「なかなかやるじゃん」
跳ね起きたティはダメージを感じさせない口調であり、事実その足取りは軽やかだった。
「な……馬鹿な……」
「最初に言ったよねー。その程度は慣れてるんだよ。でもぉ、私じゃなければ今ので決まってもおかしくないよー。いい技だよねー」
ティはコキッっと首を鳴らす。ダメージは軽微に見えるし、余裕の色は消えていない。
「ふっ……仕方ないか。私ももう少し真面目になるしかないようだ」
「おんやあ? 私の真似ですか。いいよーかかっておいで」
手招きをしてかかって来いと促す。
「では、いくぞっ!」
グレートは両手で剣を構えるようなポーズをとり、ゆっくりと正眼に構える。闘気がグレートの体を包み、体が1回り大きくなったような錯覚を覚える。そして……空気が変わる……まるで戦場のど真ん中にいるようなオーラを感じ取り、場内の緊張感が一気に跳ね上がる。
場内にいる誰もがグレートを見つめ、彼の動きを待つ。彼が何をするのか、どうするのかを皆が注視しているのだ。
ふーっと息を吐き出したグレートは、大きく息を吸い込みそれを一気に吐き出すような気合いの入った声を出す。
「 "四光連斬"!」
グレートの腕が残像が残る速さで煌めき、一瞬で4発のダブルチョップが首筋と胸元に炸裂した。あまりの速さに衝撃音がズレてきこえてくる。
「ぐはっ……」
ティは左膝から崩れ、がくりと片膝をついてしまった。これは帝国プロレスでは危険なサイン。各選手一つは膝を踏み台にして放つ技……いわゆるシャイニング系の技を持っている。カイザーは蹴りを見舞うシャイニングカイザーなる技を使うが、グレートはどうか。
「ぬうおおおおおおおっ!」
グレードはあえてその膝を踏み台にすることはなかった。素早く距離を詰め顔面に向かって思いっきり前蹴りをぶち込む。
「あだっ」
派手さのない無骨な一撃。逆に受けのタイミングを外されたティはダメージを受けたようだ。
「行くぞぉぉっ!」
グレートはティの喉笛に向かってチョップを叩き込み、更にもう一度チョップを打ち込む。そして間を置かずにこぶしをグッと握ると思いっきりグーパンチを顔面に叩き込んだ。さらに喉笛にチョップ、グーパンチそして喉笛にチョップ。グーパンチと喉へのチョップを交互に繰り出し続ける。
「おい、グレート、ノーだ。パンチは反則だ、グーはやめろっ!」
レフェリーの制止を無視してグレートはさらに連続してチョップとグーパンチを連打し続ける、それを受け続けるティ。
「そんなもんかよ!」
ティが左手で喉笛チョップを打ち返し、グレートの動きが止まった。
「いいかい、チョップってのは力で打つもんじゃないんだよ、気持ちが大事なんだよ……こんな風にね」
明らかに体格ではグレートに軍配が上がるが、ティのチョップの方が威力が上だった。重い……グレートより遥かに重い一撃……須永が語っていたように気持ちを乗せたチョップは力を超え、技を超える。
「これが本当のチョップなんだよ」
ティの右腕で放つ逆水平がグレートの胸板をぶち破る……そんな破裂音を響かせる。
「グアオッ……」
たった一撃で仰向けに倒れるグレート。
「カウント」
短くそういうとグレートの右足をとって片エビに固める。
「ぬあーっ!」
ギリギリ、カウント2.9でクリアする。
「へえ。頑張るじゃん」
「ティ殿……私はまだ折れていないぞ」
真っ赤に染まる胸元を右手で押さえながら、ゆっくりとグレートは立ち上がる。
「グレート頑張れー!」
試合開始後初めて子供の声援が飛んだ。これがきっかけとなり、初めてのグレートコールも飛び出す。
「グレート! グレート!」
子供達は認めたのだ。いつものカイザーとは違うパワーアップしたカイザー・グレートもヒーローだと。試合前は受け入れただけで、まだ認めてはいなかったのだろう。
「ふふっ……いいものだな」
「声援がかい? ふん、気持ちいいだろ」
「いや、声援もそうだが、プロレスがだ。今まで立って来たどんな戦場とも違う高揚感がある」
グレートの弱っていた闘志の炎が再び燃え上がっているのをティは感じ取っていた。
「言いたいことはわかるよー。私もね、それが楽しくてここにいるんだから」
2人は同じような笑みを浮かべる。強者との対決……それを楽しんでいるのだろう。
(長居する気なんてなかったもんねー。ちょっと面白そうなやつがいるから、ちょっかいかけてみただけだったのにさ)
ティにとっての誤算は、須永が強すぎたことではなく、プロレスが面白すぎて、楽しすぎたことだった。
「じゃあ、そろそろ決着つけよっか」
「望むところだ」
2人は距離をとり、円を描くように時計回りに動き出す。
次回決着