異世界プロレスinオーバーロード   作:NEW WINDのN

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最終話 新たなる時代へ

(やっぱり強い……ダンディさんは桁が違うよ)

 心の中で泣きべそをかきながら、エンリは必死の抵抗をみせる。

 強烈な張り手や、得意とするオーバーヘッドキックといった打撃技で反撃するが、スーパーヒールとなった須永は、まったく表情を変えずに技を受けている。須永は元々ダメージの有無が分かりにくいのだが、スーパーヒールは表情がないので、さらにわからない。

 

(ダンディさんの特徴は受けにある……それはスーパーヒールでも変わらないんだね)

 エンリは、念の為にダンディ須永相手のシミュレーションもしていた。もっとも勝ち筋はみつからないままだったが。

(カイザーさんとは違う意味で受けに回るんだよね……相手を引き出そうとするからなんだろうけどっ! ……あっ、引き出す? ……)

 エンリは一つヒントを見つけた。

「グエッ……」

 ヒントは見つけたのだが、エンリは須永に捕まり、両手で首を絞められながら軽々と持ち上げられてしまった。

(これはネックハンキングツリー……!)

 エンリは足をバタバタさせてほどこうとするが外れない。

「ハッハッハ。さすがだダンディ。そのまま絞め殺してしまえ」

 バルブロの言葉が聞こえてくる。

(おそらく、次はボムでくるは)

「グエッ……」

 一瞬集中を欠いた瞬間、エンリの腹部にダンディ須永の左拳がめり込んでいた。

(レフェリー……みてなかったの……あっ、ブラインドか!)

 エンリは今の一撃がレフェリーから見えなかっことに気づく。

(やっぱ上手い……私じゃ無理なのかも……)

 弱気になったことを気づいたように、エンリはボムでトップロープに叩きつけられ、跳ね返ったところを顔面からリングへと叩きつけられた。

 

 

 エンリは遠のく意識の中で、須永との会話を思い出す。

 

 

「ダンディさん、試合前の考えはわかりましたけど、試合中に負けそうだなって思ったらどうするんですか?」

「バカヤロー、試合が終わる前に負けること考えるやつがいるかよ!」

「えっ? 同じなんですか??」

 エンリの言葉に須永はニヤっと笑う。

「あー、うそなんだっ!」

「ふふ冗談ですよ。実は私が好きな言葉が一つあります」

「どんなのですか?」

「……諦めたらそこで試合終了ですよ……です」

「諦めたらそこで……試合終了……」

「最後の一秒まで、諦めずに相手を倒すことを考えましょう。それが一番大事ですよ、エンリ」

 付け加えるように、負けるかもと心が挫けそうな時に思い出してくださいね……と須永は笑っていた。

 

 

「諦めたらそこで試合終了……まだ諦めたりしないっ!」

 エンリは右の膝をついて、左足から立ち上がろうとする。

「エンリ! そいつはヤバい!」

 当然のように須永は閃光魔術(シャイニングウィザード)! 

 しかも、通常の膝の内側をあてるタイプではなく、元祖型の膝をまっすぐぶつけるという、よりエグいタイプだ。膝が悪い人間が考えた技とは思えない。

「長所の裏返し!」

 しかしエンリはこれをキャッチし、マットへ膝を思いっきり叩きつける。

(相手が仕掛けてくる技がわかっていれば、対処できるっ!)

 須永の受けをヒントに誘いをかけることで、エンリは反撃に繋げたのだ。本来なら色々なバリエーションを須永は使うが、スーパーヒールはラフなファイトスタイルだけにバリエーションは少ないと読んでいた。

「もう1回!」

 再度ニークラッシャーで叩きつける。

「よーし、タワーハッカー! いくぞーっ」

 そのまま担ぎあげて、必殺のタワーハッカーボム。

「フォール!」

 エンリはレフェリーを見てそう叫んだ。その間に須永は右手の人差し指と中指を自らの喉元へと動かす。

 

「オーケー」

 カウントに入ろうとレフェリーが飛び込んでくる瞬間、ちょうど死角になるタイミングを見計らって須永は紫色の霧を吹いた。

「きゃあっ! 何これっ!」

 突然視界が紫に染まり、何も見えなくなったエンリはパニックになっていた。

(な、なななにっ! 目が痛いし、何この匂い……臭いっ……うええ目が開かないよー)

 これは毒霧と言う一部のヒールレスラーが使うものだが、当然この世界では初披露である。

 

「なんだあれっ!」

「わっかんない。でもわかるのはピンチだってこと。明らかにエンリ見えてないよ」

 ガガーランとティは頷きあい、サードロープに手をかけた。

「!」

 エンリは後ろから肩車するように肩に乗られたことに気づく。

「な、なにおっ!」

 スーパーヒールな須永は一言も喋らず、肩の上で180度向きを変えて、逆向きになると、そのまま後方回転し、ウラカンラナで丸め込む。所謂ミステリオ・ラナと呼ばれた技だ。

 

「ワン! トゥ!」

 レフェリーのカウントが進む。

(ま、まずいっ! 外せないよー! 姉様、兄様!)

 諦めまいと跳ね返そうとするが、上手く押さえられてしまって返せない。

「スリ」

 ここで、レフェリーの死角からティがリングに飛び込み、レフェリーを押しつぶすように、須永もろとも弾き飛ばし、サッと場外へ消える。

「てめえ、何をやってんだっ!」

 バルブロがエプロンサイドにあがると、ガガーランが飛び込み、バルブロをロープ越しのブレーンバスターで場内へと叩きつける。

「グハッ! ……ガゼフ、ルーイっ!」

「仕方ない」

「やれやれ」

 ガゼフとルーイがリングインし、ガガーランに襲いかかった。

「おっとー。一人は私の獲物だよー」

 ティが横入りし、ガゼフと組み合う。大乱闘に発展してしまった。

 

「やっまちまえ! ガゼフ! ルーイ!」

 起き上がったバルブロは怒声をあげる。その肩を後ろからトントンと叩く者がいた。

「なんだ!?」

 振り向いたバルブロが見たのは、ニヤリとスマイルを浮かべたスーパーヒールダンディ須永の姿。

「ぎょええええええええええええっ!」

 次の瞬間バルブロの視界は炎に包まれた。なんと火炎放射……スーパーヒールを名乗るだけあってとんでもない事をする。だが、場内はバルブロの惨事に対し拍手喝采。バルブロに対する鬱憤が溜まっていたのだろうか。

「あつ、あっつー」

 しかし、バルブロもタフだった。転げ回りながら衣服についた火を消し上体を起こしてきたのだ。

「ま、まさか……本気か……や、やめろー!」

 いつの間にか鎌を右手に持ち、左手にはサーベルを手にバルブロに迫るスーパーヒール。バルブロ、絶対絶命である。

 

 

「あーもう。ダメだこりゃ!」

 ここで収拾がつかないと判断したレフェリーにより試合終了のゴングが打ち鳴らされた。

「あーっと試合終了、試合終了です。レフェリーの裁定は無効試合(ノーコンテスト)です」

 試合終了のゴングを聞いたスーパーヒールはバルブロの顔面を蹴り飛ばして、リングから落とすと、続けてリング上にいたガゼフ、ガガーラン、ティ、ルーイを襲撃。ガゼフをボディスラムで場外へ投げ飛ばし、ガガーランをリフトアップして場外へ投げ捨て、ティはドロップキックで場外へ吹き飛ばす。

「あ、まて、待ってください……うああああっ」

 怯えるルーイをロープへ振ると、戻って来たところで上に持ち上げ、ルーイの股間を構えた自らの右膝に打ちつけた。

「ぐはああああああああっ!」

 マンハッタンドロップをくらったルーイは、悶絶しぴょんぴょんと跳ねながら場外へ。

 リング上にはエンリとスーパーヒールな須永のみ。レフェリーはさっさと下に降りている。

「ダンディさん……」

 エンリをギロリと睨みつけると、上に向けて赤い霧を吹き、そしてリングを降りて行く。

 帰り際も血盟軍に襲いかかって、全員に毒霧をお見舞いし、悠々と引き上げていった。

 

「くそっ、ダンディめ……やってくれたな……。だが、エンリ、貴様は勝てなかった。それは事実だ。今、この時を持って帝国華激団は解散だな」

「残念でした。我々は解散しないよバルブロさん」

「なんだと? 約束が違うだろうがっ!」

「違くないよ、バルブロさん。あなたは、私にこういったんだよ。『俺様が用意する三番勝負でお前が負けなければ、ベルトに挑戦させてやる』……もうわかったよね? そう、"お前が()()()()()()ベルトに挑戦させてやる"って断言したんだよね。今日、私は確かに勝っていないけど負けてもいないよ。だから、私がベルトに挑戦するよ、バルブロさん」

 言葉一つで意味は変わる。もしバルブロが勝てなければと言っていたら……歴史は変わっていただろう。

 

「くっ、くっそォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ! 俺様としたことが。だが、俺も男だ、二言はない。ラキュースに挑戦させてやるよ。ラキュース、叩き潰してやれっ!」

 ラキュースは無言で頷き、エンリを睨む。

「……」

 エンリもまた睨み返し、次なる戦いへとシフトしていく。

 

「エンリよ、なかなかやるではないか」

 やりとりが一段落したところで、久しぶりに皇帝ジルクニフがバルコニーに姿を現した。

「やあ、帝国の臣民の諸君。私が皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスである」

 陛下コールを受け、うんうんと満足そうに頷いたジルクニフは、このあとエンリを褒め称え、素顔に戻った須永をバルコニーへと呼びこんだ。

 

「ダンディ、エンリに言うことはあるか?」

「そうですな。よく、スーパーヒールに耐えたと思いますよ。まあ、私はスーパーヒールの時の記憶はあまりないんですがね」

 ダンディ須永と、スーパーヒールダンディ須永は別人格。呼び出した後は任せているので記憶はないということらしい。

「エンリよ、今日は素晴らしい試合をみせてもらった。強敵を前に引かない強い心は、今日ここにいた全ての人間を感動させただろう。だが、私はあえて言おう。次はこのダンディに勝てとな」

 ジルクニフはとんでもない要求をしてきた。

「はい。次かはわかりませんが、必ずダンディさんに勝ってみせます! 」

 

 こうして、三番勝負は終わりを迎えた。エンリの成長という確かな成果を残して。

 だが、これはまだまだはじまりに過ぎない。エンリにとって、そして帝国プロレスにとっても。ただ確実に言えるのは新たなる時代の幕開けを感じさせるだけの試合をエンリはみせてくれたということだ。

 

 覇道を歩むエンリにとって、バルブロなどは眼中にない。目指すは打倒ダンディ須永。帝国プロレスに上がる誰もが狙い、そして誰一人達成出来ていないそれをクリアするのは、はたしてエンリかティか。それとも別の誰かだろうか。

 

 

「私はいつでも、どこでも誰とでも試合をしますよ。私を倒そうとするならば、全てを引き出した上で叩き潰す。それだけのことですからね」

 帝国プロレスの物語はこれからも続いていく。まだまだ物語は始まったばかりなのだから。

 

 

 今日も明日も……そしてこの先も。白いリングは熱い試合を待ち望んでいる。

 

 

 

 

 

 






これにて一区切り。本作の最終話となります。
最後までお読みいただきありがとうございました。

感謝しかありません。
誤字報告、感想、評価くださった方ありがとうございました。


連載はこれにて終了しますが、見てみたい試合などありましたら、活動報告へ一言いただけたら幸いです。

リクエストに応える技量があるかはわかりませんが、単発で書けたらいいですよね。

未公開話として5話ほど書いてはありますが……まあ、今はやめときます。

最後にもう一度感謝を述べさせていただきます。


最後までお読みいただきありがとうございました!

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