デビュー戦と同じコスチュームで入場した須永は、大歓声で迎えられた。
(どうやら、受け入れて貰えたようだ。レスラーにとって声援ほどありがたいものはないっていうし)
現実世界での須永はレスラーではない。知識を人より持っているというだけだ。だが、この世界におけるダンディ須永はプロレスラーである。声援に応えるのは当然という思いがあった。
(おいおい……参ったね。人数多いなぁ……)
あとから入ってきた挑戦者達の姿を見て、予想よりも人数が多いことに驚いた。
(普段の依頼は選抜しているって話だったから、今回もそうかな? と思ったらまさかのフルメンバーかよ。まあ、この試合の賞金も、ファイトマネーも相場よりかなり高いらしいから、それでかな)
闘技場はランクが高い試合は報酬もあがる仕組みだと、ジルクニフから聞いている。
「ふむ……14人ですかな……」
「うむ。我らが"ヘビーマッシャー"は総勢14人である。汝がダンディ須永か。さすがにいい体をしておるな」
リーダーと思しき、背の低いずんぐりむっくりした男が重々しく答えた。ドワーフと間違われてもおかしくない雰囲気がある。というか、たまに間違えられているそうだ。
「それはどうも。名の売れたワーカーチームであるヘビーマッシャーの方々がフルメンバーですか。ふむ……なかなか楽しくなりそうですな、グリンガム殿」
「ほう……我の名を」
「ええ、存じておりますぞ」
須永が右手を差し出したが、グリンガムはなんのつもりかとそれを払い除けた。
「汝の力、噂倒れではないとよいのだがな」
須永1人に対し、対戦相手は14人という試合として成立するのかわからない大人数。まさに多勢に無勢、孤立無援。
「これじゃ、全員が敵に回る孤独なバトルロイヤルですな」
試合はまもなく始まる。
◇◇
闘技場では、本日のメインイベント 、"ダンディ・ドラゴン"ダンディ須永対ワーカーチーム"ヘビーマッシャー"の試合が行われていた。
「試合時間15分経過……15分経過」
試合開始からのここまで15分間は、一方的なヘビーマッシャーのターンだった。
熟練された連携と14人という大人数にものを言わせて、須永を次々と攻めて、攻めて、攻めまくる。
魔法や武技まで使用した怒涛の攻めは、彼らが名の通ったワーカーチームであることを知らしめる素晴らしいものであり、普通の相手であれば圧勝するだけの力があることは間違いない。
だがしかし、対戦相手は普通の相手ではなく、プロレスラーダンディ須永だ。このヘビーマッシャーの超猛攻を全て''受けた"。
受けて、受けて、受けまくった上で、攻め疲れを誘いヘビーマッシャーの攻勢の限界点に達したところで、須永は攻撃に転じたのだ。
「ディイイイイイヤッ!」
気合いとともに高くあげた左足の裏で顔を蹴り飛ばす、"フロントハイキック''1発で1人目を戦闘不能に追い込む。
「嘘だろ……」
「ディイイイイイイヤッ!」
いきなりの反撃に動揺し動きが硬直したところを見計らってジャンプ!
そして横っ面を右の甲で蹴り飛ばす"ジャンピングハイキック"で2人目をKO。
「ディァァァ!」
さらに手近にいた相手の後頭部をわし掴み、頭を無理矢理抑えこみながら顔面蹴り! 高々と吹き飛ばして、3人目をノックアウト。
「いいぞ、スナガ!」
「いけ、いけー!」
ここまで大人しく観ていた須永ファン達が声を飛ばしはじめる。
(場所は変わっても、声援を受けるとたぎってくるのは変わらないな)
須永は声援に応えるように右腕をL字に折り曲げると、ポンと左手で叩く。
「
「なあっ!?」
須永から発生する圧力を受けて、動きが硬くなる相手に、むけて加速。勢いをつけて、L字に折り曲げた右肘を顔面に叩き込んだ。
「ぐええっ……」
エルヤーを仕留めた左のウエスタンラリアットと遜色のない一撃を受け、そのまま闘技場の壁まで弾き飛ばされる。
「な、なんだこのパワーは」
ヘビーマッシャーのメンバーは、誰一人先日の須永の試合を観ていない。故に、伝え聞いたエルヤー戦の内容を誇大評価であると思っていたところがあった。
「ブレーンバスター、行きますぞっ!」
須永の技予告に、客席がわく。
(ブレーンバスター? どんな魔法なんだ?)
グリンガムは名前からして、魔法かと警戒する。
「せえっ」
須永はヘビーマッシャーの1人に素早く正面から組み付き、右腕で相手の頭をロック。
「ブレーンバスター!」
左手で鎧の腰の部分を掴んで軽々と頭上へと持ち上げると、後方へ倒れ込みながら勢いよく叩きつけ、その場にいた別のメンバーを巻き込んで2人まとめて撃破。
「隙あり!」
倒れている須永に対しヘビーマッシャーの1人が武器を振り下ろすが、その腕はあっさりとキャッチされてしまう。
「三角絞め!」
さらに両足で首を締める"三角絞め"を決め容赦なく気絶させた。
「さて、次は……」
「ひえっ」
あまりの出来事に狼狽え、思わず片膝をついてしまった男をみて、須永は腕を大きく広げる。
「スコーピオライジング!」
片膝をついた男の腿を左足で踏みつけ、右脚を高くあげると、首筋へと踵を落とし8人目を倒す。
「でえいっ!」
ジャンプして相手を飛び越えた須永は、素早く後ろから首に腕を巻き付けて、スリーパー・ホールド!
普段ならじっくりと見せたいところだが、まだ相手は残っている。ここは一瞬で眠りにつかせて戦力外とし、残りはついに5人となった。
戦士、盗賊、神官、
「あやつは化け物か……」
一斉に残る4人が頷く。みんな同じ気持ちだった。