「ダンディ須永、貴方に確かめたいことがある」
金髪坊主頭の筋肉の盛りあがった男が須永を訪ねてきた。顔立ちは平凡。人混みに埋もれるというが、これだけガタイがよければ目立つのではないだろうか。
彼は、バルブロ血盟軍の軍師ルーイとしてリングに上がっているが、あえてここではスレイン法国六色聖典が一つ、陽光聖典隊長ニグンとして扱う。
「どうしました、ルーイ……いえニグン・グリッド・ルーイン」
「おや私の名をご存知でしたか。さすがですね」
「その衣装を見る限りはどうやら陽光聖典として来たようですな。さて、どのような話ですかな? 法国がいずれ探りにくるのはわかっていましたよ」
須永は笑顔で応対する。まったく警戒する素振りがない。
「どこまでご存知なのか怖いくらいです。ダンディ須永……あなたは素晴らしい力をお持ちだ。デビュー前のお手合わせ……スパーリングというのでしたか。あの時から薄々感じていましたが、リングに上がって思います。貴方は他の連中とは明らかに格が違う存在だと。さすがは武神と呼ばれる存在だ。だから単刀直入にうかがいます。貴方はもしや神人でしょうか」
ニグンもまた穏やかなものだ。敵意など微塵も感じられない。力差を理解しているという面もあるのだろう。
「神人……六大神の血を引く者に時折現れる先祖返りした強さを持つというアレですな」
「……
「いや。彼女は何も語っていませんよ。自由な娘ですからな」
「確かに。まあ自由すぎて困っております。まあ、私がではなく、別の人間がですが」
ニグンは知り合いの顔を思い浮かべ苦笑する。
「わかります。まあ、私は情報が集まりやすい立場にいます。だからそれなりにあなたがたを知っていますよ。ああ、質問に答えていませんでしたな。私などとるに足らない存在ですよ。たまたま才能に恵まれた単なるプロレスラーにすぎません」
「いやいや、それを信じるとおもいますか?」
ニグンの顔には若干の呆れが見える。
「まあ、そうでしょうな」
「では、やはり神人で?」
「いえ、私はダンディ須永。皇帝陛下直属のプロレスラーにすぎませんよ。法国がどのように考えようとも、私の立ち位置は変わりません」
「……それが貴方のお答えか。わかりました、ではそういうことにしておきましょう」
ニグンの言葉は意外なものだった。
「よいのですかな?」
「少なくとも悪人ではないのはよく理解できています。そして私よりも何段も上の強さを持つ雲の上の存在のプロレスラーです」
「そうですか。……そうそう、陛下からのお言葉を伝えておきますかな。私も同意見ですし」
「承りましょう」
ニグンは皇帝の言葉と聞き跪く。
「我がバハルス帝国は、法国とことを構える気はない! との事。ご存知の通り陛下は野心家ではありますが、全世界を支配しようなどと考えてもいませんからな。念願であった統一を果たしたばかりですし」
須永は穏やかな笑みを浮かべ、ゆっくりと話し出す。
「承りました。私もそう願っておりました。少なくとも貴方様と戦いたくはないので」
「私も同じですよ。我々バハルス帝国は、今はただ国家の繁栄のために尽くすのみ。なにしろ新たな領土も手にして間もないですからな。それにご存知のように、旧王国領は未だに前政権の失政により疲弊しています。それを回復させるのにはまだ時間がかかるでしょう」
ニグンは静かに頷く。彼も旧王国の惨状は理解している。
「我々は富国強兵に力を入れていますが、それは他国を侵略するためではない。人間に、強い異種族と対抗できる力を持たせるためです。法国は、人間至上主義ですよね?」
ニグンはここも頷くだけで言葉は発しない。
「我々は異種族も受け入れながら、人の繁栄を願っている。方針に若干のブレはありますが、ともに人間の繁栄を願っているという意味では同じ方向を向いている同士ですから」
「確かにそうですね。視野を広げればそうでしょう。私はこの帝国に来て、異種族と話をする機会に恵まれました。やはり教義として異種族は敵と教えられてきていますから、敵意を隠すのは大変でしたが、私なりにわかったことがあります。姿形は違えど彼らは生きている。なんら我々人間と変わることはないのですね」
意外な言葉が帰ってきた。
「その通りです。視野を広げるとわかるでしょう?」
「わかります。上層部が理解できるかは別ですが……」
「焦る必要はないのですよ。貴方のような信仰心の塊のような方が気づけたのです。他の方も理解はしてくれるでしょう。長い年月がかかったってよいではないですか。今から少しづつ変えていけば、何代か先には受け入れるのが当たり前になっているでしょうし。まあ、それを我々が目にすることはないでしょうけどね」
「気の長いお話ですね、ダンディ須永」
「王国だって崩壊まで200年です。せめて、その半分くらいで浸透して欲しいですがね」
二人は笑いあう。
「では、ニグンは国に戻るのですかな?」
「いずれそうなるでしょうが、当分先になりそうですよ……理由は……」
「プロレスに夢中になりましたかな?」
「正解です。我々は後暗いこともしてきましたし、そのせいでラキュースとも戦ったことがあります。彼女と次会う時は殺し合いだと思っていましたが、まさかユニットを組むことになるとはね。ハハ、人生はわからないもんですなっ! とにかくリングに上がっている時は充実しています」
「ではこれからも頼みますよ、ルーイ」
二人はガッチリと握手を交わす。
「はい。いつかは貴方に勝ってみたいものです。その時はギブアップをとってみたいですね」
「楽しみにしていますよ。私を狙っている人間は沢山いますからな。誰が最初か私自身が一番楽しみなんですよ」
穏やかな風が吹き抜ける。明日も良い天気になりそうだ。
次の話が5章最終話です。
法国とは戦いませんよ。帝国に利はないですからね。