくるというのは」
ジルクニフは歓迎に対し気軽に手を振って応えたり、小さな女の子が花を一輪握り締めて待っていたら、気さくに馬を降りて歩みより花を受け取るなどという対応を見せる。
今までの支配者である王家との違いを鮮明に打ち出すこととなり、エ・ランテルの民達のジルクニフへの好感度は爆上がりしていた。
そもそも他国の都市の救援に、隣国の支配者自らが参戦してくれたという事実だけで、好感度の針は振り切れる寸前だったのだが。
「もう大丈夫だ。この都市は我が軍がしっかりと守ってみせるからな。食糧も持ってきてるから安心するように」
後にエ・ランテルの変と呼ばれることになる市民の反乱により、エ・ランテルが帝国に帰順。そして以前より帝国と連絡をとっていたレエブン侯が治めるエ・レエブルが、それに同調し王国からの離脱を表明。帝国の支配下に入った。
先日青の薔薇が依頼で帝国まで出向いたが、その依頼人は実はレエブン侯だった。もちろん、青の薔薇はそれを知らず商人を護衛していると思っていたが、この商人はレエブン侯の意を受けた使者であった。そう考えていくと食料騒動の際に、レエブン領だけ影響がなかったのも当然だった。そもそも味方であるレエブン領には食糧買取に現れていないのだから。
その青の薔薇は、貴族派閥からの横槍……帝国闘技場の件を理由に干されており、懇意にしていた第三王女ラナーとの面会すらままならない状況に陥っている。敵国に利益をもたらしたと見られていたのだ。もっとも貴族派閥の主だったものは、今回帝国軍に捕縛されており、状況は大きくかわるはずだ。
赤い駿馬に乗り、獅子をかたどった黄金鎧姿の新たなる支配者は声援に応えながら、精鋭である4騎士を引き連れ、街を進む。
「まずは食糧の提供からだな。後続部隊を急がせよう」
くたびれた街を見て、ジルクニフは早急なテコ入れが必要だと判断する。皇帝の名にかけてこのままにしておくわけにはいかない。
「2日後には第1陣が到着予定ですぞ」
須永がいつの間にか皇帝の脇を固めていた。外装はいつもの普段着の須永に戻っている。
「そうか。民を飢えさせるのは支配者として失格だ。特にきっかけがきっかけだけにな……」
「不本意でしたかな?」
「いや、そんなことはないさ。まあ、私にはここまで極端な策は思いつかなかったが」
ジルクニフは元々年数をかけて疲弊させるつもりでいたが、今回の献策により一気に予定をはやめることができた。
「古い知識が役に立ってよかったですよ」
策を出したのは須永だった。大昔にこのような戦略をとった武将がいたということは知っていたので、提案してみたらプロレスとの相乗効果もあって上手く行ったのだ。
ここで1人の男が、ジルクニフ目がけて走ってくるのが見えた。手には光るものを持っているようだ。
「あれは……この間の……」
須永は見覚えがある。確かイグヴァルジという冒険者だ。以前より薄汚れているところを見ると仕事を干されたのかもしれない。
「ダンディ手を出すなよ」
「陛下? 陛下をお守りするのが私の役目ですぞ」
「守られるだけの皇帝じゃないことをおしえてやるのさ、新しい支配地にな」
ジルクニフはニヤリと笑ってみせた。自信に溢れた態度である。
「バックアップいたします」
須永はいつでも飛び出せる位置についた。
「俺の街から出ていけー!」
イグヴァルジが剣を突き出すが、ジルクニフはひらりとそれを躱し、イグヴァルジの背中に回る。
「エンペラーウイングス!」
イグヴァルジの両腕を掴むと大きく広げたまま、ブリッジで後方へと投げ飛ばす。
「イグゥ」
ダウンしたイグヴァルジを無理やり引き起こし、そのまま頭を足で挟みこむと、高々と持ち上げジャンプ。
「これで、終わりだ。エンペラーボム!」
イグヴァルジの両腕に足を引っ掛け、尻餅をつきながら路面に叩きつけた。
「ヴァ……」
血反吐を吐き地に伏すイグヴァルジ。
「見たかダンディ。私の
満面の笑みを浮かべながら両拳を突き上げて喜びを表すジルクニフを、須永は好ましく思う。
「お見事です。これならリングデビュー出来そうですな」
「そうか。リングネームは……ジーニアス・カイザー以外で頼むよ」
「考えておきます」
須永は苦笑せざるを得ない。
「さ、これから忙しくなるぞ。私の仕事も増えるが、ダンディお前の仕事も増えるだろう。まずは、ここと、エ・レエブルでの興行予定を組まないとな」
「了解いたしました。まあ、ここだけではおさまらないでしょうし、アレらの処遇もありますからね」
版図が広がるということは、仕事も厄介事も増えるものだ。そして次への期待も膨らむ。
エ・ランテルの変により、バハルス帝国とリ・エスティーゼ王国のパワーバランスは大きく変化した。
王国は大都市2つと、第一王子、6大貴族の半数を失う大敗北をきっし、さらには各地で民の不満が燻っている。
王国に逆転の手があるのか、それとも帝国の刃が届くのか。
今はまだわからない。
「ダンディ、今日の勝利の宴メインは任せたよ」
とりあえずダンディ須永にとっては、目先のメインイベントが大事なようだ。
「畏まりました。極上のプロレスを御披露いたしましょう。ティには気の毒なことになるかもしれませんが」
「ちょ、マジでいってんのかよてめえ……」
須永とティのやり取りに周囲は笑みに包まれる。エ・ランテルに明るさが戻ってくる。その始まりとなりそうな、そうな光景であった。
第3章最終話となります。
第4章はプロレス多めでお届け予定。