異世界プロレスinオーバーロード   作:NEW WINDのN

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第44話 組み合わせ

 皇帝ジルクニフの発案により、帝国プロレスの頂点となるチャンピオンベルトが作成されることが前回の興行において発表となった。

 そのベルトを賭けて帝国プロレスのエースであるダンディ須永と、トーナメントの覇者との間でタイトルマッチが行われることが決定。

 そこで帝都興行の2大会にわたり初代王者決定戦出場者決定トーナメントが開催されることになり、トーナメントの対戦カードは以下の通りと事前に発表されている。

 

 第1試合 ミスター・ゼン VS 超神・ジーニアス・カイザー

 第2試合 タイガー・ジェット・ティ VS X1

 第3試合 リュー VS レイン

 第4試合 武王ゴ・ギン VS X2

 

 有力と見られる武王とティは別ブロックとなり、ライバル関係であるリューとゼンも別々だ。なお、2人のXは当日発表となった。順当にいけば、ティと武王の決勝だろうとも予想されているが、それぞれ相手が不明というのがポイントになる。

 

 ◇第1試合 ミスター・ゼン VS 超神・ジーニアス・カイザー

 

 右腕が異常に発達したリザードマンであるゼンは、生粋のパワーファイターだ。どんな苦境でも右腕の一撃──剛腕ラリアット──でひっくり返すことができる。頼りすぎてしまうところはあるが、一目見れば誰でもそうとわかるわかりやすい説得力を持っている。明らかに左腕より右腕が太く、力強さが違うのは歴然としているのだから。

 対するカイザーは、よく言えば尻上がりだ。試合前半は守勢に回ることが多いが、時間とともに……さらにいうなら観客の声援を受ける度に真価を発揮する。相手の力を引き出したうえで、観客のヘイトを相手に集めさせて、自分に声援を呼び込み逆転する……正義のヒーローここにありという戦い方だ。須永が闘技場時代に見せていたファイトスタイルに近いかもしれない。

 

 ここまで話すとわかるだろうが、例によって前半が弱いカイザーは、やっぱり今日もゼンにやられている。

「おらぁ、どうしたカイザー。お前の力はこんなもんか? どうした反撃してみろ。オラ! エ?」

 極太右腕のリザードマンの猛攻にカイザーは早くも虫の息だった。うつ伏せに倒れるカイザーをゼンは踏みつけ、グリグリと足裏で擦る。……そう言えばいつだかもティに同じことをされていた気がする。

 

「おい、コイツこんなもんだぜぇ」

 ゼンが勝ち誇って吠えるとブーイングが飛ぶ。同じリザードマンでもイケメンのリューに比べて強面のゼンは人気がない。

「うるせえ。コイツで終わりにしてやんよ」

 ぶっとい右腕をアピールしてから、カイザーの金銀の覆面を掴み無理矢理立ち上がらせる。

「カ・イ・ザー! カ・イ・ザー!」

 子供の必死のカイザーコール。たがゼンはロープへ走り右腕でカイザーの首を狩りに行く。必殺の剛腕ラリアット! 

「おおっ?!」

 それをカイザーは、膝を曲げ背中を反る……いわゆるリンボーダンスの要領で躱した。いや、スウェーというべきか。

「カイザー!」

 子供達からわきおこる甲高い歓喜の声。230センチを超える巨体のリザードマンは子供達からすれば、よくて悪の怪人。悪ければ悪の大幹部に見えるだろう。……つまり、どちらにせよ悪となってしまうのだが。

 

「ええぃ、素直にいっちまいなっ!」

 ブン! と右腕を振るうが、カイザーはその腕を掴み逆上がりでくるんとゼンの肩に乗る。

「なにっ?」

「カイザーカッター!」

 首を掴んで後頭部からマットへ叩きつける。

「カイザー! カイザー!」

 一気に客席のボルテージがあがる。

「どうしたオラ! え?」

 カイザーの意趣返しだ。ゼンの顔を踏みつけてゴリゴリと擦る。ゼンの時とは違い歓声が上がる。

「ふざけんなっ!」

 ゼンは怒りをあらわにその足を振り払って立ち上がり、剛腕に力を込める。

「ぶっ飛べゴラァ!」

 またもや右腕を振るうが、カイザーはまた背をそらせてよける。

「甘えんだよっ!」

 カイザーの身体が下から持ち上げられ、投げ飛ばされた。

「くっ……尻尾か……」

 リザードマンには尻尾がある。カイザーがもう一度リンボーすると読んだゼン。彼の本命は尻尾の方だったのだ。

「なかなかのもんだろう? まあ、コレほどじゃあないが、自信はあるぜ」

 右腕で力こぶを作り、アピールしてみせる。やはり自慢は剛腕だ。

 

「さすがに1発じゃ無理か……タフだな」

「あたりまえだぜぇ。このゼン様があんなヤワな一撃で負けるはずがないだろうが」

 カイザーは剛腕をダッキングして躱し、尻尾はキャッチしてカイザースクリューで、足殺しならぬ尻尾ごろし。倒れたところで尻尾を巻き込みながらステップオーバーし、足首をロックする。そのまま顔までは届かないから首をロック。……変形のSTFと言ってよいだろうか。極まった場所はリング中央ど真ん中。これはゼン大ピンチである。

「ぐうっっ、くそおっ」

 ロープが遠い。体格差がある分だけゼンの反りが強くなっており、簡単には前に進めない。しかも、巧妙にゼンの右腕が体の下で不自由になるように技をしかけ、そちら側に体重をかけている。

「このっ……くっ……」

 懸命に左手を伸ばすが、一向に進まない。体力で優るゼンだが、プロレスは力や体力だけではない。気持ちも大事な要素だ。

 そして、勝利を期待するカイザーコールが合唱されると次第にゼンの心が折れはじめ、やがて力なく数度左手でマットを叩きギブアップを宣言することになる。

 

「ただいまの試合は17分20秒……変形STFにより勝者……超神・ジーニアス・カイザー!」

 

 正体不明の謎のマスクマン、超神・ジーニアス・カイザー。須永に次ぐテクニシャンが準決勝進出を決めた。

 

 


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