異世界プロレスinオーバーロード   作:NEW WINDのN

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平和な回です。



第75話 祭り

 

 今日はいつもとは闘技場の雰囲気が違う。今日も熱気に包まれているのは同じなのだが、いつもより空気が柔らかい。なぜかというと、今日は帝国プロレス初となる帝国プロレス祭りの日だからだろう。この帝国プロレス祭りとはいったいなにか。わかりやすい言葉にかえればファン感謝デーといったものだろうか。

 

 選手との握手会や体験スパーリング。さらにはプレゼント争奪クイズ大会といったような様々なイベントが行われている。

 男性に人気が高いイベントはタイガー・ジェット・ティ、ライオネス・エンリの絡むイベントだ。この2人は可愛らしさと美しさといったものを兼ね備えており、圧倒的な人気を誇っていた。なお、同じユニットのガガーランは腕相撲大会を担当している。

 

「はい、皆さん順番に並んでくださいねえー。"2000万クラッシャーガールズ"のお二人との握手会イベントに関しましては、ブロマイドを一枚お買い上げにつき5秒間握手をすることができまーす。枚数は無制限ですので、たくさん持ってらっしゃる方はたくさんお話することもできますよー。ただし、販売枚数には制限がありますので、お早めにご購入ください!」

 こんな煽りをされたら、ファンならばたくさん買ってしまうだろう。かなりあくどい商売の仕方だが、人気があるだけに許されてしまう。

 これは須永のいたリアル世界で、100年以上前に大成功を収めたビジネスモデルらしい。当然これは須永の案だが、予想以上の成果を発揮していた。

 

「なぁなぁ、お前何枚買ったんだよ?」

「俺か? うーん60枚ぐらいじゃねぇかなぁ」

 60枚つまり5分間ティまたはエンリと話をすることができる。これは正直たまらない、このチャンスを逃すファンはそうそういないだろう。

「マジかよ。俺6枚だぜ」

 6枚で30秒、まぁそれでも充分な時間じゃないかなと思われるが、やはり5分と比べてしまうと大差がある。

「んまあ、しばらくは俺、飯ロクなもん食えねーけどな」

「まさか、お前えぇっ!」

「ああ、三か月分の生活費ぶっ込んじまったぜ、ハッハッハッハッハッハッ!」

 このパターンは生活のために食糧を売っぱらってしまった旧王国の農民と同じである。つまり最低限のものを残しておかないと後で大変困るということになるのだが、この帝国のゆったりした空気の中ではそれを脅威とは感じないのだろう。幸せなことだと思う。

 ファンは僅かな触れ合いでも心が暖かになるになるものだ。売店に立っている選手に一言声をかけてその返事をもらう。そしてその選手のグッズを買い、「頑張ってください、応援しています」と一言伝える。それが幸せなことだったりする。

 

「はぁい~ありがとう」

「ありがとうございます」

 二人は手を振って送り出す。

「ほら、エンリ。投げキッスくらいしてやったら?」

「無理ですよ。は、恥ずかしいもん」

 リングの上と下ではまだまだ別人なエンリだった。

 

「はい、こちらはイケメン選手にお姫様抱っこをしてもらえる夢のようなコーナーです。こちらもやはり同じようにブロマイドをご購入の方に5秒間お姫様抱っこをさせていただきまーす。なお、最低購入数は2枚からとさせていただきますのでご了承くださいませ」

 5秒だと、挨拶して抱え上げた瞬間に落とすはめになるからだ。まあ、落とす必要はないんだが……。なお、購入者の多くは6枚以上が多かった。せっかく抱き上げてもらえるならばある程度抱かれていたいからと推測される。ちなみに一番人気は、レイン。それにカイザーが続いている。

 

 そんなイベントがある中で異彩を放っていたのは、ダンディ須永の手料理コーナーである。もはや忘れられているかもしれないが、須永の料理の腕はピカイチで、正直なところ宮廷料理人よりも腕は上だったりする。たまに皇帝ジルクニフに対して腕を奮ったりすることもあり、何よりジルクニフが楽しみにしているらしい。

 

「ダンディ流デンジャラスステーキ!」

 塊肉をどこからか取り出した鎌で切り裂き、一定のサイズにすると、清潔に手入れされた金属製の棘がついた糸が巻かれた、打ちやすそうな丸みのある木製の細長い棒を取り出す。棍棒にしては細いし滑らかな仕上げだ。なお持ち手はさらに細くなっている。

 この棍棒は、いわゆる野球のバット。巻かれているのは有刺鉄線である。これはつまり凶器として用いられる有刺鉄線バットだった。

「叩いて肉を柔らかくしますぞ」

 有刺鉄線バットで肉を叩き柔らかくし、ほどよく突き刺さる有刺鉄線があとできいてくるらしい。

「とおりゃ!」

 素早く掴んだ塩を肉になげつけ、味を整えると、今度はサーベルで突き刺す。

「では、ご唱和ください。いくぞー!」

「おう!」

 ギャラリーから返事がかえると、須永とともにカウントを数える

「3、2、1 ……ファイヤー!」

 カウントダウンとともに、火炎放射! ゴオオオッという音ともにステーキが焼かれていく。

「はい、おまちどう」

 そのまま付け合せ野菜の乗った皿に盛り、お客に手渡す。

「デンジャラスステーキ一丁上がり!」

 魅せる料理で目で楽しませ、香りで楽しませ、舌で楽しませる。これが須永流デンジャラスステーキだった。

 

 帝国は今日も平和だ。しかし、光あるところには闇がある。平和を良しとしない勢力や、裏社会とはいつの時代でも、どのような世界でもいるものだ。それはこのバハルス帝国にも存在している。そして、世界には平和とは縁遠い国も存在しているのだが、帝国のほとんどの人間はそんなことを知らない。







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