奏でるは剣聖の調べ   作:SKYbeen

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遅くなってしまい申し訳ないです。
反省の意味も込めて尻子玉抜かれてきますね⋯⋯(危)

あとサブタイトルは簡潔なものにしました。
まぁ今までも単純極まりなかったですが⋯⋯。




 

 

 

 

 

 疼く。

 

 死なずの身体に刻まれた、この深傷が。

 どうしようもなく熱く鳴動し、苛烈な痛みが駆け巡る。

 

 嗚呼、一体いつぶりであろうか。

 

 剣の道を歩み、至高天へと至るまで、何人も己を斬ることなど敵わなかった。立ちはだかる剣客を尽く斬り、あまねく全てを自らの業として喰らった。そうして培われた剣は、いつしか神の如き速さを持ったのだ。

 

 一切両断の元、宿業背負いし悪へと堕ちし剣。更なる高みへ昇華し、何者であろうと斬り伏せる。そう、全てはあの女を斬る為に。だからこそ、この身を悪鬼としてまで登り詰めたのだ。

 

 仕えるべき主も、守るべき国も、何もかもが些末事に過ぎない。我が剣を二度も防ぎ切ったあの女を是が非でも斬らねばならないのだと。それに比べれば、あらゆる事象のなんとちっぽけなことか。

 

 そう、思っていた。

 

 あの男に───葦名一心に出逢うまでは。

 

 

 至高天⋯⋯それこそが剣の最たるものであると自負していた。決して揺るがぬ信念、矜恃、自信。剣において己の右に出る者などあろうものか。そう心から信じていたのだ。

 

 その全てが粉々に打ち砕かれた時、いったいどれ程の屈辱を覚えたか。積み上げてきた技、それを容易く上回る剣。そんなものが存在していて良いのか? 己以外で有り得て良いのか? 

 

 ───否! 

 

 しからば葦名一心の剣、認めよう。我が剣を超えしものと。

 そして、認めぬ。我が剣を越えようなどと。

 

 相反する渦巻いた感情が、度し難い程に燃ゆる復讐の火が、彼方へ秘匿されし霊核を駆動させる。熱く、熱く、狂おしいまでに。絶対の復讐は、宿せし宿業を確たるものとして手負いの霊体へと刻み付けるのだ。

 

 

 強く、ならねば。

 もっと速く。もっと高く。

 

 至高天など、奴の前には児戯。

 頂きを昇り、天を超え、剣に至る。ならばこそ、我が剣をより研ぎ澄ますのだ。

 

 英霊剣豪としての命、何より為さねばなるまい。

 だが今は、今だけは。何としても超えねばならぬのだ。

 

 葦名一心という、天に聳える壁を───! 

 

 

 一切両断が我が宿業ならば、それを為す。

 

 葦名一心を斬る───それこそが、この身背負いし宿業だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実に哀れなものだな。剣に囚われし魂、というのは」

 

 

 妖しい闇が立ち込める、名もなき社。そこに集うは泰平の世を地獄へ変える六の英霊剣豪。中心にある座敷を囲うように、それぞれが軒を連ねている。

 そして、その中心に座す人物こそが、この悪鬼達の長。徳川の世を憎むが故に、彼は明けぬ夜を創り上げた。人を、血を、魂を。英霊を意のままに操り、贄を捧げるのだ。人を超え、鬼と化した剣豪達を。

 

 セイバー・エンピレオは、そんな彼らでさえ殺せぬ大剣豪。認知した頃には既に斬られている剣速にて、如何様な強者をも斬ってきた。その身に傷などなく、寄らば一刃のもと斬り伏せられる。至高天へ昇りし剣術は、まさに剣聖とさえ言えるだろう。

 だが、違った。至高天などと、単なる驕りでしかなかった。それは、死なぬ霊体に刻まれた刀傷が何よりの証左。エンピレオの剣を超える男が、確かに存在していたのだ。

 

 その男こそが、葦名一心。

 不死をも殺す刀を持つ、隻眼の剣客だ。

 

 

「しかし、葦名一心とは何者なのでござるか? あれ程の力があるというのに、かような名は聞いたことがありませぬ」

 

 

 片目を隠した、幼子にも見えるくノ一が疑問を呈した。それは、他の者たちが抱いていたものでもある。

 葦名一心。日本の歴史を遡ってもその名はない。戦国の時代、葦名という地は存在していたが、やはり葦名一心などという人物は見当たらなかった。影も形も、史実には記されていない。

 だからこそ、謎めいている。エンピレオでさえ太刀打ち出来ぬ剣の腕を持つのなら、歴史に名を刻むのが道理というもの。ならば何故、誰も彼もが知らぬのか。

 

 彼女の問いに対する応えは、主より語られる。

 

 

「葦名一心。たった一代で国盗りを為した大剣豪。そのあまりの実力故に、内府は奴が床に伏せるまで一切の手出しが出来なかったという」

 

 

 もとより葦名の国は北の小さな領地。如何に精鋭が揃っていたとはいえ、兵力はそれ程大きくはない。それでもなお、葦名一心は国を盗った。余りある剣を振るい、敵将を討ち取ったのだ。

 無論、失ったものは数え切れぬ。兵は死に、国は戦火に包まれた。それは紛うことなき事実ではあるが、葦名の国は確かに息を吹き返したのだ。

 

 だが戦国の歴史を辿れば、葦名が生き残るのはもはや不可能だった。如何に一心が強大であろうと、所詮は北の小国。国としての力が、葦名には欠けている。故に、内府は一心が病に蝕まれ衰えた隙を突いた。瞬く間に瓦解した葦名は呆気なく滅びたのだ。

 だがそれは、裏を返せばそれ程一心が巨大な存在だったということ。実際、此度召喚された一心の実力は突出している。刃を交えたその時から、彼の異常なまでの強さを誰もが感じ取っていた。

 

 

「此度召喚された葦名一心は生半に殺せぬ、という。お前達のように不死の肉体を持つが故、な」

 

「しかし、奴は我らを殺せる術がある。それが⋯⋯」

 

「そうだ。不死斬りだ」

 

 

 不死斬りの名を耳にした時、僅かだが彼らの身体に力が入る。忍びにしろ術士にしろ、この場にいる誰もがその異常性を認めているが故に。不死の者を殺すというのは、理に反する存在を問答無用で消し去ること。つまり、自分達のような者たちを。

 扱う者が凡百であるならば、如何様にもできるだろう。だが百戦錬磨の大剣豪となれば、そうはいかぬ。決して侮ってはならぬ相手だと、否が応にも知ったのだ。

 

 

「あれ程の剣、そして不死をも殺す力は驚愕に値する。あの男(・・・)ならば何か知っているのかもしれぬが⋯⋯」

 

「しかし、彼はどうにも信用がなりませぬ。何か(はかりごと)があるのでは⋯⋯そう邪推出来る程に」

 

「おや、それは同じ道を歩む者だから、ですか?」

 

「⋯⋯信ずるに値しない。ただ、それだけにござる」

 

 

 どこか引っ掛かるような、形容し難いもどかしさを抱いたまま彼女は消えた。次なる任を、忍びとしての役割を果たす。忠を誓った主の為に。

 

 ───ならば、彼は誰に忠を尽くすのだろう? 

 

 だが、そんなことはどうでも良い。忠誠を誓おうが、はたまた反逆を企てようが、さしたる問題ではない。利用する価値があるのなら、存分に使わせてもらおう。もとよりあの男に葦名一心程の力はない。始末しようと思えば、何時でも出来るのだから。

 

 

「奴は放っておけ。あのような者など気に止める必要すらない。今はただ、この徳川の世を紅蓮に染め上げるのだ。無辜の血を。罪なき魂を。ならばこそ、厭離穢土の礎となろう」

 

 

 どこまでも黒く染められた、暗黒の意思。純粋なまでの悪意は泰平の世を穢し、無常の地獄を創り出す。数多の英霊を繰り、その悲願の為に人間を貪る様は、まさに悪魔そのものと言えるだろう。

 

 

「さぁ、夜の帳を降ろせ。最後の一騎⋯⋯迎え入れようではないか」

 

 

 そうして訪れる、夜の闇。

 今宵、血の宴が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 土気城、城下町にて。

 

 太陽見下ろす昼時。穏やかな風が吹く通りは人々の活気に満ちていた。泰平の世に相応しい、日々の営みがそこにはある。かつて栄えた葦名のように、彼らもまた額に汗かき働いているのだ。

 ゆっくりと時間が流れる中、とある茶屋に一心は居た。長椅子に腰掛け、ぐいと盃をあおる。喉元を通る透き通った味、香りが鼻を突き抜け、五臓六腑に染み渡っていく。下総国に召喚されて以来、初めての酒であった。

 

 

「⋯⋯ぷはぁっ! やはりこれじゃあ!」

 

 

 血で血を洗う死闘は一旦忘れ、今はただただ酒を呑む。茶屋に酒とはいささかおかしな話であるが、あるのなら頂かない訳にはいかぬだろう。もとより一心はどんな酒も愛する酒豪、酒があると聞いて黙る方が有り得ないのだ。

 生憎と酒の肴はないが、茶屋と来れば団子が付き物。甘いたれがたっぷりのみたらし団子を頬張り、たまらず一心も笑みがこぼれる。甘味は大して好みではないが、存外悪くないものだ。

 

 

(しかし⋯⋯)

 

 

 盃に口を付けながら、一心は辺りを見回していた。人の往来が絶えぬ光景はいつ見ても心地よい。道往く民は楽しげに笑い、やんややんやと騒ぎ立てる。

 問題はその中身だ。耳に入る会話は、やれ六騎の鬼が現れただの、昼日中だというのに途端に夜になっただの、不穏なものばかり。そこらには鬼達のビラがこれでもかと貼られ、皆がこぞって騒ぎ出す。英霊剣豪は人に仇なす悪鬼であるが、よもやこうも民衆に知れ渡っているとは。

 

 だが、腑に落ちない。どうにも彼らは危機感が薄く、単なる噂話としか捉えていないように見えた。暴虐の限りを尽くす彼らの恐ろしさが、こうも民に伝播していないのは逆に不自然。何かしらの、認知出来ぬ力が働いているのか⋯⋯。想像の域を出ないにしても、有り得ぬ話ではない。

 

 

「おんやぁ、ここいらじゃあ見ねぇ顔だなぁ。あんた、もしかして流れもんかい?」

 

 

 そうして思案している中、一心に声を掛ける者が一人。ちらりと目をやると、何とも胡散臭そうな男がそこに立っていた。その後ろには見上げる程の巨体を持つ大男がおり、大量の荷を背負っている。怪しげな雰囲気であるが、悪しき気色は感じない。まさしく賊の出で立ちであるものの、悪い連中ではないのだろう。しかし、流れ者とは言い得て妙と言える。

 

 

「随分な言い草じゃのう。が、的を得ている! お主、名をなんという」

 

「おっとこいつぁ失敬。あっしは穴山、しがない行商でさぁ。んでこのでっかいのが」

 

「おら、小太郎って言うんだ。よろしくなぁお侍さん」

 

 

 穴山と名乗る彼はへらりと笑う。後ろにいる小太郎もまた、まん丸とした朗らかな笑みを浮かべた。

 

 

「それにしても旦那、いったい何の用でこの国に? 今ここいらは危ねぇ連中が暴れ回ってるって話だ」

 

「危ない連中、とな?」

 

「へぇ。今じゃどこかしこでも知れ渡ってる噂です。なんでも百鬼夜行を引き連れた六人の悪鬼とか」

 

 

 六人の悪鬼──紛うことなき英霊剣豪共のことだ。あれ程の大立ち回り、そこらの民が知っているのは当然だが、やはり真の脅威は理解していない。皆ただの噂としか捉えていないのは危険だろう。

 だが、例え彼らに恐れをなし身を潜めたとしても、それは全くの無意味。力なき民に出来ることなど、無きに等しい。多くの人々が手に掛けられる前に、彼らを葬らねば。

 

 

「まぁそんな噂が流れちまってるもんだから、あっしらも大繁盛! 刀も槍も防具も飛ぶように売れて、いやぁ英霊剣豪さまさまでさぁ!」

 

 

 胸中で決意を固める一心をよそに、穴山はやたらと上機嫌な様子である。なんでも武具の類が売れに売れているらしいが、よくもまぁそこまで売り捌くものだ。商魂たくましい、とはまさに彼のような男を指すのだろう。

 

 

「そいつは良かったのう。じゃがお主ら、あまり出歩かん方が身のためじゃぞ」

 

「へへっ! 心配なら無用ですよ旦那。あっしにゃ心強い相棒がいやすから。なぁ小太郎!」

 

「ああ。穴山さんはおらが守る!」

 

 

 えっへんと誇らしげに小太郎は胸を張る。確かにこれ程の巨体、加えて山盛りになっている荷を軽々と運ぶ膂力があればそれなりに戦えはするだろう。実際、あの妖共や英霊剣豪と出くわしてしまえば逃げるより他ないのだが。

 

 

「そうだ旦那! ここで出会ったのも何かの縁、せっかくなんで何か買っていきやせんか? 武器や鎧はもちろん、うんまい酒もありやすぜ!」

 

「ほお、酒とな」

 

「おっと! 食いついてきやしたね。こいつがまた良い代物で⋯⋯んお?」

 

 

 素っ頓狂な声を上げながら、穴山は手を止めた。それは、彼だけではない。町の人々は皆動きを止め、空を見上げていた。

 

 突然、闇が満ちていく。真昼の空が紅く染まり、妖しげに輝く月が民衆を見下ろしていた。そして肌身に感じる妖気と重くへばりついたような殺気。

 噂をすれば、とはこのことだろう。幸い場所はそう遠くはない。今度こそ、終止符を打つのだ。残った酒を一気に流し込み、一心は立ち上がる。

 

 

「だ、旦那?」

 

「お主らはどこかに身を潜めておれ。この夜が明けるまではな」

 

「へ、へぇ⋯⋯。けど旦那はどこへ?」

 

 

 この異常な夜を皆畏れる中、一心が動じることはない。どころか、獰猛な笑みを刻む。

 酒は好きだ。三度の飯よりも酒を呑む方が余程幸福だ。だが不死の身より沸き上がる熱き火は⋯⋯この世の何よりも勝る、歓喜だ。

 

 常在戦場。この魂は、剣に魅入られし時より戦場にある。磨き、研ぎ澄まし、鍛え上げてきた剣を振るう瞬間こそが、葦名一心としての意義だ。

 

 不安げに見据える穴山を背に、一心は確と応える。

 

 

「なに───鬼退治よ」

 

 

 

 








問.なんで一心様は本来修羅じゃないのに炎を出せるのか?

答.これは様々な考察があると思いますが、個人的に気になったのが仏師の左腕です。「切ってくださった」とあるように、当時修羅に堕ちかけていた仏師の腕は一心により切り落とされています。そして一心は仏師の背負っていた業(怨嗟)の一部を引き継いだ(というより無理矢理背負った?)

これにより一心は全盛の、つまり国盗り時代には使えなかった怨嗟の炎の一端を扱うことが可能になったのではないか、と個人的に解釈しています。事実、仏師が怨嗟の鬼となるのは一心が死んだ後。つまり一心の背負っていた怨嗟は拠り所を失い、本来の拠り所であった仏師の元へ戻り、結果として仏師は怨嗟の鬼となってしまったのでは、と。

これなら修羅ルートの狼が炎を帯びるようになったのも何となく納得が行きます。つまり仏師→修羅一心→狼というように、怨嗟の拠り所となる人物を殺めるとその者が次の怨嗟を宿すことになる。よって狼は怨嗟の炎(修羅の炎)を宿ったのだと思います。

ですが当然、ガチ考察勢ではないトーシロの解釈なので穴だらけもいいところです(左腕落とした時点で仏師生きとるやんけとか)
まぁ、その、何が言いたいのかっていうとですね⋯⋯一心様スゲーってことです(思考停止)
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