もしも、比企谷八幡に友人がいたら   作:一日一善

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ここで、原作とのセリフ被りが多すぎるとのことでしたので、思い切って今回は視点を変えています。
それに伴い、ちょっとしたアンケートにご協力いただければ幸いです
参考程度ですが、傾向を知りたいので…。


第19話

バンガローには既に葉山と戸部がいる。

足元にはトランプが転がっているが、まさか俺と一緒にやるわけではあるまい。

現に両者とも携帯を弄っている。今のご時世、携帯電話ひとつあれば大体のことができる。

 

「ふぅ……、お風呂上がったよ」

 

戻ってきた戸塚がドアを閉めた。湯上りで上気した肌と、湿った髪のコントラストが妙に扇情的である。

 

「ぼく、もう大丈夫だけど……」

 

「じゃそろそろ寝るか」

 

戸塚に葉山が答える。戸部も戸塚もそれぞれ寝支度を始めた。既に俺は準備万全なためすることがない。ちなみに、拓也はふらりと出て行ってから戻ってきていない。何やってんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンガローを離れ、乱立する木々の隙間から見える月明かりに照らされ、俺は一人解決策を考えている。

一人で物思いにふけるのもいささか久しぶりに感じる。

なんだかんだ平塚先生に頼んだはいいが、大まかな流れだけで具体案は決まっていない。

 

「どうしたものか」

 

俺の呟いた言葉は森に吹く風によってかき消されていく。

気を引き締めるために新鮮な空気を肺に入れ、今の状況を整理する。

 

クラスの状況、主犯格への対処。難しそうに見えて解決すべきはこの二つだ。不幸中の幸いなことに今回の件では、教師がかかわっていない。となるとより悪化はしないため楽だ。いじめの予防まではいい、だが、いじめが起こってしまえば教師というのは悪化させるだけの邪魔者でしかない、たとえそこに善意しかないとしてもだ。

そして、ネックになるのが彼女らの年齢だ。由比ヶ浜が言っていたように、雰囲気というものを幼いながらに感じているのだろう。つまり、それを変えてやればいい。それが簡単にできるのも小学生だからこそだ。中学、高校といくにつれてそう簡単にいかなくなる。厄介なことに自立ということを覚えるからだ。

まぁ、自立してなおいじめなんてやるのはどうかと思うが。

最後に、抑えるべき主犯格の奴らだ。まあ、あの女の子集団がそうなのだろうが。そこを直してやれば自ずとクラスの雰囲気はがらりと変わる。要するにちょっとしたカースト制度を平等にできれば俺たちの勝ちというわけだ。

 

「いけるか?」

 

「何がいけるのかしら?」

 

「うぉぉっ⁉︎」

 

突然凛とした声が入り込んでくる。何?殺し屋?

 

「びっくりした……」

 

「驚いたのはこちらなのだけれど、夜中に大声を出すのはやめてちょうだい」

 

だったら普通に声をかけてくれませんかね。

 

「で?こんなところまでどうした?星でも見にきたのか?」

 

いいよな自然。こうして月明かりに照らされると自分が社会の歯車なんかじゃなくひとりの人間という生き物だと再認識できる。

 

「ちょっと三浦さんが突っかかってきてね」

 

「うわ、絶対お前泣かしただろ」

 

「……よくわかったわね、大人げなかったことをしてしまったわ」

 

まぁ、あいつにはいい薬になっただろうさ。とは言え、泣かせたことを気にしているのか、若干の反省の色が見える。

 

「それで、あなたは何をしてたのかしら?」

 

「俺はまぁ、一人、解決策を模索してたんだよ」

 

するとなぜか不思議そうな顔をされる。

 

「あなた、そんなに積極的だったかしら?」

 

ああ、そういうこと。

 

「最初はそうでもなかったけどな、鶴見のあの話を聞いてからだな」

 

「……何がトリガーだったの?」

 

探るように、どこか期待を持っているようなそんな声だった。

 

「由比ヶ浜は言えなくても言えないと言ったが、そうじゃない、あの子のあの顔は紛れもなく誰かに助けを求めていた」

 

これは鶴見だけに限らない。何か問題を抱えている人間は必ず"誰か”の助けを心のどこかで待っている。それも、人を拒絶する人だったり、気丈に振る舞う人だったりと、特徴のある人間ほど余計にだ。

 

「何も言葉だけが全てじゃない。相手の表情、目つき、口角。顔だけでもこれだけの判断材料がある。俺はそん時から俺個人として解決を図りたいと思った」

 

だからこそ俺は一人で時間をとった。周りが頼りになるならないじゃなく、俺があの子の誰かになってやりたいと思ったからだ。

 

「……そう、あなたなりに考えているのね」

 

「まぁ、周りが周りってのもある」

 

絶対ロクな結果になりそうにないだろ八幡とか、八幡とか、あと、……八幡とか?

そこから雪ノ下の返しはなかったが、その表情には僅かな笑みがあった。俺の答えは悪くなかったようだ。

 

「そういや、事故のこといつ話すんだ?」

 

ちょうどいい機会だったので聞いてみる。なんだかんだ、当事者が色々知らないのは違うだろうし。

 

「……え?」

 

大げさではなく、過去一驚いた顔をする雪ノ下。……そういや、俺当事者でもなんでもないわ。ごめん、雪ノ下。

 

「八幡はお前が乗ってたこととか、助けたのが由比ヶ浜の犬だとか、色々知ってるぞ。由比ヶ浜も微妙だけど、何となく勘付いてそうではある」

 

「……そもそも、なぜその話をあなたが詳しく知っているの?」

 

「八幡から聞いたりしてな」

 

あと、情報提供者(小町ちゃん)のおかげですけど。

八幡の名前を出したことで多少信頼を得たらしく、雪ノ下の驚きも少なくなる。

 

「……別に話さなかったわけではないわ、話すタイミングがなかっただけよ」

 

「ふーん、ま、どっちにしろ一回話しておけよ、なんの偶然かは知らないが、全員揃って同じ部活なんだしな」

 

こういうのも毛色は違うがいじめの発生と似ている。黙っていたことが交友関係を深めるほど話づらくなっていき、中途半端に爆発すると友好関係を壊してしまう。友達ですらなければ、事務的な会話で済む、仲良くなって仕舞えば笑い話で済む。何事も中途半端は危険だ。

 

「さて、俺はもう戻るけど、お前は?」

 

考えも大方まとまったので忘れないように早く書き写したい。

 

「私はもう少しここにいるわ」

 

「そうか、風邪引くなよ、じゃあな」

 

「ええ、おやすみなさい」

 

帰り際、目つきの悪い友人とすれ違った気がするが、それはきっと“木のせい”だろう。……なんつって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、さっさと断片的に流れを書き込んだので、寝坊をすることもなくビジターハウスの食堂へと向かった。

何事もなく全員でしっかりと朝食を食べ、昨日の話や予定やらの話をしていると平塚先生が読んでいた新聞を折りたたんだ。

 

「さて、朝食も終わったようだし、今日の予定について話しておこう」

 

そう切り出すと、小学生の予定、それに沿うように俺たちに準備などを頼みたいと言う。誰にも言わないと言う約束はどうやら守ってくれたようだ。

 

「お化け役だってよ、お前、現地のお化けと間違えられるなよ?」

 

「いや、なんだよ現地のお化けって……。他所のお化けもいんのかよ」

 

あとは、俺が変に勘付かれないように会話を続けていけばいい。こいつらの前で考え事などすればすぐにバレるからな。まぁ、肝試し直前は消えるから流石にバレるだろうが。

準備の説明をするとこのとで、俺たちは立ち上がった平塚先生に続いた。

男子はキャンプファイヤーの薪の組み立て、女子はキャンプファイヤーでフォークダンスをやるときのライン引きだ。

豆知識だが、キャンプファイヤーの儀式的な意味では「親睦の火」という意味合いもあるらしい。なんとも皮肉めいたものだ。

炎天下の中、俺は一人薪を割る。時折、彩加と戸部が薪を運びに出し、それを八幡と葉山で組み立てる。一見、俺が一番重労働に見えるが、周りの木々が影になっているから、そこまで太陽の暑さを感じない。なんなら、陽の照っているなか、ひたすら作業するあの二人の方が辛いだろう。そんなことを考えてる間に最後の薪に斧を下ろす。

 

「彩加、これで最後だ」

 

「うん、わかった。お疲れ様」

 

「お前もな」

 

俺は彩加を労い作業を終える。戸部?知らんな。順次解散とのことだったので、あたりを見渡すと、みな作業を終えていた。

元々の人数も少ないため、そうそう鉢合わせもないだろうとお思い、俺は今日の策をまとめられる場所を歩かながら探すことにした。

すると、小川のせせらぎがちょろちょろと聞こえてくる。

日陰とはいえ、汗はかいたよなあ。ここら辺は上流で川の水も綺麗だろうし、ちょうどいいんじゃないだろうか。

道なりに進むと、ひらけた場所に出た。思った通り人影もなく、透き通った水が勢いよく流れている。が、勢いよすぎだ。足を入れようものならもげるのではなかろうか。仕方がなく、水流に沿って下っていくと、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

角度のある傾斜の上から見おろすと、ちょうど八幡が水着の平塚先生に一発貰っていた。何がどうしてそうなったんだよ。

その辺りを見回すと、他の女性陣も全員見受けられた。遠くからではあるが、こちらにむかってくる葉山、戸部、彩加も見える。

どうやら散々青春を敵視していた友人は、なんとも羨ましい青春を謳歌しているようにしか見えない。それでもあいつは否定するだろうが、だが実際は謳歌している。みんながみんな同じ青春の形をしているわけではない。例え彼にとって歪であろうと、彼が頑なに認めようとしなくても、今の彼は青春の最中にいるのだ。

皆一様に浮かべている表情は笑顔だ。それを見ているだけで、自然と俺の口角が上がるのを感じる。案外この合宿も悪いことばかりではないらしい。

 

そんなみんなの様子を木に寄りかかり見ていたところ、脇の小道から足音が聞こえる。野生動物かと警戒しながら見ると、そこにいたのは鶴見留美だった。

 

「おう、どうした」

 

俺が声をかけると、鶴見は近づいて俺の隣に腰かけた。

 

「何してんだ?こんなとこで」

 

「……今日自由行動なんだって。朝ごはん終わって部屋に戻ったら誰もいなかった」

 

最近の小学生怖すぎ。もしかして、サイレントかくれんぼとかやってるんじゃない?

 

「ねぇ、あんたはなんで一人なの」

 

「あん?そんなもん一人でいたいから一人なんだよ」

 

流石に依頼主の前で対策を考えていたとは言いづらい。

 

「ほら、向こう見てみろ、あいつら下にいるから暇ならあっちに行ってこいよ」

 

「……いい」

 

「さいですか」

 

暗に向こうに行ってろと促すが、どうやら俺の側から離れるつもりはないらしく、腰を上げるそぶりも見せない。だが、ちょうどいい機会でもあった。

 

「率直に聞くけど、今の現状をお前自身はどうおもってるんだ?」

 

まどろっこしい言い回しはせず、鶴見に問いただす。

 

「……どうなんだろ、辛いし、嫌だけど、一番は惨めっぽいって思うかな」

 

いじめられっこに現状を聞くとは、我ながらなかなかひどい質問を投げかけたもんだ。しかし、もう一問、鶴見には付き合ってもらう。

 

「お前は、今の惨めな自分を変えるのと、これから先、惨めな思いをしないようにするのと、どっちがいい?」

 

「……私は」

 

この返答次第で今日、俺のやるべきことは決まる。

 

 

 

 

「どっちも」

 

 

 

 

「は?」

 

「……だから、今の自分の状況も変えたいし、これから先も惨めになりたくない」

 

「……そうか」

 

意外なことに鶴見はわがままだったらしい。なんとも欲張りな返答だったが、下流で遊ぶ彼らを見て多少は思うところがあったのだろう。だが、俺としては120点をやりたい。小学生がわがまま言わなくてどうするってんだよ。

 

「惨めなのは嫌か」

 

「うん」

 

「この先、中学、高校と惨めな思いはしたくないか」

 

「……うん」

 

ぐっと嗚咽を堪えるように留美は頷く。今にもその目からは涙が零れ落ちそうだ。

 

「わかった」

 

留美の頭に手を乗せ、俺は立ち上がる。

既に腹は決まった。

自分が変わっても、その世界は変わらない。

ただ、その世界を変えてしまえば、その限りではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうするの?」

 

そう雪ノ下が口火を切る。この場合のどうするは只今絶賛準備中の肝試しのことではない。

結局集団での明確な答えを出せずにここまできた。

そんな中、葉山は変わらず、みんなで話し合いをすればと食い下がる。こいつは本当に個を見ない。

 

「おい、八幡。お前、なんか思いついてんだろ」

 

「あ?…まぁな」

 

こういう八方塞がりの時に案を出すのは大抵こいつだ。が、ほとんどハッピーエンドにはならない。というわけで、俺がもし失敗した時にのみ作戦を伝えて決行してほしい旨を伝える。

 

「お前、いつのまに色々考えたんだよ……」

 

「お前が、川で青春を謳歌してる間だよ」

 

「いや、あれは別に……。つか、お前いたのかよ」

 

「ああ、楽しそうでなによりだ。俺はこれから席を外すから、あとはよろしくな」

 

「ちょっ、おい」

 

制止するあいつをよそに俺は歩みを進める。それと同時に、外せない人員を一人連れて行くために頼みにきた。

 

「三浦」

 

「なんだし?」

 

一人でいるタイミングを見計らって声をかける。

 

「頼みがある」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、肝試しの前に、高校生のお兄さんとお姉さんから、お話があります」

 

小学校の教師から生徒たちへ説明される。肝試しの前とあって、生徒たちはがやがやと騒がしかった。

変に緊張されるよりよっぽどいい。上げて落とす方が記憶には残りやすいんだからな。

 

「ごめんねー、みんな。楽しみにしていた肝試しの前に」

 

出来るだけにこやかに、優しい高校生を演じる。

 

「本当は、みんなあの葉山お兄さんが良かったとか思ってるでしょ」

 

小学生からはどっと笑いが起こる。この場の誰一人として、真面目な話が行われるなど想像していない。

 

「話を聞くだけじゃつまんないと思ったんで、代表で何人か前に出てきて一緒に話を進めたんだ。できれば、仲のいいグループがいいな」

 

「ハイ!私たちやりまーす」

 

そう名乗り出たのは、例のグループだった。最悪葉山を出しに使おうと思っていたから好都合だ。それに、……いいね、いい感じに舐めきってくれている。

元気よくクラスのみんなの前に4人は現れる。

 

「ありがとう、じゃあまず話をしよう。ちょっとした怖い話だよ」

 

さぁ、本番はここから。

 

「みんな、いじめって知ってるかな」

 

俺がそう言うと、露骨に空気が変わる特に前の4人。おおかた、留美がちくったんじゃないかと疑っているのだろう。

 

「実はお兄さんが小学校の時にね、クラス内でいじめがあったんだ。ちょうどこのくらいの年で同じくらいの人数だったよ」

 

共感させることで、生徒の関心を攫う。効果はてきめんだった。先ほどの喧騒は嘘のように静まり返り、みなこちらの話を真剣に聞く。

 

「お兄さんはね、いじめる側でも、いじめられる側でもなかったんだよ。ずっとそれを見ている人間だった。明日は自分かもしれない、そう思うと、いじめを止める勇気もなかった」

 

俺の話を聞くと何人か下を向く。見て見ぬ振りをしたことに罪悪感を覚えた生徒がいることの表れだ。その他のおおよその生徒も顔の表情は暗い。前にいる4人を除けば。

つまり、意思のあるいじめの発端はこいつらだけなわけだ。

 

「でも、そんなある日、ふといじめがなくなったんだよ。なんでだと思う?」

 

そう4人に俺は問いかける。

 

「し、知らない」

 

「き、きっとだめなことだって気づいたんだよ」

 

そんな言葉を連ねるが、その様子は先ほどとは違い、焦りが見えた。

まさか話を振られるとは思ってもなかったのだろう。

 

「正解はね、死んだんだよ。いじめられた子がね」

 

生徒はみんな固まる、さあ、もうひと押し。

 

「その子は別に俺と仲が良かったわけじゃないんだ、でも、今でも夢に出てくる。そのときに言われるんだ。『なんで無視したの』って。正直、一番言われたくない言葉なんだよ。なんでかわかるか?」

 

今度は生徒側にだんだんと厳しい口調で尋ねる。返事など帰ってくるわけもなく、そのまま話を続ける。

 

「『そんなに沢山の助けられる手があるくせに、なんで誰一人正しい行いができないの?』俺にはこういう風に思えるからなんだ」

 

まさに今の現状をより深刻にした形で、不安や恐怖を煽る。

 

「その後は、いじめもなく、楽しい学校生活を送ったよ。一人の尊い犠牲の元でだけどね」

 

さて、そろそろ締めて次にいくとしよう。

 

「と言う本当にあったお兄さんの怖い話でした。みんなの幸せも、もしかしたら誰かの不幸の上で成り立っているのかもね?」

 

生徒側には最後に念を押しておく。

さて、では最後に小さなその世界を壊してやろう。

 

「三浦」

 

「ん」

 

今度は待たせていた三浦を呼ぶ。憧れの女子高校生が現れたことで、4人が少し活気を取り戻す。

 

「じゃあ、最後にいじめっこの体験をしてもらいたいんだ」

 

「え?」

 

4人のうちの誰かから驚きの声が上がる。そりゃそうだ、あんな話をした後なんだからな。

 

「このお姉さんと俺をいじめられっ子だと思って、いろんな酷い言葉を言って欲しいんだ。みんなも知りたいだろ?いじめっ子がどんなな感じかを。大丈夫、君たちから何言われようとなんともないから」

 

彼女らが主犯であると、こちらが気づいていないと思わせるように。そして、最後に少し挑発を入れ、相手をその気にさせる。

そこからは、小学生にしては頑張った。くらいの可愛い罵倒が飛んでくる。……おい、待て、三浦、切れるな!

 

「終わり?」

 

「……はぁ、はぁ、……はい」

 

散々言いたい放題言ったせいで息も荒い。まぁ、こちらはなんともないが。

 

「そう、じゃあ、今度はこっちの番だね」

 

「……え?」

 

「え?じゃないよ、まさか、言われっぱなしだと思ったの?世の中そんな甘くないから」

 

そこからは、手筈通り俺と三浦での反撃だ。心が折れる手前まであっという間に4人を追いつめる。憧れの三浦からの言葉だ。おそらくかなりのダメージを受けただろう。

4人は恐ろしくなったのか、教師の方を見るが、教師の方はボランティアで来てくれたことと、これがデモンストレーションだと分かっているためどうしたらいいか迷っている。

 

「うざいわ、お前ら、もう学校くんなよ」

 

「………………」

 

最後に全員の心をへし折りとどめを刺す。

これで彼女らはより上位のいじめの怖さを知った。自分の力では太刀打ちできないことを知った。これで、いじめが自分に帰ってくるかもしれない恐怖を知った。

 

「と、ここまでかな、ごめんねー無理させて」

 

そう言って彼女らの頭を撫でると、泣き崩れてしまった。

これで彼女たちの弱さをクラスメイトが知った。そうなると、たとえ、この後もいじめが続いたとしても無抵抗とはならない。この出来事が後に武器となり、同時に希望にもなる。

泣かせてしまった彼女らには申し訳ないが、それは自業自得だ。

 

「じゃ、肝試し楽しんでね」

 

最後の最後まで、クラスの雰囲気は沈んだままだった。これから肝試しという雰囲気ではないが、そこは教師の腕の見せ所だろう。

……嘘です、ごめんなさい、あとで土下座でもなんでもするんでご勘弁を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた、一人で考えたの?あれ」

 

肝試しの準備に戻る途中、三浦が話を切り出す。

 

「ああ、部外者でかなりの無茶ができるひとじゃないと、そうそう変えられないと思って。例えばの話、今の話が道徳の授業だとしたら申し訳ないが何も響かないだろうさ」

 

「ふーん、にしてもあんたらしくないんじゃない? あーしが言うのも変だけど、ただキレただけじゃん」

 

ああ、お前自覚あんのね。あそこでキレたら全部台無しだったからな?

 

「これで終わりなわけないだろ。肝試しが終わったらもう一仕事あんだよ」

 

ここまでは、クラス全体へ警鐘、4人組の地位陥落、当初の目標自体はクリア済みだ。ここで終わればただ、不安を煽っただけ。

こっからはあのわがまま娘のお願い事を叶える番だ。

 

「あーしも手伝おうか?」

 

「おう、頼む」

 

「任せろし」

 

「頼りにしてんぜ」

 

手助けを申し出た三浦は気分を良くしたのか、その足取りはどこか軽そうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事、作戦が成功した旨をみんなに伝えた時は、大変だった。

最後の最後まで揉めたらしく、結局八幡が案を出してしまったらしく、そのために動き回っていたのと、俺が勝手に解決させたことで、ダブルで混乱が生じたのだ。

しかし、なんとか肝試しを終え、先に俺と三浦でキャンプファイヤーが行われている場所まで向かう。

フォークダンスをしている彼ら彼女らの顔には本来あるはずの笑顔はなりを潜めていた。

 

「……ねぇ、本当にこれで惨めじゃなくなるの?」

 

声をする方に向くと、肝試しの帰りだった留美がいた。周りに人がいないのを見るにあの4人組は先に向かったようだ。

 

「たしかに、あいつら、何も言わなくなったし、グループの話も減ったけど、それだけで本当に私は惨めじゃなくなるの?」

 

噛みしめるようにして、同じ質問をぶつけてくる。

 

「ああ、もうお前が泣かずに済むようにしてやる」

 

そう言って俺たちは留美と一緒にキャンプファイヤーの元に向かう。

案の定、生徒たちの顔は険しい。そうでなくては困る。このためにわざわざあんなキャラを演じたんだ。

彼らからはいじめという一種の共同体を壊した。だから、それに変わる新たな共同体を形成させる。

 

「みんな、フォークダンス中にごめんね、みんなにちょっといいたいことがあってね」

 

いいたいことと聞いて、生徒達はよりいっそうこわばる。

 

「ごめんなさい」

 

「……え」

 

生徒たちの表情は一変して困惑へと変わる。

 

「実は、あの後、この鶴見留美ちゃんに言われたんだ。『言い過ぎじゃないですか?』って」

 

生徒はみな留美の方を向く。しかし、以前のものとは違い、その目には賞賛のような、尊敬のような眼差しだった。あの4人組さえもだ。それだけ、あの状況のあとに俺たちに注意をするという行為には勇気がいるわけだ。

 

「で、お兄さんもこっちのお姉さんも、留美ちゃんの言う通りだと思ってね、みんなの楽しみにしてた時間に暗い話をしてしまったことを謝ろうって思ったんだ。だからごめんなさい」

 

俺と三浦は生徒たちに頭を下げる。

これで、留美は、4人組が罵詈雑言を浴びせても手も足も出なかった高校生を真っ向からの言葉で屈服させたわけだ。

これで彼らの中での言葉の価値が正しい方が強いと認識される。

そして、そうした言葉が目立つようになって生まれてくる共同体が、団結であったり、仲間だったりするのだ。

それに伴い、その先駆者となった鶴見留美の立場は揺るがないものとなる。ちょっとしたカーストの逆転だ。

現に、かなりの人数が留美に声をかけようとしているのが生徒たちの目を見ればわかる。

もう、俺たちは用無しだろう。

 

「じゃあね、みんな、本当ごめんね!」

 

最後は陽気に締めることで、留美の会話へと繋がりやすいように配慮する。

俺たちが去った後、留美は笑顔の生徒たちに囲まれていた。遠巻きにだが、4人組が留美に向けているのは嫉妬や憎悪ではなく、どこか後悔の混じったものに見える。これから彼女は上手くやっていくだろう。

去り際に聞こえた彼女の「ありがとう」はしばらくは忘れられないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、あーし頭下げただけじゃない?」

 

肝試しの片付けをするみんなの元に向かう途中、三浦が不満げに声をかけてくる。

 

「いや、手伝ってくれるって申し出たのお前からじゃん…」

 

「そーだけど、なんか割に合わなくない?」

 

「……しゃーない、サーティーワンで手を打とう」

 

「うし!もちろんダブルだから」

 

 

なんともよく深いやつだ。だが、こいつのおかげなのは事実だ。アイスくらいでいいなら奢ってやるさ。

みんな忘れがちだが、これが本来の三浦優美子だ。友達には面倒見が良く、姉御肌。きつい言動ながらも、案外子どもには優しい。自己中に見られることも多いが、実際は誰よりも周りをきちんと見ている。

今回もそんな三浦だから協力を頼んだ。

こうして三浦優美子を知れば知るほど、こいつの良さを俺は感じている。

そして、それと同時に、

 

葉山隼人がより嫌いになっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰りの車内は静かものだった。

後部座席は俺以外全滅。出発から30分もたたないうちに全員寝落ちという、次第に陥っていた。

助手席は俺ではなく、拓也が指名された。話を聞く限り、なかなか際どいことをしでかしたようだ。

 

「まったく、君はこちらに迷惑はかけないと踏んでいたんだがね」

 

「いやぁ、すいません」

 

おそらく、平塚先生が、向こうの教師たちに平謝りしていたことだろう。最初みたときは驚いたもんだ。

 

「別に責めてはいない。むしろ、あちらの方からクラスの雰囲気は良くなったと聞いた」

 

「なかなか、トラウマになりそうなことやりましたけどね」

 

「そう言いながら、何度も予防線を張っていたじゃないか」

 

「その中でリアリティを出すのに苦労したんですよ?本当」

 

当事者同士にしかわからない会話内容だったため、俺も次第にうつらうつらしてくる。

 

「それにしても、今回のポイントはどうしたものか」

 

「雪ノ下が依頼を受けなければ、動かなかっただろうし、由比ヶ浜の説得がなければ動く理由を見つけられなかった。そして、解決策を出した俺と八幡。全員にポイントでいいんじゃないですか?」

 

「なんとも欲がないのだな、君は。解決したのは君だろう」

 

「いや、そもそもポイントとかいらないですし、俺一人じゃ無理だったのは事実ですから」

 

「……そうか、なら、今回は君を立てることにしよう。ともあれ、ご苦労だったな」

 

俺の意識が落ちる寸前、そんな感じの会話を聞こえた。……いつのまにあいつらにもポイントが入るようになったのだろうか。そんな疑問を持ちながら俺は眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

「一つ聞きたいのだが、あの話は本当に作り話だったのかね」

 

「……というと?」

 

「いや、何、やけにリアルだと思ってね」

 

 

 

 

 

 

 

「……作り話ですよ、俺のトラウマを弄ったもんですけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

がたがたと荒っぽく体を揺すられた。

 

「おい、着いたぞ、起きろ八幡宮」

 

「……俺は全国に44000社もいねぇよ」

 

かなりぐっすり寝ていたようだ。時刻はおおよそ昼過ぎくらいか。改めて辺りを見渡すと、見慣れたいつもの高校がある。

外に出ると真夏の外気が肌にまとわりついてきた。二、三日しかたっていないのに無性に懐かしい。

ワンボックスカーから荷物を下ろし、とろとろと帰る準備をする。全員が忘れ物がないかチェックし、なんとなく整列をする。

 

「みんな、ご苦労だったな。家に帰るまでが合宿だ。帰りも気をつけるように。では解散」

 

平塚先生は満足げにそういった。あの顔はこれで締めようときめてたんだろうな。

 

「お兄ちゃん。どうやって帰ろっか?」

 

「京葉線でバスがいいかな。帰りに買い物して帰ろうぜ」

 

「あいあいさー」

 

元気のいい返事だこと。

 

「京葉線ですし、お二人も一緒に帰りませんか?」

 

「ん、いいよ」

 

「そうね。……途中まで」

 

拓也も雪ノ下が頷くと、由比ヶ浜と戸塚が互いに顔を合わせる。

 

「んじゃ、あたしはとさいちゃんはバスかな」

 

「うん、そうだね。じゃあ……」

 

それぞれが帰路に就こうと別れの挨拶をしようとしたときだった。

すーっと、低く静かな駆動音でゆっくりと潜行するように、黒塗りのハイヤーが俺たちの目の前に横付けされた。

 

「金持ってそうなハイヤーだな……」

 

ああ、こいつは知らないんだっけ。これ、雪ノ下のとこの車だ。

思った通り、中からでてきたのは、真夏を感じさせず、どこか涼しささえ感じる女性だった。

 

「はーい、雪乃ちゃん」

 

雪ノ下陽乃は真っ白なサマードレスに身を包み、優雅に車から降りる。

 

「姉さん……」

 

「………げぇ」

 

「え、ゆきのんの、……お、お姉さん?」

 

由比ヶ浜はさかんに目を瞬かせて雪ノ下と陽乃さんを見比べる。一方の拓也は……どうしたお前?

 

「ほぁー、似てる……」

 

小町が呟くと戸塚もうんうんと頷いた。

 

「雪乃ちゃんてば夏休みはおうちに戻ってくるようにって言われてたのに全然帰ってこないんだもん。お姉ちゃん、心配で迎えに来ちゃった!」

 

「なんで居場所わかったんだよ……。やってることがさらっと怖ぇよ……」

 

「たぶん携帯電話のGPSを追尾したんでしょうね。まったくろくなことをしないわ」

 

「なに、お前の家、刑務所なの?実は仮釈放中とかなの?」

 

俺たちの会話に陽乃さんが割って入ってくる。

 

「あ、比企谷くんと、佐藤くんだー。なんだー、また三人一緒に遊んでたのか。んー?いい加減どっちが付き合ってるのか教えてよー。ほらほらー」

 

「またそのパターンかよ……。違うっつってんじゃないですか」

 

うりうりーっと肘で俺を突いてきて邪魔くさいことこの上ない。そもそもなんで俺ばっかなんだよ。

俺の願いが通じたのか、標的が拓也にチェンジする。

 

「それにしても、佐藤くん。君、前と随分違うね」

 

「……まぁ」

 

そりゃそうだ、あん時は俺に気づかせるための行動なんだし。……にしてもなんか焦ってないか?

 

「ほらほらー、前に会ったときみたいな、いい笑顔、お姉さんみたいなー」

 

「……いやぁ、あはは」

 

拓也にあからさまに勢いがない。それに、どことなく、陽乃さんからは怒気のようなものを感じる。……もしかしたら、俺の気づかないところで攻防戦があったのかもしれない。

 

「ヒ、ヒッキー大丈夫?」

 

陽乃さんに突っつかれたのを心配しに由比ヶ浜が近寄る。

その声を聞きてけたのか、再び、こちらを向く。

 

「えーっと、新キャラだねー。あなたは……、比企谷くんの彼女かな?」

 

「ち、違います! ヒッキーとはその、友達です」

 

由比ヶ浜は否定しながらこちらをちらちら見る。その顔は真夏の太陽のせいか、赤く染まっている。

その様子をまじまじと見ると、勝手に一人納得したのか大きくうんうんと頷き、拓也の方に向き直る。忙しい人だ。

 

「そっかそっか、雪乃ちゃんの彼氏は君の方だったんだね、佐藤くん」

 

「違うわ」

 

「違いますけど」

 

二人はほとんど同時に声が出た。

 

「ほら!息ぴったり!」

 

俺たちをからかって遊んでいるのか、これさえも演技なのか、俺には分からなかった。

 

「陽乃、その辺にしておけ」

 

声をかけられて陽乃さんは笑いをぴたりと止める。

 

「久しぶり、静ちゃん」

 

「その呼び方やめろ」

 

恥ずかしさからか、平塚先生はそっぽを向く。俺は二人が顔見知りなのに驚き、平塚先生に問う。

 

「先生、知り合いなんですか?」

 

「昔の教え子だ」

 

「それって」

 

どこか要領を得ない答えの真意を聞こうと俺が口を開くと、それを陽乃さんが遮る。

 

「まぁ積もる話はまた改めて、ね、静ちゃん。じゃあ、雪乃ちゃん。そろそろ行こっか」

 

言っても雪ノ下は動く気配がない。隣ではその様子を拓也が静かに見つめている。

 

「ほら、お母さん、待ってるよ」

 

それまで不遜な態度を崩さなかった雪ノ下がぴくっと反応する。諦めたように短い溜息を吐くと俺たちの方に向き直る。

 

「小町さん。せっかく誘ってもらったのにごめんなさい。あなたたちと一緒に行くことはできないわ」

 

「え。は、はい……それはまぁ、おうちのことなら……」

 

どこかよそよそしさを感じさせる雪ノ下の言葉に小町は戸惑ったように答える。

雪ノ下は透明な微笑を浮かべると、小さく消え入りそうな声で別れを告げた。

 

「……さようなら」

 

陽乃さんに背中を押されるようにして今まさに、雪ノ下は車内に消えるところだった。その時、

 

「雪ノ下、また、な」

 

拓也がそう雪ノ下に別れの挨拶をする。その顔はいつもと変わらないあいつの笑顔だった。

 

「うん、またね、ゆきのん!」

 

「はい!また、会いましょう、雪乃さん!」

 

「またね、雪ノ下さん」

 

拓也に続くように由比ヶ浜、小町、戸塚と笑顔で別れの挨拶をする。

……俺に笑顔は似合わねぇよ。

 

「……またな、雪ノ下」

 

そんな挨拶が帰ってくるとは思っていなかったのか、雪ノ下だけじゃなく、陽乃さんまで驚いた表情をしている。

 

「……ええ、また」

 

そう言うと今度は雪ノ下自ら車に乗り込んだ。

 

「姉さん、早く入ったらどうかしら?」

 

「え、あ、うん」

 

今度は雪ノ下が陽乃さんを急かす形になった。運転手がドアを閉め、運転席へと向かう。

黒いスモーク越しでは中の様子は窺い知れない。

けれど、きっと雪ノ下はいつものようにぴっと背筋の伸びた姿勢で視線を外に向けているのだろうと思った。少しの笑顔と共に。

ハイヤーは静かなエンジン音とともに進みだし、曲がり角で消えた。

 

「ねぇ……、あの車、さ……」

 

「お前も聞いたのか?雪ノ下本人から」

 

「……うん」

 

俺は、合宿の夜、たまたま森の中で会った雪ノ下に、事故のことを本人から聞いた。由比ヶ浜も同じく合宿中に雪ノ下本人からその話をされたようだ。

 

「なにしけた顔してんだよ、夏休みはこれからだぜ」

 

拓也はそう言うと、俺と由比ヶ浜にだけ聞こえるような小声で語りかける。

 

「気になることがあるなら、また、聞けばいい、会いたければ会えばいい。友達なんだから。雪ノ下だって言っただろ、『また』ってよ」

 

「……うん、たっくんの言う通りだ。私たち友達だもん」

 

「……俺、違う気がするんですけど」

 

「小さいことは気にするな」

 

違うことは否定してくれないのね。八幡悲しいよ。

再び明るい雰囲気に戻った俺たちは再びそれぞれ帰路に着く。

夏休みもまだ、一週間以上は残っている。

まだまだ、俺の夏休みは終わりそうにない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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