なんとなくの分担ではあったが、カレーの下ごしらえも米研ぎも終えた。これで俺たちの分はきちんと準備が整った。
飯盒をセットし、鍋のほうでは肉と野菜を炒める。あとはじっくりことこと煮込むだけ。
周囲を見渡せば、炊ぎの煙があたりに散見できる。
小学生たちにとっては初めての野外炊飯だ。苦戦しているグループも結構あるように見受けられる。
「暇なら見回って手伝いでもするかね?」
「まぁ小学生と話す機会なんてそうそうないしな」
葉山は結構乗り気なようで、そんなことを言う。
「いや、鍋、火にかけてるし」
「そうだな。だから、近いところを一か所くらいって感じだな」
そういう意味で言ったんじゃねぇよ……。なぜか俺が賛成前提で意見出したことになっていた。普通に考えれば鍋を火にかけてるから行けないよね?ね?って意味だろうが。
「俺、鍋みてるわ……」
宣言し、早々に離脱、Uターンを決めたのもつかの間。
「気にするな比企谷。私が見ててやろう」
俺の前に立ちふさがったのはニヤニヤと笑う平塚先生だった。ちくせう。
小学生たちは高校生の登場でえらい騒ぎである。さすがはリア充と賞賛したいところだが、実際は違う。
小学生というのが一番大人を舐めているのだ。
お金の価値も、勉強の意義も、愛の意味も知らない。与えられるのが当然だと思っていて、世の中の上澄みを啜ってわかった気になっている年代だ。
中学、高校へと進むうちに挫折や後悔や絶望を知り、世界が生きにくいものだとわかるようになってくる。
あるいは、聡い子であればすでにそのことを知っているのかもしれない。
例えば、そこで一人だけ弾かれている、ぽつんと、一人きりで存在を薄くしているあの少女とか。
「カレー、好き?」
葉山が留美に声をかけていた。
それを見て、両隣からため息と舌打ちが聞こえる。
同感。
悪手、である。
ぼっちに声をかけるときは密やかにおこなうべきだ。周りが騒いでおり、多少の距離があるとより好ましい。
葉山が動けば葉山の周りも動く。話題の中心が動けば、小学生たちもそれに付き従う。
これだけで留美は一躍中心人物だ。
高校生からは好奇の目に晒され、同級生からは「なんであいつが?」という嫉妬や憎悪を向けられる。
こうなってしまえば葉山の質問にどう答えようが確実に悪感情が発生する。
「……別に。カレーに興味ないし」
となるとこの場は戦略的撤退しか手がない。最初から他に切れるカードなどないのだ。
留美はなるべく人の目を集めないような場所へと動いた。すなわち、俺のいるところである。ちなみに雪ノ下も拓也もこちら側にいる。
葉山は少し困ったような寂しげな笑顔を浮かべて留美を見ていたが、すぐに他の小学生たちの相手に戻る。
「じゃあ、せっかくだし隠し味入れるか、隠し味!何が入れたいものある人ー?」
聞いたものを引きつける明るい声だ。おかげで留美に張り付いていた嫌な視線がぱたりと途絶える。
小学生たちは、コーヒーだの唐辛子だのと次から次へとアイデアを出し合う。
「はいっ!あたし、フルーツがいいと思う!桃とか!」
ああ、ちなみに今のは由比ヶ浜だ。あいつなに参加してんだよ…。
葉山が何事か言うと、由比ヶ浜は肩を落としてこちらに向かってとぼとぼ歩いてきた。どうやらやんわりと邪魔者扱いされたらしい。
「……アホか」
「まったくだ」
思わず零れ出た俺たちの言葉に、そっと囁くような言葉が続いた。
「ほんと、バカばっか……」
鶴見留美は冷たく響く声で言う。これからあだ名はルミルミで決まりだな。ナデシコかよ。
「まぁ、世の中大概はそうだ。早めに気づいてよかったな」
俺が言うと、留美は不思議そうな顔でこちらを見る。値踏みでもするかのような視線はいささか居心地が悪い。
その視線に二人が割り込んでくる。
「あなたもその、大概でしょう」
「ああ、悪いな八幡、バカは二人もいらないんだよ」
「あまりなめるなよお前ら。俺はその大概のなかですら一人になれるような逸材だぞ?」
「そんなことを誇らしげに言えるのはあなたくらいでしょうね……。呆れるのを通り越して軽蔑するわ」
「かっこいいこと言ったかもしれねぇけど結局それだとバカの中の逸材だぞお前」
……たしかに。まぁ、男なんてみんなバカな生き物だから大差ないだろ。それと、雪ノ下さん普通越したら尊敬が来ると思うんですけど。
「名前」
「あ?名前がなんだよ」
俺たちのやりとりを聞いていた留美が声をかけてきた。
「名前聞いてんの。普通さっきので伝わるでしょ」
「……人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るものよ」
「……そうだな、悪いが世の中は君を中心に回っているわけではないからね」
雪ノ下の視線が危険なほど鋭い。拓也の方は言い方は悪いが、どこか躾をしているような感じだ。
ただ、どちらも射殺すような瞳を向けている。
メデューサに睨またらこんな感じなのだろうか。
留美は二人の瞳に恐怖を覚えたのか、気まずげに視線を逸らした。
「……鶴見留美」
ぼそぼそと口の中で呟くような声だったが聞き取れないほどでもない。二人も同じようで名前を聞いてから頷いた。
「私は雪ノ下雪乃。そこの二人は、……さ、砂糖?くんと、ヒキ、ヒキガ、……ヒキガエルくん、だったかしら」
「おい、留学生、イントネーションを忘れたのか?」
「おい、なんで俺の小四の頃のあだ名知ってんだよ」
懐かしいな、両生類扱いされて言葉って生き物だって思えたもんだ。
「比企谷八幡」
「佐藤拓也」
ここはちゃんと名乗っておくべきだろう。
「で、これが由比ヶ浜結衣な」
「なに?どったの?」
近くでまだしょぼくれていた由比ヶ浜を指す。由比ヶ浜は俺たちの様子を見て、なんとなく察したらしい。
「あ、そうそう。あたし由比ヶ浜結衣ね。鶴見、留美ちゃん、だよね?よろしくね」
だが留美は由比ヶ浜の声に対しては、頷くだけにとどめる。
足元あたりを見ながら途切れ途切れに口を開く。
「なんか、そっちの三人は違う感じがする。あのへんの人たちと」
まぁ、確かに違うわな。あのへんの連中を見ると、楽しそうにスペシャルカレー作りに挑戦しているようだ。
「私も違うの。あのへんと」
留美はその言葉を噛みしめるように言った。由比ヶ浜の顔つきが真剣なものになる。
「違うって、何が?」
「周りはみんなガキなんだもん。まぁ、私、その中で結構うまく立ち回ってたと思うんだけど。なんかそういうのくだらないからやめた。一人でも別にいっかなって」
「で、でも。小学校のときの友達とか思い出って結構大事だと思うなぁ」
「別に思い出とかいらない……。中学入れば、余所から来た人と友達になればいいし」
すっと顔を上げる。ようやく日が落ちてきて、薄墨を流しかけたような藍色。点々と星が瞬き始めていた。
留美の目はもの悲しかったが、同時に綺麗な希望が宿ってもいた。
鶴見留美はまだ信じている、期待している。新しい環境になれば楽しくやれると希望を持っているのだ。
そんな希望はないのに。
「残念だけど、そうはならないわ」
あまりにもはっきりと断言したのは雪ノ下雪乃だった。
「あなたの通っている小学校の生徒も、同じ中学へ進学するのでしょう?なら、同じことが起きるだけよ。今度はその『余所から来た人』とやらも一緒になって」
地元の公立小学校から公立中学校に上がる場合、それまでの人間関係も継続する形になる。新しい友達ができそうになっても、過去の負債が必ずどこかから入り込む。
「………」
どこからも反論はなかった。俺に異議があるはずもなく、拓也は静かに頷き、由比ヶ浜は居心地悪そうに黙っている。
「それくらい、あなたはわかっているのではなくて?」
追い討ちをかけるように、雪ノ下は言った。もしかしたら、雪ノ下は過去の自分の面影をそこに見出しているのかもしれない。
「やっぱり、そうなんだ……」
諦めたような声が小さく漏れた。
「ほんとバカみたいなことしてた」
「何が、あったの?」
自嘲気味に呟いた留美に、由比ヶ浜は穏やかに尋ねた。
「誰かがハブられるのは何回かあって……。けど、そのうち終わるし、そしたらまた話したりする、マイブームみたいなもんだったの。いつも誰かが言い出して、なんとなくみんなそういう雰囲気になんの」
留美は淡々と話すが、内容を聞くだけで鳥肌ものだ。超こえぇ。
「それで、仲よくて結構話しする子がハブにされてね、私もちょっと距離置いたけど……。けど、いつの間にか今度は私がそうなってた。別に、何かしたわけじゃないのに」
理由なんてなんだってよかったのだろう。いや、やっている側だって明確な理由があるわけじゃない。ただ、そうしなければならないという妙な義務感がそこにあるだけ。
「私、その子と結構いろんなこと喋っちゃったからさ」
昨日まで友人だったはずの人間が、次の日には自分の秘密をネタにし、誰かの笑いをとっている。信頼して秘密を相談したはずが、それが今度は自分を攻撃する要素になる。
作り付けの悪人などいない。誰もがそう信じている、自分を含めて。自分が善良だと信じて疑わない。
だが、自分の利益が犯されそうなとき、人はたやすく牙を剥く。
昨日までは「クール」だとほめそやしていたのを「お高くとまっている」と解釈し、「頭がよくて聡明」だと尊敬していたのを「勉強が不得意な人間を見下している」と蔑視し、「なんでもわかってくれる」と頼りにしていたのを「なんでも見すかす嫌味な奴」と除け者にし、「元気で活発」なことを「うるさい調子乗ってる」と言い換える。
自分だけでは自分を肯定できない彼らは、徒党を組む。そしてらいかに悪辣で罪深いかを語り、小さな、本当に小さな不満の種を大きく育てる。
その閉じきってしまった世界の中で、次は自分の順番かもしれないと不安に震える。だから、そうなる前に次の生贄を探すのだ。
そして、連鎖する。終わりがない。
誰かの尊厳を犠牲にして、築き上げた仲良しこよしになんの意味がある。
「中学校でも、……こういうふうになっちゃうのかな」
嗚咽の入り混じった震える声音。
それを掻き消すように、向こう側から歓声が響く。たかが10メートルも離れていないのに、遥か異郷の出来事のように、俺には見えた。
笛付きケトルがカタカタ言いだし、さほど大きいともいえないサイズながらけたたましい警笛を鳴らす。
小町がすっと立つと、ティーバッグで紅茶を淹れ始めた。
もうじき、小学生たちは就寝時間のはずだ。それでも、友人たちと過ごす夜をおとなしく眠るわけもない。枕を投げ、布団の上でお菓子に手を伸ばし、夜通し語り合いのだろう。
「今頃、修学旅行の夜っぽい会話、してるのかなぁ」
ひと昔を思い出すような、そんな声音を葉山は出す。
高校生になってから、俺たちはまだ修学旅行へは行っていない。修学旅行は二年生の二学期に予定されている。
「大丈夫、かな……」
由比ヶ浜が少し心配そうな声で俺に聞いてきた。何が、と問うまでもない。鶴見留美のことだろう。彼女が孤立していることをは皆気づいている。あんなものは見た人なら誰でもわかる。
「ふむ。何か心配事かね?」
平塚先生に問われ葉山が答えた。
「まあ、ちょっと孤立しちゃってる生徒がいたので……」
「ねー、可哀想だよねー」
三浦は相槌のつもりなのか、当然のごとくその言葉を口にした。それが俺には引っかかる。
「……違うぞ、葉山。お前は問題の本質を理解していない。一人でいるだけなら別にいいんだ。問題なのは、悪意によって孤立させられていることだ」
「はぁ?なんか違うわけ?」
葉山に言ったつもりだったが、三浦に聞き返されてしまった。
「好きで一人でいる人間と、そうじゃない人間がいる。そういうことかな?」
「ああ、だいたいそんなところだ」
だから、解決すべきは彼女の孤立ではなく、それを強いる環境の改善であるはずだ。
「それで、君たちはどうしたい?」
「それは……」
平塚先生に問われ、皆が一様に黙る。
どうしたい?別にどうもしたくはない。要するに、テレビで戦争や紛争のドキュメンタリーを見て、可哀想だね大変だね私たちにできることをしようねなどと言いながら、心地よい部屋で美味しいご飯を食べているのと変わらない。
じゃあ、そのうち何かするのかというとそうでもない。やっても10円100円の募金くらいだ。
もちろん、問題意識をもって本気で取り組む人間はいる。それは素晴らしいことだし、尊敬も称賛もする。
でも、俺たちは違う。俺も、葉山も、三浦も、本気で何かするわけでも何かできるわけてもない。
自分には関係のないことだが、それでも見てしまった以上、知らなかったとは言えない。でも、どうにもすることができない。だからせめて憐れませてほしい、そういうことだ。
「俺は……」
重々しく閉ざされていた口を開いたのは葉山だった。
「できれば、可能な範囲でなんとかしてあげたいと思います」
葉山らしい言い回しだ。誰も傷つかない、優しい嘘だった。希望だけはちらつかせて、けれども迂遠な言い方で絶望も内包させる。できない可能性も暗に匂わせ、全員に釈明の余地を与えている。
「あなたでは無理よ。そうだったでしょう?」
模糊とした心地よい言葉を切り裂いたのは雪ノ下の声だった。彼女は髪を払うと、葉山に冷たい視線を突き立てる。
理由の説明を求めようもないほどに、確定した事実であるかのように断言した。
葉山は臓腑を焼かれたように苦しげな顔を一瞬のぞかせる。
「そう、だったかもな。……でも、今は違う」
「どうかしらね」
葉山の答えに、肩をすくめるような仕草をして、雪ノ下は冷たくあしらった。予想していなかった二人のやりとりを目にして、それきり座には思い沈黙が垂れ込める。
葉山が奉仕部の部室に来たときにも感じたが、雪ノ下が葉山に対してとる硬化した態度は普段のそれと違う。
彼と彼女の間に、俺の知らない何かがあるのは明白だ。まぁ、だからなんだっつー話なんだけど。
「やれやれ……」
平塚先生は間を持たせるように、タバコに火をつけた。ゆっくり五分かけて吸い尽くし、灰皿にもみ消すと、今度は雪ノ下に水を向ける。
「雪ノ下、君は?」
問われると、雪ノ下は顎に手をやる。
「……一つ確認します」
「何かね」
「これは奉仕部の合宿も兼ねていると平塚先生はおっしゃいましたが、彼女の案件についても活動内容に含まれますか?」
平塚先生はしばし考えてから、静かに首肯する。
「…………ふむ。そうだな。林間学校のサポートをボランティア活動と位置づけたうえで、それを部活動の一環としたわけだ。原理原則から言えば、その範疇に入れてもよかろう」
「そうですか……」
誰も声を上げず、ただ待った。
「私は……、彼女が助けを求めるなら、あらゆる手段を持って解決に努めます」
決然と、雪ノ下は確かに宣言した。凛とした、決して揺らぐことのない意思を言葉に宿らせて。
その答えは平塚先生にとっても満足いくものだったらしく、うむと大きく頷いた。
「で、助けは求められてるのかね?」
「……それは、わかりません」
たしかに、俺たちは彼女になにかをお願いされたわけではない。
由比ヶ浜がくいくいっと雪ノ下の服を引っ張った。
「ゆきのん。あの子さ、言いたくても言えないんじゃないかな」
「誰も信じられない、とかか?」
俺が聞くと、由比ヶ浜は答えるのを少し躊躇った。
「うん、それもあるんだろうけど……。留美ちゃん、言ってたじゃん。ハブるの、結構あったって。自分もそのとき距離置いたって。だから、自分だけ誰かに助けてもらうのは許せないんじゃないかな。みんな、たぶんそう……。話しかけたくても仲良くしたくても、そうできない環境ってあるんだよ。仕方ないって心のどこかで思っても罪悪感は残るから……」
そこで由比ヶ浜が言葉を切る。すると今度は誤魔化すように笑った。
「やー、ちょっとね……、凄い恥ずかしい話なんだけどさ。やっぱ周りの人が誰も話しかけないのに話かけるのってかなり勇気いるんだよね」
その笑顔を雪ノ下は眩しそうに見つめる。
「でもさ、それって留美ちゃんのクラスだと、空気読まない行動なわけじゃん?話しかけたらあたしまでハブられちゃうのかなーとか考えると、とりあえず距離置くおいうか、準備期間が欲しいというかって感じで結局そのままにしちゃうかも……。って、わぁーーー!なんかあたし今すっごい性格悪いこと言ってない⁉︎大丈夫かな⁉︎」
あわあわと焦りながら周囲のリアクションを窺う由比ヶ浜。だが、誰一人として悪感情を見せる者はいない。
「大丈夫よ。とてもあなたらしいと思うわ……」
雪ノ下そっと囁くように答える。
言われて恥ずかしかったのか、顔を赤くしてむぐと黙り込む。
平塚先生はそんな雪ノ下と由比ヶ浜に微笑みを向けていた。
「雪ノ下の結論に反対の者はいるかね?」
平塚先生は各人の反応を窺う。誰からも否やの声は出なかった。
「よろしい。では、どうしたらいいか、君たちで考えてみたまえ。私は寝る」
「あ、平塚先生ちょっと……」
席を立った平塚先生を追いかける形で拓也がその場を後にした。
その後も話し合いを重ねた俺たちだったが、結局そんな雰囲気ではなくなり、翌日に持ち越すことだけ決定した。
しかし、高校生の俺たちが仲良くできないのに、小学生たちにみんな仲良くなんて無理に決まってるよな。
「それで、どうしたのかね?佐藤」
珍しく佐藤に声をかけられる。そういえば、二人だけで話すのは初めてではないかな?
「ちょっと聞きたいことというか、お願いというか」
「ふむ?」
曖昧な感じの彼は珍しいんじゃないか?……いや、この場合珍しいのではなく、私自身彼について知らないことの方が多いからそう思うのだろう。
「スケジュールのここ、開けれますか?」
わざわざ持ってきたしおりを私に差し出す。
「……まぁ、多少の時間なら大丈夫だと思うが」
丁度指さされていたのは肝試しの前だった。
「そんなにお時間は取らせません、15分程度でいいので、小学校の教師の方にもそのようにお願いして頂いてもいいですか?」
「それは構わないが、……何をする気だ?」
この子は本当に読めない、雪ノ下のような真っ当さを持ちつつも比企谷のような卑屈さも持ち合わせている。しかし、二人とはまた違う感性を自分なりに持っている。
「……そうですね、ここは雪ノ下をたてて、俺の出来る最善を尽くしてやろうかなと思いましてね」
「……そうか、まぁ、深くは聞かないさ、そこなら最悪私もいるからな。ただ、それはそれとしても、彼らと解決策を見つけるのは怠るなよ」
「ええ、まともな案が出れば、取ってもらった時間は適当に怖い話で時間を繋ぎますんで」
そこらへんも考えての発言というのは好感が持てる。教師から言わせれば時間通りに進むことが割と大事なんだ。
「話は以上かね?」
「はい、ありがとうございます、それと、この件は誰にも口外しないでいただけるとありがたいです」
そう言うと彼は去っていく。
「……まったく、厄介な子が多いものだ」
一人虚空に向かって呟き、タバコを吸う。
やめるつもりもないが、当分はやめられそうにないな。