第68話 青の薔薇 の続き。あれから数ヶ月以内ってところです。
第50話 王国 と同時期。
「ふー。ガガーランは元気にやっているかしら」
王都に一人残った蒼の薔薇のリーダー、ラキュースは旅立って行った仲間を思う。
メンバーの一人であるガガーランは、皇帝直々のオファーを受けて遥か遠く帝都アーウィンタールに向かい、今は帝国プロレスの一員としてリングに上がっているはずだ。
「ガガーランは、いつもダンディ様に会えるのかしら。なんだか羨ましいな……私もまたお会いしたいな……」
ラキュースにとって忘れられない存在が、ガガーランを倒した相手であるダンディ須永だった。
顔が好みとかではなく、須永の派手な技の数々や、魅せるためのアピール、技名を叫ぶといった行為がラキュースの好みにピッタリハマる。思考的に惹かれるものがあるという感じだろうか。ラキュースは密かに技名を考えたりするのが大好きだし、色々と妄想するのが好きなのだ。誰にも知られていない趣味だが、たまに呟いているところを仲間に目撃されており、魔剣の影響ではないかと心配されている。
「ダンディ様……私は……」
「ふむ……よいですな。ラキュース、なかなか素晴らしい技です。ネーミングも素晴らしい」
「そうですか? ありがとうございます」
「ですが、こうすればもっとよく……」
須永の手とラキュースの手が触れる。
「ダンディ様……」
「ラキュース」
二人の距離が縮まっていく。
「アルベイン様、アルベイン様!」
妄想にふけっていたラキュースを馴染みのある嗄れた声が引き戻す。
「あらクライム。お久しぶりね」
「ご無沙汰いたしております。アルベイン様」
「ラキュースでいいわよ。で、なんの用? ラナーがお呼びかしら」
「はい。ラキュース様。ラナー様が忍び旅にでるので、護衛をお願いしたいと」
「忍び旅……なんとなく道中で襲われそうね。替え玉とか必要かもしれないわね……似た感じで隠れ旅も悪くないかも……」
ラキュースの脳内で美人姫が襲われる絵が浮かぶ。
「あ、あのー」
「あらごめんなさい。隠れ旅の話だったわよね。護衛了解よ。いつどこに行けばよいかしら!」
「え……ああ、えっと忍び旅には今からでるのでと」
「今から? 急すぎるけど今は私一人だし行けるわよ」
「感謝します。ラキュース様」
ラキュースは、ラナーの忍び旅の護衛として同行することになった。途中ラキュースの予想通りに数回の襲撃を受けるも無事に目的地であるリ・ウロヴァールへとラナーおよびクライムを送り届けることに成功する。
そして……。
「クライムが辺境伯の後継者になった? え、ラナーがクライムと結婚……!?」
宿のラウンジで、そのニュースを聞き、ラキュースはショックをうける。
「せめて私には教えて欲しかったな……一番最初におめでとうって言いたかったよ」
事情はあったかもしれないが、ラキュースが誰かに話すわけがない。
「ラナーは、私のことを友人とは思ってなかったのね……」
ラキュースは色々と親しい友人だと思っていたラナーのために力を尽くしてきた。だが、ラキュースは知ってしまった。自分が単なる便利な駒に過ぎなかったことを。
「バッカみたい。私も行けばよかったな……帝国に……」
「来るというのなら歓迎しますぞ」
ダンディ須永の声が聞こえる。
「ダンディ様……」
いつもの妄想だろうと目を閉じる。
「ラキュースさん。聞こえてますかな?」
ポンと肩を叩かれ、ラキュースは驚いて目の前を見る。
「だ、ダンディ様?」
「いかにも。同じ宿とは奇遇ですな。どうですか一杯」
ラキュースは、コクリと頷く。
宿の近くのバーでグラスを傾けながら、二人はゆっくりと話をする。
ラキュースは異性と二人きりでこのような場所で語らった経験がなく、ドキドキが止まらない。
「だ、ダンディ様はなぜ、このような場所に?」
「下見ですよ。伯から興行を開催できないかと内々に打診がありましてね」
「伯ってクライム?」
今日発表されたばかりだからそれはないだろうと、ラキュースは言ってから気づく。
「いえ。先代ですな。まさか急にご隠居なされるとは思いませんでしたが、節目の興行ということで承ることにしました。ここも帝国領になるようですし」
須永の言葉にラキュースは下を向いてしまう。
「どうされました?」
「いえ……ここも帝国領になってしまうのだなと」
「ふむ……裏切られた気分なのですな。ラナー様に」
「なんで……それを」
顔を上げ須永の顔をみつめる。
「貴女はご自分が思っているよりも有名なんですよ。私などよりもね」
須永が持ったグラスが光を反射し、キラキラと輝く。ラキュースはそれを眩しく感じていた。
「当然ラナー王女との関係も知られていますからね。あとは……まあ勘ですよ」
「私は、何も知らされていなかったんです……さっきここで、街の噂話で知った……そんなことってあります? 昨日まで一緒に旅をしてきたんですよ」
ぎゅっと拳を握りしめる。
「これは私の予測に過ぎませんが、全ては彼女しか知らなかったのではないでしょうか。同行していたクライム殿……今は伯になりましたが、彼は何も知らずについてきただけでしょうし。彼女も悩んでいたとは思いますよ。王女と平民の護衛。わかりやすいくらいに身分違いのお二人でしたからね。クライム殿を伯に据えることで、降嫁なされるための条件を整えたかったのでしょう」
須永は最後の一口を飲み干すと、話を続ける。
「彼女の想いを遂げるためには、降嫁条件を満たすか、国がなくなるのを待つしかなかったでしょうからな。後者より前者の方が安全ですし」
「では、私を裏切ったわけではないと?」
「貴女をというより、クライム辺境伯の帝国への恭順表明があったことを考えると……」
「王国を見捨てた……ってことですか?」
「見切りをつけたというべきかもしれませんね。私は、帝国の人間ですし、皇帝陛下の直属の部下です。その立場上言い難いのですが、王国はもはやスリーカウント寸前です。いや、実際にはもう三つカウントが入って、試合終了の鐘が鳴っているのに気づいてないだけですからな」
須永らしい独特な表現だったが、実際に試合を見た事のあるラキュースにはよくわかった。
「そうですよね……」
「ところで、この後ラキュースさんはどうされますか?」
「この後……ですか?」
ラキュースは須永の言葉の意味を考える。
「私のところに来ませんか、ラキュース」
須永は色々な意味にとれる誘いの言葉を投げかけた。