「お前は龍だ。龍になるのだ!」
そんな声が聞こえてきそうな秘密基地が帝都某所にあった。そこはジルクニフから与えられた須永の屋敷。その地下には秘密の道場がある。帝都には道場もあるのだが、サプライズ登場させたいような特別な選手達は、この地下道場でレッスンを受けてからデビュー出来ることになっている。
特に道場の名称は決まっていないが、ダンディ・ドラゴンから名をとって、
須永自身は家屋敷などに興味はないのだが、ジルクニフから押しつけられてしまい断りきれず仕方なく住んでいる。
「デビューできるのですか?」
鍛錬を積んでいたラキュースは待ちに待った吉報に喜びを隠せない。その隣でガゼフは難しい顔をしていた。
「ええ。ガゼフもようやく素顔でデビューできますよ」
「やっとか」
ガゼフはたまに超神ジーニアス・カイザー・グレートとしてリングに上がってはいたが、素顔でのファイトを望んでいた。元王国戦士長という立場であり、二国が統一されたとはいえ簡単にはリングに立つことが許可されず、正体不明のマスクマンであるカイザーのパワーアップした姿というギミックでリングに上がっていた。
「お待たせしましたね。最近のランポッサ殿の関わりに対する反応をみても帝都であれば反感を買うこともないだろうと判断しました」
「元王からは、王座くらいとってこいと言われているからな。ようやくその一歩を踏み出せるというものだ」
「私も狙ってますよ。今のチャンピオンになら勝てると思ってるから」
リングデビューが決まった二人は早くも意気込んでいる。
「ただ、二人にはちょっとした試練になると思いますよ。今回二人はヒールでデビューしてもらいます」
「ヒール……回復じゃなくて悪役ってことですよね?」
「悪役……バルブロみたいな感じのか?」
バルブロは嫌われ役としては一流の存在だ。試合は塩なのだが。
「まあバルブロになれとは言いませんが、彼のユニットメンバーとしてデビューしてもらうことになりますな」
須永の言葉に眉根を寄せる二人。やはり旧王国民としては思うところがあるのだろう。
「悪役か……だったらこの魔剣の力……
「ダースベイダー……」
須永はラキュースが嬉嬉として話す設定を聞いて、かつて世界でもてはやされた映画をおもいだす。
「いえ、ダンディ様、私は暗黒神官戦士ダークネス・ラキュースですよ」
すでにラキュースはノリノリであった。
「親友にも裏切られましたし、ピッタリの設定だと思いますけど、どうでしょう?」
笑顔のラキュースからは、あの時のような失意は感じない。彼女はすでに過去を振り切り新たな一歩を踏み出している。
「よいと思いますよ。ガガーランはどんな顔をするでしょうな?」
「ふふっ……びっくりして、あ、ありえない! とかいいそう。その後で怒るでしょうね」
「なるほど。いずれ貴女はまた冒険に出ることもあるでしょう。この経験がいかせることを願います」
「はい。楽しみです」
輝くような笑顔をみせるラキュース。須永は眩しく感じ、ガゼフへと目線を移す。
「私も楽しみですよ。さて、ガゼフはどうですかな?」
「……予想していなかった。民のために戦ってきた私が悪役とは」
「いえ。あなたは民のためには何も成せてないですよ。あなたの剣は民に何をもらたすことが出来ていましたかな?」
須永はあえて厳しいことをいう。
「……返す言葉もない」
「何も出来ていないなら、何もしてないのと同じです。つまり、悪と思われていた旧王国首脳部と同罪ですよ」
「なっ……」
この言葉にガゼフは衝撃を受けた。
「まあ、貴方は平民出身ですし、希望は与えていたかもしれませんがね。ヒールと言っても程度はそれぞれです。ちょいワルな戦士長でもよいのでは?」
「ちょいワル……」
「ますはイメージをしてみてください。そうですね、国を失い守るべきものがなくなって闇にとらわれた……というような具合で。ラキュースがそういう設定を考えるのが得意ですから協力してもらうとよいでしょう」
話を振られたラキュースは、ハッとして慌てて言葉を紡ぎ出す。
「え? あ、うん。わかりました。ガゼフさんよろしくお願いしますね」
「こちらこそだ。よろしく頼む。ラキュース殿」
ぎこちない挨拶を交わす二人をみて須永は苦笑する。
「さて、ではもう一人のメンバーも紹介しておきますかな」
入ってきた男をみて、ラキュースは思わず身構えてしまった。