第4試合 武王ゴ・ギンVS X2
「ぶおうボンバイエ! ぶおうボンバイエ!」
入場曲に乗って姿を現した武王ゴ・ギンは、黒で統一されたワンショルダーに膝丈までのロングパンツ、足にはレガースをつけている。つまり、キックの練習を積んだということだろう。
拳を包むは特注のオープンフィンガーグローブ。甲の部分にはゴールドで右手に武、左手に王の文字が入っている。闘技場とは全く違う姿だが、強者のオーラは健在……いや、より強くなっていた。やはり鍛錬の成果だろうか。もちろん以前から鍛錬はしていただろうが、明確な目標がある方がより効果があると思われる。
武王は未だ闘技場では須永にしか負けておらず、相変わらずの強者ぶりを見せている。最近は挑戦者がコンスタントに現れているようで以前よりも闘技場に出場する機会は増えている。
そんな武王も、プロレスルールだとまだまだ盤石とは言えない。それでもルールに順応し、新たな技を覚えて戦い続けている。団体専属の選手ではないため、帝都以外の興行には出れていないのが残念な点だ。
「俺もいずれはエ・ランテル興行に出てみたいさ。もちろん、エ・ランテル以外の場所にも行きたいね」
武王は、インタビューでそう話していた。
武王はリングサイドまでくると一旦歩みを止める。リングへ向かって一礼すると、用意されているステップは使わずに足を上げてエプロンに上がる。そして期待通りにトップロープを跨いでリングイン。その光景に大歓声があがった。
「うぉぉぉぉおお!」
武王は雄叫びを上げながら両腕を突き上げた。
「武王!」
「やっちまえ!」
武王は大声援の中、数回ロープに走り感触を確かめると、ドッカリと赤コーナーの上に座り、見下ろすように対戦相手を待つ。
「では、武王の対戦相手を紹介しよう。誰だと思う?」
皇帝ジルクニフはここは音声のみで降臨。テンポを重視してのことだという。
「ある人はいう。"女の中の男"だと。またある人はこう呼ぶそうだ"ミスター女子プロレス"だと。どちらも
だいたいの見当がついたのか観客達もざわざわし始めた。ついに彼女が帰ってくるのかと。
「戦う姿が美しいから……我々は前回彼女をこう呼んだ……ビューティ・イチ・ガガと。しかし、今宵は違う名で登場するのだよ」
もうここまで来ると確定だ。会場のボルテージが一気にあがる。
「我々が初めてプロレスルールでの試合をみたのは、彼女とダンディの対戦だったな。あの伝説のファーストマッチから時は流れた。力を蓄え、機は熟した。再びこのリングへと彼女は帰ってきたのだ」
一拍の間を作りだす。ジルクニフの話術はもはや天井しらずである。
「武王の嫁、ガガーラン ……出てこいやっ!」
ジルクニフの呼び込みに花火が2発上がり、テーマ曲がかかる。
「ガガが、ガガはガガーラン!」
熱い魂の叫びで始まる新テーマ曲に乗ってガガーランが青い鎧のようなデザインのコスチュームで登場する。
なお、テーマを歌っているのは実はダンディ須永。コーラスにジルクニフという無駄に豪華なコラボだったが、観客は誰一人気づいていない。
それにしても帝国プロレスにどっぷり関わっているジルクニフ。皇帝はいったいいつ公務をこなしているのだろうという疑問があるが、国政は停滞することはない。なぜなら、内政を行う者が増え、ジルクニフの仕事量が減っているからだ。
かつて、ジルクニフはこう呼びかけている。
「我が帝国は歓迎する。力あるものを。もちろん力とは武力だけにとどまらない。役に立てる能力。それが力である。集え、力あるものよ。集え、力を欲し向上したいものよ」
この呼びかけにより、兵力増強し帝国プロレスも旗揚げされたが、集ったのはそれだけではなかったのだ。様々な力を持つものがジルクニフの下に集い、当然の結果として内政官も強化・効率化されている。帝国は国力そのものが大きく向上し続けていた。
「おい、皇帝! 1つだけ言っておきたいことがある」
リングに上がったガガーランは、いきなりマイクで叫ぶ。
「……直言を許そう」
「私は武王の嫁じゃないっ!」
これには場内爆笑である。
「そうだぞ。そもそも俺の好みじゃない!」
いつの間にかマイクを持った武王の追撃に場内は大爆笑。それにしてもあの武王がマイクとは……色々と成長するのだと感じさせるものがある。
「そうなのか? うーん、お似合いのカップルだと投書があったんだが」
「投書だと?」
武王とガガーランの声が重なる。
「ああ。嘆願書ネーム……双子のにんにん……だったかな」
「あいつらかァァァ!」
ガガーランは犯人を確信していた。実際は三つ子らしいが、それはこの際どうでもよい。
「ひとつだけきいておこうか。……武王、ちなみにお前の好みは?」
ジルクニフの問いかけに対し、武王は少し考えてから口をひらく。
「……やはりトロールだナ。少なくてもオーガのメスじゃねぇわ」
「ちょ、待てよ。私はオーガじゃねぇ!」
ガガーランの叫びが会場に響き渡った。
まもなく試合開始である。