異世界プロレスinオーバーロード   作:NEW WINDのN

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第5話 飛龍

「やれやれですな」

 須永は軽く左の逆水平チョップをエルヤーの胸元に叩きつける。

「ゲボっ」

 たった一撃で鎧に亀裂がはしり、エルヤーはガックリと両膝をついてしまった。

「うおおっ!?」

 観客は驚きを隠せない。

「な、なんだ、あれは……」

 ジルクニフは目の前で起きたことがわからない。ただただ凄いものを見た気がしていた。

「どうやら、手刀を叩きつけたようですが、威力がハンパねぇ……。下手な武器よりスナガって奴の体のが強い気がするぜ」

 バジウッドは鳥肌がたっていることに気がついていない。

 

「その高さは、格好の的ですな」

 エルヤーの左耳に右の手刀で耳削ぎチョップ。さらに顔面に左の逆水平! エルヤーの鼻から、鮮血が噴き出す。

 

「うぎゃっ……わ。わだしの耳……あ、あっだ」

 エルヤーは耳がなくなったような感覚に陥っていたが、無事な事に安堵した。

(ま、削がないように撫でただけですし)

 その気になれば削ぎ落とせるのだが、今はそこまでする必要はないという判断だ。

 

「ちゆ、治癒をよこせっ!」

「は、はいっ」

 エルヤーの怒鳴り声に慌ててエルフの1人が回復魔法を飛ばす。

「支援もよこせっ!」

 次々と支援魔法が飛び、その度にエルヤーの身体が光に包まれる。1つ飛ぶ度にエルヤーの顔に自信が戻っていくのがわかる。

「……いくらでも構いませんぞ」

 須永は余裕を崩さない。

 

(やっぱりこの世界はレベル低いよナ……不敗っていうからどうかと思ったけど、せいぜい20レベルあるかどうかかな。ま、まだ若いし伸び代はあるだろうけど)

 正直なところ、エルヤー相手なら全部避けようと思えば避けられるし、力を入れれば一撃で倒せると思っているのだが、須永は格闘家ではなくプロレスラーである。ただ勝てばよいというものではない。魅せて勝ちたいのだ。

 

「その余裕が命取りです。<能力向上>」

「むっ……気配が変わりましたな」

 須永はレイナースから聞いた知識の中にあった武技というものを思い出した。

(なるほど、やはりユグドラシルにはないスキルなのか。名前通りの技のようだけど、どれくらい強くなるのか)

 未知の技能を前に須永の心には、警戒とワクワク感が同居する。

 

「くらえ、<空斬>!」

 離れた位置から斬撃を飛ばすエルヤーの切り札が、支援魔法と武技の力によって速度。威力をブーストされ、須永に襲いかかる。

 

「うおっ!」

 須永はそれを真っ向から受け、後方に二回転しながら吹き飛んだ。

「逃がしません。<空斬>!」

 宙に浮く須永へ追撃の一撃。須永の体がさらに弾き飛ばされる。

 

「どうですか、これが私の……なっ……」

 勝ち誇ろうとしたエルヤーは、信じられないものを見た。

 須永は見事に空中で体を捻ると、両足でしっかりと着地。その体はまったくの無傷であった。

 

「うぉぉっ!」

「なっ……ありえない……」

 盛り上がる観客達。そして青ざめるエルヤー。

 

「<空斬>」

 須永はそう呟くと、右手を袈裟斬りに振り下ろす。

「な、なにっ!? ぐうっ……」

 エルヤーの胸元を見えない何かが襲った。

「おおっ!」

 客席は須永がやり返したと見て、沸いている。

 

(前世紀に書かれた何かの漫画で読んだけど、これだけの身体能力があればできてしまうんだなぁ……。まあ、エンターテインメント系の団体なら、こういうファンタジックな技もありなんだけどね。蛇界とか戦う化身(ザ・エスペランサー)のレーザービターンとか……)

 

 須永はこの世界独自の技術である武技は使えない。先程の須永の<空斬>は、高速で右チョップを振り下ろすことで発生した衝撃波をぶつけただけだ。

 

「そろそろこちらのターンですかな?」

 須永はゆっくりと差を詰めてゆく。

「<空斬>!」

 エルヤーは近づけまいと武技を放つが、須永は平然と受け流す。

「馬鹿なっ……効いていたはず。<空斬>」

 意に返さずに須永はじわじわと近づいてゆく。

「<空斬>! <空斬>っ!」

 何かに取り憑かれたように連発するのだが、エルヤーが疲労するだけである。

 

(最初はわざと飛んだだけだからなぁ……)

 そう、一発目の空斬は演出として吹き飛ばされただけであり、やはりエルヤーの攻撃ではダメージを受けない。

 

「何をしているんですかっ! 撃ちなさい、撃てっ!」

 エルヤーはエルフに攻撃魔法を指示するが、その前に須永が懐に飛び込んできていた。

 

「くそっ!」

 エルヤーは咄嗟に剣を振り下ろすが、その腕を須永に掴まれてしまう。

 須永は体を半回転させながら、その腕を自分の右肩へと叩きつける'腕折り'を決めた。

 

 ボギッと嫌な音がして、エルヤーの右腕が砕ける。

 

「うぎゃぁぁぁぁああああ」

「せいっ!」

 須永は体を回転させ、強烈なスピンキックをエルヤーの左肩に打ち込んだ。

「ぐぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ」

「加減が難しいですな……治癒をどうぞ」

 エルフが慌てて治癒魔法をかける。

 

「本当に素手なのか……」

「いや、マジでヤバいっすわ」

 貴賓室のジルクニフとバジウッドは、須永の技の威力に瞠目することしかできない。

 

「さて、まだ続けますかな?」

「ふざけるなっ!」

 回復したエルヤーが斬りかかるが、須永はそれを左手の手刀で軽々と弾き飛ばす。

「くそがあああっ」

 もう一度エルヤーが剣を振るうが、須永は右のエルボーでそれを迎撃。

 バギッという音を残して、剣が真っ二つに折れた。

 

「なんてやつだ……」

「本当に下手な武器より強かった……」

 貴賓室の2人は感嘆の声をもらす。

 

「そろそろ諦めてはいかがですかな?」

「なめるなあっ!」

 エルヤーは、右足で須永の急所を蹴りあげる。

「おっと、それは反則ですな」

 須永はその蹴り足を左手で抱えるようにキャッチ。

「は、離せっ!」

「では、いきますぞ……ドラゴンスクリュー!」

 右人差し指を高く差し上げながら、その指を回し、仕掛ける技名を宣言する。

(何しろ、誰も技名なんか知らないだろうからね)

 ちょっとしたサービスである。実際「サイバーカッター!」など技名を叫びながら仕掛けるレスラーもいたぐらいだから、違和感はない。

 須永は右手をエルヤーの足に絡めて、自らの体とともに一回転させる。この技の受け方を知らないエルヤーはタイミングが取れずにモロにダメージを受けてしまう。

 

「うぎぃぃい」

「あっちゃー、ありゃ折れたかもな……」

 バジウッドが呟く。

 

「逃がしませんぞ」

 須永は倒れているエルヤーの頭部へ回りこむと、左脇で頭部を締めながら、右手を右脇で抱え込む。

「ドラゴンスリーパー!」

「うぎゃぁぁぁぁああああっ」

「……まだ勝負しますか? ギブアップをオススメしますが」

 もはや誰の目にも勝敗は明らかであった。闘技場にいる全ての人が、不敗の天才剣士の敗北を悟っている。

 

「だれが……するか……」

 いや、1人例外がいた。当の本人が認めていないようだ。

 

「仕方ありませんな……」

 須永は、片足しか使えないエルヤーの首根っこを掴んで無理矢理立たせる。

「これで、決めますぞ!」

 須永は、そう宣言すると、左肘のサポーターをおもむろに投げ捨て、腕をしごいた。

 

「おおっ!」

 場内から歓声があがる。

「決めろ、スナガ!」

 思わずジルクニフも窓から身を乗り出し拳を振り上げていた。

「なっ……へ、陛下……」

 バジウッドは信じられないものを見た気がしていた。

 

 須永はステップバックして、距離を取る。

 

「ウエスタンラリアット!」

 そして助走をすると左腕をエルヤーの喉元にぶち込んだ。

 

「ふぎゃっ!」

 情けない声をあげたエルヤーが、闘技場の壁まで勢いよく吹き飛ばされ、血反吐を吐いて、失神。

 チームリーダーを失った天武のエルフ3人娘は即座に降参の意を示すと、気を失っているエルヤーをよってたかって蹴り飛ばす。

 

 プロレスではよくある仲間割れの図と言えなくもない。

 

「ただいまの試合は、挑戦者……ダンディ・ドラゴン、ダンディ須永選手の勝ちでございます」

 須永は右腕をあげて、勝利をアピール。観客席から大きな拍手が巻き起こった。

 

「次は武王とやれー」

 観客席から声が飛ぶ。

(武王か。強いのかね……)

 もう少し楽しめる相手だとよいなと須永は思っていた。

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