ようやくティの正体が判明しますよ!
「さて、残ってもらったのは他でもない。法国の動きについてだ」
「帝プロにも数人スパイが入りこんでいるようですからな」
須永の言葉にティが若干嫌そうな顔をする。
「そのあたりについて、どう思うかな? タイガー・ジェット・ティ……いや、漆黒聖典のクレマンティーヌよ」
「やっぱり知ってたんだー。まあ、別に隠すつもりは無かったけどねー」
ティはマスクを脱ぎ素顔を晒す。
「ある時は虎覆面のプロレスラー……タイガー・ジェット・ティ。またある時は帝国第10軍団副長クレア。そしてその正体は……」
「法国から探りに来てプロレスにどっぷりハマった元漆黒聖典クレマンティーヌですかな」
クレマンティーヌは何故バレたという顔をする。
「まあ、だいたいあってるけどねー。で、法国の動きだっけー? 法国としては人間の繁栄のために、帝国に王国を併呑して欲しかったのは事実だよ。あの国は立地は最高なのに、中身は腐り落ちる寸前の手の施しようがない状態だったし。まあ、それは陛下も、スナっちゃんもよく知ってるよねー?」
二人は無言で頷いた。
「直接同盟を組むとかはしないけど、帝国が有利になるように色々画策していたみたいだよ。もちろん手段は選ばずに。だから、場合によっては戦士長ガゼフを罠に嵌めて殺すような策も考えられてたみたいだよー」
かなりの機密事項だと思われるが、それ軽い感じでペラペラと喋るクレマンティーヌ。
王国が滅亡した今となってはそれを話したところで今更な話だ。だから何ら問題はないのだろう。
「……ガゼフをか。確かに王国を力で攻めるなら邪魔だっただろうな」
「そういうことだよね。たしか陛下は以前の戦争でガゼフを勧誘したんでしょ? 有名な話だよねー。戦場でスカウトとかなかなかできないよー」
懐かしい話を持ち出されジルクニフは微妙な顔をする。
「ふん。私は常によき人材を求めているのさ」
「そうだろうね。だからスナっちゃんみたいな怪しげな人物を雇うんだよねー」
たしかに出自は不明だし、いきなり謎の格闘術を使うなど怪しさは満載だ。
「人のことは言えんでしょうなぁ……」
「てへ。話戻すけどー、私は聖典辞めちゃったし、スナっちゃんと運命の出会いをして以来一度も法国には行ってないから、今の状況は推測しかできないよ?」
誰にも言ったことはないが、もはやクレマンティーヌはティとしての自分に生き甲斐を感じている。
「……それで構わん」
「そ? 併呑まではよかったんだけど、あの国は人間至上主義だから、排他的なところがあるんだよね。武王一体くらいならともかく、今みたいにあからさまに他種族も受けいれるってなると、彼らにはよく思われないはずだよ。下手すれば敵になるよねー。私はもはや気にしないけどさー。実際話したりするとわかるけどー良い奴多いし」
クレマンティーヌの価値観は、帝国プロレスに来てからかなり変わっている。
「なるほどな」
「だから、ルーイなんか送りんできたんじゃないかな。あいつは……」
「陽光聖典隊長ニグン・グリット・ルーインですな」
須永はあっさりと名前を口にする。
「え……なんで知ってるのさ……」
クレマンティーヌは目を丸くし、驚きを隠せないでいる。
「それなりの調査はしますよ。ある程度の力を持っている方が、まったくの無名なはずはないのでね」
「そういうことだ。法国には及ばぬかもしれないが、我々にも調査機関はあるんだよ。それに、ある程度はダンディのレクチャーを受けてないと帝プロには上がれんしな。ファーストマッチのガガーランは別として」
実際ラキュースにしても、ルーイにしてもちゃんと練習期間は設けている。ただし、他の人には知られないようにだが。
「そりゃそっか。私もスナっちゃんにはあちこち触られて調査されたっけ」
「スパーの話ですな」
須永は若干あきれた声だった。
「ま、いいけど。ニグンがここにきたのは明らかに帝国を調べに来たんだと思うよ。法国の敵かどうか。もしくは、帝プロの戦力確認かなー」
「戦力確認か」
「そー。帝プロのメンツって何気に周辺の有力どころが集まってるからねー。アダマンタイト級冒険者が二人に、周辺国家最強と言われる戦士長、それと互角に戦ったことのある剣士に、森を支配していたという聖獣ケンオウ。さらにリザードマンを代表する強者二人に、最強と呼ばれた武王でしょ」
指折りかぞえながら、クレマンティーヌは名前を上げていった。
「ま、なにより一番マークされてるのはスナっちゃんだけどねー」
「ほう……私ですか」
須永は気の抜けた声を出す。
「おいおい、スナっちゃん……なに意外そうにしてるのかなー? 普通に考えれば当たり前でしょう? むしろ考える必要すらないよね? 陛下やフールーダの爺さんより、あんた注目されてますよー」
若干ジルクニフが眉をよせるが、須永は自覚はないようだ。
「ジルは嫉妬しちゃだめだよー。十分目立ってるから安心してよねー」
「おい、ジルいうな。というか、私はエンリじゃないから姉みたいな物言いをするな」
「ごめんねー。最近エンリと一緒だから癖になってるんだよねー。めんごね、ジル」
「わざとだな? わざとだよな」
「まあ、そんなことは置いといて、スナっちゃんは、さっき名前をあげた周辺でも強い連中相手に無敗なんだから。タッグは別として」
須永はシングル無敗を継続中だ。さすがにタッグマッチではパートナーが負けることがあるので、無敗は難しい。
「それになにより、ダンディ須永は帝国にプロレスを広め、帝国を拡げた立役者じゃない。プロレスがあるから国に人が集まるんだよ。それにジルもほら、皇帝劇場のおかげで、鮮血帝って呼ばれなくなったしね」
「ついでみたいにいうな」
「もう。自分が一番になりたいのね。ジル可愛いとこあんじゃーん」
もはやクレマンティーヌのペースになっている。
「お前……処刑してやろうか?」
「やだ、こわーい。鮮血帝がいるよスナっちゃん」
言葉とは真逆にまったく怖がっていなかった。
「とにかく法国は我々をマークしているってことですな」
「間違いないよー。でも、敵はそれだけじゃないよ」
「わかっている。まずは八本指だな」
ジルクニフの言葉に、須永とクレマンティーヌは頷き同意を示した。
ジルクニフとティはメインキャストですが、皇帝劇場くらいしか絡む機会はなかったんですよね。