王都の高級宿のラウンジで、アダマンタイト級冒険者チーム"蒼の薔薇"のメンバー達がゆったりとくつろいでいる。いや、言い直そう。ヒマを持て余していると。
「それにしてもヒマだな。もう何ヶ月も依頼がないぜ」
ガガーランは、伸びをして眠気を飛ばそうとするが、結局欠伸をしてしまう。
「ふん、貴様のせいだろうがっ! 貴様が帝都闘技場でプロレスルールとやらで戦ったせいで、我々に依頼が来なくなったんだぞっ!」
小柄な仮面をつけた少女がプンスカしている。彼女が言っていることは正しい。あの時ガガーランは皇帝ジルクニフに直接声をかけられた。それを理由にスパイまたは売国奴扱いされ、以後依頼が入らなくなってしまったのだから。ボウロロール率いる貴族派閥が圧力をかけ、ブルムラシューも王派閥でありながらも同調していた。
「イビルアイ、言いたいことはわかるけど、ガガーランに悪気があったわけじゃないんだから……」
「ふん、貴様らも同罪だぞ。こいつを止めなかったんだからな。そのプロレスとかいうもののせいで、王国はこんな風になってしまったんだぞ」
これは間違いである。王国がこうなってしまったのは王国自身の寿命に過ぎないのだから。
「帝国プロレスのエ・ランテル興行の後に、あのエ・ランテルの変が起きて情勢は一変……バルブロ王子以下主要貴族がいなくなったのをチャンスとみて一気に民の不満が爆発したからね。貴族派閥が消えて仕事が増えるかと思っていたけど……」
「国自体がなくなる寸前」
「依頼どころじゃない」
双子が息のあった連携をみせる。
「ずっと開店休業ってやつだな。俺達は生活に困ることはないけどよ」
「生きがいがないわね」
ラキュースはすっかり冷めた紅茶を口に運ぶ。最近味が落ちた気がする。
「ラキュース、ラナーと連絡はとれないのか?」
「無理ね。私たちは今も監視されているし、唯一のつなぎ役だったクライムはほとんど外に出られないわ」
そもそも今の王女ラナーに依頼をする必要なんてないだろう。あるとすれば、護衛くらいかもしれない。
「そっか。拠点を変えるべきなのかもしれないな」
ガガーランは大事な提案をさらりと口にする。
「ガガーラン、拠点を変えるって?」
「王国はみんなもわかっているだろうが、もう終わってる。なら、王都にいても仕方ないだろう?」
「ガガーラン……」
「珍しく一理あるじゃないか。私は賛成だ。もう王都近辺か海辺の辺境伯の所くらいしか王国領はないんだ。ラナーの友人であるラキュースの前で悪いが、王国はもう終わっている」
冷たく言い放つイビルアイ。この場にいる全員が心の中で、同じ気持ちを持っていたのは確かだ。
「イビルアイまで……私はラナーのために残るわ。私は強制しない。もし拠点を変えるなら変えても構わないわよ。私はラナーのために個人的に残るだけだから」
ラキュースは友人ラナーの笑顔を思い浮かべる。
「私は拠点を変えるべきだと思う。今後のことを考えれば最善は帝都なんだろうが、せめて中間点のエ・ランテルにすべきだろう」
「俺は賛成だ」
「ティアとティナは?」
ラキュースの問いに一瞬双子は視線を合わせる。
「拠点は移した方がよい」
「でもラキュースの気持ちはわかる」
「多数決だと3-2か。微妙だな」
「今後のために拠点は移し、我々は先にエ・ランテルで落ち着く場所を用意するのはどうだ?」
「悪くねえな」
ここでガガーラン宛に書簡が届いたと宿の者から手渡された。
「随分立派な封筒だな……」
「差出人は?」
「……バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下だ」
ガガーランは署名を見せる。
「皇帝から?」
「よく届いたな……」
「それだけ王国の力が落ちたんだろう」
ガガーランは仲間の声を聞きながら、中を確認する。
「用件は?」
「帝国プロレスへの参戦要請および入団要請だよ」
手紙を持つガガーランの手が震えている。
「マジ?」
「ビックリ!」
「蒼の薔薇としての活動も認めるとある……」
「最初から断る理由を潰されたな……さすがは皇帝だ」
「どうするのガガーラン? 私は貴女の決断を支持するけど」
4人が見つめる中、ガガーランはゆっくりと口を開く。
「受ける。正直に言えばオファー内容は破格だし、断る理由すらない。だけど、俺はお前達と別れる気持ちもないんだよ」
「ガガーラン……」
「だから、蒼の薔薇のガガーランとして、行ってこようと思うんだ。いつかダンディ須永に勝ちたいんだよ俺は。そして、またお前らと冒険をしたい。ワガママかな、俺は」
「そんなことないよ。行ってらっしゃいガガーラン。蒼の薔薇は解散したりしない。貴女の力を帝国の連中に見せつけてやりなさい!」
ラキュースは笑顔でガガーランを送り出す。
こうしてラキュースは王都に残り、ガガーランは帝都へと旅立つ。イビルアイと双子はエ・ランテルへと向かい、拠点を用意することになった。
「今はそれぞれの道をいくけど、きっと私たちの道はまた交わる。一人一人が蒼の薔薇。それを忘れないで」
「ああ、ラキュースまた会おう。俺の予想だと姫さんは必ずラキュースに頼み事をしてくるだろうぜ。姫さんと、童貞をよろしくな!」
「すぐに会えるさ!」
五人は右手を重ね合わせ、そしてゆっくりと上げていく。
蒼い空が五人の前途を明るく照らしている。そんな気持ちのよい朝の別れであった。
◇◇◇
「夢か……あいつらとも、しばらく会ってないなぁ……元気にしているだろうか」
ベッドから起き上がり、うまれたままの姿でガガーランは仁王立ちになる。
カーテンの隙間からは朝の訪れを告げる光が射し込む。
「今日は、例のバルブロ軍とのユニット抗争だったな。気合い入れていくとするか」
ガガーランは拳を握り込む。
「よう、昨日はよかったぜ、ごっそうさん」
ベットで眠りこけている歳若い少年にそう声をかけ、ガガーランは身支度を整えると部屋を出る。
「エンリに見つからないうちに戻らんとな……」
新しく出来た妹分に叱られないように抜き足差し足忍び足でガガーランは歩いていく。
「またな、ラキュース、イビルアイ、ティナ、ティア」
夢に出てきた懐かしい面々にそう告げた。再会を望みながら。
誰得なガガーランのサービスショット。
ぜひ思い浮かべてみてくださいね。