扉が消えたという絶望感漂う事実が立ちはだかって小一時間過ぎて、僕達は再び中庭に集結した。
「あわわわわわわ……え、えと……これってどういうこと?」
その中でひとり、完全にパニックになっている少女がいた。その少女とはもちろん小恋ちゃんのこと。
「だから、扉が消えたのよ」
パニックになっている小恋ちゃんに杏ちゃんが冷静な口調で伝える。
「え、えと……それで、何がどうなって……」
「扉が消えたってことは俺達の元の時代に戻る手段がなくなったってことだ」
「つまり、俺達は帰れない状態にあり、この時代に取り残されたのだ」
「簡単に言えば船が壊れて誰もいない小さな無人島に取り残されたようなもんだ」
「はうっ!?」
普通なら言いたくないはずと雄二と杉並君がいやな例えで平然と言ってのけた。
「ど、どどど、どうしてみんなはそんなに落ち着いてるの!?」
「こういう時、大事なのは落ち着くことだからね」
「慌ててたら見つかるものも見つけられないし……」
「こういう時こそ落ち着くのは、人の上に立つものとしては当然ですわ」
中々に肝の座っている生徒会メンバーの言葉。
「だって、小恋ちゃんがあんまりにも慌ててるから……」
「なんだか自然と俺らの方が落ち着いちまってな……」
「なんだか小恋のためになんとかしようって使命感が強くなって……」
「冷静になっちまうんだよな」
小恋ちゃんの友人達の言葉。
「別に命の危険があるわけじゃねえからな」
「元の時代から取り残されたとはいえ、簡単に人が死ぬわけではないからの」
「本当の無人島ならともかく、ここは人がいっぱいいるからね」
「……こんな事態、文月学園で鉄人に追われる時と比べればなんてことはない」
これが、僕達文月学園メンバーの言葉。
「どうせ焦っても変わらないですし」
まったりとしていた由夢ちゃん。
「では、まず現状の打開策から検討といこうではないか」
この中で唯一心底楽しそうにしている杉並君。
「ひとつ聞きたいんだが、これお前の仕業じゃねえよな、杉並」
義之が疑わしいものを見る目で杉並君に尋ねる。
「何を馬鹿な。俺ならもっと堂々と派手にやるさ」
「聞いた俺が馬鹿だった」
あまりにいつも通りの杉並君に脱力した義之。
「ともかく我々は、人知を超えた何らかの超常現象に対面しているのだ。そして、それに打ち勝たねば、元の世界への生還は果たせない。小手先だけの手段で簡単にどうにかなるものではないと覚悟すべきだろう」
時間移動なんて現象がある時点で僕達どころか、どれだけ頭のいい人が揃って検覈したって手に負える話じゃないしね。
「今こそ、人類が超自然に挑む、歴史的に偉大な時となるのだ! そして、我々はその選ばれた──」
「はいはい! 御託はいいから、具体的に何をすべきか考えるわよ」
杉並君の話が長くなりそうだと見て高坂さんは杉並君の言葉を遮って全員に言い聞かせる。
確かに大事なのは現在進行形で立ち塞がってるこの状況だしね。
「まず、一番大事なのは現状把握ね」
一番冷静な杏ちゃんの意見。
「確かにそうだな」
「何にしてもまずは現状を知るのが鉄則だ。その後で対応策だな」
「待て、一番大事なのが対応策の方じゃないのか?」
「いいえ、義之。今の状態じゃわからないことが多すぎるわ」
確かに、対応も大事だけど、それにはまず現在自分の置かれてる状況を知らないことには始まらないし、無理に対応しようとしたところで余計に深い溝に入ってしまう危険性もある。
「けどさ、現状を把握って言っても、具体的には何を把握すりゃいいんだ?」
「把握しなくちゃいけないのはいくつかあるけど、私が一番知りたいのは扉のことね」
渉の疑問に杏ちゃんが意見を出す。
「扉? 扉の何? 杏ちゃん」
「そうね。まず学園長室の入口……なかったはずの扉がいつの間にか出現していた。そうよね?」
「あ、ああ……少なくともさくらさんから聞いたことはないぞ」
「ふむ。少なくとも俺も学園長室で改築工事みたいなものをしていたという情報は入ってないな」
「そうなの?」
というか、その情報は如何にして非公式新聞部に行き渡っているのだろうか。
「そして、廊下にあった出口側の方。あったはずの場所から綺麗さっぱりなくなっていた」
「つまり、扉は何らかの条件で出現したり消えたりするもの……そう言いてえのか?」
「ええ」
杏ちゃんと雄二が互いを見ながら頷いていた。
「んなこと有り得るのか?」
「知らないわ。実際に与えられた条件だけで考えてるだけだもの」
「それで雄二、扉の出現したり消えたりする条件とかって……わかる?」
「そうだな……今のところ俺の予想しているのはこんなところか」
雄二は指を一本立てて説明に入る。
「まずひとつ……あの扉は一日のうちに決まった時間に出て、また決まった時間に消えるだとかな」
まずひとつは決まった時間帯に出現するパターン。
「ふたつ……扉は時間とともに場所を変えて出現する。さっきはたまたまあの場所だったが、今は別の場所にあるとかな」
「その可能性もあるわね」
「考えられなくはないな」
雄二の言葉に杏ちゃんと杉並君が頷く。
「まあ、どれも仮説でしかねえな。何しろ、現状じゃ判断材料が少なすぎるんだ」
「だからこそ、私達は現状把握のために情報収集が必要なの」
「白河、吉井、杏の言ってる事……わかるか?」
「ううん。全然」
「一応、ゲームのクエストみたいに条件があったりとか情報収集しなきゃだってことくらいは」
「とりあえずその考え方でいいわ」
言ってる意味はあまりよくわからないけど。
「こうなると、扉をくぐる以外の方法を試す必要もあるのでは?」
「それもいいがムラサキ、その方法がわかるとでもいうか?」
「え? えっと……それは……」
ムラサキさんが案を出すも、雄二の一言で崩れてしまった。
「もし、坂本君の言ってた二つ目のパターン……扉が移動したっていうなら、それを見つければいいんじゃない?」
「なるほど。朝倉姉の言うことも一理ある。だが、あの扉が学園の中だけを移動するとも限らない。島の外までとなれば、この人数ではとても捜索などできないだろう」
「……そうなれば、俺の網を広げるのにも相当の時間がかかってしまう」
どうやら時代が違う所為でムッツリーニの情報網も十全の力を発揮できないようだ。
「いっそのこと、同じ場所にまた扉が現れるのを待ってみるとか? 何かの条件で出たり消えたりするならそれを特定できれば早いと思います」
「それが一番安全と言えば安全な策だけど、扉が再び現れるかどうかがわからないわ。それに、待つと言っても、周囲の視線があるから24時間体勢で立ってるわけにもいかないわ」
「確かにそうですね……それが何年に一度の周期とかだったら、正直やってられないです」
由夢ちゃんの意見も杏ちゃんによって却下。確かにRPGでアイテムとか探す時に同じ敵何度も相手にして倦憊する事もあるからなあ。
どれも一理あるものの、決定的なものとは言えない。
「……あのさ、色々意見出してるところ悪いんですけど、もうこうなったら行動あるのみの方がよくないですか?」
みんなが話し合ってる中、僕は口を挟んでみんなに言った。
「もうみんなが考えられる限りのこと全部試して、涓埃ほどしかないかもしれないけど、可能性あるなら尽きるまでとにかく実行してみませんか? 駄目なら駄目でまた考えれば。どうせ慌ててもなにもならないし」
「なるほど、流石は吉井。いい心構えだ」
「俺も明久の意見に賛成だな。どうせいつ戻れるかわからないんだ。時間をかけてでもやるか」
「儂も明久に賛成じゃ」
「行動第一か。あたしも、賛成ね」
「期待を裏切らないでほしいところね」
「頑張ろうね、弟君」
「そうだな」
「兄さん、男らしいところ見せてください」
とりあえず、これからの行動方針は定まったようだ。
「それでは諸君、これより作戦を開始する」
「もうじき日没だからな。行動できる時間は限られてる。効率的に行動するにはチームを分けるのが一番だな」
「まずは、扉をくぐる以外の方法を試すチームだな」
雄二と杉並君が指示を始め、チーム分けが始まる。
「次に、扉が移動したと仮定し、捜索するチーム。最後に、廊下で再び出現を待つチームだな」
この人数だと、できる人数にも限りがあるのでその3パターンのチーム分けが妥当だろう。
「さて、まず吉井……共に行動する相手を選ぶがいい」
「え? 僕が?」
いきなり言われても困る。今この場にいるのは僕を含めて14人。
3チームに分かれると……4人と2人余るな。まあ、余る2人は雄二と杉並君でいいか。
杉並君はむしろ単独で動かした方がよさそうだし、雄二はこういうの面倒臭そうだし。そうなると……
「ななかちゃん、ムラサキさん、ムッツリーニでいいかな?」
「ほう……。その心は?」
「ただ、このメンバーなら心強いかなって」
ななかちゃんはどんな時でも明るさを忘れないからこっちも普段通りでいられるし、ムラサキさんは頭もいいしリーダーシップも強いからいざという時に的確な指示を出してくれそうだ。
残るムッツリーニはこういう事態ではどうかは知らないけど、五感はかなり優れているので探索ではうってつけだ。
「なら、吉井のチームは扉が移動したかどうかを確かめるために島の、なるべく広範囲の探索を頼む」
「了解。じゃあ、ちょっと急ごうか。日没までもう間もないし」
「はいは~い♪」
「しっかりと働いてほしいものですわ」
「……女子以外の探索なと、つまらない」
そうして僕のチームは学園外へと足を運んでいき、捜索を開始した。
「ふんふんふ~ん♪」
「ななかちゃん、随分と楽しそうだね?」
結構大変な状況下なのにも関わらず、ななかちゃんはいつも通りどころかご機嫌な様子だった。
「え? だって、楽しいじゃない」
「そっすか?」
「だって、過去の世界に取り残されちゃったんだよ? こんなの中々体験できることじゃないでしょ」
「それはいくらなんでも呑気すぎなのでは……」
「というか、本当に帰れなかったらとか、思ったりしない?」
普通こんな状況に陥ったら、そういった不安がまず最初に表に出てくるものだと思う。
ムラサキさんでさえ、気持ちを落ち着けてるようでいて多少の不安があるのはわかるのに。
「まあ、そりゃ帰りたいけど、帰れなかったとしても大丈夫だよ」
「何で?」
「こっちでもきっと生活できるよ。小恋だっているし、明久君もいるし、今までのように楽しく過ごせると思う」
「……そう。……うん、そうだね」
なんだか、それを聞くと悩んでるのがバカバカしく思えてくる。
これが気を遣っての言葉なのか、空元気なのか、天然なのかは僕にはわからない。でも、その言葉が今の僕達にはありがたいものだと思う。
これだけ明るい子がいると自然と自分もそれに釣られて前向きになるような気がする。
後でみんなにもななかちゃんの言葉を聞かせたいものだ。
それから僕達は校門を離れ、まずは商店街へと向かった。
「ここが半世紀前の商店街ね」
「なんか、雰囲気は現代とあまり変わらないね」
「そうだね。出てる店の名前とかが若干違うだけで印象は僕達の時代とあまり変わらないよ」
「この時代でも、みんなクリスマスを盛大に祝っていたのですね」
「……女子もたくさん。(カシャカシャカシャッ!)」
「なんか、一応僕達って……この時代の人から見れば未来人で技術も発達したところから来たのに、ここまで雰囲気変わらないのも不思議だよね」
「まあ、見た目は技術とかより、デザインとかセンスの問題だしね。初音島魂は不滅って事なんだよ、きっと」
「なるほど。……って、それはつまり……この島の人達のセンスが全然成長してないと言ってるのでは?」
「あはは、伸びない街ってことで♪」
そんな和気藹々と会話を交わしながら街の中を歩き回っていた時だった。
「ううぅぅっく……ううぇええええぇぇん……」
大体4・5歳あたりの小さな女の子が道の真ん中で泣いているのが目に入った。
「ん? ねえ、あれ……」
僕が声をかけるとみんな女の子に気がついたようでそちらに視線を集中させた。
僕らと同様、女の子のことを気にしている人はいるのだが、みんな声をかけずそのまま通り過ぎる人ばかりだ。
「えっと……みんな、ちょっとごめん」
僕はそう言い残して女の子のもとへ駆け寄って声をかける。
「えっと……どうしたのかな?」
「おかあさん……いないの……」
「そっか……お母さんとか」
予想はしてたけど、やはりというか迷子のようだ。クリスマスシーズンのこの街はかなり人が多いのだから迷子になる子も出たって不思議じゃない。
「うっく……おかあさ~~ん……」
「わわわ! 泣かないで、大丈夫大丈夫! きっとすぐに見つかるよ! というか見つけるから!」
「見つけるって言っても、どうするのですか?」
「……迷子センターもない」
「どうする?」
すると僕の後ろでみんなが相談しあっていた。どうやらみんなこの子の事が放っておけないらしい。
こちらも都合があるのだが、それでも泣いてる子供を放っておけるほど人でなしじゃない。
「商店街振興組合の事務所で放送を流せば確実だと思うけど……お母さんにあわせてあげたいしね」
「振興組合……ですか?」
「……場所、わかるか?」
「多分……もし、僕達の時代と同じところにあれば。とりあえず、振興組合を探しつつ周囲に呼びかけてみようか? もしかしたらそれでお母さん見つかるかもしれないし」
「なるほど。その方が効率がよさそうですわ」
「……ナイス」
「そうだね。明久君、珍しく頭いいこと言う♪」
「珍しくはないでしょ」
とりあえず方針は決まった。
「ねえ、私達が一緒にお母さんを探してあげるよ」
「ホント?」
「ほんとほんと。だから、お姉ちゃん達と一緒に行こう?」
綺麗な微笑みで泣いている女の子に手を差し伸べるその姿はまるで天使に思えた。
いつもの明るい雰囲気を出すのとはちょっと違う。見た者全てを安心させるような、そんな笑みだった。
「……うん」
女の子も少しは安心したのか、ななかちゃんの言葉に頷いてななかちゃんの手を取ってぎゅっと握った。
それから僕らは迷子の女の子の母親探しと商店街振興組合の事務所探しを同時に行っていた。
「そういえば、君のお名前は?」
「……よしこ。あらいよしこ」
「よしこちゃんか。いい名前だね」
「名前もわかったし、本格的に探してみますか」
「うん。よしこちゃんのお母さ~ん! よしこちゃんはここですよ~!」
「あらいさ~ん! いらっしゃいませんか~!」
ムラサキさんとムッツリーニには僕とななかちゃんの呼びかけに反応する人がいるかを見てもらっていた。
そして僕らが呼びかけて10分かたつというのに、よしこちゃんのお母さんは中々現れてくれない。
建物の中にいるのか、この賑やかな音響の中じゃ聞こえてないのか。
「……よし」
突然ななかちゃんが女の子の手をぎゅっと握った状態で頷いていた。
「ねえ、やっぱりこっちに行こう」
「え? でも、事務所はこっち側だけど?」
「う~ん……でも、よしこちゃんのお母さん、こっちにいる気がするの……」
「気がすると言われましても……今は事務所へ向かって放送で呼び出すのが先だと思いますわ。情報もなしにあてもなく歩き回るのは得策じゃありませんわ」
「……何故急に?」
「ん~っと、勘? ともかく、こっち。みんなも来て」
「ちょ、白河先輩!?」
「……行ってみよう。ああ言ってるけど、ななかちゃんにも考えがあるんだよきっと」
根拠も何もないけど、今はななかちゃんに任せた方がいい気がした。
なんとなく、ななかちゃんなら本当に見つけてくれそうな、そんな予感がしたから。
「うぅ……」
ななかちゃんのおかげで和らいだとはいえ、その効果もしだいに薄くなっていき、よしこちゃんは不安に負けて涙目を浮かべる。
「ああ、泣かないで。……そうだ、お姉ちゃんが面白いお話してあげるから」
「おはなし?」
「そうだなぁ……明久君、何かない?」
「えぇ? そんなこと、急に言われても……」
「……おしゃれと写真の話なら──」
「はいはい、ムッツリーニ。今は真面目な話をしてるからね」
おしゃれはおしゃれでもそれは決して子供には聞かせてはいけないものだろう。
そんなものをこんな純真無垢な子供に聞かせてはいけないだろう。年上のお兄さんとして。
「ん~っと……実は私にはね、よしこちゃんと同じくらいのお友達がいるんだよ?」
「こどものおともだち? おとななのに?」
「お友達に大人も子供もないよ。私のお友達のその子はね、重い病気でずっと病院に入院してるの。でもね、それでもいつも明るく笑ってる子なんだ」
それは初耳だった。ななかちゃんの様子を見る限り、作り話ではないようだ。
重い病気か……。普通なら泣きながら毎日を送るだろうその状況をずっと笑顔で過ごしてるだなんて。
この時代から出る事ができたらその子のお見舞い行ってみようかな。戻ったらななかちゃんに相談してみようと思った。
「ふうん、すごいね~」
「でね。その子はね、プリンが大好きなの。よしこちゃんは?」
「あたしもプリン、だいすき!」
よしこちゃんの顔に笑みが広がった。いやはや、流石ななかちゃんと言うべきか。もうこれは才能だよ。
「ねえ、おねえちゃんとおにいちゃん、こいびとどうしなの?」
「「え?」」
泣き止んで明るくなったと思ったら突然とんでもないことを聞かれた。
それから一瞬ななかちゃんと顔を見合わせてどうしたらいいものかと苦笑いしてしまった。
「あ、あはは……どうなのかな? ね、ねえ、明久君」
「そそ、そうだね……なんて言えばいいものか」
よしこちゃんの純粋な質問に咄嗟に答えることができるような解答を僕達は持ち合わせてはいなかった。
「う~ん……それは、神のみぞ知るって感じかな?」
なんとなくよしこちゃんの言葉を否定するのもどうかと思い、ななかちゃんはそんな言葉を呟いた。
「ともだちいじょう、こいびとみまん?」
ぶっ!? 思わず、吹き出しそうになってしまった。いやはやなんともまぁ……。
「む、難しい言葉を知ってるのね。よしこちゃんってば」
「あはは……最近の子供は進んでるよね」
「違うでしょ、明久君」
「あ、そうか」
半世紀も前なのだから最近のというのは違うか。いやぁ……この時代からこんな小さな女の子がそんな言葉を使うのか。
なんてことを思っていると、
「善子!」
人ごみの中から血相を変えてよしこちゃんのお母さんらしい女性が近づいてきた。
「あ、あれって──」
「おかあさん!」
よしこちゃんのお母さんじゃないかと聞く前によしこちゃんは駆け出してお母さんの胸に飛び込んだ。
「ごめんね。お母さん、買い物に夢中で」
「わああぁぁぁ……ん、おかあさぁぁん」
お母さんに会って今まで僕らと自身で抑えこんでいた感情が爆発したのだろう。
大粒の涙をその目からこぼしながらお母さんと抱き合っていた。
「よかったね……」
「うん」
「見つからないでいたらどうしようかと思いましたが……」
「……一件落着」
「あのね、あのおねえちゃんたちが、いっしょに、おかあさん……さがしてくれたの……」
「あ、ありがとうございます! 目を離した隙に、この子とはぐれてしまって!」
「い、いえ。無事に会えてよかったです。こんな人ごみの中でしたから、会えなかったらどうなるかと思いましたけど。見つかって本当によかった」
「ありがとうございます」
「よしこちゃん、元気でね」
「今度ははぐれないよう手を繋いでね」
「おねえちゃん、おにいちゃん、ありがと~!」
見えなくなるまでよしこちゃんは何度も振り返って手を振り、同じくよしこちゃんのお母さんも何度も振り向いては感謝の意を込めてお辞儀をしていた。
2人が見えなくなるまで僕達も手を振ったりお辞儀を返したりとして別れた。
「……じゃ、帰ろうか」
「へ?」
「だって、もうすぐ集合時間だし」
「……タイムリミット」
「あ……」
そうだ。僕達は例の扉の手がかりを探していたんだ。
よしこちゃんのお母さんを探すのに必死ですっかり忘れてた。
「ありゃりゃ……結局手がかりのひとつも見つからなかったよ」
「しょうがないよ。人助けをしてたんだし……」
「それはそうなんだけど、みんなになんて言おうか」
義之達はともかく、高坂さんや雄二あたりが文句なり罵倒なりを飛ばしそうだと思いながら僕達は学園へと引き返した。