異世界プロレスinオーバーロード   作:NEW WINDのN

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第54話 デビュー

 カアーン! 

 試合開始を告げるゴングがレフェリーの指示で打ち鳴らされた。いよいよ、ライオネス・エンリのデビューである。まだ数少ない女子選手の登場に期待感が高まる。

「いけっ、ライオネス!」

「バルブロをやっちまえ!」

「いけいけエンリ!」

 デビュー戦の新人エンリに声援が集中する。勝手に悪役になってくれるバルブロ相手ということもあるが、エンリはコアなファンには顔が売れている。デビュー前から売店に立ち、礼儀正しく対応しており、その素朴さと可愛らしさで人気があった。

 

「おら、こいや小娘っ!」

 バルブロは威嚇するが、エンリはすでにその顔に慣れてきていた。

「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかなっ。バルブロさん、いきますよー……せやっ!」

 エンリの体が揺れたかと思ったら、いきなり右に側転してバルブロの視界から消える。着地と同時に反転しバルブロの死角から蹴りを繰り出す。

「とおおっ!」

「グアッ……」

 強烈なオーバーヘッドキックがバルブロの左頬を蹴り抜き、一撃で大柄なバルブロがリングに倒れてしまう。

「おおおっ!」

 本日デビューの新人女子レスラーの破壊力ある一撃に観客がどよめく。

「ば、バルブロ……」

 貴賓室のランポッサは腰を浮かせた。やはり息子は心配だった。

「まだ大丈夫だ」

 見慣れているジルクニフは冷静な判断を下していた。エンリの蹴りの威力は知っているが、バルブロも伊達に帝プロに上がっていない。キャラだけで上がれるほど、甘いリングではないのだ。因縁のある須永の指導を受け、それをものにしリングに上がっている。王子時代ならこの一撃でノックアウトされたかもしれないが、今なら耐えられる……はずだ。

 

「なかなかやるな、小娘!」

 バルブロは起き上がると怒りの表情で右のビッグシューズ! エンリの顔面を足裏で思いっきり蹴り抜く。通常はビッグブーツと呼ばれるが、バルブロルはブーツを履いてないのでビッグシューズである。それにしても、デビュー戦の女子レスラーに対して顔面蹴りがファーストコンタクトとは……やはりバルブロはヒールだった。

「ヌンっ!」

 それを気合いで受けたエンリは、1歩も引かずに仁王立ち。隙だらけのバルブロの胸元に右手で強烈な胸張り手! 

 バッチーン! といい音がし、バルブロの白さが残る肌に真っ赤な紅葉の花が咲く。

「ずああああっ……」

 両手で胸元を押さえ、呻くバルブロ。

「もう1回いきますよー!」

 野球のピッチングのようなフォームで右手を振り上げ勢いをつけて振り下ろす。

「ずああああっ……」

「いきますよー」

 今度は左の太ももを張り手する。

「ぬぐっ……」

 ジンジンと体の芯に響く。やや前かがみになったところでガシッとバルブロの首がエンリの左脇に抱え込まれる。

「いきます。ブレーンバスター!」

 バルブロのタイツを右手で引っ張りながらグイッと、軽々とバルプロを持ち上げそのまま頂点で停止。

「おおっ!」

 少女が大柄な男を軽々と持ち上げただけでなく、そのままキープすることに観客はどよめく。そのまま10秒ほど静止してから投げ落とした。

「がふっ」

 受け身のタイミングを外され、背中を強打したバルブロは、背中をおさえながらうつ伏せにダウン。

「まだ寝るのははやいですよー。うんしょっと!」

 倒れたバルブロをひょいと肩に担ぎあげる。最近帝プロで流行りのファイアーマンズキャリーの体勢だ。

「おおおっ!」

 観客の期待値が高まる。そう、プロレスは慣れてくるとクラッチ……技の入りの型だけで盛り上がるものだ。

 ちなみに須永はこのファイアーマンズキャリーの体勢から回転するエアプレーンスピンを、武王は横になりながら落とすデスバレーボムを披露している。では、エンリはどうするのか。

「く、おのれえええ」

 一方のバルブロにとってはトラウマのある技の入りだ。そう須永に……いや、軍団長ロビーにエアプレーンスピンからの"王家の失墜"を食らっているのだから。

 

「水甕クラッシャー!」

 エンリが見せた技は、担いだまま後方に倒れ込むバックフリップだ。

 彼女が村で水を入れた甕を担いでいるときに足を滑らせたというエピソードから生まれた技である。

「フォール」

 エンリはそのままブリッジしてホールドする。

「ワン! トゥー! ……スリー!」

 なんと、3つ入ってしまった。

「え、ええっ!?」

 ビックリして素に戻るエンリ。

「おねーちゃんすごーい、すごーい!」

 客席から見守っていた妹が飛び跳ねて喜んでいるのとは真逆の反応だった。

 

「さて、ランポッサ殿出番ですよ。ついてきたまえ」

「は、はあ?」

 ランポッサはわけが分からないうちに巻き込まれていく。

 

「ライオネス・エンリよ。見事じゃないか」

 まさかまさかの第1試合から皇帝降臨に観客席がわく。

「ありがとう諸君。私がジルクニフだ。ちょっと今日は簡略化させてもらったよ。さて、エンリ」

「は、はいっ!」

 ピンと背中が伸びる。

「そんなに固くなるな。まあわからなくないがね。まずはデビューおめでとう。君の今後の活躍を期待するよ」

「ありがとうございます!」

「固いなぁ……そして、バルブロ!」

「なんだっ」

 痛みを堪えて顔を顰めているのか、はたまた精一杯の抵抗なのか、バルブロは吠える。

「……無様だな」

 皇帝の一言にどっと笑いがおきる。

「それだけか! わざわざ出てくんな」

 憮然としながら、噛み付く。これがリング上じゃなければ不敬罪で処罰の対象だろう。

「1つだけ君に用があるのさ。君に紹介したい人がいる。ランポッサⅢ世だ」

 ランポッサが戸惑いながらバルコニーに姿を現す。

「おいおいランポッサって王国王?」

「マジ?」

「本物かよ?」

 帝国プロレスには色々な人間が現れるが、最初からいたジルクニフは別として王国王など普通にありえない。

「なっ……父上……」

 バルブロの動揺をみて、本物と観客達は判断する。そして理解した。帝国が王国を平定したのだと。

「紹介しよう。本日の大物ゲスト……リ・エスティーゼ王国のかつての支配者ランポッサⅢ世だ。どうだい? ビビったかい? たじろいだかい?」

 ザワザワする客席の反応を楽しむジルクニフ。ランポッサをこの場に引き摺りだすことで、王国はもうないのだと改めて皆に知らしめる。エンターテインメントの中に上手く混ぜ込む巧みさはジルクニフの得意技となっている。

「さあ、ランポッサ殿。ミスターBOバルブロに一言いってやれ」

 4騎士のニンブルがそっとマイクを手渡す。

「私がランポッサである。……おおバルブロよ……負けてしまうとは情けない……」

 心からの嘆きであった。

 

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