もしも、比企谷八幡に友人がいたら   作:一日一善

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最後に、色々書いてます。


第24話

文化祭まで一月を切った校舎の中は慌ただしい。

本日から文化祭準備のための教室残留が解禁された。

実行委員が決まった翌日、俺と由比ヶ浜は奉仕部が部停になることを拓也から聞かされた。

俺としても妥当な判断だと思い納得した。由比ヶ浜も同じようで、部停には賛成していた。

そのおかげもあり、我々二Fの文化祭に向けての準備も着実に進められていた。

 

「ねぇ、ヒッキー、これどうすんの?」

 

「ああ、そこはここにこうしてこうするんだよ」

 

「ヒッキー、説明下手…」

 

俺たちの出し物は結局、海老名さんのドキッ男だらけの『星の王子さま』に決まった。

それに伴いキャストを決めることになったのだが、キャストを決めるあの時間はまさに地獄だった。

人道的な配慮から一度は挙手制になったものの、当然手を挙げるものなどいない。

その結果、海老名さんの独断と偏見によりキャストが決まっていった。その時の男子の阿鼻叫喚は忘れられない。

そして、その途中にでかでかと書かれる

ぼく:比企谷

の文字。

由比ヶ浜の一声がなければあのまま俺は王子さま役の葉山を消さなければならないところだった。

結局、なんとか俺の意見を通し、ぼく役は戸塚に変わった。すまん戸塚。

でも案外似合ってると思うぜ。

そして今俺は海老名さんの

「原作厨舐めてんの⁉︎ネット上で叩かれたいの⁉︎」

との熱いお言葉を受けて、本来は借り衣装で行こうとした所を、手作りで作ることになったので、そこに由比ヶ浜と配属されている。

それとなんだっけ、川越か。たぶん。川島も由比ヶ浜に推薦される形で同じく衣装作りに参加している。

他にも数人の女子がいる、実はしっかり三浦も入ってたりする。

男は俺一人だが、専業主夫を目指す俺にとって裁縫は必須科目なのでそこは問題ない。

 

「……はぁ、ちょっと貸して、由比ヶ浜」

 

「川崎さん?」

 

由比ヶ浜の状態を見ていられなかったのか、川崎が由比ヶ浜が作業していた布を取る。

この様子からわかるように、由比ヶ浜自体はそこまで、裁縫は上手い方ではない。しかし、純粋に人手が足りないので、貴重な戦力なのだ。そうなると当然、まともに出来る俺は主戦力になるわけで、

 

「ねぇ、比企谷、由比ヶ浜の代わりにここやってくれない?」

 

「……あいよ」

 

このように、やることがたくさんなのだ。

それと、川崎、教えられなかったからって俺に押し付けるのはやめてくれ。

……けど、まぁ、こう頼られるのも案外悪くない。

 

「じゃあ、俺と相模は文実の方に行くから」

 

後ろの方で拓也がクラス委員に言っているのが聞こえた。

……そういえば、少し前からあの二人が一緒に行動しているのをよく見る気がする。

何かあったのだろうか。

最近は俺も忙しく、あいつとなかなか話す機会がない。

むしろ、クラスのやつと話している時の方が多い。

改めてその事実に驚きながらも、俺は手を休めることなく作業を続ける。

文化祭というフィルターを通してなのはわかっている。

けれど、こんな日常を過ごしていることに俺は心のどこかで喜びを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪ノ下と話した翌日、俺はやることがあると言う雪ノ下の代わりに、平塚先生に部停の旨を伝えるために放課後、職員室を訪れていた。

 

「平塚先生」

 

「ん?ああ、君か」

 

何か悩みでもあるのか、先生らしくない曖昧な返事だった。

 

「雪ノ下とも話し合って文化祭までは部活は中止にしようと思っているんですけど。もちろん、八幡と由比ヶ浜も了承済みです」

 

「……ふむ、そのことで少々問題があってな」

 

……何故か昨日のあの視線が思い出される。

 

「あの、平塚先生、用事ってなんですか?」

 

急に後ろから声が聞こえた。振り返るとそこにいたのは、昨日、実行委員長になったばかりの相模だった。

……嫌な予感がする。

 

「来たか、とりあえず、こちらに来たまえ」

 

相模を見て一言そう言うと、俺も何故か待合室の方に連れて行かれる。

……やっぱり嫌な予感が

 

「単刀直入に言おう、君に彼女の補佐をしてもらいたい」

 

……はぁ。やっぱり。

 

「本来ならば、奉仕部の方で解決を図ってもらおうと考えていたのだがな。部停となるとそうもいかないだろ?部停理由も妥当な分、私としても活動しろとは言えないからな」

 

「え?…え?」

 

相模自身も、そのことを始めて聞かされたのか狼狽えている。

 

「……なんで俺なんっすか?」

 

「特に理由はないさ、来たのがたまたま君だったからな、雪ノ下が来れば彼女に頼んでいたよ」

 

ガバガバだな、おい。

 

「……具体的な内容は?」

 

補佐と言われても良くわからん。

 

「それは直接本人から聞くのがいいだろう。なぁ、相模」

 

「え?あ、はい…。その、一人じゃ不安だから手伝ってほしいっていうか」

 

未だに明確に状況を理解してはいないだろうが、なんとか平塚先生の振りには答えている。

 

「……たしか、自分自身の成長のため、だっけ?」

 

ほとんど聞いていなかったが、そんなことを言っていた気がした。

 

「うん、そうだけど。良く覚えてるね」

 

すまん、たまたまだ。

 

「ふむ、少し複雑になったな、一度まとめるとしよう」

 

そう言うと平塚先生は姿勢を少し正した。

 

「本来は今日にでも相模に奉仕部の紹介をしようと思ったが、奉仕部で部停を申し出た」

 

はい。

 

「そこでたまたま君が来たわけだ」

 

はい。

 

「だから君に依頼することにした」

 

はい?

 

「……先生そういうところっすよ結婚できn」

 

「ゴッ」と鈍い音が響いた。

 

「何か言ったかね?」

 

痛てぇ、最近の女性たちの間では言葉より先に行動に移すのが流行ってるのかよ。

これじゃあ些細な抵抗すらできないではないか。

男女平等をきちんと掲げていきましょうよ、先生。

 

「だが、君でよかったと私は思ってるのだよ」

 

今度は正した姿勢を崩し足を組んでいる。

 

「相模を本当の意味で成長させることが出来るのはおそらく奉仕部のメンツの中だと君だけだと思うからね」

 

「うちを?」

 

会話に置いていかれていた相模がこちらをみる。

ここでようやくあの視線の意味を察した。

 

「……まぁ、言われたからにはやりますよ」

 

相模の本心はともかく、最初の会議の様子だけでもいつかこいつに助けが必要のは目に見えている。

 

「そうか、助か」

 

「当然、先生もつくんですよね?」

 

平塚先生の言葉を遮る形で食い気味に食らいつく。

大体、根本的に俺一人に頼むってのはちゃんちゃら可笑しい話なんだよ。外部からも人が来るんだぞ、うちの文化祭は。

それこそ、学校の評価にすら直結するのだ。

大前提として、それを一生徒に頼るだけでどうにかなると思わないでいただきたい。

 

「……基本的には君たちだけで頼むよ」

 

そう言い残して、平塚先生は戻っていった。

 

「……善処します」

 

誰にも聞こえないように、一人そう呟く。

そして残される俺と相模。

沈黙に耐えかねたのか、相模の方から話しかけてきた。

 

「じゃあ、よろしくね」

 

先生がいなくなったので、口調が戻り、いつものように軽くなる。

……さて、何から始めようか。

この様子を見ると、平塚先生の言うように、こういった奴の相手は俺が一番適任というのは間違いなさそうだ。

望み通り、人として成長してもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

文化祭まで一月を切った。

クラスの方も忙しなく動いている。

 

「じゃあ、俺と相模は文実の方に行くから」

 

クラス委員にそう伝えて、相模と教室を出た。

 

「全体の進捗状況はどうだ?」

 

「だ、大体大丈夫だと思うけど……」

 

「……本当に?お前はその言葉に責任が持てるか?」

 

「それは……」

 

「じゃあ、もう一度考え直した方がいいな」

 

「うぅ……じゃあ、スケジュールを見直して……」

 

あの日以降、俺はひたすら相模に対して、このようにして責任を問い続けている。

相模南にもっとも欠落しているのがこれだったからだ。

一度、補佐としての役職を作る案が出されたが、そんなものは必要ないし、寧ろ悪影響だ。

そんな逃げ道は成長に繋がらない。

その甲斐あってか、彼女なりに必要なことはメモを取ったり、積極的に生徒会に頼ったりしている様子が見えた。

俺自身、三年生にとって最後の文化祭やら、学校外に段取りが伝わらなければお前にも責任があるとか、割と言い過ぎた気もしなくもないが、これくらいが彼女には丁度良かったのかもしれない。

そして、これ以上口を出さないのが俺なりのやり方だ。

これからたくさん悩み抜くのは彼女の仕事だ。

その結果、彼女自身で文化祭を成功させたことは間違いなく彼女の成長に繋がることとなる。

責任という簡単には得難い重圧を糧に出来るのだ。

 

「定例ミーティングといっても、もう一月切ってるからな」

 

「今頭ん中で整理してるから話しかけないで」

 

……さいですか。

こんだけ彼女も悩み、考えているのだ、その手足である俺たちも遅れることなく作業を進めてやるのが筋ってもんだ。

そう思い、俺は会議室のドアを開けた。

 

 

 

 

「定例ミーティングを始めます」

 

みんなが集まったのを合図に相模が号令をかける。

 

「では、宣伝広報からお願いします」

 

その言葉に担当部長が起立する。

 

「掲示予定の七割を消化して、ポスター制作についても、だいたい半分終わってます」

 

「そうですか、……七割だとまだ遅いし、ホームページも」

 

ブツブツと相模の独り言が聞こえてくる。

 

「少し、ペースを上げてください。もう1ヶ月を切っているので、外部の方へのスケジュール調整を考慮に入れると完成しているのが好ましいです」

 

「は、はい」

 

張りのある声を出す相模に少したじろいだ様子の宣伝担当はそこの場に座った。

 

「では、次に有志統制、お願いします」

 

そんなことを気にすることもなく相模は次へと議題を移す。

 

「……はい。有志参加団体は現在10団体です」

 

「その中に、地域の方々は含まれていますか?例年我々は地域との繋がりを大事にしています。そうなると参加団体の減少はなるべく避けたいです。それに加えてスタッフの内訳や、タイムテーブル一覧の提出をお願いします」

 

これもきびきびと課題を挙げて対処していく。

 

「……ねぇ」

 

隣に座っている雪ノ下が俺に声をかける。

いつのまにかそこが定位置になったらしい。

 

「彼女、いつのまにあんな回せるようになったのかしら」

 

初日との変わり様に驚いているのか、多少、目を見開きながら相模を見つめている。

 

「……ちょっとした荒治療でな」

 

黙っておく、という選択肢もあったが、後々変に勘違いされても困るので、素直に雪ノ下にそう告げる。

 

「あなたが?」

 

「平塚先生に頼まれてだけどな」

 

「……そう」

 

雪ノ下が深くは聞いてこなかったのはありがたかった。

実際、俺の方法はそう褒められたもんじゃない自覚はある。

必要以上のプレッシャーと、最悪のもしもを想定させることで、そうはなりたくないと思わせる。そうなると自然と先の先まで対策を立てるようになる。失敗を恐れる彼女の性格なら尚更だ。

その上で人に任せるという逃げ道も消したのだ。

文字通りの荒治療である。

 

「では、本日の定例ミーティングを終わります。大変だとは思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

予定の時間よりも多少早く終わる。

みな教室に戻る中、残って作業していたのは相模だった。

正直、ここまでやる気を見せるのが俺には理解できないのが本音だ。

内心のためにやるようなやつには見えないし、いくら俺が追い込んだと言ってもそれだけでそうそう変わるとは思えない。

 

「なぁ、相模」

 

「何?今忙しいんだけど」

 

声をかけてる俺に目もくれず、作業に没頭している。

 

「お前、なんでそんなにやる気なんだよ」

 

ここで初めて作業の手が止まった。

 

「…………」

 

黙ったまま相模は動かない。

 

「……笑わない?」

 

重々しく開かれた口から出たのは俺の予想に反したものだった。

 

「なんで頑張ってる奴を笑うんだよ」

 

俺は人の努力を笑う人間にはなりたくないぞ。

 

「まあ、あんたならいっか」

 

椅子に体重をかけラフな姿勢になる。

気づけば周りに残っている人間はいなかった。

 

「あたしさ、性格悪いでしょ」

 

始まったのは相模の一人語りだった。

そうは言うが、一緒のクラスになって半年のクラスメイトの性格など、俺には良くわからなかった。注意深く見ていないので尚更だ。

 

「それで、ちょっとは変えようって思ってさ。そう思ったのも最近だけど」

相模の目には少しの後悔の色が見える。

 

「……由比ヶ浜さん、いるじゃん?うちのクラスの」

 

「ああ」

 

「夏休みにさ、色々あって、あたし酷いことしちゃったんだよね」

 

……思い当たる節がある。

あの夏祭りの光景が脳裏に浮かぶ。

 

「あたし、一年の時も同じクラスでさ、そこそこ目立つグループだったの」

 

それは初耳だ。

うちのクラスでは目立つグループなんていったら葉山のグループくらいしかいない。

きっと、そのせいで霞んでいるのだろう。

 

「でも、二年になってからは、由比ヶ浜さんは三浦さんのグループに入って、私は違う。どこか、嫉妬でもしてたのかもしれない」

 

普通は同じクラスの人と上がれば仲は良いままだろう。

けれど、高校は小中とは違って毎年クラスが変わる。

そうなれば、自分よりカーストの上の人間も現れるわけで、由比ヶ浜は気に入れられて、相模はそうではなかったのだろう。

 

「それで、夏休みに酷いことしたんだけど、そこに私の知ってる由比ヶ浜さんはいなかったの」

 

俺よりも由比ヶ浜を見ている相模だからこそ、感じるなにかが大きかったのだろう。

 

「元々、この役職だって軽い気持ちで始めた。けど、あの由比ヶ浜さんを思い出すたびに、だんだんそんな自分が惨めに見えてさ」

 

基本的に、他人と自分を比べるなんてのはナンセンスだ。

けれど、例外はどの場合にでも存在しうる。

 

「あんたにも責任ってのを見せつけられてさ、これを乗り越えれば、私も、何か変われるかもしれないって、そう思い始めてきたの」

 

どうやら、相模南は人を落として自分を上げる人間ではなく、自分を上げることの出来る人間のようだ。

 

「だから、柄にもないのはわかってるけど、頑張ってるのよ」

 

そう言うと再び、机に向き合い、作業を再開した。

根も葉もない噂、いわれのない悪口、そんな人間の悪意が伝染していく様はたくさん見てきた。

でも、こんな伝染を見たのは初めてだった。

悪口や噂のようなパンデミックを起こしはしないし、なんならこういう変化は広がる前に消されるのがおちだ。

けれど、由比ヶ浜結衣が見せたものは相模南に伝染した。

ならば、それを知った佐藤拓也はどうする。

黙って見過ごすか?くだらない理由と一蹴するか?

そんなのは、決まっているだろ。

 

「そっか、頑張ろうな、実行委員長」

 

頑張る人間の力になる。

たとえ過程がどうだろうと関係ない。

立ち向かう人間に寄り添うのが俺だ。

 

「……頼むわよ、補佐さん」

 

二人だけの会議室で俺はもう一度気合いを入れ直した。

 

 

 

 

 

 

 

 




昨日あんな後書きを残しましたが、14巻発売を自分なりに勝手に記念して無性に投稿したくなりました。
急いでいたので、誤字脱字や矛盾点が多いかもしれません。


感想の方でも、色々なルートが見たいとの声をいただいたので、新しいアンケートを設けたいと思います。
雪ノ下以外の個人ルートです。
もし、複数人がいい方は感想の方に、人物名なんかを書いていただけるとありがたいです。
それに伴い、アイディアの方も感想で募ろうかなと思っています。
要望やシチュエーション、何でも書いていただいて構いません。それを話に反映させていただこうかなと思ってます。
もし書かれなくても、自分なりの物語を書くので話が投稿されないという心配はなさらなくても大丈夫です。
番外編という形にするので、みなさんの意見を募るのもありかなと思い、こういう形をとりました。
前回のアンケートも沢山の回答ありがとうございました。

最後にもう一度、ここから投稿ペースが数ヶ月の間ガクッと落ちてしまうのでご理解いただきたいです。



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