ダンディ須永VSタイガー・ジェット・ティ。
いよいよ迎えるタイトルマッチ……観客はいつも以上に溢れ、ついに闘技場のフィールド内に帝都興行では初となるリングサイド席が設けられた。もちろん安全に配慮すべくリングからの距離は、須永がいた世界のものよりも遠く設定されている。それでもやはり、リングサイド席は臨場感がある位置に設置された。最前列はリングから10メートル。須永とティの身体能力をもってすれば、正直言ってゼロメートルに近いだろう。
先に入場したのはティ。いつもの赤を基調としたコスチュームではなく、白をベースに赤をアクセントに使った……本人曰くピュアバージョンとのこと。タイトルマッチへの純粋な気持ちを込めたものらしい。
「姉様、いよいよですね」
エプロンサイドに上がったエンリが、ティに声をかける。だが、ティは軽く頷くだけで声を発することはなかった。明らかにティらしくない。 ……そう、彼女は緊張していたのである。普段ここまで緊張している彼女を見ることはない。それだけこの戦いにおける思いが溢れているということだろうし、初のベルトをかけたタイトルマッチという言葉にプレッシャーを受けていたのだろう。
「姉様?」
反応のない姉の様子をエンリは窺う。
「姉様!」
「ああん?」
エンリが強い口調で声をかけると、ようやくティが振り向いた。そこにすかさずエンリの強烈な右張り手が唸りをあげて襲いかかり、パァーンという炸裂音が響き渡った。
「痛てー。おまっ……なにすんのさ!」
びっくりしたティは、反射的にエンリを張り返した。そう、これはエンリのデビュー戦におけるやり取りの再現だった……ただし立場は逆に入れ替わっているが。
「それでいいんです。姉様」
エンリはロープ越しに姉をギュッと抱きしめる。この一連の行動はエンリに出来る最大の贈り物だった。言葉では伝わらないとみて、力技に出て、姉ティの緊張を解してしっかりと実力を発揮させる。そのための闘魂注入張り手であったが、効果はてきめん。簡単に緊張がとけ普段のティに戻っている。
(これなら行ける。姉様しっかりね)
エンリは姉の変化に満足気に頷きリング下へと降りた。
「ったく、妹に喝いれられるとは思わなかったなー。エンリちゃん成長したねー」
「当然です。姉様の妹ですから!」
エンリは胸を張って堂々としている。
「でも、痛いんですけどー。もうちょい加減しなよー。めちゃくちゃ痛いんですけどーぉ?」
「ご、ごめんなさい姉様」
「ふふ。冗談だよ。とにかくベルトとったらエンリとやらないとねー」
これは半分はリップサービスだが、もう半分は本気だった。ただの村娘のはずが、異様なスピードでエンリは成長をしている。ティとしては将来的にはライバルになるだろうと予想していたのだ。
「はい。私もベルト欲しくなってきましたから、負けませんよ」
エンリはとびっきりの笑顔である。
「言ってくれるねー。んで、スナっちゃんはいつまで待たせんのかなー。こんないい女待たせるなんてサイテーだよねー?」
問いかけられたエンリは苦笑せざるをえない。男女の仲など気にしたことのない彼女には答えるすべがないのだ。
「お待たせしましたな」
須永はなんとバルコニーに登場。今日は、薄い紫のロングパンタロンに、袖なしの白いガウンをまとっている。
「ちょ、そんなところで、何やってんの! 」
「プロレスの入場ですぞ?」
当たり前の答えだった。
「そりゃそうだろーけどー。どうやって入場するのよ?」
「こうやってですよ。とおっ!」
須永はバルコニーから飛ぶ。貴賓室は
途中でライダーキックのように前方に一回転してみせると、スタッと赤コーナーのポスト上に着地し、右手で天を指差した。
「赤コーナー、ダンディ・ドラゴン……ダンディ~すな~が~!」
派手過ぎる入場に呆気にとられていた場内は、このアナウンスで我に返り大歓声で須永を迎えた。
「うっわ~無駄に派手だねえ……スナっちゃん」
「久しぶりの帝都での試合ですからな」
実は須永はトーナメントの影響で前回大会では試合が組まれてなかった。帝国プロレスは
「もースナっちゃん抜きでもやれるからねー。大人しくこのティ様にベルトよこしなよー」
「お断りします。そんなこといってると秒殺しますよ?」
「やれるもんならやってみな! このタイガー・ジェット・ティ様はそんなに甘くねえんだよっ!」
吠えるティに対して須永は僅かに笑みを浮かべることで返した。