もしも、比企谷八幡に友人がいたら   作:一日一善

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誤字脱字は申し訳ないです。


第4話

チャイムが鳴り四限が終わった。昼休み、二年F組の教室は今日もいつもと変わらない喧噪に包まれていた。

 

「悪い八幡、トイレ行ってくるわ」

 

「おう」

 

拓也は大抵の場合俺と一緒に飯を食う。別のやつと食べる時もわざわざ断りを入れる。本当に律儀なやつだ。

 

少しの間暇になったので、小説なり漫画なりを読んで過ごそうと漁ってみるが、読みさしの本は昨日、部室に置いてきてしまったのを思い出した。十分休みに取りに行けばよかったかもしれない。

今度こそ本当に暇になってしまったので教室を見渡してみる。主だって目立つのは前後の集団だろう。

前方の彼らはPSPを持ち寄ってアドホック狩りをしている。確か小田と田原とかいったか。

 

「ちょおま、ハンマーとか!」

 

「ガンランスでジェノサイド余裕でした^ ^」

 

実に楽しそうである。正直言って交ざりたいくらいだ。

マンガ、アニメ、ゲームは一昔前ならぼっちの独壇場だったのだが最近は一種のコミュニケーションツール化していて、彼らのような人々に交じるのにもコミュ力を要する。

しかし、悲しいことに俺の中途半端な容姿ゆえに彼らに交じると陰では「にわか」「嘘非モテ」とか陰で叩かれる。どうしろってんだよ。

 

だいたい昔から「いーれーてー」の一言が言えない子供だったもんだからクラスのレクリエーションでフットベースをやるとき最後まで残ってたんだぜ?泣けてくるだろ。

おかげで運動自体は苦手でもないのにスポーツが苦手になってしまった。野球とか好きなんだけど小さい頃はひたすら一人野球をしていたこともある。……いつかキャッチボールでも頼んでみるか。

 

一方でそうしたコミュニケーションが実にスマートで得意な人種もこのクラスにいる。教室の後ろにいる連中がそうだ。サッカー部二人とバスケ部の男子二人、女子三名。その華やかな雰囲気から一目で彼らがこのクラスの上位カーストにいることがわかる。ちなみに由比ヶ浜もここに属している。その中でもひときわ眩い輝きを放つ二人。

葉山隼人。

それがあの連中の中心にいる人間の名だ。オサレ系イケメン男子である。なめとんのか。

 

「いやー、今日は無理だわ。部活あるし」

 

「別に一日くらいよくない?今日ね、サーティワンでダブルが安いんだよ。あーしチョコとショコラのダブルが食べたい」

 

「それどっちもチョコじゃん(笑)」

 

「えぇー。全然違うし。っていうか超お腹減ったし」

 

そう声を荒げているのが、葉山の相方・三浦優美子。

三浦の顔立ちは綺麗で整っているのだが、派手な格好と頭の悪そうな言動のせいで俺は好きではない。というか、もう純粋に怖い。

だが、葉山にとっての三浦は恐怖の対象ではないらしい、むしろノリのいい話しが合う相手、という認識のようだ。意外と言えば意外なことに拓也ともわりと話しているところを見る。両方我が強いと思うのだが話は合うのかだろうか。

 

「悪いけど、今日はパスな」

 

仕切り直すように切り出すと、葉山はスマイル全開で声高に言った。

 

「俺ら、今年はマジで国立狙ってっから」

 

「ぶはっ……」

 

思わず笑いがこみ上げてくる。なんかカッコいいこと言っちゃったみたいな雰囲気でてるのがもうね、ほんとダメ。

 

「何一人で笑ってんだよお前……」

 

トイレから帰ってきた拓也に引き気味な顔で声をかけられる。

 

「いや、あいつらの会話がな、別に聞こうとかじゃなくて声が入ってくるんだよ」

 

「あぁ、あいつらの会話か、お前から見たらそうなるわな。俺も自分からはそんな話さねーし」

 

それを聞いてふと疑問に思い聞いてみる。

 

「お前、三浦とか、由比ヶ浜とかとは喋ってるじゃねーか」

 

「あいつらと話すときは基本一対一だしな。あの集団とは話したいなんて微塵も思わん。それに、俺嫌いなんだよ、葉山」

 

そう言う拓也の顔は少し眉を潜めていた。

 

「珍しいな、人の好き嫌いが滅多にないお前が嫌いって言い切るのは」

 

「お前も、あいつの近くにいてみればいつかわかるさ」

 

「別に分かりたくもねーよ」

 

それを聞くと拓也は少し笑いながら俺の隣の席に座った。そんな俺たちをよそに教室の後ろが少し騒がしくなっていた。原因は少し前からはっきりしない態度を取っていた由比ヶ浜に三浦がキレたようだ。

 

「だーからー、ごめんじゃなくて。なんか言いたいことあんでしょ?」

 

イラついた声色で放たれた言葉は由比ヶ浜へと容赦なく向けられていた。

 

あほくさ。せいぜい身内で潰しあえよ。もそもそとパンを咀嚼し、飲み込んだ。だか、何かが、パン以外の何かが喉元にわだかまっていた。

……まあ、なんっつーの?

別に助けてやろうなんて気はないんだけどよ、知ってる女の子が目の前で泣きそうになっていると胃がきゅるきゅるして飯がまずくなるんだよ。それに、そうやって攻撃されるポジションは俺のものであって他の誰かにやすやすと譲ってやるわけにはいかないわけだ。

あー、あとあれだ。

 

……気にいらねぇんだよこの野郎。

俺は机をがたっと鳴らして颯爽と立ち上がった。

 

「おい、その辺でーー」

 

「るっさい」

 

ーーやめとけよ。と言いかけた瞬間、三浦がこちらをにらんだ。

 

すごすごと座りなおす俺の存在を無視して三浦は由比ヶ浜を上から見下ろす。

 

「あんさー、ユイのために言うけどさ、そういうはっきりしない態度って結構イラっとくんだよね」

 

由比ヶ浜のためと言いながらも最後は三浦の感情や利害のためになっていた。しかし、三浦の中では矛盾ではない。彼女はこのグループにおける女王だからだ。

 

「……ごめん」

 

「またそれ?」

 

三浦が呆れてと怒りを混じらせながら鼻で笑った。由比ヶ浜はさらに萎縮してしまう。

 

もうやめろよ、そういうの見てる側も気を使うんだよ。俺はもう一度、なけなしの勇気を振り絞る。どうせこれ以上嫌われようがないんだ。リスクゼロで勝負できるならそう悪い話じゃない。

俺が、立ち上がり二人のもとへ向かおうとすると、肩を拓也に掴まれた。

 

「ったく、そこでまた立ち上がれるお前はやっぱすげぇよ。……けど、バトンタッチだ、俺が丸く収めてくるからよ」

 

あいつが立ち上がって向かうのと同時にドアに見知った影を見た。

 

「謝る相手が違うぞ、由比ヶ浜」

「謝る相手が違うわよ、由比ヶ浜さん」

 

その二つの声は、かたや聞く者の身を竦ませる、けれども極光の如く美しい声。かたや聞く者を諭すように語りかけた。

しかし、視線の方は雪ノ下ばかりに集中していた。その存在に誰もが見惚れていた。完全な無音。それを切り裂いたのは雪ノ下ではなく拓也の方だった。

 

「被んなよお前……」

 

不覚にも吹き出してしまうところだった。この空気の中でそれを雪ノ下に言えるのはお前くらいだろ。由比ヶ浜見てみろよ、さっきのが嘘みたいにアホな表情になっちまってるぞ。雪ノ下にいたってはこめかみ抑えてため息ついちゃってるし。

 

「……あなたには色々と言いたいことはあるのだけれど、その前に、由比ヶ浜さん。あなた自分から誘っておきながら待ち合わせ場所に来ないのは人としてどうなのかと思うのだけれども。遅れるなら連絡の一本くらい入れるのが筋ではないの?」

 

その言葉を聞いて意識をこちらに戻した由比ヶ浜が雪ノ下のもとへと向かう。

 

「……ご、ごめんね。あ、でもあたしゆきのんの携帯知らないし……」

 

「……そう?そうだったかしら。なら、一概にあなたが悪いともいえないわね。今回は不問にするわ」

 

「お前ら結構一緒にいるのに連絡先も知らなかったのかよ……。あ、俺も雪ノ下のは知らねぇから後で教えてくれよ」

 

「なぜ、あなたにも教えないといけないのかしら……」

 

「ええ、いいじゃん、なくて困ることはあっても、あって困ることはないんだし」

 

彼らは周囲の空気などまるで読まずに、自分勝手に話を進める。すがすがしいまでにマイペースである。

 

「ちょ、ちょっと!あーしたちまだ話終わってないんだけどっ!」

 

ようやく硬直から解けた三浦が由比ヶ浜に食ってかかる。

 

「何かしら?あなたと話す時間も惜しいのだけれど。まだ昼食をとってないのよ」

 

「は、はぁ?いきなり出てきて何言ってんの?今、あーしがユイと話してたんだけど」

 

「おいおい、まてよ三浦、さっきのお前のそれは会話じゃなくて一方的に自分の意見を押し付けただけだろ」

 

「なっ⁉︎」

 

「そうね、気がつかなくてごめんなさいね。あなたたちの生態系に詳しくないものだから、ついつい類人猿の威嚇と同じものにカテゴライズしてしまったわ」

 

「〜〜っ」

 

「お前容赦ないな……こぇーよ」

 

「そうかしら?お山の大将気取りで虚勢を張るのは結構だけど、それを外に出すのがどうかと思っただけよ」

 

「……はっ、何言ってんの?意味わかんないし」

 

負け惜しみじみたことを言うと、三浦は倒れこむように椅子に座り、イライラと携帯をいじり始める。

そのすぐ傍で、由比ヶ浜が立ち尽くしていた。何か言いたげにきゆっとスカートの裾を握る拳に力を入れた。由比ヶ浜の意図を察したのか、雪ノ下は先に教室を出ようとする。

 

「先に行くわね」

 

「あ、あたしも……」

 

「……好きにすればいいわ」

 

「うん」

 

さらに由比ヶ浜に小声で拓也が呟いた。

 

「あとは任せて行ってこい」

 

「うん!」

 

気づけば、クラスの大半がそれぞれ理由をつけて教室から出ていた。その波に合わせるようになるべく音を立てないように由比ヶ浜の横を通り過ぎる。そのとき、ぼそっと小さな声が聞こえた。

 

「ありがと、さっき立ち上がってくれて」

 

 

 

 

 

 

「三浦」

 

「……何だし」

 

「ガキかお前は」

 

俺はそう冷たく言い放つ。周りの連中もこのタイミングで火に油を注いだ俺に驚く。

 

「なっ……!あんたねぇ!」

 

次第に三浦の顔が怒気を露わにして俺を睨みつける。

 

「何睨んでんだよ、確かにはっきりしない由比ヶ浜も悪いが、お前のそれはただの仲間意識の強要だ。友達だから、仲間だから、だから何してもいい。雪ノ下の言葉を借りればまさしくお山の大将だな。見てるこっちも気分が悪いんだよ」

 

俺は容赦なく言う。しかしそれは、三浦優美子という人間がこの程度で折れることなどないのを知っている。

 

「っ……、そうね、あーしも悪かったかも」

 

俺は別段なんとも思わんが、これに驚くのは周囲の人間だ、三浦にガツンと言える人がいないのだろう。特に葉山の信じられないものを見たような顔は傑作だったと言っておこう。

 

「ったく、お前の悪い癖だな、友達だというのならもっと周りを見るんだな、お前が思ってるより由比ヶ浜はちゃんとしてるとこもあるんだよ」

 

そんな俺の言葉を見計らったように由比ヶ浜が戻ってきた。こちらに任せておけと言ったにも関わらずだ。

 

「……あの、ごめんね。あたしさ、人に合わせないと不安ってゆーか……つい空気読んじゃうっていうか…、それでイライラさせちゃうこと、あった、かも」

 

「…………」

 

「でも、ヒッキーやゆきのんとかたっくん見てて思ったんだ。周りにだれも誰もいないのに楽しそうで、本音言い合ってお互い合わせてないのに、なんか合ってて……」

 

由比ヶ浜の嗚咽を漏らす声が聞こえたのか、雪ノ下が教室の中の様子を窺おうとするのが見えた。素直じゃない奴だな。

 

「だからね、あたしも無理しないでもっと適当に生きよっかなーとか、……そんな感じ。でも、別に優美子のことが嫌いだってわけじゃないから。だから、これからも仲良く、できる、かな?」

 

「……ふーん。そ。まぁ、いいんじゃない。……あーしも悪かったし」

 

「……ごめん、ありがと」

 

ぱたぱたと由比ヶ浜が上履きを鳴らながら教室を後にした。

 

「な?」

 

「……うっせーし」

 

今回の騒動の元を辿ればはっきりしない由比ヶ浜の言い方だ。こいつは、由比ヶ浜は友達だから、だから言いたいことがあるなら言って欲しかったと思っていたのだろう。それが三浦にとっての友達のあり方なのかもしれない。たしかに、言いたいことを素直に友達に言える関係は素晴らしいものだ。

だが、彼女の周辺の友達は俺にはそんな関係には見えなかった。

 

 

 

 

雪ノ下は俺の方など気にもかけず、さっさと廊下の向こうへと消えていく。おそらく由比ヶ浜との待ち合わせ場所に向かったのだろう。

がらっと教室の戸が開いた。

 

「え?な、なんでヒッキーがここにいんの?」

 

俺はぎこちない動作で右腕をあげ、うす、とごまかす。

 

「聞いてた?」

 

「な、何をでせう……」

 

「聞いてたんだっ!キモい!ストーカー!信じらんない!マジでキモい。や、もうほんとマジキモいから」

 

「少しは遠慮しろよ!」

 

さすがの俺も悲しくなっちまうだろうが。しかも最後真顔で言うんじゃねぇよ。リアルで傷つくだろ。

 

「はっ、今更遠慮するわけないでしょ。誰のせいだと思ってんのよ。ばか」

 

由比ヶ浜はそのまま走り去っていった。廊下走んな廊下。

 

「誰のせいって……。そりゃあいつら、だよな」

 

時計を見れば休み時間もあとわずかになっている。昼休みももう終わりだ。スポルトップでも買って喉と心の渇きを癒そう。

購買へと向かう途中、ふと思い返す。

オタクにはオタクのコミュニティがあり、あいつらはぼっちじゃない。リア充になるには上下関係やパワーバランスに気を使わなくちゃいけないので大変。

そう思うと、何だかんだ俺とあいつの関係は丁度いいものなのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回の材木座はそこまで掘り下げてかけません。ご容赦ください。
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