「それでは次行ってみましょうか」
須永はカード数枚を広げ、エンリにカードを引かせる。
「う……」
エンリは引いたカードを見て固まってしまった。
「ティ姉様……に勝つ方法……ですか……」
「エンリ、貴女はティの妹です。傍にいるからこそ見えてくるものはあるはず。それともティとは戦いませんか?」
「対戦する機会はないかと……」
エンリは遠慮気味に言葉にするが、彼女自身信じてはいない。バルブロならありえるのでは……と思ったからだ。
「いえ。プロレスにおいて同じユニットだから戦わないということはないんです。だから貴女は常にティと戦う準備をしておく必要があるのですよ。それに私がマッチメイクするなら、同じユニットの者を条件をつけて当てますよ」
須永は、エンリがあるかもと思っていたことを具体化していく。
「条件ですか?」
「ええ。ベルト挑戦というエサで貴女を釣り出していますし、負ければ解散というプレッシャーをかけてますよね。さらに追い込むならば、対戦相手にティやガガーランを配置し、彼女らには物理的なプレッシャーをかけます」
「物理的なプレッシャー?」
エンリは想像がつかない。
「そうですね、負けたらティなら覆面を剥ぐとか、ガガーランなら髪を切るとかですかね。ライトなものだと恥ずかしい衣装で戦わせるとかかな」
「え……エグいことしますね。ちなみに恥ずかしい衣装って?」
変な所に食いつくエンリ。
「……ガガーランに足を出したミニスカート風のものとかですかね。あまり見たくはないでしょう?」
エンリは須永の言ったイメージを思い浮かべたが、やがて首をブンブンと横に振ってイメージを打ち消した。
「兄様には似合いません!」
二人して失礼な話だ。ちなみに須永がイメージしたのは、月のかわりにお仕置きしてしまいそうな格好だった。本人の好みは知らないが、似合わないとは思う。ぜひ想像してみてほしい。ミニスカセーラー服で、リングに上がるカガーランの姿を。
「まあ、そういうことで二人を倒すイメージは作る必要があります」
「難しいですね。近くで見ているから弱点はわかりますけど。それだけで倒せる相手じゃないですから」
だいぶエンリは前向きな気持ちになっている。シミュレーションとはいえ、勝つことを考えて、考え抜いて数人を倒してきているから、良くなっているのだろう。
「そういう時は相手の長所を考えましょう。ひっくり返せば弱点になります」
「それはどういうことなんでしょうか?」
「では一つ例を上げます。ティはスピードが売りの一つですよね?」
「はい。姉様はとっても速いですから」
自分の事のように胸を張るっている。やはり姉が大好きなのだろう。
「実際ティのスピードは、帝国プロレスでは二番目ですからな」
「二番目……じゃあ一番は?」
エンリはわかりきっていることを思わず聞いてしまう。須永は、人差し指を左右に数度振り、それから親指で自らを指し示した。
「まあ、順位はどうでもよいですが、その速さは時として仇となるのです。加速するということは、勢いをつけて突っ込むわけですよ。つまり……」
「カウンターが効く!」
エンリは勢いよく被せてきた。
「正解です。実際先日のラキュースとの試合においてもティはカウンターをくらってますよね?」
「アックスボンバーをラリアットで返されてました。ああ……なるほど……」
「加速した分はまるごと跳ね返りました。こうやって考えていくと長所の裏返しは……」
「短所になるんですねっ!」
エンリは前が開けた気持ちになっている。目の前に分厚く高い壁があって乗り越え方で悩んでいたのだ。彼女が悩んでいる時は、いつでも相談相手になってくれたのは姉。だが今回だけは違った。
「……スナっちゃんに相談してみな」
ティはそれだけを答えて自分のための練習に集中していた。恐らく自分とは違う意見を聞くべきだと言いたかったのだろうなと今はわかる。
「そういうことです。相手の弱点を狙うだけじゃなく、長所をひっくり返す。相手は自分の売りだと思っていますから、楽しいくらいに引っかかってくれます。上手く罠をしかけて追い込む感じですかねぇ」
これは須永のテクニックの一つである。
「では、そのように考えてみます」
「それでよいでしょう。また詰まったら聞きに来てください。エンリ、一つだけ言っておきますが、
「はい。全員に勝つことを考えます!」
エンリは笑顔でそう答える。
(本当に全員に勝つことを考えられるかな? なにがあるかはわからないから、ちゃんと備えて欲しいけど)
さて、エンリ三番勝負の行方は……。