もしも、比企谷八幡に友人がいたら   作:一日一善

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お久しぶりです。
割と久しぶりなので、矛盾してる部分や、支離滅裂な箇所があるかもしれませんが、そこは温かい目で見ていただけると幸いです。


第25話

定例ミーティングから一夜明けての放課後、教室の方では、海老名さんが大暴れしていた。

 

「なぁ、こんな感じだったか?俺たちのクラス」

 

「…化けの皮ってのは案外簡単に剥がれるんじゃねぇの」

 

なんだか久々に感じる親友に尋ねると、答えになっていない答えが返ってくる。

 

「そっちはどうなんだよ」

 

「それなりには順調だな、出来た補佐がいるからな」

 

「自画自賛かよ」

 

失礼な、仕事は真面目にこなしているのだから正当な評価と言っていただきたい。

時間を確認し、俺は文実へと向かう。

去り際に見た親友の顔はいつにも増して、どこか優しげに見えた。

 

 

 

 

 

 

教室を出て俺は会議室へと向かう。

定例ミーティングはないが、八幡にも述べたように出来た補佐であるため基本は会議室にいるのだ。決して自画自賛ではない、客観的事実でする。……多分。

その会議室の前ではいつもはない人混みができていた。

あまり面倒ごとに首を突っ込みたくはないが、会議室内に用がある俺は無視もできない。

だが、中を覗き込んで俺は後悔した。

 

「……げぇ」

 

思わず車に潰される直前のカエルのような声が出たが幸いにも向こうには気付かれていないようだ。

にしてもなんでいるんですか、雪ノ下さん。

 

「姉さん、何をしに来たの?」

 

俺の気持ちを代弁するかのように雪ノ下が問う。

 

「やだなー、わたし有志団体募集ほお知らせ受けたからきたんだって。管弦楽部OGとしてね」

 

……あの人管弦楽部だったのか。

勝手なイメージだけど、いろんな部活に顔出して助っ人として無双してそうなイメージだったから意外だ。

……いや、どんなイメージだよ。

 

「そう、もうしばらくしたら別の人が来ると思うから待っていればいいわ」

 

そう言って大した興味もなさそうに自分の作業に戻ろうとする雪ノ下。

 

「……ふーん」

 

対して少々不服そうな雪ノ下さん。

残念ながら今回のちょっかいは雪ノ下には効かなかったらしい。

そして戻ろうとする雪ノ下と目が合ってしまう。

 

「噂をすれば、彼に頼むといいわ、姉さん」

 

そう言い残すと今度こそ雪ノ下は自分の作業に戻ってしまう。

おいおい、あいつ薄っすら笑ってやがったぞ。

 

「ああ!佐藤くんじゃん!」

 

まるで水を得た魚のように絡んでくる雪ノ下さん。

いや、この場合は餌を見つけた捕食者の方が正しいのかもしれない。

 

「話はそれなりに聞いてました、有志自体は多いことに越したことはないので委員長も許可すると思います」

 

なるべくこの人とは佐藤拓也としてではなく、委員会の人間として話したいのだが、

 

「そっかそっか、それはそれとして、君、雪乃ちゃんに何かした?」

 

そう簡単には逃げられないらしい、恨むぞ雪ノ下。

 

「……なんでそう思うんです?」

 

「だって雪乃ちゃんがあそこで私に突っ込んでこないのが不思議だし、君は雪乃ちゃんの彼氏だしね!」

 

おふざけ半分、そして半分本音だろう。それより、それを俺に聞くってことは本当に雪ノ下の奴友達いないんだな。

 

「……それを見てどう思いましたか?」

 

この回答は陽乃さんの本心を知るいい機会だろう。

俺は未だにこの人を掴めていない、人としても、姉としても。

 

「そうだなー」

 

そうして一つタメを作って

 

 

「変わったなって感じたかな」

 

 

 

そのときの雪ノ下さんの表情は紛れもなく姉としてのものだろう。

あんな優しい表情は初めてみた。

 

だが、俺の胸中はとても複雑だった。

もし、本当に俺のおかげで雪ノ下雪乃が「変わった」と思っているのならこれほど悲しい事はない。

なぜなら俺が雪ノ下にかけた言葉はそれこそ、他愛のない友達との相談の中で生まれたものなのだ。

それで変わる、いや、「変われる」妹の雪ノ下と、それだけで「変わった」と喜ぶ姉の雪ノ下さん。

俺はこの時、初めてこの姉妹の歪さを見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「教師の方々との確認で遅れました、ごめんなさい」

 

既に殆ど散開していた人混みを少しかきわけ、我らが委員長が現れた。

 

「噂をすれば、彼女が委員長ですよ、雪ノ下さん」

 

マトリョーシカのようなやりとりをさせてしまい、雪ノ下さんには少し申し訳ない気持ちになる。

 

「は、初めまして、相模南です」

 

急な事で事態を飲み込めていない相模はそれでも彼女なりに対応している。

 

「ふぅん……」

 

雪ノ下さんは相模をまるで値踏みでもするかのように冷たい目をする。

 

「な、何か?」

 

その眼光に圧倒されたのか、声は萎んでいく。

俺としても、まさかいきなりこんな態度をとるとは思わなかった。

何が雪ノ下さんの琴線に触れたのか知らないが、このままでいるくらいなら俺がいじられている方がマシだと思い口を開く。

 

「とりあえず、書類は渡しておくので、また後日という形で」

 

「それを決めるのは委員長の仕事だよね?」

 

そう言ったこちらを少し一瞥すると、すぐに相模の方に向き直る。

ここまで相模に拘る明確な理由はわからないが、強いてあげるなら上に立つものとしての何かを見ているのかもしれない。

もしくは、形式上妹の上司である相模が気になるとか、……ないか。……ないよな?

どちらにしろ、俺に入る隙はないらしい。

 

「さっき雪乃ちゃんたちにも聞いたけど、有志団体として出たいんだけど、どうかな?」

 

「それは構いませんが…」

 

「確認とかしなくて大丈夫なの?」

 

「一応、大体のスケジュールは頭に入っているので」

 

「へぇ……」

 

……本当にコロコロと表情が変わる人だ。

出来る人間だと分かったのか、途端に目つきが変わった。

 

「そっか、そっか、今年はいい文化祭になりそうだね」

 

そう言い残して、城廻先輩の方に向かって行った。

遠目から見るに、どうやら二人は知り合いらしい、意外な交友関係と言えるだろう。

 

「…ねぇ、あの人誰?」

 

どこか不満げな表情で相模に問い詰められる。

 

「雪ノ下陽乃さん、雪ノ下のお姉さんだよ」

 

俺がそう言い終わると、相模は目で雪ノ下を確認する。

当の本人は気にもせず作業を続けているが。

 

「……そう」

 

相模も少し目線を雪ノ下の方に向けたが、大した興味もないのか、すぐに自分の作業に移っていった。

それを機に、集まっていた人間も完全にいなくなり、それぞれ作業に戻っていく。

ものの数分の出来事だったが、緊張したせいか喉が渇いていた俺は、飲み物を買いにその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ飲む人、本当にいるんだね」

 

マッカンを取り口から取り出して聞こえてきた声は、しばらく声を聞きたくない人のものだった。

 

「……まぁ、物好きってやつですよ。それで、まだ何か?」

 

「えー、冷たいなぁ、お姉さんと話すのは嫌なのかな?」

 

「どちらかと言えば」

 

「ひどい!けど、素直な子は嫌いじゃないぞ」

 

「はぁ、それで結局何の用で?」

 

雪ノ下さんは会議室の時と比べ、かなりフランクにみえる。

 

「君の口からまだ聞いてないからね」

 

「何を?」

 

「雪乃ちゃんに何をしたかだよ」

 

まただ、また優しい顔を覗かせた。

何故こうも雪ノ下の話になると姉としての顔を見せるのだろうか。

俺に兄弟はいないが、やけに仲のいい兄妹を近くでみてきたからか、些細な表情の違いは何となくわかる。

ただ、会議室での態度や、普段の様子を知っているのでこの表情を見せることが腑に落ちない部分もある。

 

「そういうのって普通、本人に聞くもんじゃないんですか?」

 

いい加減喉が渇いた俺は手に持っているマッカンの蓋を開ける。

 

「そうしたいけど、私は雪乃ちゃんに嫌われてるしさー」

 

そう語るものの、悲壮感は感じられない。

 

「大したことは言ってないですよ、ただ、もっとお前らしくていいんじゃないか、本当にそれだけですよ」

 

「……そっか、そっか」

 

確認するかのように、そして何かを噛み締めるように雪ノ下さんは呟いた。

 

「これで満足です?」

 

というよりこれ以上は本当に何もないから満足してもらわなければこちらとしても困るのだが。

 

「うん、その件は満足かな」

 

……その一件しか心当たりはないんですけど。

 

「それともう一つ、これは私が気になってることなんだけどさ、君は雪乃ちゃんのこと本当のところはどう思ってるのかな?」

 

「……本当、というと?」

 

「そのままの意味、今の佐藤くん自身が雪乃ちゃんをどう思っているかだよ」

 

……この質問の明確な意図はわからないが、少なくとも、雪ノ下さんが「ただの友達です」なんていう安易な答えを望んでいないのはわかる。

 

「少なくとも俺は、友達でいたいとは思ってますよ」

 

俺自身は紛れもなく本心からそう思っている。けれど、相手の価値観や考え方次第でそんな些細な願いが叶わないこともある。

 

「ただ、雪ノ下のことを考えるなら、俺は知り合いくらいが丁度いいと思いますね」

 

「へぇー、深入りはしないってこと?」

 

「まさか、そんなこと気にしてたらあいつの親友なんかやってませんよ」

 

「あいつ?」

 

「……目が死んでるやつです」

 

「ああ〜!あの面白い彼ね」

 

それで通じるのは良いのか悪いのかわからんな。ただ、通じるだけ八幡からしたら良いことと言えるかもしれない。

 

「ともかく、そんな理由じゃないですよ」

 

「じゃあ、何でかな?」

 

何をそこまで期待しているのかは分からないが、ここまで来て今更引くわけにもいかないので、正直に思っていることを吐き出す。

 

「雪ノ下さんも知ってるかもしれませんが、雪ノ下には友達がいません」

 

「これまた、はっきり言うね」

 

そう言いながら否定しないあたり、雪ノ下さんの目から見てもやはりそう見えるのだろう。

 

「あ、わかりづらいから私は下の名前でいいよ」

 

「そうですね、この場では陽乃さんと呼ばせていただきます」

 

「え〜、別にずっとそのままでもいいのに〜」

 

面倒臭いことになりそうなので嫌です。あと、肘で突っつくのやめてください。

 

「話を戻しますが、世の大抵の人は友達や、仲の良い人っていうのを少なくとも幼少期に一度は持つものです」

 

陽乃さんも静かに肯定する。

 

「そこから、年を重ねていく毎に友人となる条件の取捨選択を繰り返して、自分の中で明確にこいつは友達だと言える基準のようなものができると思うんですよ」

 

「でも、その基準を雪乃ちゃんは持ち合わせてないってことかな?」

 

「はい、所詮憶測に過ぎませんが」

 

だから分からない、人との距離感が、その距離の詰め方が。

 

「そこを踏まえて、俺が一番恐れているのは友人と恋人を勘違いすることですね」

 

「ほうほう、だから君は知り合いでいいってこと?」

 

「ええ、別に俺が恋人になるなんて微塵も思っちゃいないですけど、人との距離の取り方が曖昧な雪ノ下にはそんな勘違いが起こる可能性も捨て切れないんですよ」

 

普通の学生でも、友達から恋人になんて話はよくある。が、雪ノ下に対してのそれは雛の擦り込みに近い。異性と仲のいいこと今の関係を恋人と言われても、そんなわけないと一蹴しきれないのが今の雪ノ下だ。自分を曲げないからこそ、嘘がつけないからこそ、自身が経験したことのない状況では手も足も出ない。

そして、友人関係においてこれ以上に面倒臭いことはない。

 

「……へー、佐藤くんも律儀だね〜」

 

色々と俺の考えていることを察したのか、陽乃さんは感慨深そうに関心している。

 

「どちらにしろ、そんな歪な関係は長続きしないですよ、それに男女の友情なんて付き合って別れて初めて成立するものだと思ってますし」

 

「中々深いこと言うね、そういう経験があるのかな?」

 

やけにグイグイくるな、こんなに質問する人だっただろうか。

 

「残念ながら、けれど、あながち間違いではないと思ってますよ」

 

異性の友人、そこに完全に好意がなく、友情だけを感じるかと聞かれて、イエスと答えられる人がどれだけいるだろう。男としての目線から言わせてもらうとそんなことは不可能だ。もちろん友情が大半占めているのは確かだ、しかし、その友人の女の子らしさや、女性らしさを見て何も思わないほど達観した存在になったつもりはない。近くに来た時のなんとも言えない特有の甘い香り、髪を耳にかけるような些細な仕草でも、興奮を覚えてしまうのが男子高校生、否、男としてどうしようもない部分であるからだ。そんな状態で仲もいいときた、全く好意を抱くなというほうが無理な話というものだろう。

 

 

 

「その考えでいくと、佐藤くんは雪乃ちゃんと付き合うのかな?」

 

 

 

一瞬息が詰まる。あぁ、とんでもない墓穴を掘ったものだ。まさしく絵に描いたような自爆と言えよう。これくらい見逃して欲しいものだが、この人の前ではそうはいかない。

 

「……そうですね、雪ノ下がきちんと自分を理解しているのなら、告白の一つでもするかもしれないですね」

 

「ふーん、否定しないんだ」

 

こちらのことを弄ぶように挑発してくる陽乃さん。

 

 

 

「雪ノ下に振られるならそれはそれで感慨深いですしね」

 

 

 

俺がそう言うとポカーンとした表情をした後、大声で笑い出した。

 

「どこに笑いどころあるんですか……」

 

突拍子のない笑いに困惑する俺を他所に、陽乃さんは笑い続ける。そうやって一頻り笑ったあと、ようやく陽乃さんは喋り出した。

 

「……あ〜、久々にお腹抱えて笑ったよ」

 

まだ笑い足りないのか、時たまピクピクと動いている。何がツボに入ったのかさっぱりだが、こちらとしても特に不快でもないので、ただただ奇妙に思えて仕方がない。

 

「いやー、やっぱり、佐藤くんは面白いね」

 

「別にわざと道化を演じてるつもりじゃないんですけど」

 

ここで初めて思い出したかのように俺はマッカンに口をつける。相変わらず甘ったるい味が口一杯に広がる。

 

「雪乃ちゃんに振られて感慨深いなんて言うのは君くらいだよ」

 

そこがツボですか、長年雪ノ下を見ている身内だからこそわかるものなのかもしれない。そこばかりは俺の知りようのない話だ。

そして、残りのマッカンを飲み干そうとした直後だった。

 

 

「どう?雪乃ちゃんに振られたら私と付き合うっていうのは」

 

 

 

この時、俺は初めてこの先もこの人を理解できないかもしれないと感じた。

否、この人の場合は寧ろ理解しない方が正しいのかもしれない。

思考も、動作も止めた俺に構うことなく陽乃さんは話を続ける。

 

「自覚はないかもしれないけど、君みたいな子は中々いないからさ、それに私としても佐藤くんには興味あるしね!」

 

俺が欲しいのはその可愛らしいウインクではなく、そこに至るまでの経緯なんですけど。

 

「どうかな?」

 

だがしかし、そこを話す気はないらしい。それにしても、この場で聞くというのは実にいやらしい。ここで答えるにしろ、後に答えるにしろ、陽乃さんと何かしらの繋がりができてしまう。今までは友人の姉で済んでいたが、これからは陽乃さん個人に関わりを持つことになるわけだ。まさに今の俺は目の前の餌に釣り糸があるとわかっているのに喰いつかないといけない魚と同じだろう。

 

「それ、本気で言ってます?」

 

下らない冗談という可能性にかけ、肩を竦め、少し戯けた様子で確認してみる。

 

「本気だよ」

 

帰ってきたのは真剣なものだった。俺が望む回答の中で最も難しいものといってもいい。当然嘘と言う可能性も捨て切れないが、この質問の答えが真面目なのは何となく伝わる。それを裏付けるのはこちらをまっすぐ見据える目だ。目は口ほどに物を言うとはまさにこのことだろう。

今の俺を側からみれば、年上の抜群の美貌を持つお姉さんに冗談抜きで告白されているのだ。こんなに羨ましいことはそうそうないだろう。普段の俺であれば即決したかもしれない。

 

 

しかし、真偽がどうあれ本気とわかった今、俺はどうやって断るかを考えなければならないのだ。

 

 

「今回はお断りさせていただきます」

 

その理由は単純、ことの発端を思い出せばすぐにわかる、元の話題は雪ノ下に何をしたかだ。これを順を追って確認しよう。これは恐らく、雪ノ下が変わった理由を俺に絞ったからこんな質問をしたのだろう。これは雪ノ下の拙い交友関係を見ればすぐにわかるし、何度か会っているから尚更だ。

その上で、陽乃さんが俺個人に接触を図ったのは友人ではなく、男女の関係があるのかを確認したかったのではないかと推測する。それこそ、恋人のような。まぁ、そこを否定するためにああいう話をしたのだが。

 

「今回はってことはまだ脈アリだったりするのかな?」

 

考えも纏まらないうちに陽乃さんは畳み掛けてくる。

本当にいやらしい人だ。まるでこちらの考えを知った上で一歩先を行くようなそんな錯覚を覚える。

 

そして肝心の告白紛いの行為に至った訳は雪ノ下に振られる云々の話をしたあたりにあるだろう。あそこで笑った理由、それが恐らくトリガーなのはわかる、わかるのだが、残念ながらこれ以上の情報を俺は持ち合わせてない。正直言ってお手上げだ。

だからこそ、本気と言った理由がわからない。

しかし、この告白を受けることが悪い方に行くのは容易に想像できる。前述通り、この話題の発端は雪ノ下についてであり、陽乃さんについてではない。よって、原則としてこの話題で尊重されるべきは雪ノ下なのだ。その雪ノ下を差し置いて陽乃さんの告白を受けるのは目に見えた地雷を踏み抜くのと同じだ。

しかしまぁ、こう考えると、八幡の小町ちゃんに対する愛憎孕んだ愛情と似たようなものを感じる。俺の周りの兄妹、姉妹は何故こうも複雑なのだろうか。

 

「そうっすね、可能性を自ら断つのは好きじゃないので」

 

長々と考えてみたが、結局俺がやることは一つ、陽乃さんを立てて断ることだろう。本気の真偽も理由も不明のままだが、この場合はこうすることで理由の内容など関係なく、相手を納得させられる。

要するに問題の先延ばしだ。

これでこちらから関係を作ることも、本気の真意を理解する必要もなくなるわけだ。

 

 

 

「そっかそっか、じゃあまた今度二人で会おっか」

 

 

 

…………参りました。

そこから連絡先を聞かれ、俺の考えが全て玉砕したあたりから、会議室に戻る間のことはあまりよく覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって、雪乃ちゃん」

 

茫然自失となった彼を見送った後、一緒に来ていた雪乃ちゃんに声を掛けてる。

 

「…………」

 

「あんまり遅いようだと、本当に私が貰っちゃうかもね」

 

「…………」

 

足音が聞こえる、雪乃ちゃんが戻っていったのかな。

憎まれ役も大変だなぁ。でもこれも雪乃ちゃんのためだから頑張らないとね。

それにしても

 

「佐藤くんか……」

 

今度会うときが楽しみだなぁ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ」

 

「……なんだ」

 

まるで最初から掌の上で遊ばれたかのような敗北感を味わい、会議室で打ちひしがれている俺に声をかけてきたのは雪ノ下だった。

 

「こ、今度どこかにいかないかしら?」

 

唐突だな。

 

「別にいいけど、なんかあるのか?」

 

「え、ええ」

 

なんか変だな。

 

「それって俺じゃなきゃダメなのか?」

 

「別にそういうわけではないのだけれど……」

 

それでも俺を誘ったのか、真面目にお前の友人関係が心配だぞ。

 

「じゃあ、奉仕部で行けばいいんじゃないか、あいつらも誘えばなんだかんだついてくるだろうし」

 

「……それもそうね」

 

何やら腑に落ちない様子だが、納得はしたらしい。

時たま「まずは由比ヶ浜さんからかしら」みたいな独り言が聞こえるが、暗殺でも始めるのだろうか。

さて、面倒くさい事が増えたが、最優先は文化祭の成功だ、そう気合いを入れ直し、俺は書類を片付け始めた。

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず、コロナで色々大変だったと察していただけるとありがたいです。
それと、この話が一応分岐点になります。
もし陽乃さんルートを書くことになれば、ここからになります。
そのため、少しややこしいです。申し訳ない。
他のキャラも似たような話をどこかで挟むつもりです。
本編と絡めた場合のいろはすの話も需要があればやります。
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