今回は長くて短い回の倍くらいあります。
「何っ! 五千の先発隊が全滅しただと?」
豪華な椅子に腰掛け、魔法の鎧を身にまとったライオンヘッドのビーストマンは、報告を受けありえない事態に驚き思わず立ち上がる。
「生き残りはわずか三人です」
「なんということだ。敵はそれほどの大軍なのか?」
「いえ、逆です。たったの七人……だそうです」
「なんだとぉっ!?」
これに驚かない方がおかしい。総大将レオンハルトはアングリと大きな口を開けた。ギラリと光る牙は鋭い。
「奴ら一人一人がとても強く、今まで戦ってきた人間どもの中でも最強クラス。特に隊長と見られる男の強さは、ドラゴンの如く。先発隊長はわずか数秒で仕留められたそうです」
「ドラゴンときたか。ならば我々はドラゴンスレイヤーとなろうではないか……全軍で叩き潰すぞ。おそらく最後の切り札だろう。そやつらを倒し、全て喰いつくせっ!」
ビーストマン五万の大軍勢が動き出す。
しかし、そのビーストマンの軍勢はいきなり前後左右からの襲撃を受け出鼻をくじかれることになる。
「敵襲です!」
「なんだとぉっ! 数はやはり七人か?」
「いえ正面、背後左右に一人づつの計四人です」
「四人!?」
レオンハルトは戸惑いを隠せなかった。
◇◇◇
時は少し遡る。
「来ましたな」
眠りに着いた仲間を残し、一人敵陣近くまで接近していた須永は、目的の人物を見つける。
「やあ来たよ、ダンディ。本来は種族の争いには関わらないんだが、君には借りがあるからね」
やってきたのは白金の全身鎧。そう、以前いきなり須永を襲撃した操り鎧のツアーである。
「これでチャラにしますよ。ビーストマンは少々増えすぎたようです」
「全滅させるつもりではないんだろう?」
「ええ。調子に乗ってたらすごく痛い目にあった程度にしますよ」
「それを二人でやろうってのかい? 」
「一人二万五千。楽勝でしょう?」
須永は店にパンでも買いに行くかのような気楽な口調だった。
「いやいやいや、勘定おかしいから」
「そうですかな? あなたのその鎧は、この世界においては圧倒的強者のはずですが。まあ、よいでしょう。では少々人手を追加しましょうか。まあ、人ではないんですが」
須永は掌サイズの厚さ二センチほどの紫色の箱を取り出す。
「なんだいそれは?」
「私のパートナーモンスターをしまった小さな
「ちょっと待って。80レベルって難度240くらいってことだよね」
「らしいですが」
「……つくづく君が平和的な人でよかったよ」
「ま、平和的なプロレスラーってのもどうなんでしょうな。闘争心がなさそう」
「……野心がないからね、君は。普通それだけの力があれば世界を手に入れようとかしそうなもんなのに」
「ま、私はプロレスラーですからな。プロレスが出来ればそれでよし。竜王国を助けるのは、知り合いの教え……困っている人がいれば助けるのは当たり前……ということと、プロレスを広めるには、ビーストマンより向いているからです」
「やはり野心家ではないね……」
「我儘なだけですよ。さて、どれを呼びましょうかな」
「一応聞いていい? そのカプセルいくつあるの?」
「ま、それなりにあると答えましょうか」
「凄く気になる……」
ツアーの言葉を無視し、須永はカプセルを選ぶ。
カプセルには、名前が書かれている。一部上げると、スタン、ブルーザ、砲丸、リキ、アントニー、ジャイアント……といった感じだった。好きな人ならなんとなくわかる。そんな人型モンスター達だ。もちろん名前だけであり、すがたは似ていない。
「では、スタンとリキにしますか。ツアー、あなたは裏手から、私が正面。左右からスタンとリキを突入させます。まあ、問題はないでしょう。中央で合流しましょう」
「わかった」
ツアーと須永は拳を合わせ、それぞれの位置へと散った。
なお、野営地の見張りには、一体残してきてある。
◇◇◇
「だめです、まったく歯がたちません!」
「なんてことだ……」
レオンハルトは恐怖する。たった四人でこれだけの軍勢を圧倒する強者達が東西南北から自分に向かって突っ込んでくるのだ。
自慢の五万の兵が脆く儚く感じられてしまう。人間など脆弱な餌としか思っていなかったのだが……。
「グアッ!」
ついに、正面の兵が吹き飛ばされ、眼前に敵兵が現れる。
「もう来たのか……」
「総大将レオンハルト殿ですな。私はダンディ須永」
二万近い軍勢を配してした正面を突破してはずなのに、息一つ切らしていない。明らかに桁が違う存在だと嫌でもわかる。
「き……貴殿が隊長か」
貴様と言いかけて、言葉を言い変える。下に見ていい存在ではない。
「まあ、正式な隊ではありませんが、代表ではありますな。さて、各部族をまとめあげ侵攻してきた貴方達の状況はある程度予想できています。簡潔にいえば人口が増えすぎ、食べるものが足りなくなったのでしょう?」
「……何故それを」
「簡単な推測です。そこで、あなたがたに選択肢を与えましょう。食べ物が足りる程度までに数を減らすか、家畜を育てる技術を学ぶか。……人間は確かに捕まえやすいでしょうが繁殖力に劣ります。供給を満たすには常に攻め続ける必要がありますが、成長に時間もかかりますし、繁殖には向きません。それに私のような存在もおりますからなぁ。まあ、繁殖力の高い家畜を飼うのがベストでしょうが、さて、どうしますか?」
レオンハルトは人間に初めて気圧された。
「……聞いてもいいか?」
「どうぞ」
「……どれくらいまで減らす気だ?」
「竜王国の脅威にならない人数まで。なんなら、竜王国が逆に攻め落とせるレベルまでにしましょうか? 」
須永は低い声で答える。
「それが可能だと?」
「我々の力はすでに理解されているかと思いましたが、まだ足りませんかな? 我々はたった四人であなた方の陣を蹴破りここにいるのですがね」
「遅くなった。やはりダンディが先だったか」
レオンハルトの後ろから鎧の騎士が入ってくる。
「そもそも私がここにいる段階でおわかりでしょう? あなた方では相手にならないとね」
「くっ……わかった。兵を引く。家畜の飼育を教えてもらおう」
「賢明な判断です。即座に兵を引き二度と攻めてこないように願いますよ。あなた方の未来のためにも。人にもあなた方を滅ぼせるものはいるのですから」
須永の半ば脅迫めいた和平交渉により、ビーストマン達は引き上げを開始。竜王国に平和が訪れる。
◇◇◇
「……以上が報告になります。ドラウディロン陛下」
「まことか? もうビーストマンに怯えることはないんじゃな?」
「ええ。この国は平和になりました。ご安心ください」
須永は一人女王と謁見している。
「おお……奇跡じゃな……これでわらわもゆっくりと寝られるというものじゃ。帝国には足を向けて寝られんな」
「はは、寝相がよいとよいですな。それでは、失礼いたします。竜王国に繁栄を!」
立ち去ろうとする須永を女王は慌てて引き止める。
「ちょっと待って欲しい。ダンディ殿、救国の英雄をそのまま帰すことなどできぬ。礼をしたいから、一週……いや、せめて三日残ってはくれぬか」
ドラウディロンとしては、"ずっと残って欲しい"が本音だったが、これほどの力量を持つ者を帝国が手放すはずはない。ぐっと堪えて三日と言ってみた。
「それくらいでしたら、次の興行には間に合いますな」
「興行?」
「ええ。帝国プロレスの興行がありますから」
「プロレス?」
「陛下はご存知ないですか。三日いただけるなら、一つ特別興行でもしましょうか。少ないですが経験者を連れてきていますからね。竜王国の皆様を勇気づけるような試合をお見せしましょう」
礼をするはずが、違う話に変わりそうになっている。
「それは楽しみじゃな。だが、ダンディ殿。今宵はそなたの冒険譚を聞かせて欲しいのじゃ」
「よいでしょう。お約束してましたからな」
女王はなんとか主目的へ引き込むことに成功したようだ。
この後女王VS須永のシングルマッチがあったかは謎。
ビーストマンは基本情報が少ないんですよね。ゆえにオリジナルキャラや、独自設定になってしまいます。
私の中で、ビーストマンのイメージは真鍋先生のキャラ達です。ライの骸羅とか。
ビーストマンに焦点をあてて長く書くなら、ボスは骸羅、骸山、骸延の三兄弟や、羅侯あたりにしたくなりました。まあ、羅侯だとだいぶ人間によりすぎるか。
骸羅兄弟でビーストマンを支配させても面白そうですよね。
ただ、出番はここだけなので、レオンハルト(ライオンハート)ってありがちな名前になりましたが。
さて、残りはあと三話です。
最後までよろしくお願いします。