クリパが終わり、暮れも押し迫ったある日の事。
「寒~……」
「何で休日に僕ら、学校に来てるんだろ?」
「そりゃあ、折角温々とした部屋で昨日のゲームの続きしようとしたところで突然のまゆきさんからの呼び出しがかかったからだな」
「あ~、そうだったねぇ」
もう冬休みに入っているわけだから僕達は家でのんびりゲームをして休みを過ごしていたのだが、そこに僕達の携帯に高坂さんから電話がかかってきて、
『今すぐ学校の生徒会室に集合。わかった?』
──と、僕達の返事も聞かずに一方的に要件を言って電話を切った。
そんなことがあって僕達は学校に来ていた。ていうか、なんで僕達が生徒会に?
確かにクリパとかで一時的に生徒会のメンバーに入ってはいたけれど、あれはもう期限を過ぎたのだからもう僕達には関係ないんじゃないの。
「は~……せっかく新ステージ突入しそうってところで」
「あ、義之そこまでいったんだ。僕はセカンドのボスの攻撃パターンが中々あれでちょっと手こずってる最中だった。
「ああ、そうか。なら、さっさと要件済ませて家帰って続きといくか」
「そうだね。このまま寒空の下でアレコレいってもどうしようもないし」
「だな」
とりあえず僕達は生徒会室へと向かって歩き出したのだった。
「どーも」
「こんちゃーっす」
「あ、2人共!」
「遅い!」
「いらっしゃーい」
入れば生徒会室にはお馴染みの生徒会メンバーが集まっていた。
「どしたの、ぼんやりして?」
「さぁさ、中に入って」
「早く閉めてくれないと寒いんだけど」
「あ、ごめん」
僕は生徒会室の扉を閉め、義之と共に空いてる席へと移動した。
「さて、弟君達も来たところで、本題に入りたいと思います」
「はーい」
「待ちくたびれました」
何故か説明もなしに会議が始まっていた。説明はないの?
「それでは只今より、今年最後の反省会を行いたいと思います」
「ちょっと待ってください」
「ん? 何、弟君?」
「それ……俺達も参加っすか?」
「当たり前じゃない。少し前まであんた達も生徒会の一員だったわけだし」
「や、それはそうでしょうけど……」
「まあ、他にもあんた達は……人身御供?」
「「は?」」
人身御供……要は生贄ってこと? 何で僕達が?
「今年の生徒会の渇仰結果ね、まあ、野球で例えるなら打率不振。投手はよかったんだけど、得点を上げられなかったというか。対杉並関連で要所要所は抑えられたんだけど……豪快な逆転ホームランとまではいかなかったのよ。逆にクリパでは、弟君達のクラスにおっきな花火を打ち上げられる始末」
「「うぐっ」」
高坂さんの視線に僕達は後ずさる。そうだ……クリパの2日目で僕が追いかけられ、学園から出た後で杉並君が夜に大きな花火を彩らせたらしい。
それを仕組んだのが杉並君やムッツリーニ、他は渉や杏ちゃん、茜ちゃんに3組のほとんどが参加してたらしい。
生徒会に叱られる覚悟で仕込みを頑張った甲斐があってか花火自体は好評だったようだけど、ゲリラ打ち上げだったために生徒会は付近の住民からの苦情処理に四苦八苦だったらしい。
その結果、うちのクラスには厳重注意が言い渡されて冬休み中に処分が発表されると言っていたが。まあ、僕と義之は生徒会メンバーだからと思って記憶から外していたのだが。
「エリカも生徒会に正式に入ってくれて新緑は確実にUPしてるんだけど、やっぱりまだコマ不足な感は否めないのよねぇ」
「で?」
「それがどう……」
「まあ、つまり……あたしゃ~、腹が立ってるのよ!」
「それが本音ですかー!」
ガンッ、と机を叩いて怒鳴った高坂さんに僕がツッコミを入れた。
「最終的には現場を取り押さえられたけどクリパは杉並や雪村達にいい様にやられてしまったわけだしね。んで、目をつけたのがあんたら2人」
「「……はい?」」
「やっぱり目には目を、歯には歯を、問題児には問題児を、だよね」
「「失礼な、僕(俺)はそんなに問題を起こしてませんよ!」」
「今まで散々杉並と好き勝手やってた弟君がそんな事言うんだ? それと、吉井は文月学園の方で相当やってた癖に?」
「「うぐ……」」
言い返せない。確かに向こうじゃ相当やらかしちゃってたからなぁ。
「ていうか、それで俺達を呼んだんですか? 俺達の意思表示とかないんですか?」
「別にYES、NO唱えるのはあんた達の自由だけど……ここでのあんた達の選択があんた達のクラスへの処分に大きく関わっていくからね」
「うわ、きたな!」
義之の言う通り、やり口が汚い。それは脅迫というものではないだろうか。
「だから最初に言ったじゃない。あんたら2人は生贄だって」
「「く……」」
僕と義之はただ黙ってこの人の言うことを聞くしか選択肢が残っていなかった。
「って言っても、ずっとお手伝いしてってわけじゃないんだよ。生徒会合宿の期間だけでいいから」
「……生徒会合宿?」
音姫さんの言葉に義之が聞き返した。
「うん」
「ちなみに明日から」
「明日!?」
「目的はこれまでの反省と今後の対策の検討。他、生徒会面々の親睦、慰労などなど。ま、その合宿にあんた達も参加してもらうけど」
「ちょ、ちょっと待ってください! 明日からって……期間はどれくらいですか? 大晦日には帰りますよね?」
「お正月明けるまでよ」
「そ、そんなにいいいいぃぃぃぃ!?」
「生徒会の仲間と一緒に年越し~! イェー!」
「イェー、じゃなくて!」
「ん? 吉井はまだ文句あるのかにゃ~?」
「文句大アリですよ! そんなに長い間なんですか! それじゃあ折角の年末年始のななかちゃんとの楽しい時間327通りまで練った僕のデート計画はどうなるんですか!」
「むしろ327通りまで考えられるあんたの脳に感心を覚えるわ」
くぅ~……このままこっちに残れば僕達のクラスの処分は重くなる。かといって行けばななかちゃんとのデートはなくなる。どっちにいってもその先にあるのは凶だ。
「生徒会と一緒に旅行に行くだけで、弟君達のクラスの処分が軽くなると思えば安いもんでしょ」
「今、旅行って言った! 反省会だとか親睦会だとか言ってたのに今あんた普通に旅行って言いましたよね!」
ああだこうだ言っても結局結果を覆すことはできなかったわけで……明日午前7時に芳乃家に集合ということになってしまった。
う~……僕とななかちゃんの素敵な年末年始がぁ~。
ピピピピピピピピ!
「う、う~ん……」
ピッ!
「……はぁ~」
目覚まし時計の音で僕は目を覚ました。同時に欠伸でなく、ため息をついた。
今日は生徒会合宿のためにスキー場へ行くことになった。ななかちゃんには悪いことしてしまったなぁ。
ななかちゃんには昨日連絡して年末年始を共にできないことを謝ったのだが、彼女は電話の向こうで笑って──
『まあ、一時的にとはいえ、生徒会メンバーになってたみたいだから当然だよね。うん、私のことは気にしなくていいから、そっちはそっちで楽しんでいきなよ。こっちはこっちで小恋達と年末年始楽しく過ごすから。あ、でも帰ってきたらお土産と埋め合わせ楽しみにしてるから♪』
──と、許してくれた。本当、僕には過ぎた彼女さんだなとしみじみ思うよ。
僕は昨日あらかじめ準備しておいた荷物を軽く確認して下へおりた。
「む? 明久か。早いではないか」
「おはよう、秀吉。秀吉も随分早いじゃん。僕はこれから生徒会合宿へ行くから早く起きたけど」
「儂は、まあ……演劇部での用事もあるからの。明久と、桜内に由夢ちゃんもじゃったな」
「うん。義之も……そろそろ起きるかな?」
「うむ。そんでもって、由夢ちゃんも既に起きて……」
秀吉が指差した先には……」
「フンフフ~ン♪」
鼻歌交じりに荷物の準備を行っている由夢ちゃんの姿があった。
「えっと、あれ持ったこれ持った……後は、後は~。あ、そうだ。あれも持っていった方がいいかな」
「……なんていうか由夢ちゃん……」
「楽しそうだな」
「はうっ!?」
突然聞こえてきた第三者の声に由夢ちゃんが驚いて飛び上がった。
「おはよ~」
声を出していたのは義之。今起きたところかな。
「お、おはよう兄さん。遅いですよ」
「俺んちの前で集合なんだからちょうどいい時間帯だろ。にしても、随分と楽しみにしているんだな」
「べ、別に楽しみになんかしていないです」
「そうか? 今めっちゃ楽しそうに荷物の準備をしていたが」
「こ、これは、その……行くなら準備万端の方がいいし、こういうのって準備している最中が楽しいんであって」
「子供の遠足か。ていうか、結局楽しんでると自白しているぞ」
「むっ!」
義之がにやけると由夢ちゃんは眉を釣り上げて不機嫌になった。
「そういう兄さんは随分荷物が少ないじゃない。それでいいの?」
「たかが生徒会の合宿だぞ? 着替えだけありゃそれでいいんじゃないの?」
「ふ~ん。行きのバスや船の中で、お腹がすいてもお菓子とかいらないんだ」
「うぐ!」
「暖かいお茶もいらないんだ~」
「し、しまった! それは確かにいるかも!」
「ふふ~ん♪」
由夢ちゃんの反撃を受けて義之はたじろいた。
「ゆ、由夢様! このわたくしめにも少しばかり、お裾分けを!」
「ふーんだ。こういう準備をしないってことは、食べないってことですよね~」
「食べる! 食べます! 全然気が回りませんでした!」
「ふうん?」
「ゆ、由夢さま~! なにとぞ~、なにとぞ~」
「兄さん、そんなクネクネしたら気持ち悪いだけです」
「俺もバスや船の中で食べたいであります」
「しょうがないなぁ。じゃ、このお菓子が詰まったバッグ、兄さんが持ってくださいね」
「それくらいお安い御用──って、重ぉっ!? たかがお菓子なのに重っ!」
義之が笑いながらお菓子の入ったバッグを持ち上げてみるが、予想以上の重さにぎっくり腰にでもなりそうなほど全身の筋肉が一瞬引きつった。
「合宿中、みんなで食べるお菓子がはいってるの。重くて当然」
「さ、流石だね由夢ちゃん。みんなの分も気遣ってなんて……」
「弟く~ん、お姉ちゃんの荷物もお願い~」
「音姉も? まあ、いいんだけど……って、ちょっと待て音姉! あんた、何処に引っ越すつもりだよ!」
「え?」
「え、じゃなくて! 何なんだ、そのうず高く積まれた荷物は!?」
義之の言う通り、音姫さんが持ってきたのは何処かに引越しでもするのかというくらい高く積み上がった荷物だった。
「何って、合宿行くのに必要最低限の荷物だけど?」
「必要最低限でどうしてそんなに高く積み上がるんだよ! もうこの量は完全に引越しレベルだぞ!」
「お、お姉ちゃん……私も、それは流石に多すぎかと……」
「ええ? だって、色々必要でしょ? 着替えでしょ? お風呂セットでしょ? もしもの時の救急箱に、ドライヤーに、紫外線防止クリームに、お肌感想防止のクリームに、ボディローションに」
「いや、そりゃそうかもだけど……それ以外でしょ、この荷物の多さは!」
「い、一体何が入ってるの? お姉ちゃん」
「え~? 大体が着替えなんだけどぉ」
「「「そんなにいらん(いりません)(いらないよ)!!」」」
音姫さんの言葉に僕達3人が同時にツッコんだ。
「何で合宿する分じゃない着替えまであるんだよ?」
「だって、何が起こるかわからないじゃない? パーティーとか、遭難とか……いきなり夏になっちゃうとか!」
「「「絶対にない!」」」
「はうっ!」
「ていうか、音姉……まさか、水着まであるなんて……」
「うん! 3着!」
「アホかー!?」
音姫さんの水着姿……個人的には興味あるが、この場においては必要はない。
「はう~」
「置いてきなさい」
「やだやだ~。これでもすごーく厳選したんだよ? これ以上は無理~」
「いや、それは全く必要とは思えませんけど……」
「いきなり夏になることなんか、絶対ありえないのに……」
「私の、お菓子詰め合わせバッグの方がまだマシだよね」
「それは俺も同意だ。帰りには確実に減ってるしな……って、まさかお前も水着なんて?」
「お姉ちゃんと一緒にしないでください」
由夢ちゃん、君もちょっと酷いこと言ったよね、今。
「やほ~! 来たよ~!」
ちょうど高坂さんが来たようだ。
「お、来た来た」
「それじゃあ、行きますか」
「待って~! 弟く~ん、運ぶの手伝って~! あぁ、由夢ちゃんも明久君も~!」
「……あ~、明久……悪いが、運ぶの手伝ってやってくれ」
「了解」
ため息つきながらもそういう義之も、結構優しいよね。
「おっはよー!」
「おはようございます」
「おはようございます、高坂先輩」
「おはようございます、お早いですね」
「おはよ~」
「うんうん、みんな揃ってるねぇ」
玄関を出たら門前にはマイクロバスが到着していた。
まずこのバスごと船に乗り込み、本当に渡ってからまたこのバスで移動、という方針だ。
中には既にムラサキさんやその他生徒会メンバーが乗り込んでいた。
「そんじゃ、荷物はこっちの方にポイポイと詰めちゃってね」
「うぃーっす」
「了解です」
マイクロバスの荷物用スペースには既にたくさんのボストンバッグがあった。かなりいっぱいあるなぁ。
中には複数のバッグを詰めてる人もいるんだろ。明らかにメンバーの数より多いし。
「あ、兄さん。お菓子バッグは車内持ち込みですからね」
「わかってるって」
「うんしょ、うんしょっ」
後ろでは大荷物を引きずってくる音姫さんの姿があった。ちゃんと入るかなぁ、あの荷物。
「たく、音姉、貸して」
「ありがとう、弟君」
「ちょっと音姫? なにこの荷物」
まあ、これ見れば流石の高坂さんも驚くだろうなぁ。
「ちょっと少なくない?」
「「「ええぇっ!?」」」
高坂さんの言葉に僕と義之、由夢ちゃんが声を上げた。
「うん、今回はそんな滞在期間がないから」
「え~? それ大丈夫なの?」
「厳選したから問題ないよ」
「「いや、ちょっと待ったー!」」
ナチュラルに言ってるけど、ものすごい発言の嵐に僕と義之が割って入る。
「「ん?」」
「こ、これって、いつも?」
義之が音姫さんの荷物を指差して尋ねる。
「そうだけど? 毎年生徒会の合宿にはこれ以上の荷物になるよね?」
「うんうん」
「まあ、色々必要なのよ。あたしも、ほら」
高坂さんは荷物用スペースを手で差して言った。ていうか、ちょっと待って。まさかとは思うけど。
「まさか……あの大量のボストンバッグはほとんど高坂さんの?」
「あったり~」
「「「…………」」」
僕と義之、由夢ちゃんは絶句して顔を見合わせた。
「そういえば、毎年合宿でいないときのお姉ちゃんの部屋は、全く物がなかったなぁ」
「そ、そうだったのか。てか、まゆきさんも一体何持ってくんだ?」
「類は友を呼ぶ……ってやつだね」
「みんな、荷物詰めたわね? 忘れ物ない?」
「「「はーい」」」
「そんじゃ、しゅっぱーつ!」
こうして僕達は生徒会合宿へと足を運ぶことになった。
「……うむ、行ったぞい。それじゃあ、儂らも行くぞい」
明久達が芳乃家を去った後、また門前に別の車が到着し、秀吉はその車に乗って芳乃家を出た。