「さあ、ライオネス・エンリ炎の三番勝負もついに最終戦を迎えました。ここまで超神・ジーニアス・カイザー、拳王ハムスタに連勝してみせたエンリ。この試合に勝つことが出来れば、エンリはベルトへの挑戦権を、勝てなければ、彼女の所属する人気ユニット"帝国華激団"はその時点で解散となってしまいます。運命の一番……最終戦の対戦相手は誰なんでしょうか」
エンリは先に入場し、対戦相手を待っている。その表情は自然体で気負いは見られない。いつものように青い武闘着に、今日は華激団全員揃いの白いオープンフィンガーグローブ。セコンドのティとガガーランも同じものを身につけ、ユニットとして最後になるかもしれない戦いに臨む。
ちなみに帝国プロレスの調査によると、エンリの三番勝負~第三番~の対戦相手予想は、一番人気が武王。二番人気はガゼフ・ブラック。三番人気は願望をこめてバルブロという結果であった。
「俺の予想だとここは武王なんだけどな」
「だね。ここまで"帝王"のメンツとしかやってないからね。バルブロのやつ、自分のところからは一人も使わないんだよねー」
ユニット"帝王"はカイザー、拳王、武王の三人構成だ。第一番がカイザー、第二番が拳王だったのだから、ここは武王が有力と見られても仕方ないだろう。実際、武王は他の選手と比べても格段に勝ち筋が見えない相手だ。
ここで花道から、バルブロがブーイングと拍手の中、血盟軍を引き連れて悠々と現われる。顔はニヤけてるおり、癇に障る表情だった。
「……どうやら、あいつらは対戦相手じゃなさそうだな」
血盟軍は誰もが臨戦態勢にない。こうなってくると、大方の予想通りに武王が相手なのだろうか。
「なお、この試合は陛下もご観戦なさっておいでです」
ジルクニフは爽やかに手を振って歓声に答えるといつものように着席した。傍らには例によってバジウッドとレイナースが控えている。
「私の対戦相手は?」
「焦るなよ小娘。それにしてもよく二連勝できたなぁ、それは褒めてやるよ。何しろ私は度量が大きいのでなぁ。だがなぁ……頑張りもここまでだな。……クックック。この試合で貴様等のユニットが解散することは確定しているんだよ。今から私が呼ぶ選手には誰も勝てやしないさ……絶望を知るんだな。対戦相手カームヒア!」
嫌味たっぷりなバルブロのマイクが合図となり曲がかかる。
「ぶおうボンバイエ! 」
予想されたこの曲ではなく、かかったのは……。
何やらおどろおどろしい曲だった。そう、全てが終わるような……絶望の曲。そう……まるで、ぼうけんのしょが消えそうな……そんな感じの曲が流れた。そして、そこからさらに低い音で曲が流れる。
「な、このリズムは」
「間違いない……」
いつもとは違うアレンジであり、音程もツーオクターブは低いが、馴染みのあるあの曲に間違いない。この曲通りの人物が登場するのなら、バルブロの言う通りになるかもしれない。
「クックック……私の勝ちだ」
バルブロは勝ちを確信していた。なにしろ今から入ってくる選手は、シングルマッチでは負けたことがないのだから。
「戦慄の最凶戦士……スーパーヒールダンディ須永!」
いつものような明るい紫ではなく、暗い紫のペイントを顔にほどこし、赤で歌舞伎の隈取りのような模様。いつもとは違うゆっくりとした足取りでリングインしてくる。手首には黒いバンテージを巻き、全身は忍者が着る黒装束のようなコスチュームになっている。禍々しいオーラすら感じるような……そんな存在がそこにいた。
「マジか……」
「ここでスナっちゃん……」
「しかも噂のスーパーヒールかよ……」
ティとガガーランが、解散確定とばかりに気落ちしている。
「バカヤロー! 出る前から負けることを考えるやつがいるかよっ!」
エンリは二人に喝を、自分に気合いを入れるように須永から教わった言葉を口にする。
「エンリ……」
ティとガガーランは、ハッとなって顔を上げた。そこには笑みすら浮かべているエンリの姿。眩しく輝きを放つ存在がいた。
「大丈夫ですよ。私はこの試合負けません。姉様、兄様。実は秘策があるので、耳を貸してください」
エンリは二人に作戦を説明する。
「たしかに……そうだな」
「なるほどね。それスナっちゃんが言ってたんだよね?」
「はい。考えたのは私ですけどね」
エンリは胸をはる。自信に満ちた表情に力強い言葉。エンリは立派なプロレスラーになっていた。頼りない妹ではなく、頼れる
「エンリ成長したね」
「はいっ! お二人の妹ですから」
エンリの笑顔に二人は確信を得る。負けはしないと。
試合開始のゴングが鳴ると、スーパーヒールがヴェールを脱ぐ。
いきなり強烈なエグい地獄突きでエンリをダウンさせると、馬乗りになって顔面を容赦なく張り、さらに張り手と掌底を連打。そして両手で首を絞めるコブラクロー!
しかも、レフェリーのブラインドをついて、巧みに手首に巻いていたバンテージを使っている。レフェリーが回りこもうとすれば、位置を変えて、常に死角になるようにしている。
「くそっ、やっぱ上手いな……」
「おいっ。納得すんな! っていいたいけど、やっぱテクが豊富だよね……」
反則カウントをとられれば、カウント4できっちり外し、また絞め直す。
フォールをするときは自分の足をロープにひっかけ体重をかけてみたりと、やりたい放題である。
サミングで動きを止めるとさらには髪の毛を掴んで引き絞る。
「いたたたたっ! いったーぃ!」
引き絞るだけ引き絞り、ドラゴンスクリューの要領で髪を起点に1回転させるヘアースクリュー!
「いっだーっ」
涙目になって髪を掻きむしりながら悶絶するエンリ。
須永……いや、スーパーヒールな須永はそれを冷酷に見下ろしていた。
「エンリ頑張れー!」
スーパーヒールへのブーイングと、エンリへの声援が会場を支配していく。
スーパーヒール化した須永は、ブーイングには無反応。技をアピールすることもなく、淡々と……そして無言のまま、エンリを追い込んでいく。エンリは単発で技を繰り出し、流れを変えにかかるがすべて反則技をはじめとしたラフ殺法で切り返されてしまい、ぺースを握れないままでいた。
(どうすれば、いいの……)
エンリは、どうすればよいのか思いつけない。あまりにも想定と違い過ぎたのだ。
あと一話。
三番勝負決着となります。