ついに魔王を追い詰めた勇者くんとヤンデレちゃん。しかし魔王の反撃によりヤンデレちゃんは致命傷を負ってしまう。
最早これまでとヤンデレちゃんが勇者くんに明かした真実とは…。

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急にアイデアが浮かんできたので。


思い切り振り上げた。

 ドクドクと溢れ出す血が無機質な石の床を汚していく。

 豪華な装飾がなされた剣が女の腹を真っ直ぐ貫いていた。女は浅く呼吸を繰り返し、痛みに堪えるように身を縮こませ、愛する人が無事にやってくるのをひたすらに待つ。

 

「キョウコ」

 

 しばらくして男がやってきて、女の名を呼んだ。それに応えるように女も「勇者様」と男を呼んだ。

 勇者と呼ばれた男はバツが悪そうに言う。

 

「勇者ってのは止してくれ…俺のガラじゃない。ほら、故郷にいたときみたいに呼んでくれないか?」

 

 懇願するような瞳。それを見た女、キョウコは薄く笑いながら「ユウキ」と彼の名を呼んだ。そして腹を貫く剣と彼を見比べ、悔しそうに言う。

 

「私、やられちゃった」

「ああ」

「多分このまま死んじゃう」

「ああ」

「だからね、最期までお話しよう?」

「…ああ」

 

 ユウキはどかりと音を立ててその場に座り込んだ。その衝撃で着込んでいた鎧がガシャリと音を鳴らす。

 

「鎧、だいぶボロボロになっちゃったね。魔王はちゃんと殺した?」

「念入りに殺した」

「私が刺された時、凄かったもんね。…ねえ。私が居なくなるのは嫌?」

「嫌だ」

「ふふ、嬉しい」

「……」

 

 そのまま二人は黙り込む。動く者の居なくなった魔王城の中で、キョウコの浅い呼吸だけが響いていた。

 ただ、この時間はいつまでも続かない。最期になってしまったが、ユウキはキョウコに素直な気持ちを吐露しようとした。

 

「キョウコ。お前は俺にずっとついてきてくれたよな」

「うん」

「あれな、すっごく感謝してる」

「うん」

「お前の魔法、すごかった。とくにあのドカーンって燃えるやつ」

「ナパームの魔法?」

「そう、それ。敵に囲まれたときとか何度も助けられた」

「えへへ」

「だからよ、その…ありがとう」

「うわ、君の口からありがとうなんて言葉が出るなんて」

「なんだとこのっ」

 

 怒ったように拳を振り上げるユウキと笑い声を上げながら逃れようとするキョウコ。しかし躰を揺すった際に剣が深く食い込み、キョウコはうめき声をあげた。

 

「あ、い、たた…」

「あ、すまねえ…」

「ううん。いいの。最期まで湿っぽいのは私達らしくないじゃん」

「…キョウコ」

「ね、私も言いたいことあるの。ホントは墓の中まで持って行くつもりだったけど、欲が出ちゃって」

 

 タハハ、なんて笑いながら彼女は頭を掻く。綺麗な髪の一部が赤く染まった。

 

「私ね、ユウキの事がだーいすきなの」

「……知ってる」

「茶化さないの。それでね、君の色んな顔を観察するのが趣味でね」

「…」

「笑ったり、喜んだり、悲しんでいる顔はよく見たけど、怒った顔は今までで二回しか見たこと無いの」

「…村のみんなが殺された時と、お前が刺された時?」

「せいかーい!…げほっ。それでね、村に居るときなんか一度も見たこと無かったから、見てみたいな~なんて思ってね」

「お前、変わってんな」

「だからね、どうやったら怒るか色々試したの。水瓶ひっくり返したり、落とし穴作ったり…」

「ああ、あれな…」

 

 ユウキはげんなりとした顔で遠くを見つめた。まさかそんな理由だったのかと、数年越しの真相解明で辟易としている。

 

「でもね、それでも君は怒らなかった」

 

 キョウコがずいと顔を寄せた。さらに食い込んだ剣によって傷口から血が噴き出し始める。

 

「だから村を焼いたのよ」

 

「え…?」

 

 その言葉でユウキの思考は止まった。

 

「あの、ドカーンってなるナパームの魔法でみーんな燃やしたの。そのときの君の顔、凄かったぁ…」

 

 まるで恋をしている乙女のように顔を赤くする彼女。ユウキが固まっているのを見て、彼女はそのまま独白を始めた。

 

「あの時期って魔王が復活したって噂で持ちきりだったでしょ?だからそれを利用したの」

「あ…」

「おかしいとは思わなかった?他の村に被害なんてないのにここだけ皆殺しにされるなんて。勇者だなんてのも後から付いてきた称号だったし、襲われる理由が無いでしょ?」

「おまえ…」

「あはっ、いい顔になってきた。魔王を倒す旅の途中で怒った顔を見れるかと思ってたんだけど…アテが外れちゃった。だからね、この旅が終わった後で君の幸せな顔を集めようと思ったんだけど、もう死んじゃうでしょ?」

「おまえーーっ!!」

「だからね、最期に全部ぶちまけて、怒ってもらおうと思ったの」

 

 キョウコは目を見開き、ユウキの顔をじっと見つめる。

 怒りに狂った彼の顔を蕩けたように見つめる彼女。ユウキは怒りのままに彼女を押し倒し、腹に刺さった剣を握った。

 

「その顔、とっても素敵だよ。ばいばい、ユウキ。だーいすき」

 

 そして彼は剣を握る手に渾身の力を込めて、




焼かれた(尊敬語)


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