深夜の街を、徘徊する二人の男がいた。
一人は、中肉中背の青年であり顔立ちから日本人だと分かる。
もう一人は、ヨーロッパ系の風貌をした偉丈夫。
深くフードを被り、場違いにも大きい杖を持つ男だ。
しかし、彼らの纏う空気は日常とはかけ離れた剣呑な物だ。
「来たか」
その声に反応してか、男達の周囲から硬い何かが擦れるような音がした。
街の路地裏から、下水のマンホールから、草木の中から、まるで合流するように黒い影が、音の正体が現れる。
暗闇の中で赤く光る眼光、その異形の姿が月光で顕になる。
それは蟲だ、蟲の群れである。
蟲、蟲、蟲、群体のそれはまるで濁流のようであり、それでいて一人の男に制御されている。
人の金切り声、屠殺される直前の動物の声、そんな人に不快感を与えそうな特有の音を蟲達は奏でる。
それは、その異形の蟲が発した声である。
「おう、マスターよ。それで、奴さんは見つかったのか」
「あぁ、彼女の見立て通り倉庫街にいるようだ。しかし、驚いたな。アサシンの姿を確認した」
「ハッ、そうだと思ったぜ。暗殺者か、くだらねぇ。小賢しい策を弄する魔術師もだ。索敵から発見までの時間は短く、殺気のない暗殺者、惜しみなく宝具を使い、それでいて堅牢な城塞化を施しながら監視する使い魔を野放しにする杜撰さ、これが茶番でなくて何だという」
「知らなかったが、意外と博識なのだな。その戦場を見通す目は、流石はケルトの戦士」
「応とも、槍でないのが惜しいが俺の戦働きに目を見開いて腰抜かすなよ、マスター」
「あぁ、期待しているぞ。キャスター」
会話は短く、目的を確固たる物にした二人は敵がいる倉庫街に移動する。
一人は尋常ならざる走りで街を駆け抜け、もうひとりは蟲に腰掛け濁流に身を任せるようにして流れるように移動する。
そう、何を隠そう彼らは聖杯戦争に参加する魔術師と従者。
間桐の参加者とサーヴァントという日常とはかけ離れた存在だった。
一定のリズムを奏でるように、それでいた不規則な間隔で金属が擦れ、削れ、ぶつかりあう音が響く。
地面を駆る音、風を斬る剣戟の音、首筋の後ろに特有の寒気が走る緊迫した戦場の空気、心臓が騒々しく荒ぶる特有の雰囲気がそこにはあった。
「あれがアインツベルン、そしてセイバー……」
「落ち着けよマスター、感情を乱すと早死するぜ」
「そうだな、キャスター。それで、あれはランサーか」
「ケルト式の装束、左肩に装甲、左利きか。筋肉の付き方と足運びから剣も嗜んでやがる。間合いのとり方が槍にしては近すぎる、だが良い腕だ」
「見ただけでそこまで分かるのか」
赤い穂先の長槍、黄色い穂先の短槍、聞きかじった情報によればそれは破魔と呪いの槍。
だが、彼らは与えられた情報を鵜呑みにするほど間抜けではなかった。
そのため、彼らは少し離れた倉庫の上から戦場を見下ろしていた。
周囲に虫を徘徊させ、狙撃も警戒した上でだ。
「痺れを切らしたか、マスター動くぞ」
「あぁ、お互いの間合いを読んでの斬り合い、だが情報の通りなら」
セイバーとランサーが互いに向かって駆け抜ける。
ランサーは不敵な笑みで、その鋭い赤い槍を、宝具の開帳を許され十全に使うことの許された槍を振るう。
対するセイバーはその動きを読み、必要最低限の間合いを読んだ上で、そして斬り掛かる前に腹部を斬られた。
動揺、追撃、身を捻ることでセイバーは攻撃から身を守る。
読みが、外れた瞬間だった。
「油断したか、セイバー!間合いを読んでいながら、鎧で受けるとは慢心が過ぎるぞ」
「効果の分からない魔槍に怯まない勇ましさ、しかしそれこそ慢心であり、王の悪い癖だ」
「おい、あの女騎士は馬鹿なのか?ランサーが宝具の説明をしたことに何の警戒もしていないぞ、まさか騎士道精神とやらでご丁寧に高説垂れてるとでも思っているのか」
「然り、王は清廉潔白だからな。故に、それが罠だとは思いもしないのだろう」
二人して倉庫の上から観戦しており、そしてランサーが動く。
「晒したな、秘蔵の剣」
「くっ、ッ、ハァァァ!」
「フッ」
「ッ!?」
押され気味だったセイバーが、逆転を狙ってか討って出る。
しかし、それを見るキャスターの目は鋭く、そして評価は辛辣だ。
「あの嬢ちゃんは、戦場を舐めてるのか?不用意に地面を削ったのは何故だ?もう一つの槍を持っていたのに、それはどこに行ったと考えてもいやがらねぇ。そして、奴の立ち位置すら気にしないとは」
「やめろキャスター、それ以上はやめてくれ」
「マスターに止められたが、アレがランサーより強いとは思えん。何が、セイバーはランサーより相性的に強いだ」
「お前、ランサーがケルト出身だからって身内贔屓しやすぎないか?」
「腑抜けが!何を説明してやがる、あの若造!戦士の誇りは分かるが、敵を舐めるのも大概にしろ!ブッ殺すぞ!」
「身内に対しての方が厳しい、これがケルトか」
宝具の説明を自慢げに始めるランサーに、怒りを顕にするキャスターを見て男が溜息を吐く。
戦いに関して独自の美学を持ち、そしてその価値観の根底が微妙に違う。
それこそ、時代や文化が違うが故の弊害だった。
ふと、キャスターが振り返り空を見た。
追うようにして、男も視線を向ける。
向けた先、そこには落雷をレールのように乗りこなす戦車が見えた。
空を掛ける戦車、親方空からおっさんがとどこからか聞こえてきた。
「アレが、ライダーか」
「キャスター、お前とは相性が悪いらしいから戦うなよ」
「戦わねぇよ、だが別に挨拶くらいしても構わんのだろ?」
「なんだろう、このそこはかとなく不安な気持ちは……」
戦場を掛ける戦車、それは自らがライダーであると喧伝するそれである。
それがランサーとセイバーの戦いを止めるかのように戦場を横断する。
「双方、剣を収めよ!王の御前であるぞ!」
「スゲェな、聞いてた通りいい男だ。俺もライダーなら、いい勝負が出来たことだぜ」
「アレが世界を一度は征服した馬鹿か、確かに気風が違うな」
静観を決め込もうという作戦であったが、既にそれが形骸化しているのは明らかだった。
杖を握りしめ、自然と口角を上げるキャスターは今にも飛び出しそうだ。
「おい、キャスターやめろよ」
「見てるだけか、固いこと言うなよマスター」
嫌な予感というのは、時に的中してしまうものなのだろう。
「聖杯に招かれし英霊は、今!ここに集うがいい。なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!」
いつの間にか勧誘の時間は終わり、何故かそんな事をライダーが宣った。
その瞬間、キャスターにマスターと呼ばれている男は目を覆った。
見なくても、横にいたキャスターが動いていたからだ。
「喰らいやがれ!」
「ぬっ、何奴!ほぉ、キャスターか!」
「よぉライダー、面白い演説だったぜ。その魔術は挨拶だ、受け取ってくれ」
「応とも、手厚い歓迎痛み入る。もっとも、炎とは違った意味でも熱いがな」
飛び出したキャスターは空中に片手で記号を描く。
そこから弾き出されるように飛び出すは炎の塊、それがライダーの腰に刺した剣で防がれた。
明らかな攻撃、だがキャスターの基準では攻撃ではなく挨拶である。
ケルト式挨拶、ライダーのように受け入れられるほどマスターと呼ばれていた男は剛毅ではなかった。
「勝手に初めないでくれないか、キャスター」
「良いじゃねぇか、気安く名乗れない縛りがある戦いだ。これくらい自由にさせてくれ」
「キャスターのサーヴァント、その顔、そして蟲の使い魔。貴方、間桐の人間ね」
「お初にお目に掛かる、アインツベルン。私の名前は間桐雁夜だ」
男達が、英霊達の戦場に降り立った。
「我を差し置いて王を称する不埒者が一夜に二匹も涌くとはな」
「あぁ?」
ルート分岐
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金ピカ、見下してんじゃねぇ!
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ランサー、可愛がってやるよ
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我が王、やらないか?
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ライダー、相性だけが実力じゃねぇぞ