異世界プロレスinオーバーロード   作:NEW WINDのN

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第85話 三番勝負~第一番~その2

「ジーニアス・カイザーとはいきなり強敵ですな」

 須永の視線の先にはリング上で向かい合う二人の姿がある。カイザーは悠然と構えており力みはない。エンリは強敵と知っても気持ちが引いていないようにみえる。

「なお、この試合は皇帝陛下もご覧になっておられます」

 バルコニーには出ず、窓から手を振るとジルクニフは腰掛けてリングを見下ろす。最近は露出が減っているが基本的に帝都興行には関わっている。

 

「さて、()()()カイザーはどうかな?」

「普通に考えれば勝つんじゃないですかい?」

 護衛役のバジウッドが相変わらずな口調で答える。

「まあ、そうだろうな。だが、追い込まれたあの娘が何も考えていないはずはないだろう。案外わからんぞ」

「そういうもんですかね?」

「そういうものですよ。雷光」

 慈母の笑みを浮かべたレイナースが、優しい瞳でバジウッドをみる。

「そうかい。わからんもんだなぁ……。それにしても重爆は随分と綺麗になったよなぁ……」

「惚れまして?」

「いや……」

「あら照れなくてもよいのに……」

「そろそろ始まるぞ。集中しろ」

 三人はリングへと視線を移した。

 

 

「悪いが私も負けるわけにはいかんのでな」

「ええ。全力で来てください。勝ってみせます!」

 エンリとカイザーは睨みあうが、カイザーはスっと目線を外す。

(あれ? なんだろう……今日のカイザーさんは

 なんだか弱そうに見えるんだけど……もしかしてあれかな? 勝つことを考えてきたから、カイザーさんに勝てるって思ってるからなのかな?)

 相手に呑まれないというのは大事であり、気の持ちようで相手の見方は変わるものだ。

 

「さあ、まもなくゴングです。御二方はこの試合どう予想されますか?」

「カイザーは実力者の一人。この試合はやはりカイザー有利だろうな」

 ランポッサが先に答える。なかなか玄人感が出てきたような気がしなくもない。

「ダンディさんは?」

「そうですな。エンリに勝機はあります。問題は彼女が気づいているかどうかでしょう」

 須永はそう言ってもう一度エンリを見る。

(どうやら……大丈夫そうですね。カイザーの最大の特徴こそが彼の最大の弱点です。それに()()()カイザーは……)

 須永もジルクニフと同じ言い方をしている。これは何を意味するのだろうか。

 

 カアン! 

 

 試合開始のゴングが鳴ると同時にエンリは、珍しくダッシュ! レベルアップして速さが上がっている。あっという間に一気に距離をつめ、ロックアップしようとしているカイザーの前で急停止! 

「いやぁぁぁっ!」

 気合とともに両の掌をカイザーの顔の前で叩き、パァーンと大きな音を出す。

「え? エンリなにを……っおっ!」

 いわゆる猫騙しでカイザーの意識を引きつけ、その隙にエンリは素早くカイザーのバックへ。そして背中合わせの状態から両腕を絡めて前へかがみこみ、フォールする。これはいわゆる逆さ押さえ込みだ。

 

「カウント……ワン! トゥ!」

 カイザーへの声が飛ばない。試合がまだ始まったばかりだからだろう。しかし……。

「スリー!」

 カウントは無情にもみっつ入ってしまった。

「0分9秒、0分9秒……ライオネス・クラッチにより勝者ライオネス・エンリ!」

 場内みな状況が飲み込めていない。

「あーっと、秒殺! なんと秒殺です。ライオネス・エンリ、強豪のカイザーをたったの9秒で仕留めてしまったぁ!」

「まさか……」

「カイザーは基本的にスロースターターですからね。相手の攻撃を受けて受けまくってピンチになった時に、観客の声援を受けて力を……真価を発揮するわけですよ。いわゆるヒーローモードとでも言うべきでしょうか。ようは試合後半になればなるほど強くなるわけです。つまり試合開始直後は……。これはライオネス・エンリが上手かったですなぁ。さて、私はここで失礼しますよ」

 須永はそれだけいうと席を立ち、バックステージへと向かう。

 

「おい! おい! おい! おいっ! なんだこの茶番はっ!」

 リングにはバルブロが登場し、エンリとやり取りをはじめていた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「どうでしたかな?」

 誰もいないバックステージの控え室。素早く戻ってきていたカイザーが座り込んでいた。

「いやぁ……エンリは強いですね。びっくりしましたよ」

 カイザーはマスクを外す。前髪が目を隠しているが、見える顔立ちは少年と大人の間といったところだろうか。

 

「逆さ押さえ込みは、タイミングで決められると。意外と返しにくいものですよ。よく番狂わせに使われる技ですし、時には神が宿るケースもありますからな。仕方ありませんよ、ンフィーレアくん」

 今日カイザーのマスクを被っていたのはエンリの友人、ンフィーレア・バレアレ。エ・ランテル一番の薬師の孫であり、今はバレアレ薬品店の帝都支店を切り盛りしている。

 彼は以前よりエンリに惚れており、今もその心は変わっていない。エンリを支えるべく体を鍛え、たまにリングに上がっていた。主にマスクマンとして。なお、エンリはそのことを知らないし、ンフィーレアの気持ちなど全く気づいてもいなかった。

 

「まだまだ鍛えなくちゃだめですね。こんなに早く負けるとは思いませんでしたよ」

「カイザーの弱点を狙われましたな」

「ですね。あーあ、また本物(カイザー)に叱られちゃいますね……」

 ンフィーレアはそういいながらも、どこか楽しそうであった。

 とにかくエンリ三番勝負第一戦はエンリの勝ち。なお策士バルブロはこのカイザーの入れ替わりを知らない……。

 

「ま、今日の決まり具合なら本来のカイザーでも返せなかったとは思いますが……。さて、次はどんな相手できますかね……」

 残り二戦。エンリ三番勝負はまだ始まったばかりである。

 

 

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