異世界プロレスinオーバーロード   作:NEW WINDのN

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第51話 帝国

「……ほう。それは興味深い話だな」

 報告を受けたジルクニフはさすがに驚いたようだった。まさかそのような行動に出るとは思っていなかったのだろう。

「はっ、明後日の朝にはこの帝都アーウィンタールまで到着するとのことです」

「あいわかった。せいぜい丁重に迎えてやれ……おそらくこれが最後の仕事……花道になるのだろうからな」

「畏まりました」

 ジルクニフの指示に返答し、秘書官はすぐに下がる。

「しかし、ランポッサⅢ世自らここまでくるとはいささか驚きましたな」

「うむ。もし会うことがあるのなら、まず王都か……よくてエ・ランテルだと思っていた。もしくはやつがここに搬送されてくるとかな……。いずれにせよ。やっと決断できたようだな。ま、遅きに失したわけだが……」

「……察するに"黄金"が追い詰めたのでしょうな」

「あいつか……かもしれんな」

 ジルクニフは顔を歪める。それもそのはず……ジルクニフは彼女を脳内嫌いな女ランキングの1位にしているのだから。

「どちらにせよ、王国は死に体です。もはやうっちゃることは不可能ですからなぁ……」

 すでに王国は名ばかりとなり大半の都市は帝国領となっている。それも、帝国軍の損失を全く出すことなく。何しろ都市からの帰順声明によるものがほとんどなのだから血は流れない。

 

 エ・ランテルの変により、エ・ランテル、エレエブルが帝国領になり、そこからじわじわと国土は広がっていった。

 都市が靡く前に起きるのは、村や街の離反である。わかりやすく例を出すと貧困に苦しんでいた2つの村……仮にA村とB村とする。ある日を境にA村が食糧難から解放された上に重税がなくなったと、B村の住人が知る。当然その理由を探ると、帝国領になったという。

 B村は、自分達もそうなりたいと願い、A村と同様に帝国へ帰順を申し出る。それが伝播していき、村から村、はたまた街へ。街からまた街へそして都市へ。

 帝国は何もしていないのにも関わらず、善政により拡大が止まらなくなる。そういうことなのだ。

 

「心を攻めるは上策、攻めるよりも出迎えさせること最上策か。ダンディの言葉通りになったな」

「それだけ王国は詰んでいたのです。あとはきっかけがあればよかったのですなぁ」

 ジルクニフの策でも数年で崩壊したであろうが、それを年単位で縮めたのが須永の策だった。

「それが食糧難か」

「ええ。人は実際に食べものがなくなるよりも、なくなる過程において不安になり、原因があるなら不満に思うものですからな」

「なるほどな。やはり食糧の流通や備蓄には気をつけねばならんな。特に新しい領土は備蓄が少ないからな」

 ジルクニフは頭の中でさまざな計算をしている。

「ですな。働き手が少ないのも問題です。帝プロの予備軍から数人ずつ各村に派遣し警備と農地の開発に力を入れましょうか?」

「彼らはそれを受け入れてくれるかな? 何しろレスラーになりたくて集まったやつらだぞ」

 ジルクニフにしては優しすぎる内容だった。

「おや、陛下らしくもない言葉ですな。彼らは命令であれば受け入れますし、そもそも農地の開発というのは体幹を鍛えるトレーニングにもなります。なんなら、重りを入れた服でも着せればさらに効果的です。結果的に彼らの力は増し、リングに近づくことになるでしょう。また私もそのように申し伝えるつもりでいますし、きっと力になってくれるはずですぞ」

「ふっ……私らしくないか。プロレスに肩入れしすぎて彼らを思ってしまうとはな。鮮血帝ともあろうものがな……」

 ジルクニフは肩を竦める。

「ま、私は今の陛下の方が好きですがね。そうそう、実際すでにライオネス・エンリの出身地であるカルネ村には4人ほど派遣してあります。先日彼らには会いましたが、逞しさを増していましたぞ」

「実験済みとはらしいな……。ダンディ、お前それ以外にもう一つ考えがあるだろう? 彼らにプロレスを教えさせるという考え。もしくは広めさせると言うべきか」

 ジルクニフは読めているぞ、という顔をしながら、須永の顔を見る。

「さすがは陛下ですな、バレていましたか。彼らには現地でスパーリングなどをしてもらい、それを見た村人たちにプロレスとはこういうものであるというものを、まぁ少しでも広げてもらえればと思っております」

 須永は屈託ない笑顔を見せる。

「策士だな。ダンディ、話は変わるがランポッサをどうしてくれようか……」

「陛下はすでにご決断されていますよね? 」

 ジルクニフは無言で頷き続きを促す。

「私は陛下のお考え通りに生かし、不満のぶつけ先にしておくのがよいかと思いますが」

「自国領における不満のぶつけ先、そして不穏分子のまとめ先だな?」

「ええ。恐らく裏も動くでしょうし、あえてそうすべきかと」

「ふむ。一領主に任じ王都召し上げか。あの都市にはあまり魅力は感じんが……」

 ジルクニフにとって王都はただの古びた都市という印象がある。

「王都をタダの田舎にするも、あちら側の中心都市にするのも陛下次第ですぞ」

「とりあえず傘下に入ったら、旧都興行だな」

「気が早い話ですな。まあ、若手も育ってきてますので、面白くはなるでしょうな」

「ああ。しばらくは内政に追われるし、心のケアのためにも帝プロには働いてもらう。サテライトチームも投入かな」

 帝プロの未来は、帝国の繁栄とともにある。須永はジルクニフとともにその道を歩んでいく。

 

 

 






誤字報告ありがとうございます。
いつも助かります。

1つだけ。私はラリアットなどで 首をかる と表現していますが、漢字は狩るの方にしています。首狩りを元にした表現なのです。漢字って難しい……。

なお、次回もオーバーロードな回になります。
第4章の折り返しとなる第52話 会談
ランポッサが再び登場予定です。

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