異世界プロレスinオーバーロード   作:NEW WINDのN

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第53話 観戦

 会談から10日ほど過ぎた休日の午後……ジルクニフは貴賓室にランポッサを伴って現われ、戸惑いながらも物珍しそうに闘技場内を見回しているランポッサの様子を眺めている。

「こ、これは凄い熱気……だ」

 ただ部屋にいるだけなのに観客の熱気が渦巻いていることがわかる。

「そうであろう。だが、まだ試合は始まっていないぞ。始まればもっと熱くなる」

 ジルクニフはまだまだこれからだよと言わんばかりの笑みを浮かべていた。

 

 

 第1試合 15分1本勝負 ~New Soul マッチ~

 

 帝国プロレスでは、新人がデビューする時は、このNew Soulマッチという表現を使うことになっている。

 

「ますは青コーナーより、ミスターBO……バルブロ選手の入場です」

 アナウンスと同時に大ブーイングが飛ぶ。これは第1試合に出る選手のブーイング量ではない。

「ば、バルブロ……生きていたのか」

 驚き、腰を浮かせて、窓から身を乗り出すランポッサ。エ・ランテルの変で捕虜となって以来その名を聞くことはなかったし、先日の会談でもバルブロのことを聞けないまま終わっていた。そう、ランポッサは怖かったのだ。バルブロがもう生きてはいないと知ることが。

 

「……無論だ。意外かもしれないが、私は無益な殺生は好まないんだよ」

 かつて大量の粛清を行い"鮮血帝"の名で知られたジルクニフにそういわれても、ランポッサは言葉通りには受け取れないでいた。

 

「バルブロ王子は王の器ではなかったんだが、意外な1つの才能に恵まれていてね。私はその才を買ったのさ」

 ジルクニフは頬杖をつきながらニヤリと笑う。

「才能……?」

「見ていればわかるさ」

 入場してきたバルブロはブーイングの中を平然と、時には悪態をつきながら進んでゆく。頭髪はなく綺麗に剃りあげ、無精髭を生やしている。上半身は黒のリストバンドのみを装着し、下は膝丈までの黒いタイツにシューズという新人レスラーなみの出で立ちである。以前より体は引き締まり、精悍さを感じさせる。スキンヘッドに強面、さらには体も大きく意外にもリング映えする。武を売りにしていたことだけはある……のかもしれない。

 

「なんだこら! おい、貴様らっ! この俺様を誰だと思ってるんだ!!」

 リングにあがっても止まぬブーイングにバルブロはブチ切れる。

「バカ王子だろー!」

「いや、元バカ王子だよ!」

「ちげーよ。バカはそのままだから、バカ元王子だな」

「愚物ー!」

 エ・ランテルの変において、ジルクニフが彼を評した愚物という言葉は帝国の民に広く浸透していた。

 

「バルブロ……」

 ランポッサはブーイングを飛ばされ、罵声を浴びせられる我が子を哀れに思う。生きていたことは嬉しいが、この扱いはひどいのではとジルクニフを見る。

「……ランポッサどの、周りに流されてはいけないな。今のバルブロを見るべきだ」

 ジルクニフは優しい声で諭す。全てを見通すような瞳でランポッサを見ながら……。

「今のバルブロ……」

 ランポッサは周りの声をシャットダウンして、バルブロだけを見、バルブロの声だけを聞いた。

「……なるほど」

 バルブロは怒声を発しているが、本気で怒っているわけではなく、楽しんでいる。観客とのやり取りを、そしてブーイングを浴びることを。

「彼はね、王子という虚像から救い出されたのさ。こうでなければいけない、ああしなければいけないというプレッシャーからね」

 ちなみにキャッチコピーのBOは、"武闘派王子"の略らしいが、観客のほとんどは、バカ王子あるいは、ブーイングのBOだと思っている。

「なんで、俺様が青なんだ!」

 青コーナーであることをバルブロは怒る。

 

「赤コーナーより、本日デビュー戦ライオネス・エンリ選手の入場です」

 金髪の幼さを残す少女が、獅子を模した肩当を左肩につけ、上下揃いの青い武闘着を纏い花道に姿を現した。傍らには、赤いセパレートタイプの武闘着に虎を模した肩当を身につけたタイガー・ジェット・ティが見守るように寄り添う。これはそのうちタッグも組むよという意思表示であろうか。

 

 緊張した面持ちでリング下まで来たエンリ。緊張からか足が動かない。

「どうしたおい、小娘。上がってこんか!」

 弱そうなものには強いのがバルブロである。強面の顔で睨みつける。迫力はなかなかのものだ。

「どうしたおい? おい! おい! おい!!」

 強気すぎるバルブロにブーイングが飛ぶ。

「うるせえ! ……おい、小娘っ! この帝国プロレスのリングは覚悟なきものが上がる場所じゃない。覚悟なきものは帰れ!」

 どことなく聞き覚えのあることをいう。

「……命のやり取りをする覚悟があるのであれば、上がってみな。ここはそう言う場所なのだっ!」

 このセリフに対し、観客がヒートする。

「お前がいうか、馬鹿王子!」

「てめえも、エ・ランテルで腰抜けだっただろーが」

「うるさい。俺は覚悟を決めて今上がってるんだよ。気合いを入れてなっ!」

 バルブロはすっかり変わっていた。

「見せてやる、俺様の気合いを。いくぞー! 気合いだ! 気合いだ!! 気合いだ!!! ……気合いだーっ!!!!」

 バルブロはバルブロであってバルブロではない。今は覚悟を決めた1人のレスラー。ミスターBOバルブロである。

「どうした。小娘!」

 バルブロはもう一度恫喝する。

「おい、エンリっ!」

 振り向くエンリにティの平手打ちが飛ぶ。

 エンリの頬が紅葉に染まる。

「いったーっ! ティ姉様痛いんですけどっ!」

 エンリも全力の平手打ちをティに返す。

「おごっ……」

 その威力にティの体がぶれる。

「つー。エンリちゃんやるねー。それで、いい。お前ならやれる……ほれ、頑張ってこい」

 ティはエンリをぎゅっと抱きしめ、リングへと押し上げた。

「は、はいっ! 頑張ってきます」

 その瞳は輝き、足はしっかりとリングを踏みしめている。体のサイズでは負けているが存在感では負けていない。

 

 ライオネス・エンリのデビュー戦のゴングはまもなく鳴らされる。






エンリのデビューは誰にしようかなと悩みましたが、アンケートで人気キャラ相手に意外な奮闘を見せたバルブロになりました。遊び心で入れてましたが、彼の復活は頭になかったですね。
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