バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

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第三十七話

「ぜぇ……ぜぇ……ど、どうにか撒けたかな……?」

 

 つい先程まで俺達を追っていたあのおっかない雰囲気を纏っていた女子3人を振り切って何処かの影道で息を整えていた。

 

「ムッツリーニ、追手はどう?」

 

「……FFF団は偽情報に釣られて反対方向に誘導している。ただし、女子の方は引っかからなかった」

 

「くそ……やっぱり霧島さんがいるのが大きいかな。彼女、雄二のことになればかなりの嗅覚を発揮するし。……待てよ、それなら雄二ひとりを置いていけば……」

 

「そんなことをすれば、あいつらに多数の女子を囲んで桜内の家に居座っていると言いふらすぞ」

 

「やめて! ただでさえとんでもない誤解があちこちで広まってるんだから!」

 

「だったらお前もこの状況どうにかすることだけを考えろ。このままじゃ、俺達は共に言葉通り破滅を迎える」

 

「そ、そうだね……」

 

 隣では明久と坂本が何やら物騒な相談をしていた。同時にこいつらの友人関係に若干の疑問が沸くが。

 

「というか、お前らは一体何をやったらあの女子達をあそこまで怒らせて追いかけられるんだ?」

 

「「そんなのむしろこっちが聞きたいよ(聞きてえ)!」」

 

 当の2人には全く心当たりがないようだ。

 

「うむ……2人の鈍感さはさておき、このままでは1日を乗り切るどころか、下手をすれば今日で全てが無に帰す可能性も否めないぞい」

 

「怖いこと言わないでよ」

 

「おい、明久……あの3人だけでもどうにか説得できないのか? 正直俺でもあの3人は怖ぇけど、どうにか事情を話せば……」

 

「甘いよ、渉。霧島さんが雄二に制裁を与えるのは雄二の自業自得だとしても、あの2人が事情を話して許しを請ったところで彼女達を止めるのはまず無理だ」

 

「そうだ。明久があの2人に殺されるのは当然として、翔子がそんなことで手を止めるとは思えねえ。結局行き着く先には婚姻届か拷問器具しかないだろうからな」

 

 一体こいつらとあの3人の間で何があったんだ。

 

「それに何より……」

 

「何だよ?」

 

「あいつらは……」

 

 明久と坂本が一拍置いて──

 

「「人の話を聞かない(ねえ)」」

 

「確かに、それが一番大きいよね」

 

 確かに、追いかける途中でも何度か説得を試みたが、あの3人は全く人の話を聞こうとしなかった。

 

 ていうか、何故か明久達の話を変な方向に傾けて俺と明久の関係がどうの寒気がする話が飛び出た気もするが、この辺りは思い出したくない。

 

「でも、どうするの? このまま逃げても、彼女達を説得するのと、あのFFF団だったかしら? アレをなんとかしないと私達、文字通り死ぬわね」

 

「ふえ~!? し、死んじゃうの、私達!?」

 

「小恋ちゃん、落ち着いて」

 

「そうだよ。過去の……あ、過去じゃなかったんだっけ。前の世界だってみんなでどうにかなったじゃない」

 

「それとは全然状況が違うでしょー!」

 

「確かに……下手をすれば、俺たちにまで被害が来そうなんですけど……」

 

「ふふふ……ここまで邪悪という名を体現したような世界は体験したことがない。この世界はまだまだ俺を楽しませてくれそうだ」

 

 あいつらも今のところはいつも通りの会話を続けているが、それがいつまで続いてくれるか。

 

「はぁ……ようやく戻れるかと思ったら今度は更に別世界。しかも、吉井達が異世界人だったって……」

 

「オマケにあの集団といい、あの3人といい……頭が痛くなりますわ」

 

 まゆきさんもムラサキは根が真面目な分、みんなより精神的疲労があるのだろう。それ故か、まだ体力が回復しきってないようだ。

 

「弟君、お姉ちゃんが守ってあげるからね」

 

「あ、ありがとう……」

 

 音姉が言ってくれるのは嬉しいんだが……

 

「お姉ちゃんが守っても、その分あの人達の怒りが倍増するだけじゃ?」

 

 由夢の言う通り、多分それはあいつらの怒りを煽る材料に他ならない。

 

 その辺りは初音島の時と変わらない。いや、更に酷い方向にパワーアップした状況だ。

 

 というか、この状況で本当に俺らが生き残れるのか、本気で不安になってきた。

 

「まあ、ここでじっとしても何も始まらねえ。得策があるわけじゃねえが、可能性がないわけじゃない」

 

「それって?」

 

 坂本の言葉に全員が耳を傾けた。

 

「この人数とはいえ、大半が女子となると、あいつらはまず俺達の言葉に耳を傾けることはねえ。その前に俺達が消されるだろうからな」

 

 消されるという単語がさらっと出てくる辺りがすげえ怖いんだが、今は気にしてる場合じゃなかった。

 

「なら、嫌でもあいつらの耳に俺達の言葉を聴かせるとなれば、方法はひとつしかねえ」

 

「そっか、文月学園の放送で」

 

「正解だ。こっちが何曜日なのかはわからねえが、文月学園なら勝手がわかってるからまだ交渉の可能性はある」

 

「もしそれでみんなの誤解が解けたら?」

 

「どうにかこいつらを翔子の家で世話してもらえるかどうか掛け合ってみるだけだ」

 

「確かに、霧島さんの家ならこの人数くらい、余裕で養える気がするよ」

 

 話を聞く限り、その霧島さん──あの3人の中の誰かだろう──はかなりのお金持ちのお嬢様かなんかだろう。

 

「しかし、学園に逃げ込んだところで、先回りされとる危険性があるじゃろう。あの霧島もいるのなら、待ち伏せされとる可能性は大きいじゃろう」

 

「それも考慮しての策だ。もし休日だったとしても学園には常に教師がいるはずだ」

 

 教師がいるからなんだろうか。教師の前なら暴力はできないって言いたいのだろうか。

 

 しかし、あの妙な集団のことといい、あの3人の事といい、とてもそれで止まるとは思えない。

 

 坂本の様子から見てもそれが目的ではなさそうだ。

 

「あ、そっか……召喚獣」

 

「しょうかんじゅう?」

 

 明久が発した単語に小恋が首を傾げた。

 

「召喚獣って、あのゲームとかに出てくるアレか?」

 

「ああ、渉が考えてるのとはちょっと違うかな?」

 

「召喚獣というのは、正式名称『試験召喚獣』。我が文月学園では、世界でもかなり注目されるシステムがあってね。その最大の特徴が試験召喚システムというもんだ」

 

「その、試験召喚システムというのは?」

 

「まず、我が学園では成績ごとに6つのクラスに振り分ける。A,B,C,D,E,Fと言った具合に分けられる」

 

「久保はトップのAクラス。俺達は最下層のFクラスな」

 

「最下層って……そんなに分ける必要があるわけ?」

 

 まゆきさんが最もな疑問を口にした。

 

 俺達の学園でも大抵は3クラス。時々4クラスくらいだ。いくらなんでもクラス数が多いと思った。

 

「その質問の答えはこうだ。俺達の学園のテストには、上限がないんだ」

 

「上限? つまり、問題は無数にあるってこと?」

 

 音姉の質問に坂本はそうだと言って更に説明を続ける。

 

「この学園のテストは1時間という時間制限の中で無数にある問題をどれだけ解けるかによって成績がどこまでも伸ばせるっていうわけなんだが」

 

「そして、そのテストが終わった後でいよいよ試験召喚獣。科学とオカルト、そして偶然によって成り立った『試験召喚システム』によってテストで示された成績に応じた強さを持つ試験召喚獣が出てくるってわけ」

 

「ただし、それは教師の許可の下でしか呼び出せないものじゃがの」

 

 大体召喚獣というのがどういうものなのかの説明は少しは理解できた。

 

「でも、そんなもんを出してどうすんだよ?」

 

「戦わせるんだよ」

 

 渉の言葉に坂本が一言で答えた。

 

「僕達の学園が注目を浴びてる理由は、そのシステムを使って行われる『試験召喚戦争』。略して『試召戦争』ってのがあるのね」

 

「学力低下が嘆かれる昨今、生徒の勉強に対するモチベーションを高めるために提案された先進的な試みの中心さ」

 

「その戦争で重要になるのがテストの点数なんだけど、AクラスとFクラスの点数じゃ、文字通り桁が違うから普通なら相手にならないんだけどね」

 

 大体はわかったが、それだとFクラスの明久達相手じゃ荷が重すぎじゃねえのか。

 

「大体理解はできたけど、それだと結局あんた達が不利なのは変わらないじゃない。あの3人がどのクラスかは知らないけど、最下層のFクラスのあんた達じゃ勝てないじゃない?」

 

 俺の疑問を杏が代わりに代弁してくれた。そもそもそのテストを受けてない状態でどうやってその『試召戦争』を実現させるのか。

 

「それについては心配いらん。学園に行って待ち伏せがいたとしても、女子達が足止めをしてあそこに行く時間を稼いでくれればいい」

 

「あそこ……って、雄二。それって……」

 

「俺も正直行きたくはないが、今俺達が生き残るにはもうそれしか手がねえんだ」

 

「そ、そうだね。確かに、ある意味あそこが一番安全なのは間違ってないしね……」

 

 明久達がいうあそこがどういう所なのかは俺達には知る由もないが、どうにか作戦はあるようだ。

 

「とりあえず……明久達がそのテストを受ければまだ可能性はあるんだな?」

 

「ああ。そうと決まればすぐに行動だ。全員、ここから先は本気で命を賭けろ」

 

「おう!」

 

 こんなことに命を賭ける意味がわからないが、明久達は本気みたいだ。

 

 とりあえず、この世界のことをよく知ってるこいつらを信じるしかないな。

 

 明久達が影道から勢いよく飛び出し、俺達はそれについていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たわね、アキ」

 

「吉井君、ここまでです」

 

「雄二……覚悟して」

 

 俺達が文月学園らしいところにたどり着くと、そこには既に先客がいた。

 

 例のあの女子3人だ。

 

「く……姫路さん、美波……」

 

「翔子……」

 

 明久と坂本は魔王にでも出くわしたような雰囲気であの3人を見る。向こうも言葉では言い表せないオーラを纏っている。

 

 ついでに言うと、葉月ちゃんにはそれを見せないよう木下が目を覆っていた。

 

 まあ、それはともかく──

 

「なんか……更に人数が増えてないか?」

 

 3人の後ろにはさっきの、FFF団とやらに匹敵するほどの人数の女子がいた。

 

「くそ……まさか、増援を呼んでいたとはな」

 

 どうやら増援のことは予想外だったのか、坂本の額に汗がにじみ出ていた。

 

『あの、島田先輩……。あの人達、今行方不明って噂されてる人達ですよね?」

 

『うん。行方不明だった吉井先輩達が戻ってくるなんて……なんか見たことない子達までいるけど』

 

『何かあったんですか?』

 

 後ろの女子達がそんな話をしているのが聞こえていた。

 

「ああ、ちょっと遠いところで羽目をはずしすぎたからちょっとお仕置きをね」

 

 こっちの世界のお仕置きというのは屋上からノーロープバンジーさせるものなのかというツッコミが喉まで出かかった。

 

「く……これはマズイ。もう、色んな意味でマズイ状況だね」

 

「ああ、下手をすれば……」

 

「……雄二」

 

 明久と坂本が相談しあってる中、坂本を呼ぶ女子が両手に1枚ずつ紙を持ってそれを突き出した。

 

「選んで。ここで婚約するか……結婚するか」

 

「それ、どっちも同じ意味だろう!」

 

 おかしい。何かが色々とおかしい。

 

「えっと……こっちじゃ婚約と結婚って、どう扱われてるんだろう?」

 

「音姉、何も考えない方がいいと思う」

 

 一々あの3人の言葉を真に受けたら色々とキリがない気がする。

 

「アキ~……色々ポッキリ話を聞かせてもらうわよ?」

 

「ポッキリ!? そこは普通じっくりとか言うところだよね!? ていうか、これ前にも言った気がする!」

 

「ああ、間違えたわ。じっくり全身の骨を1本ずつ折りながら話し合いましょう?」

 

「おかしいよ美波! 話し合う気があるのならそもそも骨を折ろうとしないはずだ!」

 

 こっちは更にバイオレンスな雰囲気が増してるな。ていうか、明久はこっちでどんな酷い目に会っていたんだ。

 

「明久君、どうしてなんですか? どうして私達の所じゃなく、その人達のところに行ったんですか?」

 

「姫路さん? 何でって、それは僕の意思じゃなくて……成り行きっていうか、偶然っていうか……」

 

 別に嘘ではない。どういうわけか、あの扉で俺達がこの世界に来たように、明久もいつの間にか初音島に来てたっていうし。

 

「そんなに……そんなに男の子と屋根の下で暮らしたかったんですか!? 坂本君とベッドを共にして!」

 

「「全員動くなああぁぁぁぁ!!」」

 

 あの姫路さんという子がとんでもないことを言った瞬間、明久と坂本が叫んだ。

 

 その叫びにあの3人の後ろにいた女子達がびくっ、と体を一瞬震わせた。その手に携帯を持ちながら。

 

「さあ、みんな……余計な動きは見せないように。そして携帯を地面に置いて手を後ろに組むんだ」

 

「妙な真似をしても無駄だ。こっちにはムッツリーニがいるんだ。大人しくした方が身のためだぜ」

 

『『『くっ……』』』

 

 何やら女子達が悔しげに携帯を地面に置いた。

 

「ふう……危なかった。僕達が制止してなかったら、僕と雄二、そして義之と寝屋を共にするほどの関係を持っているという噂が学校中に広まっていたところだったよ」

 

 何故そんな噂が学校中に知れ渡る場面を想定しているのか非常に気になるが、そんな疑問も許さず、あの美波という子が更に口を開く。

 

「そうよ! 何で女子じゃなくて男なのよ! そんなに坂本やそこの男の子と過ごす方がいいって言うの!?」

 

 カチカチカチッ

 

「「誰が動いていいと言った!!」」

 

 あの美波とか言う子の言葉で携帯に手をかけた女子達を明久達が再び制止する。

 

 ていうか、何でそんなことになるんだよ。明久達が言うにはあの3人のうち2人はAクラス……つまりは学年トップレベルの実力者らしいが、全くそんな感じがしない。

 

 というか、下手をすれば俺や渉以上に馬鹿な気がする。

 

「もう駄目だわ……頭が痛くなってきたわ……」

 

「わ、私もです……。一体あの方達は何を仰ってるのやら……」

 

 まゆきさんやムラサキもかなりの頭痛を患い始めた。俺も同様だ。

 

 あの2人は何がどうなってそんな発想に至るのやら。そして後ろの女子達もどうしてそんなくだらない話を鵜呑みにするんだよ。

 

「雄二、吉井とその男の子と屋根の下で色々してるって……ホントウ?」

 

「一緒に暮らしてるのは否定しねえが、お前の考えてることになんて未来永劫なってたまるか!」

 

「そうだよ! 何で雄二なんかと恋人にならなきゃいけないんだよ! それだったら僕は断然ななかちゃんを選ぶよ!」

 

「ふええぇぇぇぇ!?」

 

 明久が同性愛を否定する勢いのままとんでもない爆弾発言を投下した。

 

「うわ、明久君……すごい」

 

「明久さん……意外と、大胆ですね……」

 

「へ?」

 

 しかし、当の本人は全く自覚がないようだが。

 

「わ~お、明久君だいた~ん♪」

 

「ふふふ、よかったじゃない、白河さん」

 

「ふぇ~……吉井君がななかと……お、お似合いだと思ってるけど……う~」

 

 茜と杏は面白がり、小恋は明久の突然の爆弾発言に顔真っ赤にしてうつむいていた。

 

「あ、あれ? みんな、どうしたの?」

 

「明久、お前の今の発言をもう一度頭の中で整理してみろ」

 

「へ? …………はっ! だああぁぁぁぁ! 違うんだ、ななかちゃん! いや、違うっていうのは雄二との同性愛の噂に関してってことで、ななかちゃんが嫌いじゃなくて、むしろ好きの部類に……って、何言ってるんだ僕はああぁぁぁぁ!!」

 

 明久が白河に必至に弁明しようとするが、更に墓穴を掘っていた。こんな時になんだが、明久の反応は見てておもしろいな。

 

「アキ、どうやらじっくりと言わず、盛大に骨を折ってあげようかしら?」

 

「明久君……そんなにお仕置きを受けたいなら言ってください~」

 

 向こうも向こうで更に負のオーラが増してる。さっきまで同性愛がどうとか言った癖して、あんたらは明久にどんな答えを求めてるんだよ。

 

 カチャカチャカチャ

 

「だから誰が動いていいと……いや、同性愛よりはむしろいいんじゃ? でも、ななかちゃんに迷惑が~」

 

 いや、明久。俺から見ても白河とお前の組み合わせは結構いいんじゃねって思ってるぞ。白河も満更じゃなさそうだし。

 

「よし、いいぞお前ら! そのままメールで噂を広めて俺と明久の噂を解消しろ! ついでに明久と白河の噂に真実味を持たせろ!」

 

「雄二! 貴様余程僕を地獄に落としたいらしいな!」

 

 地獄どころか、むしろ天国じゃねえかと思うんだが。

 

「アキ~~」

 

「明久君」

 

 違った。明久の言う通り地獄一直線のようだ。

 

「さらばっ!」

 

 あの2人の殺気が強まったのを認識した瞬間、更に後ろに控えている女子たちのピンク色の空気に耐えられなくなった明久はその場から猛スピードで逃げていった。

 

『待ちなさい、アキ──っ!』

 

『明久君!』

 

『駄目よ、アキちゃん! あなたには坂本君という大切な人が!』

 

『なんで玉野さんまでこっちに来てるの!? そしていい加減僕をアキちゃんて呼ぶのやめて! そして僕を同性愛者に仕立て上げないで!』

 

『吉井ぃぃぃぃ! 今噂になっている不純異性交遊の件、じっくり聞かせてもらうぞおおぉぉぉ!!』

 

『鉄人!? もう噂になってるの!? ていうかお願い、話を聞いて!』

 

『黙れ! ようやく戻ってきたと思えばまたくだらん騒ぎを起こしおってからに! 指導室でじっくり話を聞かせてもらうぞ!』

 

『なぁしてええぇぇぇぇ!?』

 

 明久が筋骨隆々の教師らしい人に連れていかれ、見えなくなった。

 

「よっし! 大半の障害は明久の犠牲で消え去った! ついでに鉄人もあっちに集中がいってる。残るは翔子だけだ!」

 

 連れていかれた明久をあっさりと見捨てる坂本は本当に明久の親友なのか。

 

「雄二……私は、雄二のことを大切にしたいと思ってる。傷つけたくない」

 

「そうかそうか。それはいいことだ。なら、ここは大人しく俺を補習室に──」

 

「だから選んで」

 

 坂本が最後まで言い切る前に翔子さんが両手に拷問器具とスタンガンらしいものを持って突き出した。

 

「厳しく躾けられるのと、一緒の部屋で寝るのと」

 

「どちらにしても俺に未来はないのか!?」

 

 駄目だ、のっけから全く会話になっていない。これじゃあ、収集がつかない。

 

「じゃあ、翔子さんだったかしら? 取引しましょう」

 

 そんな時、杏が前に出てきた。

 

「……あなたは?」

 

「雪村杏。出身がどこかは今は伏せるけど、向こうじゃ坂本と同級生ね」

 

「……雄二とは?」

 

「友達という点以外はそれほど深い関係はないわ。まあ、生憎……証明するものはないけど」

 

「……何を求めるの?」

 

「実は私達、ちょっと事情があって宿が取れない状態にあるの。そこであなたがお金持ちだってことを聞いて少しの間、私達を泊めておしいの」

 

「……その対価は?」

 

「やっぱりそうなるわよね。そうね……今の私達の歳でも結婚できる国を教えてあげる、というのはどうかしら?」

 

「よせ、雪村! そんな事を翔子に言えば、俺は今日中に外国人にされてしまう!」

 

「馬鹿ね。そうでもしなければ私達を取り巻くこの状況を解決できないんだから、この程度でガタガタ言わない」

 

「この程度じゃねえだろ! 俺の将来が大ピンチなんだぞ! とにかくそれ以上何も言うな! だから──ギャバッ!?」

 

 坂本の後ろから翔子さんがスタンガンを突きつけて坂本を気絶させた。

 

「……本当に?」

 

「ええ。だからひとまずは坂本達を補習室に連れてって、回復試験とやらを受けさせてあげてくれないかしら?」

 

「……ありがとう。雪村は良い人」

 

 それから翔子さんが坂本を引きずってその場を去っていく。

 

「すげえな、杏……」

 

「ああ、あそこまで簡単に事を運べるとはな」

 

 色々頭の痛い事態だったものの、杏の咄嗟の機転でどうにか俺達の取り巻く問題のひとつが解決できたようだ。

 

「とりあえず……次は明久の方だな」

 

 俺達は精神的に疲れを残したまま明久のいる指導室に向かって歩いていった。

 

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