ジルクニフと須永は興行終了後に当日の反省と、次への流れを打ち合わせることが習慣になっている。
流れといっても帝国プロレスは基本的にガチであり、試合結果をコントロールしたりはしない。そもそも主力を張っている我の強い個性豊かな面々が試合後のやりとりならばともかく、試合でいうことを聞くわけがない。
トーナメントを開催するのであれば、誰が勝ち上がるかはやってみないとわからないのである。
力だけなら武王が有利だし、闘技場ルールならまず負けないだろう。だが、ここは帝国プロレスのリングだ。プロレスルールなら丸め込みもあるし、リングアウトだってある。もしかしたら、武王が反則負けすることだってありえる。
そう勝ち方は1つではない。蹴り飛ばすだけ、殴り倒すだけで終わる立ち技格闘技ではないのだから。だからこそプロレスは面白いのだ。魅せて勝つのが帝国プロレスの根幹であり、いかに魅せて勝てるかを皆が競い合っているのが帝プロのリングだった。
「トーナメントの方できましたか。私はてっきり主力6人でリーグ戦をやるのかと思いましたが……」
「それも考えたさ。だが、リーグだと長くなるし、トーナメントは1発勝負なんだろう? 負けても次があるよりも、後がない方が面白いじゃないか」
リーグには違う良さがあるのだが、ジルクニフはトーナメントがよいという。
「確かにそれはありますな。闘技場を楽しんでいた帝国民であればそちらの方が馴染むやも知れません」
須永の言葉に満足気に頷くジルクニフ。考えてみれば、帝国民の代表的存在である。
「ダンディ、2枠残した理由はわかるな?」
「もちろんです。1つは話題性、実は交渉途上、あとは誰を最後にするか決めかねているってところでしょうな。私も8人参加のトーナメントならそうすると思いますぞ。スメラギとカスミノはやはり1枚いや……2枚は落ちますからな」
須永は即答する。実際タッグマッチならともかくシングルでは数合わせにしかならないだろう。いくらセンスがあるとはいえ、スタート地点が違うのだから仕方がない。
「さすがにいい判断だな」
「どちらかといえば、それは私のセリフですな。陛下は理解し過ぎなんですよ」
須永は苦笑しながらそう答えた。所属選手以上に選手達を理解している皇帝などまずいない。いや、唯一無二の存在だろう。
「ふっ。私自身がハマっている代表だからだろうさ。どちらにせよ、ダンディのいう通りだ。1つ2つはサプライズ枠は用意しておくべきじゃないか? 交渉中なのも事実ですでにオファーは出しているからな。……それと1人ダンディが期待している、なかなかの逸材がいるとも聞いているぞ」
「耳が早いですな。しかし、まだデビュー前ですぞ。いきなりデビュー戦がトーナメント1回戦は……」
須永はこれには難色を示す。
「ダンディなら乗ってくると思ったんだがな」
「簡単ではありませんぞ。まあ、サプライズ感はありますが……」
「本当は16人参加にしたかったんだがな……」
所属扱いの選手は増えているが、16人だと前座クラスも含まれてしまう。
「いきなりG1クライマックス級の大会は無理があるかと。個々のレベル差がありますから無理に増やしても仕方ありますまい。数年先はともかく、現状ですと多くて8人がレベルを維持できるギリギリではないかと」
「だな。ところで、G1クライマックスとはなにかな?」
「最高峰のトーナメントまたはリーグ戦の題名とお考えください。似たようなものにKING OF GATEなんてのもあります」
須永は知識の中から古い情報を引っ張り出す。ジルクニフからすれば新鮮な話なのだが。
「なるほど。そういえば毎月の興行に副題をつけるって話も前に聞いたな」
「ええ。毎年同じ時期になると同じ興行名が来る。季節の風物詩という奴ですな」
「奥深いものだな」
「プロレスは、その場その場の試合だけでも楽しめますが、決まった興行があるとそこまでの道のりを考えたりしますからな。まさに今日観戦された方は、残り2人は誰が? と言った話題になると思いますし、トーナメントは誰が勝ち上がるのか、1回戦の組み合わせは……と言った話で盛り上がれるはずです。興行からその次、また次……と線でみるとより楽しめると思いますぞ」
ジルクニフはわかるとばかりに大きく頷く。
「なるほどな。確かにそうだと思うよ……オファーはどうなると思う?」
「今の状況で動けますかな?」
須永は誰に声をかけているかは当然知っている。
「それはわからんが、動くのはチャンスだと思うが」
「確かに今や重用されているとは言いがたく、むしろ密偵疑惑すらあるようですからな……」
「可哀想だなぁ……」
「何を言われますやら。そこまで見越してあそこまでしたのでしょう?」
「なんのことかな?」
ジルクニフはすっとぼける。
「やれやれ、恐ろしいお方だ。常に先を見据え着実に手をうっておられる」
「それに気づくダンディも素晴らしいと思うがね」
「今、認められましたな?」
須永はニヤリとする。
「な、なんのことかな? 」
「ふふ、語るに落ちるですよ」
須永はニヤッと片側だけ口角をあげた。
ジルクニフと須永の打ち合わせは遅くまで続いたという。