バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

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第二十二話

「俺さ、ずっと考えたんだけどさ」

 

 移動教室の途中、昨日と同じく真剣な面持ちをして渉が切り出した。

 

 また何かのナンパ技術の話でもするのかな?

 

 そう思ったが、今回は違うようだ。何か、僕達に対して羨望のような、それでいて怒りも含めた視線を送っている。

 

「お前らってさ……すんご──っく、贅沢な奴だよなぁ! 思わず殺気を覚えちゃうほどにさ」

 

 にこやかな笑顔で拳を握り、震わせていた。というか怖いよ渉……。

 

「はぁ? 何がだよ? いきなり何言ってんだ?」

 

 義之、彼の言葉を聞いて自分に該当するものがないと思ってるの?

 

 僕だって君ほどじゃないにせよ、かなり贅沢と言える日々を送っているのは自覚しているのに。

 

「くぁーっ! 何がときましたか何がと! このラブルジョワ野郎っ!」

 

「何だよ、ラブルジョワって?」

 

 恐らく、ラブとブルジョワをかけたのだろう。

 

「だってよ! 家に帰ればお前らは朝倉姉妹と同棲生活だろう!」

 

「同棲じゃありません!」

 

「確かによく家にはくるけど……」

 

「似たようなもんだろう」

 

 うん、否定できないね。

 

「そして、義之は音姫先輩には弟君と甘やかされ、由夢ちゃんには兄さんと慕われる。かぁー! 羨ますぃー!」

 

 渉のテンションがややマズイ方向へと突進している。

 

「んないいもんじゃねえってば。ほんと兄弟みたいなもんなんだから」

 

 そして義之、それがいかに幸せなものなのか全く理解していない。

 

 渉じゃないけど、確かに殺意を覚えてしまいそうだ。

 

「いいの! それでもいいの! 俺も弟君とか言われたいの! 兄さんって呼ばれてみたいんだよー!」

 

 声高らかに力説する渉。ならば是非とも僕に変わって姉さんに甘えてほしいものだ。

 

 かなり大変だろうけど、渉ならきっとなんとかできそうな気がする。

 

「しかもしかも、教室では雪月花3人娘と仲良しだろ!」

 

「それは君もじゃないの? 僕だってそれなりに仲いいと思ってるし」

 

「そうだけど、違うだろ。義之と俺らのとは何か違うだろう。 こう、ジューシィーさっていうかさ、とにかく違うんだよ!」

 

「わけわかんねーよ!」

 

「要するに、親密度っていうか……甘さが足りない?」

 

「はい正解!」

 

「はあ?」

 

「アンド、明久! お前は最近転校してきた1年の可愛い女の子とも仲いいらしいじゃねえか!」

 

「ムラサキさん? う~ん……仲がいいかって言われると……確かにある程度関係は修復しつつあるって感じはするけど」

 

 流石に渉が考えてるような関係ではないと思う。

 

「そんで、おまけにあの学園のアイドル『白河ななか』のお気に入りだったりするわけだろ」

 

「ななかちゃんは誰に対してもあんな感じだと思うけど」

 

 昨日名前については議論されたけど、それ以外では僕も周りのみんなもそんなに変わりはないものだと思うけど。

 

「ちげえって。俺が見た感じ、お前に対する白河の態度は他とはちょっと違うぞ」

 

「そうなの? ちなみにどのへんが?」

 

「あのなぁ……とりあえず、共通としてお前ら、2年の転校生とだって仲いいじゃねえか?」

 

「「いや、どこが?」」

 

 アレは流石にない。どちらかといえば、僕らは嫌われてる方だ。

 

「俺はあの娘がお前ら以外の男子と話しているところを見たことがない」

 

 それは、まあ……他とは比べて話しているとは思うけど。それでも彼女の態度を見ると、とても仲がいいとは言えないだろう。

 

 ていうかこの場合、僕ら以外に話せる人がいないって事じゃないかな。だって、彼女ロボットだし。

 

「とにかく、片や全校生徒の憧れ、優しく完璧なおねえちゃん、音姫先輩に弟君と溺愛され! 密かにファンクラブまで設立されてる可憐で清楚な由夢ちゃんには兄さんと慕われ! 我がクラスが誇る雪村杏、月島小恋、花咲茜の萌えキャラ3人娘とは親密な関係!」

 

 よくもまあここまで説明を入れて力説できるよ。

 

「更に片や可憐な美少女転校生とはいつの間にか親しくなってる。そして学園のアイドルと称されてる白河ななかとは学園で唯一ファーストネームで呼び合う仲! そして共通して強気な態度が魅力の転校生とも仲がいい! な?」

 

「な? って何だよ?」

 

「殺されても文句の言えない状況だろ?」

 

 確かに。FFF団がここにいれば確実に僕達を殺しにありとあらゆる殺害方法を行使するだろう。

 

「もう義之なんか選び放題の羨ましい限りだ」

 

「いやいやいや! 全然違うから! 全部お前の考えてるような関係じゃねえからな!」

 

 義之も見苦しいよ。ここまで幸せな状況に身を置きながらそれを否定しようとは。

 

「それに、お前だって女友達多いじゃねえか」

 

「俺が?」

 

「あぁ」

 

「確かに、僕達と同じくらい女の子に縁があると思うけど」

 

 少なくも付き合いの短い僕よりはクラスメートのみんなとは仲がいいと思うけど。

 

「俺の場合、キャラじゃん? そういう。一緒にいると楽しい男の子どまりみたいな。それに……おれはそのぉ~……」

 

 ボサボサの頭をかきながら間を置いてぽそりと、

 

「……いつでも、月島一筋なわけだからさ」

 

 まあ、それも昨日聞いたけど。その様子を見る限り、本当に彼女が好きなんだね。

 

「ま、なんちゅーかあれだ。お前らは学園が誇るヒロイン達を独り占め状態なわけだ。精々刺されないように気をつけろよ」

 

「「勘弁して(くれ)」」

 

 笑顔で言った渉の不吉な言葉に僕達は頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

「お待たせ」

 

 無表情で杏ちゃんがコビー用紙の束を掲げた。

 

 どうやらここまで来てようやく台本が完成したとのこと。クラスのみんなが拍手で彼女を労った。

 

「よくがんばったね~。うんうん」

 

「お疲れさま~」

 

「疲れたけど、楽しかったわ」

 

 杏ちゃんが出演者と照明、音響担当にそれぞれ台本を配って回る。僕にも照明としての役割と、どのタイミングで照明をつけるのかがバッチリ載っていた。

 

「お疲れ」

 

「頑張ったね、杏ちゃん」

 

「ん」

 

 杏ちゃんが少し俯いて頬を染めて頷いた。

 

「それじゃあ、出演者は一旦通しで読み合わせね。それで雪村さん、人形の方はどうなのかしら?」

 

「茜、報告お願い」

 

「はい。とある助っ人のおかげでほぼ全部仕上がってます」

 

 どうやら人形も問題なさそうだ。しかし、

 

「その助っ人って誰?」

 

 小恋ちゃんも僕と同じ事を思ったのか、茜ちゃんに尋ねた。

 

 だって、これ学生が作ったにしてはすごく精巧にできてるもん。

 

「うん。ちょっと小恋ちゃんのエッチな写真渡したらすぐに取り掛かって30分もしないうちに完成したんだよ~」

 

「ちょっと待って! 私のエッチな写真って何!? いつの間に!? ていうかどんな写真を!?」

 

 どんな写真かはともかく、その助っ人とは十中八九ムッツリーニであろう。

 

 流石。女が絡んだあいつの辞書に不可能という文字などありはしないだろう。

 

 ともかく、これで大体の準備は整ったとして、出演者のみんなは教壇の前に集まって打ち合わせをしていた。

 

「小恋、曲は?」

 

「は~い」

 

 小恋ちゃんが家で一晩かけて編集したという曲をみんなに聴かせた。

 

 大道具や美術係も手を止めて月島さんの編集した曲を聴いていた。

 

 クラスメート全員からかなりの好評を得られたようだ。これで人形劇はどうにか形になったようだ。

 

「それじゃあ、合わせてみる?」

 

 沢井さんの言葉に全員が頷いた。台本を読みつつ、人形の動きを見て練習が始まった。

 

 僕も照明のタイミングを計りつつ、照明器具の操作の練習をした。まだみんなぎこちないものの、本番までには絶対慣れてやるという意思が見えていた。

 

「次、義之の台詞だよ」

 

「お、おう……」

 

 なんとしても本番みんなでいい人形劇にしてやるさ!

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になって……。

 

 僕は本日、生徒会メンバーとしての初仕事のために高坂さんからのお呼ばれを受けて生徒会室へ足を運んでいた。

 

「あのさ、なんで俺までここに?」

 

 義之も一緒になって。

 

 高坂さんに声をかけられたのは義之と一緒に歩いていた時で、高坂さんが義之を見ると義之も一緒にと彼の腕を掴んで生徒会室に引っ張ってきたのだ。

 

「えっと、なんでまたここに?」

 

 義之は突然生徒会室へと引っ張られたために状況が飲み込めないでいた。まあ、何のためにっていうかは何通りかは予想できるけど。

 

「ちょっと弟君に大事な話があってね。ま、単刀直入に言っとくわ。弟君、生徒会の仕事に入らない?」

 

「…………はぁ?」

 

 高坂さんの突然の言葉に義之は間抜けな声を出した。

 

 うん。僕も最初は同じような反応をしたよ。

 

「いわゆるヘッドハンティングってやつ? 弟君のちからを生徒会に貸して欲しいの」

 

「いや、明久がいるでしょ。わざわざ俺がいなくても……」

 

「吉井は土屋の方を中心に頼みたいの。杉並の事を大して知らない奴をアイツに当てても大した成果は得られそうにないしね」

 

 確かに。僕じゃムッツリーニの方は対処できても杉並君についてはまだよく知らないのだ。

 

 体育祭の時を考えればとんでもない罠があるとは予想できるが、逃走ルートなどは少しでも付き合いの長い人に任せるべきだろう。

 

「基本的にね、あたしは認めてるのよ。弟君を筆頭に杉並、雪村や花咲達付属3年3組の連中の能力の高さにはね」

 

 まあ、多少独特な感性を持ってる人も多いけど、杉並君はその行動力と情報力。杏ちゃんは記憶力と、能力が高い人間が多いのは事実だ。

 

「だからこそ厄介なのよ。その能力の使い方を徹底的に間違えてるし」

 

「いや、そう言われても……ていうか俺を筆頭にしないでほしいんですけど」

 

「まあぶっちゃけ、手が回らないのよね。今の生徒会のメンバーだけじゃ。吉井も含め数はそこそこいるものの、能力的にはあんたたちに敵わないから。だから弟君に目をつけたわけ」

 

「……なんで俺が?」

 

「そんなもん決まってるじゃない。一番落としやすいからよ」

 

 それは言えてる。

 

「音姫が苦労してるのは弟君だって知ってるでしょ? 知ってのとおり、通常業務だけでも音姫にかかってくる負担てのは相当大きいの」

 

 確かに、クリパの準備のためのセッティングの件だって音姫さんがどれだけアドバイスしていたか記憶にあるだけでもかなりある。

 

「更には、クリパで色々と問題が起きるからね」

 

 高坂さんがジト目で義之を見た。

 

「だから、俺は音姉に迷惑をかけるようなことはしませんって」

 

「それじゃあ意味がないのよ。弟君自身はそう思ってても、杉並や雪村は弟君を利用しようとするわ」

 

「それは……まぁ……」

 

 確かに、杉並君や杏ちゃんの話術で義之が落ちる……十分にありえる事態だ。

 

「気がついたら、知らぬ間に弟君が計画の中心に仕立てられている可能性も考慮できる。なんだかんだ言って弟君の影響力ってバカにならないからね。本人にその気も自覚もあろうとなかろうと」

 

 うん。義之って、結構クラスの中心ってイメージがあるよね。クリパの準備でも指示は沢井さんや杏ちゃんがしていたものの、彼の言葉で動いている人間も少なくはなかった。

 

「んで、生徒会としては、その可能性がある限り、弟君のマークを外すわけにはいかないのよねぇ。それも危険ランクAだからそれなりの割り当てが必要になるし」

 

 彼は以前までどんな騒動に巻き込まれていたのか。

 

「ていうわけで、あたし達の出した結論。いっそのこと、弟君をこっちに取り込んだ方が安心だってね。基本的能力が高い上にランクAの人物達とも接点が多い。言ってしまえば、首輪の鈴としては最適な人材なんだよね」

 

「…………」

 

「それに、弟君。音姫のために騒ぎを起こさないって言ってるけど……本当のところさ、少し物足りなさを感じてるんじゃない? 本来あんたはこっち側の人間なんだし」

 

 そう言って高坂さんは挑発的な笑みを浮かべた。

 

「…………」

 

「義之、もう腹をくくれば? 敵に回してもロクなことにならなそうだし、入れば音姫さんだって大喜びじゃない?」

 

「明久……」

 

 音姫さんの名前を出して義之の表情が揺らいだ。これはかなり効果がありそうだ。

 

「確かに、すっごく甘ったるい笑顔で『弟君、一緒に頑張ろうね♪』なんて言いそうだし」

 

 義之の頭の中でも今まさにその映像が思い浮かんだことだろう。

 

 陥落までもう一歩といったところか。

 

「まあ、強制はしないわ。吉井と同様クリパの期間だけでいいから。生徒会に入ってみない?」

 

 義之は数分間悩んでようやく結論が出たのか、高坂さんを見て結論を述べる。

 

「わかりました。手伝います」

 

「およ? マジで?」

 

「何ですかそのリアクション? 手伝えって言ったのはそっちでしょうに」

 

「いや~、まさか弟君まで手伝ってくれるとは正直思わなかったからさ~」

 

 誘ったのはあなたでしょうに。

 

「んでも、なんで手伝ってくれる気になったの?」

 

「ん~……気まぐれ、ですかね?」

 

「気まぐれ?」

 

「なんとなく面白そうだったので」

 

 なんとも義之らしい理由だった。

 

「ふ~ん。ま、正義感に燃えてって言われるよりは全然信用できるか。ま、これで音姫も喜ぶだろうし。じゃ、詳細は後で音姫含め、生徒会メンバーに話すとしますか。これからもよろしくね~ん」

 

「はい」

 

 すっかりご機嫌の高坂さんの言葉に返事をして数分もすると音姫さんも含めた生徒会メンバーが入室してきた。

 

 音姫さん達に義之も俊改っしてメンバーに加わる事を伝えると予想通り音姫さんが大喜びで義之に抱きついてきた。

 

 それを見て少し笑った後、高坂さんが止めてすぐにみんな真面目な顔になって杉並&ムッツリーニ討伐会議が始まった。

 

「ほんじゃ、クリパに向けての対策会議を始めます。本年度は前回に比べて熾烈になると予想されます」

 

「そこで、効率よくトラブルを防ぐため、今後二人一組のチームを作って見回りたいと思います」

 

 生徒会長モードに入った音姫さんの言葉の後で高坂さんが端っこにある机の上から穴の開いた箱を持ってきた。

 

「公平を期するために、チームはくじ引きにて決めたいと思いまーす。同じ色を引いた者同士がタッグを組む。いいわね」

 

「はーい」

 

「弟君、同じ色引くよう頑張ろうね~」

 

「いやいや、こんなの頑張りようがないでしょ」

 

 確かに、これ運試しだし。

 

「青色です!」

 

 ムラサキさんが早速引いていた。どうやら色は青のようだ。

 

「次、私ね~。ん~と…………これだ!」

 

「…………」

 

 音姫さんの色も……青だった。

 

「あ、あれ?」

 

「お、同じ色ですわね、朝倉先輩」

 

「そ、そうだね……よろしく、ムラサキさん」

 

「ほほほ……」

 

 なんだか微妙な空気が流れている気がする。

 

「さて、次はあたしね。…………お、赤か」

 

 高坂さんが赤、と。

 

「んじゃ、次が俺か」

 

「弟君、青引いてね~」

 

 いや音姫さん。青はもうあなたとムラサキさんがひいちゃったんですから無理ですよ。

 

「ん……赤か」

 

 義之は高坂さんと同じ赤だった。

 

「後は、僕か……」

 

 誰と組むことになるのか、ちょっとわくわくしてたり。

 

 ごろごろと、中にある玉を転がしながら数秒。これだ、とひとつの玉を握って取り出した。

 

「……はずれ」

 

 何故かはずれという文字の書いてあった玉が出てきた……なんでだよ!

 

 ひとりでやれということなのだろうか。しかし、誰と組むかと思いながら引いたためにこの玉が出てきてちょっと苛立ちが募ってきた。

 

「ああ、そういえば色つきの玉追加するの忘れてたぁ。まあ、引いちゃったものはしょうがないし、今更やりなおしもあれだね」

 

 高坂さんの言葉に音姫さんの表情が一瞬明るくなったと思ったらまた暗くなった。

 

 義之と組むチャンスかと思えば実は違ったとわかって落ち込んだのだろう。

 

「てなわけだから吉井、あんた音姫達と組みなさい」

 

「僕はいいですけど……」

 

 お二人はどうかなと視線を移すと、

 

「あ、明久君と一緒か。頑張ろう、お~」

 

「吉井ですか。まあ、女2人だけよりはまだマシかと思いますが、組むからにはきちんと役にたってもらいますよ」

 

 音姫さんはやはり若干テンション低めだけど、ムラサキさんはちょっとだけ明るさが出てきたような。気の所為?

 

「じゃあ、あたしと弟君は杉並討伐。音姫と吉井、ムラサキは土屋の方をお願いね」

 

「はい!」

 

 そうして僕と音姫さん、ムラサキさんの3人はムッツリーニの討伐に当たることになった。

 

 

 

 

 

 

「さて、チームを組んでムッツリーニの担当になって探しているわけだけど……ムッツリーニの奴、今どこにいるのかな?」

 

「明久君、土屋君の行動パターンってわからない?」

 

「友人なのだから、少しくらいはわかってもいいものでしょ?」

 

 ムッツリーニを討伐するにあたり、まずは奴の行方を探すところから始まっているが、肝心のムッツリーニの現在地がわからない。

 

「行動パターンなら簡単に予想つきますけど、どこにいるかまでは」

 

「ちなみにその行動とは?」

 

「あらゆる女子更衣室で盗撮だとか──」

 

「すぐに警察を呼びましょう」

 

「それは学校としても勘弁願いたいだろうから早まらないであげて」

 

 僕の言葉を最後まで聞かずに携帯を取り出して通報しようとしたムラサキさんを止める。

 

 普通の人からすれば至極正しい行動なんだろうけど。

 

「あなたの友人は一体なんなのですか?」

 

「それは……隠密に長けた犯罪者?」

 

 駄目だ。ムッツリーニのイメージに合う言葉がそれしか見つからない。

 

「と、ともかく……盗撮にしてもなんにしてもまずは土屋君を捕まえなきゃね」

 

 音姫さんがフォロー(?)をいれてムッツリーニ捜索を再開した。

 

「それで、どうすれば土屋君を捕まえさせるかだけど……何かいい手はないかな?」

 

「捕まえる方法ですか。それなら……いや、なんでもないです」

 

「ちょっと、何です? 言いかけておいて途中で切らないでもらえますか」

 

「い、いやぁ……」

 

 あいつを誘い出すのはひどく簡単だ。だが、その方法というのが簡単なようで難しい。

 

「何かあるの?」

 

「いや、その……誘い出すだけなら簡単なんですけど、その……」

 

「何ですの? 土屋を捕まえるためなら多少の怪我くらいなんてことはありませんわ」

 

「いや、怪我はないよ。ただ……ちょっと恥ずかしいというか……」

 

「恥ずかしい?」

 

「一体なんですの? 怒りませんから正直に述べなさい」

 

「そ、その……2人がちょっとでもスカートを捲ってくれれば頭が割れるように痛いいいぃぃぃぃ!」

 

「ふざけているのですかあなたは!」

 

 嘘つき! 怒らないって言ったじゃないか!

 

 ていうか頭蓋が痛い! この世界の女の子もこういった技能が卓越しているのか!?

 

「ム、ムラサキさん落ち着いて。それで、何でスカートを捲るのが土屋君をおびき出す手段なの?」

 

 音姫さんがムラサキさんを止めてくれて助かったが、見れば笑顔なのに目が笑ってない。

 

 ふざけた言葉を口にすれば間違いなく僕は死よりも恐ろしい目にあうだろう。

 

「いや、ムッツリーニは性に関しては一切の妥協を許さないって言いますか……そこにエロがあればどんな状況でも食らいつく愛執の強い奴で。スカートが3cmでも捲れば即座にその中身を殊死してカメラにおさめようとする奴で」

 

「あのですね、たかだかスカートをちょっと捲ったくらいでそんな食いつくほどの馬鹿なら──」

 

 

 カシャカシャカシャカシャカシャッ!

 

 

 ムラサキさんが自分のスカートを指で掴んでヒラヒラ揺らした途端、何処からかカメラのシャッター音が聞こえた。

 

 この反応速度、見えるか見えないかのスカートの中身に執着するこの気迫、間違いない。

 

「そこか、ムッツリーニ!」

 

「……っ! 迂闊……!(シュッ)」

 

「逃がすか!」

 

「ほ、本当に出ましたわ……」

 

「あはは……」

 

 僕はムッツリーニの姿を見ると即座に追いかけた。

 

 向こうもかなりの軽快な速さで校庭を駆け巡っていく。速さなら僅かだがムッツリーニの方が上。

 

 流石数多の修羅場をくぐり抜けてきた百戦錬磨。その実力は伊達じゃない。

 

 ムッツリーニとの距離が徐々に離されようとしているその時だった。

 

「あ、おーい! 明久くーん!」

 

 麗らかな金声が聞こえて、僕らの十数メートルほど前方にななかちゃんの姿があった。

 

「おーい! 何してるのかなー?」

 

 ななかちゃんが僕達の追いかけっこを見て先回りしたのか、偶然通りかかっただけなのかは知らないが、僕達の姿を見て声をかけてきた。

 

 そして僕らにむけて手を振っていた時だった。

 

 

 ヒュー

 

 

「きゃあっ!」

 

 前方から、ななかちゃんにとっては背後から風が吹いてきた。

 

 この風見学園の女子の制服のスカートって、ちょっと短めだったりするんだよね。

 

 そしてちょっとでも風の影響を受ければ自然と捲れてしまうわけで──

 

 

 ブシャアアァァァァ!

 

 

 こんな風に大量の鼻血を噴出してしまう奴もいるわけで。

 

「って、ムッツリーニィィィィ!!」

 

「きゃああぁぁぁぁ! 土屋君、すごい血が出てるよ!?」

 

「ど、どうしたというのですの!?」

 

「ムッツリーニ! 気をしっかり持つんだ!」

 

「く……死して尚、一片の悔いなし……」

 

「ムッツリーニィィィィ!!」

 

「ちょ、土屋君大丈夫!? い、急いで救急車!」

 

 鼻血でプールができんばかりの湍流の出血をおこしたムッツリーニに応急処置を施し、救急車を呼んでギリギリ彼の一命を取り留めた。

 

 ついでに杉並君の方は脱出ルートのひとつを見つけたものの杉並君には逃げられてしまったらしい。

 

 彼らを一網打尽にできるのは当分先だろう。

 

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