しかし3話が5000字を超えるとは思わなかったです。
あちこち小ネタがある本話ですが、楽しんでいただければ幸いです。
いいタイトルが思いつかなかった(笑)
SIDE 樅路恵
ショッピングモールを出発して2時間40分。私の計算では後20分程で巡ヶ丘高校に到着する。
嫌な予感が的中し、今にも雨が降り出しそうだ。しかし天気以上に車内の空気が重くなっていた。
ショッピングモールで助けた祠堂さんがソファーでぐったりしているのだ。
原因は「風邪をひいた」みたいな、体調不良によるものではない。
私の運転が
最初はキャンピングカーで【奴ら】を撥ねたり、何処かにぶつけたりする度に、大なり小なりの悲鳴を上げていたが、今はそれすらない。
いろいろと心配になってきたため、彼女に声をかけることにした。
「祠堂さん、起きてるかしら?」
「・・・・・・。」
「返事がない。ただの屍のようだ。」
適当に冗談を言ってみる。
「誰が屍ですか・・・。」
「じょ、冗談よっ!てっきり眠っていると思ってそろそろ起こそうと思ってたの。」
「【奴ら】を撥ね飛ばしたり、どこかにぶつけたりを何度もされたら眠れる訳ないじゃないですか。安眠よりも永眠しそうです・・・。」
「はうっ!ごめんね、運転が
「いえ・・・。助けてもらっていることは事実ですから。」
どうやら助けてもらっていることで、そこまで私に不快感を持っているわけではないようだ。
けど好感度は助けた時よりだいぶ落とした気がするわ。最初は「自分の命を助けてくれた素敵な女性」だったが、今は「運転が
(やっぱり子供は嫌いだわ・・・。)
「樅路さん、ちょっといいですか?」
子供との距離感や好感度について運転しながら考えていると、祠堂さんから声がかかった。
「何かしら、祠堂さん。」
「後どのくらいで学校につくでしょうか?」
「20分位だと思うわ。」
「・・・事故を起こさなければですか?」
「・・・ええ、そうだけど。」
(祠堂さんは何を恐れているのかしら?確かに私は運転が
「でもかなり早いですね。そういえば出発前に「嫌な予感がする」って言ってましたけど、もしかしてそれで急いでるんですか?」
「・・・やっぱり子供は鋭いわね。」
「?何か言いましたか?」
「いえ、なんでもないわ。急いでる理由だけど3つあるのよ。」
バックミラー越しに祠堂さんを見ると、彼女は表情を曇らせていた。不安にさせることなど言いたくはないけれど、私は現実主義者だ。運転は
「1つ目の理由は「学校に電話をかけてもつながらないこと」よ。」
「え?停電してるからじゃないんですか?」
「学校は災害時の緊急避難場所になる所が多いから、学校の校長室の固定電話は別電源になっている所が多く、停電時も普通はつながるはずなのよ。巡ヶ丘高校には発電施設もあるからね。」
「じゃあつながらないってことは、もしかしてみんな「そういう意味で言ったわけではないわよ?」・・・え?」
どうやら言葉を間違えたらしい。私は噛み砕いて説明をすることにした。
「固定電話は仮に停電していても留守電・・・メッセージを残すことが出来るのよ。電話がつながらなくてもね。けど今はそれすらも出来ないのよ。」
「それってどういうことなんですか?」
「巡ヶ丘高校の校長室の固定電話は中に内蔵されている電池の他に、発電施設からも電気をもらうことが出来ているはず。それが留守電すら残せられないとなると、発電施設に異常が起こりショートして壊れたか、考えられないけど誰かに壊されたか。どちらにせよ校長室の電話は壊れていて、こちらから校内の状況がわからないのよ。」
「そんなことってあるんですか?壊れたはともかく壊されたなんて・・・。」
「可能性は少ないけどね。」
(発電施設、浄水施設等がある巡ヶ丘高校。悪意のある人間に独占されている可能性には触れない方がいいかしら・・・。)
「それにしても樅路さんって巡ヶ丘高校の設備にすごく詳しいんですね。校長室の固定電話の機能なんて初めて知りました。」
「(やばっ!?)お、お姉ちゃんに教えてもらったのよ。お姉ちゃん、巡ヶ丘の教師だからこういうことも知っててね。」
流石に焦った・・・。半分は私の自業自得だが、こんなことで素性を知られたくなかった。
「そ、そうでしたね。お姉さんがいるんでした。」
「・・・2つ目の理由は「パンデミック発生から10日たっていること」よ。」
「え?10日たっているのがなんだっていうんですか?」
急いで話題をそらしたからか、また言葉足らずだったようだ。お姉ちゃんは国語教師なのに、なんで私はこうも口下手なのだろうか。
「ええと・・・。祠堂さん達はショッピングモールで籠城していたのよね?」
「え?はい、美紀と2人でいる前は、ショッピングモールの生き残りの方達といましたけど。」
「なら何故2人になってしまったのかしら?」
「それは・・・【奴ら】に噛まれていたグループのリーダーがそのことを隠していて、目が覚めた時にはもう2人に・・・。」
「確かにそのグループリーダーも悪いけど、それは彼だけが悪いのかしら?」
「どういうことですか?噛まれていたことを隠していたんですよ!?」
祠堂さんが声を荒げる。言いたいことはわかるが事はそう単純ではないのよ・・・。
「彼の気持ちになって考えてごらんなさい。【奴ら】に噛まれたらあなたはみんなに言えるのかしら?言ったらそのあとあなた達はどうするのかしら?」
「・・・・・・。」
バックミラー越しに祠堂さんを見ると、祠堂さんはうつむいて顔をゆがめていた。私が何を言いたかったのか、彼女にも伝わったのだろう。
「祠堂さんがいたグループだけじゃない。生き残った他のグループの人達にもそれは言えることなのよ。これから行く巡ヶ丘高校でも・・・。」
「そんな・・・。」
「でもね祠堂さん。他にもいろいろと言いたいことはあるのだけど、私が本当に言いたかったのはそのことじゃないのよ。」
「本当に言いたかったこと?」
「あなた達はみんな油断していたのではないかしら?」
「油断?」
祠堂さんは疑問符をついていた。
「パンデミック発生直後はみんな警戒出来ていたのかもしれない。でも数日もたてば、みんな気が緩んでしまうものなのよ。人はいつまでも集中して物事にあたることはできない。気を張っていたら疲れてしまうでしょう?」
「確かに・・・そうですよね。」
「そして油断による崩壊は巡ヶ丘高校では起こりやすいと思っているのよ。」
「な、なんでですか!?」
また祠堂さんが声を荒げる。これは考えたくないことなのだけど。
「巡ヶ丘高校は階段さえ机とかでバリケードを作って塞いでしまえば、【奴ら】も容易には2階や3階には行けない。屋上には発電施設と浄水施設に確か菜園スペースもあったはずよ。ショッピングモールとは別の意味合いで籠城に適している場所。生き残っている生徒達が気を抜いている様子がありありと思い浮かぶわ。」
3階を制圧し階段を机で塞ぐくらいなら、生き残った教師と生徒で出来たはずだ。けれど10日もたっている今、
「それで3つ目はなんですか?」
「3つ目は・・・。」
言う前に気づく、フロントガラスにポツポツと雨が降ってきていた。
「まずい!降ってきたわ!」
キャンピングカーのスピードを上げる。冷や汗をかきはじめたのが自分でもわかる!
「ど、どうしたんですか!?雨が降ってくると何かあるんですか!?」
私の焦りに気づいて祠堂さんもあわてているのが、バックミラーを見なくてもわかる。
「【奴ら】は生前の行動を無意識に繰り返すのよ!校舎の外にいる【奴ら】は雨が降ってきたらどういう行動をとると思う!?」
「まさか・・・校舎に雪崩れ込むとか言いませんよね!?」
「大いにありえることよ!考えてごらんなさい、祠堂さん!電話で助けも呼べない、脱出経路が限られた学校にいきなり【奴ら】が雪崩れ込んだら、油断していた生徒達がどうにかできると思う!?」
「・・・・・・。」
もう一度バックミラー越しに祠堂さんを見る。バックミラーには絶望の表情を浮かべた祠堂さんが映っていた。
どんどん強くなっていく雨。フロントガラスに大量に降りしきる雨に、私はここで重大な見落としに気づいた。
頭がどうにかなりそうだった。道を間違えたとか、また【奴ら】を撥ね飛ばしたとか、
そんなチャチなもんじゃ断じてねえ。
もっと恐ろしいシンプルで最悪な状況に・・・。
「し、祠堂さん。私、気づいちゃった・・・。嫌な予感よりも恐ろしい私達の状況に・・・。」
「な、なんですか樅路さん。さっきの話以上に恐ろしい事態なんてあるわけが・・・。」
「私・・・私・・・雨の中で運転なんてしたことなかったわあああああああああ!!!」
「\(^o^)/オワタ」
バックミラーを見ると、祠堂さんが何故か両手を上げて笑っていた。祠堂さんが壊れた!
「ええと、ええと!ワイパーはどうやって動かすんだっけ!?」
「確かそこのレバーを上げるんですよ!お父さんが言ってました!」
「このレバーね!」
樅路恵はレバーを上げた!
「プシュッ」と音をたてて泡が出てきた!
しかし雨ですぐに消えてなくなってしまった!
「「・・・・・・。」」
沈黙する私と祠堂さん。
「もういいです!!樅路さんはよく頑張りました!!ブレーキっ、ブレーキ踏んでください!!」
「ええ!?後ちょっとでつくのに!お姉ちゃんが危険な目にあってるかもしれないのに!」
「っ!?そ、それでもです!樅路さんがここで死んだら誰がお姉さんを助けるんですか!?」
「っ!?わ、わかったわよ!止まればいいんでしょ!ちょっとだけよ!」
樅路恵はブレーキを踏んだ!
しかし
さらに交差点を右往左往する【奴ら】を撥ね飛ばしてしまった!(宙を舞う【奴ら】3人を視認)
「「キャアアアアア!!」」
絶叫する私と祠堂さん。
「こ、これはあれよ!このまま巡ヶ丘高校まで行けって言う、神の啓示みたいなやつよ!ロザリオさげててよかったわ!」
「もうだめだぁ・・・おしまいだぁ・・・。」
喜々としてワイパーを動かすのを諦め、運転を続ける私。
某サイヤ人や某ラッコのように膝をつき、何かを諦め悲壮感漂う祠堂さん。
私と祠堂さんは何処か似ているような気がする。
「そんな・・・。」
「嘘でしょう!?」
私の嫌な予感は良く当たる。それは占いのような曖昧なものではなく、頭の中で計算し想定していたことだからだ。
校舎に雪崩れ込む【奴ら】。何故かほとんど割れている校舎の窓の奥にも【奴ら】が見え、1,2階は教室にも既に入り込んでいることがわかる。
私は駐車スペースにキャンピングカーを止めると祠堂さんに指示を出す。
「祠堂さんはキャンピングカーの中にいて!足を怪我しているうえにこの数じゃ守り切れない!私が出たら鍵をかけて!必ず助けに戻るから!」
指示を出しながらリュックに役に立ちそうなものを詰め込む。私は引き出しから2つの機器を取り出し、1つを祠堂さんに手渡す。
「これはなんですか?」
「無線機よ!これで離れていても会話ができる!」
もう1つの無線機をリュックに詰め込むと、救急箱に手を伸ばす。
この中には大切な物が入っている。救急箱からケースを取り出すと、注意深く詰め込む。あまり乱暴にすることはできない。
最後に改造刀を左手に持つと、祠堂さんと向き合う。
「じゃあ行ってくるわね。」
「絶対・・・絶対に死なないでください!約束ですよ!」
「ええ!約束よ!」
キャンピングカーから降り、ドアを閉める。背中越しに鍵がかかる音がした。吹き付ける雨が服をどんどん濡らす。
(確認はしていたけど、付近に【奴ら】は少ない。みんな校舎に
「めぐねえ!!!」
校舎から大声が聞こえた。
校舎を見回すが、誰も見えない。
私を呼んでいるわけではない。
「めぐねえ」と呼ばれている人は学校に1人しかいない。
私は校舎に駆け出した。
以下注視した点
1.校長室の固定電話・・・実は固定電話の話はそこまで重要ではありません。某探偵アニメで、固定電話の仕組みからアリバイを崩した話があったため、うろ覚えながら組み込んでみただけだったりします。巡ヶ丘高校の校長室の固定電話の仕組みなんてわからないため、本作設定ということでお願いします。
2.樅路恵は
3.樅路恵は現実主義者だ。・・・圭「どこが?」
4.樅路恵は佐倉慈の双子の妹だ。・・・閲覧者「どこが?」
第3話は小ネタに挑戦してみましたがいかがでしょうか?
細かい矛盾点等は本作設定ということでご了承ください。
次回からは巡ヶ丘高校籠城編です。