あの不幸な国が初登場です。
「このままではまずいですよ陛下……」
「わかっておる。法国め……急に兵を引き上げるとはどういうつもりか……金は十分支払っていたはずだが」
竜王国女王、ドラウディロン・オーリウクルスは幼女形態でボヤく。
「……形態言うな!」
「私は言ってませんよ……」
いきなり怒鳴られた宰相は、驚き半分抗議半分の顔をしている。
「あれ? おかしいな。だれかに形態と言われた気がしてな」
女王は空耳だったかと考え直す。たしかに誰かがそういってたように感じたのだが。
「まあ、その幼女形態は受けがよいですからね」
「だから形態言うな!」
幼い姿だけに怒っていても、プンスカプンという感じに見えてなかなか可愛らしい。
「ああ。失礼」
「やはり貴様だったんだな」
女王はジロリと宰相を睨みつけ、ぷーっと頬を膨らませる。
「いや、少なくとも最初のは私ではないですが、陛下も幻聴が聞こえてくるとは、おと……お疲れですな」
「今何を言いかけたのやら。幻聴……か。ふん、貴様はいつもいつも形態と口にするからな。信じると思うか?」
「……ではなんと表現すればよいですか? 形態ではなく」
「わざとだな貴様。ふん、表現としては御姿じゃろう?」
さて、現在の状況を簡単に説明しよう。
この竜王国は現在危機に陥っている。隣国のビーストマンの国から侵略を受け続けているのだ。なお、ビーストマンとはプロレスラーにもいそうだが、プロレスラーではない。 わかりやすくいえば、顔が獅子とか虎のような獣で体は人型の種族だ。リアル世界において、人気のあった美女と野獣な話の、野獣みたいなもの。まあ、まったくもって紳士的ではないのだが。
何? タイガーマスクじゃないのか? いや、タイガーマスクではない。もちろん、クーガでもなければデルフィンでもない。マスクではなく本物だ。
ビーストマンにとって人間などは、弱くてトロくて、美味い餌に過ぎない。野生動物を狩るよりも、まとまって生活しているし、とって食うには最適の存在だった。
もちろん竜王国は必死の抵抗をしているが、今もどこかで、国民は頭からモリモリ喰われている最中だろう。
この国の女王ドラウディロンは、多額の資金を支払いスレイン法国から兵を派遣してもらい、幼女形態を性的に気に入っている"ロリコンリーダー"セラブレイト率いるアダマンタイト級冒険者チーム"クリスタル・ティア"とともに防衛を一任していたのだが、突如法国が兵を引いたのだ。話によると別の戦線に回す必要が出たらしい。実際法国はエルフとも戦争中であり、そちらに回したものと思われた。
「また形態と言ったな?」
「いえ、言ってませんが。このままだとあのセラブレイトにそのけ、いや御姿でお相手することになりそうですなぁ……」
宰相はどこかひとごとである。
「あやつに性的に食われるのか……」
「物理的よりマシでしょうよ。なんなら今晩の夜伽に呼びましょうか?」
あっさりととんでもない提案をする。しかもニヤニヤと薄笑いを浮かべながら。
「ふざけるなっ! まだ早いわ……っていうか嫌だ。どうせなら宰相を好む男色だったらのう。鍵をかけて二人で閉じ込めてやるのに」
「勘弁してください……。有り得そうで怖い……」
ドラウディロンは竜王の血を八分の一引いている。そのせいか姿を幼女バージョンや、本来の大人の女性バージョン、はたまた……なバージョンにトランスフォームすることが可能だ。
「なんか打つ手はないかのぉ……」
「婆くさいものいいですねぇ。ひとまずバハルス帝国には援軍要請をしておきましたよ」
「出してくれるかのう?」
「どうでしょうね。噂では皇帝ジルクニフは陛下のことをあまり好ましく思っていないらしいですからなぁ……」
ちなみにジルクニフの脳内嫌いな女ランキングの二位が、このドラウディロンだ。若作り婆扱いである。
「なぜじゃろうな。こんなに可愛らしいまたは、妖艶な姿にもなれるのにのう……まさかやつはアッチの気があるのかのう」
チラリと宰相を生贄にしようかという目線を送る。
「ちゃんと美人女性を集めたハーレム作っていますから……単純に好みではないのでは?」
宰相はさらりと毒を吐く。
「男色の冒険者が来たら褒美にしてやるぞ……」
女王は必ずそうすると決めた。
(しかし、誰かまともな頼りになる御仁はおられんかの。強くて美男子で、まともに大人の女性を好むような……。それならば我が身をいくらでも捧げるというのに)
見た目に似合わねぬため息を吐き、女王は呟く。
「ああ、はやく平和になりたい……」
心の底からそう思っていた。
今回は序章です。
続きは次の章にて。
この章はあと2話です。