バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

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第九十二話

 

 僕たちは久々の風見学園へと足を運んだわけだが──

 

「それにしてもこいつは……」

 

「随分、多いね……」

 

 校門に着けば、既に多くのOBやOGで溢れかえっていた。その数軽く300はいっている。

 

「想像してたよりもずっと多くないか?」

 

「それも当然のことだな」

 

 渉の言葉に同意するように第三者の声が割って入る。

 

「おお、杉並!」

 

「で、当然というのはどういうこと?」

 

「……俺たちの世代は漫画にありそうなネタに事欠かさなかったからな。卒業してから物足りないと思う人間も多い。更に当時はレベルの高い美少女も多いため、その女子たちの顔を再度見ようと戻ってきた者たちも多い」

 

 康太の説明になるほどと納得できた。確かに僕たちの世代はアイドルと言われていたななかちゃんはもちろんのこと、音姫さんや由夢ちゃんに雪月花の3人……他にもレベルの高い女子はたくさんいたからな。

 

 風見学園を卒業していった先に華やかな未来があるとは限らないわけだし。行った先がハズレだった者は尚更ここに通っていた時代が恋しくなるだろう。

 

 故に、目に見える人だかりの大半が男子だというのも頷ける。もちろん、女子だって大勢いるのですが。

 

「で、話を戻すけど、これだけの人だかりってことは、当然在校生も参加してるというわけね?」

 

 仕切りなおすように、杏ちゃんが切り出した。

 

「その通りだ。基本、今回のイベントは俺たちが付属3年時に在籍していた全校生徒に声をかけたのだが──その噂があっという間に広がったようでな。そんな楽しいお祭りがあるなら是非俺たちも参加したいと立候補する者が後を絶たなかったらしいのだ」

 

「まあ、当時の風見学園は杉並を筆頭に大盛り上りじゃったからの」

 

 まあ、それを生徒会メンバーが聞いたら不本意も甚だしいと言うだろうけど。

 

「で、イベント当日の来場者としての参加はもちろん、希望者は手伝いとして準備期間から参加できるよう生徒会が取り計らったらしい」

 

「なるほどな。それでこんなに多いわけか。流石風見学園の生徒、みんなお祭り好きだな」

 

「もちろんお祭り好きってのもあるだろうけど……今回はそれだけじゃないのよ」

 

「って言いますと、音姫先輩?」

 

「さくらさんをお祝いするんだったら是非参加したいって人がたくさんいたの。私たちの代も、それよりも前の代の人たちからも連絡があったりして、さくらさんの人望があったから、これだけの人が集まってくれたんだと思う」

 

 確かに、明らかに僕らより年上だというのに、一度も顔を見たことのない人も何人かいる。

 

 まあ、学年や校舎が離れてれば一度も会わない人だっているかもしれないけど、これでも休み時間や放課後には散歩にいったりして色んな人の顔を見てきたんだ。それを差し引いても、かなりの数がいる以上、僕たちの想像を遥かに越えた人数が集まっているのがわかる。

 

「流石、芳乃さくら嬢といったところだな」

 

 杉並君の言葉に全員が同意するように頷いた。それだけさくらさんはこの学園に必要な存在だったのだ。

 

 代理として学園長になった人も良い人物ではあったのだが、やっぱりさくらさんが抜けたことで気分が半減したという感じの人もかなりいたからな。

 

「あ、いたいた。おーい、音姫ー!」

 

「ん?」

 

 随分懐かしくも僕の内から恐怖を引きずり出すような声を聞いて音姫さんがキョロキョロと辺りを見回す。

 

「こっちこっち! ここだって!」

 

 声と同時にこちらに駆け寄る足音。

 

「おはよ、音姫。弟君も、それに見慣れた面子が勢ぞろいのようね」

 

「……誰だ?」

 

 雄二が首を傾げた。出てきたのは、紫がかった黒髪をポニーテールにまとめた女性だった。

 

 あれ? こんな人、先輩にいたっけか?

 

「ほ~う? 坂本、在学時からあんだけあたしに世話かけさせておきながら、もう忘れたと~?」

 

 笑顔だというのに、何か恐怖を感じるこの表情……まさか?

 

「えっと……ひょっとして、高坂さん?」

 

 髪型が大分違うけど、この有無を言わせないような迫力はあの人以外考えられない。

 

「へ~? 吉井……あんたも、この数年であたしの事なんて記憶から外れてしまったと?」

 

 しまった……余計な疑問を口にしてしまったか。

 

「朝倉先輩、皆さん、おはようございます」

 

 よかった。ムラサキさんが姿を現してくれたおかげで意識がそれた。

 

「エリカちゃん、今回は色々ありがとね。エリカちゃんの協力がなかったら絶対に実現できなかったから」

 

「い、いえ……私は……」

 

「いや、そんなことはないぞ。本当にムラサキの力は大きかった」

 

 確かに。ムラサキさんの統率力と情報伝達力がなければここまで多くの人はこない筈だ。

 

「流石、風見学園の長い歴史の中で、最も長期に渡って生徒会長の座についただけのことはあるわ」

 

「それを主導した黒幕がよく言うぜ」

 

 杏ちゃんが生徒会長を引退する時期、杉並君を加えて大騒ぎをして、ムラサキさんがその騒ぎを沈めたのが彼女が生徒会長になるきっかけになった。

 

「そりゃ、そうかもしれないが……」

 

「その件に関しては未だに少し根に持っている部分はありますが──」

 

 そりゃあ根にも持つわ。全て杉並君や杏ちゃんの手のひらで踊らされたようなもんだし。

 

 まあ、それでも彼女が生徒会長の座に送ったのは正解だと僕も思うけど。

 

「ですが一応、先輩方にはお世話になっていましたし、前学園長には本当にお世話になりましたから」

 

 そう言って爽やかに微笑んだ。

 

「んまあ、それにしてもさあ、コレ。どうなんだろうね。大丈夫だよね? ギリギリ」

 

 高坂さんが制服の裾を摘みながら苦笑いを浮かべて言った。

 

「ま、まゆきまでそんなこと言わないでよ! 大丈夫、きっと大丈夫よ!」

 

「ど、どうしたの、そんなに熱く」

 

「な、なんでもない、なんでもない。全然、うん。誰もコスプレの心配なんてしてないって」

 

「はあ?」

 

 ああ、そういう心配ね。別に似合ってれば問題ないと思うけどなぁ。

 

「まあいいわ。音姫、そろそろ準備。体育館の方へ。先に軽く打ち合わせもしたいし」

 

「あ、うん、そうだね。それじゃあ私は行くけど、久しぶりの学校だからってあんまりハメを外しちゃダメよ?」

 

「あんたもよ、杉並!」

 

「ふっ、何を言う。我々は成長したのだ。後輩たちにみっともない姿を見せたりはせんさ」

 

「ならいいんだけど……」

 

「では先輩方、参りましょう」

 

 以前のような光景を見たと思うと、音姫さんと高坂さんたちがムラサキさんの先導に従って体育館へと向かった。

 

「そういえば、音姫さんたちスタッフ……というか、生徒会に戻ったんだ」

 

「ああ。卒業した人たちのことを纏めるにも人数はいた方がいいから当時生徒会長の音姉にな。しかし、杉並があんな殊勝な物言いをするとはな」

 

「そうだね。どんなイベントにも絶対に何か騒ぎ起こしてたのが」

 

「ふん、当然だ。俺もいつまでも子供ではない。まして卒業生から在校生まで多くの人間が関わり、見守ることになるイベントだ」

 

「まあ、そうだな」

 

「成長した姿を見せないわけにはいかぬだろう。大人の力、やり方をな。くくく、高坂まゆきに負けておれん」

 

「あ、お前やっぱり──」

 

「では俺は色々と下準備があるのでな。また後でだ、同士桜内。我らの力、思い知らせようぞ! ふはははははははは!」

 

 高笑いと共に、杉並君はどこかへ消えていった。

 

「やっぱり、杉並君はいつまでもああなんだね……」

 

「まあ、アイツらしいと言えばそうなんだが……」

 

 僕と義之は顔を見合わせ、互いにため息をついた。これは、絶対にまた何か起こるなと予感した。

 

 だが、同時に僕はチャンスとも思った。杉並君の準備に乗じてれば僕の計画も実行できるかもしれない。

 

 そう思いながら僕らはかつての校舎へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

『というのが基本的なこととなります。皆さん、協調と自制を持って参加しましょう』

 

 音姫さんが代表して在学生や卒業生のみんなに向けて、今回のイベントについての冒頭の挨拶を行った。

 

『さて、今回の趣旨は説明した通りですが、風見学園の電灯に則って、芳乃前学園長を一番喜ばせる

 ことができたクラスには──』

 

 音姫さんが溜めをつくると、打って変わってシンと静まる。

 

『豪華賞品を贈呈したいと思います!』

 

 賞品と聞くと皆、一気に歓声を上げ、体育館内の空気が震えた。

 

 みんなこのイベントに参加したいと思ってる以上、同時に見返りも期待していて、それがわかっているからこそ生徒会もその期待に応えるという姿勢を持ってるからこそ、そういう信頼関係が表れてるのだろう。

 

「当然ね、ふふふ」

 

 近くでは杏ちゃんが悪い笑みを浮かべていた。

 

 ちなみに音姫さんが代表として壇上に立っているのは杏ちゃんがムラサキさんや音姫さんに働きかけ、当世代一番人望の厚い生徒会長だった音姫さんを推薦したからだ。

 

 それにはムラサキさんやまゆきも大賛成だったし、音姫さんもそれなりの人数から推薦されればあの人の性格上、断れないので若干渋りながらも了承したらしい。

 

『みなさん、静粛に。静粛に! 本日、こうして体育館や校舎の使用、また今回のイベントそのものの開催に尽力してくれた現在生徒会役員のみなさんには感謝に堪えません』

 

 音姫さんの言葉に舞台の脇で控えていたムラサキさんが顔を赤くしながら俯いていた。もしなしなくても照れてるのだろう。

 

『ですから、在校生や教員の方々に迷惑にならないよう、先程も申しましたように協調と自制を持って盛り上げていきましょう!』

 

 再び上がる歓声と共に、音姫さんの挨拶が終わった。

 

 

 

 

 

 

「懐かし~!」

 

 所変わって僕らのかつての3年3組の教室。そこに入るなり、小恋ちゃんが喜びの声を上げる。

 

「付属の教室は俺たちでも懐かしいよ。な?」

 

「うん」

 

「これで一気に戻ってきたな~って感覚が強くなるよ」

 

「……既に、記憶がぼんやりしているわ」

 

「俺、間違って本校3年の時の教室に行きそうになっちゃったよ」

 

 杏ちゃんや渉にとってのこの教室は単なる過去のものという認識が強いようで。

 

「今回は芳乃嬢が学園長だった頃の再現だからな。俺たちはあくまでチーム付属3年3組、ということになる」

 

「そうでないと、困るよ。本校時代のクラス分けで考えると私が所属するチームがなくなっちゃうでしょ?」

 

 小恋ちゃんが島を出たのは本校に上がる前だから、それ以降のクラス分けになったら行く場所に困っていただろう。

 

「はいはーい! 無駄話してないで、一旦席の着いて~!」

 

 久しぶりに委員長だった沢井さんの声で騒がしい教室が静かになる。

 

「そういえば委員長、どの席に座ったらいいんだ?」

 

 そういえば、当時のクラスに分かれたものの、1年の間には席はいくらか変わるもんだし、さくらさんが行方知れずになるまでの間にも席替えはあったからどういう風に座ればいいのか判断に困る。

 

「桜内、委員長って呼ばないでって何回言ったらわかるの?」

 

「いや、それはわかってるんだけど……つい癖でな」

 

「そういえば、僕や一部はちゃんと名前か苗字で呼んでるけど……みんなはなんで沢井さんを委員長呼ばわりしてたんだっけ?」

 

「ああ、委員長はもう入学から卒業まで6年……うち5回は俺と同じクラスになって、その度にクラス委員長してたから自然とな」

 

「なるほど、それで……でも、もう卒業して同じ職場にいるっていうんだから少しは治そうとすれば?」

 

「そうなんだけど、やっぱり委員長は委員長だからな~って」

 

 僕の言葉に小恋ちゃんが困ったような顔を浮かべながら言う。

 

「ま、やっぱりあいつは『エターナル委員長』ってことで。ていうか、お前だってえっと……西村先生だっけか? あの人のこと『鉄人』なんて呼び続けてただろ?」

 

「え? あの人の名前は鉄人じゃなかったっけ?」

 

「お前なぁ……」

 

 僕の言葉に義之が呆れた目を向けた。まあ、わかって言ってるだけなんだけどね。

 

 あの人の名前は西村鉄人ってことでしょ? あれ? そっちであってたっけ?

 

「って……こんな話してたら時間がなくなっちゃうから。さあ、みんな席について」

 

 委員長呼ばわりを嫌がっておきながら、ちゃっかりみんなを統率するあたり、義之たちが彼女を委員長と呼び続ける理由がなんとなくわかってしまう瞬間だった。

 

「いや、結局どこに?」

 

「付属3年の頃の席でいいでしょ?」

 

「でも、何回か席替えはあったよな?」

 

「じゃあ、冬休み入る前の席でいいんじゃない?」

 

「……杏、その時の席順覚えてるか?」

 

「全然……」

 

 どうやら今の杏ちゃんにはかつての記憶力を期待することはできないようだ。

 

「なんか、他の学年の時の記憶が混ざって、いまいち朧げだよね……」

 

「あ、私が覚えてるから、えっと義之がここで、それから……」

 

 付属3年の頃が最後の風見学園生活だったからか、小恋ちゃんが当時の席を覚えていたようで、彼女と沢井さんの指示を受けながら5分かかって、ようやく当時の席に着けた。

 

「席に着きましたね?」

 

 沢井さんが教壇に立って、教室内を確認する。

 

「出席率は、9割ってとこかしら……。都合が悪くなってこられなかった人たちも、参加したがってたみたいですから、彼らの分まで頑張りましょう」

 

「あ……そういえば、山田くんがいないね」

 

 小恋ちゃんが空席を見て呟く。

 

 まあ、みんなも大学生か社会人なんだ。全員が都合よく集まれるわけでもないのだろう。

 

「ああ、山田の奴は、仕事が休めないからって連絡もらってたんだ」

 

 連絡係の義之がみんなに聞こえるように言った。

 

「仕事? 山田の奴、進学したんじゃなかったっけ? アルバイトか? バイトくらい休めるだろう……」

 

「いや、なんでも……学校に通いながら、常連だった模型雑誌の編集部とかで働かせてもらってるとかなんとか、言ってたような……」

 

「……なんだよ、充実してんじゃねえか」

 

「なに、俺たちは俺たちで、これから充実すれば良いだろう? とにかく、俺たちは来れなかった奴らの分まで楽しめばよいのだ」

 

「そういうことね」

 

「わかってるじゃない。そこまでわかってるなら簡単よ。うちのクラスは何をやるか、ささっと決めちゃい──」

 

 いいかけて沢井さんが頭を抱えた。どうした?

 

「おい、どうしたんだ委員長?」

 

「ううん……出し物って、中々決まらないのよね。委員長の仕事の中で、これが一番苦痛だったのを思い出して……」

 

 ああ、そういえば僕が付属3年の頃からこの出し物決めの度に沢井さんが頭を悩ませてヒステリック起こしてたのを思い出した。

 

 やる気がない時も多ければ、各々の意見が突拍子もなくて大半を却下させたり、まとめられなかったり、沢井さんにはかなりの気苦労をかけてしまった。いや、本当に彼女が委員長だったからこそ、彼女のいるクラスはどうにかまとまることができたのだろう。

 

 今になって彼女に感謝の心が芽生えてきた。

 

「ようやく開放されたと思ったのに、なんで私はまた出し物決めなんてやってるって思ったら、頭痛が……」

 

「まあまあ、委員長。落ち着いて」

 

「委員長って呼ばないで。月島さんが転校していった後も、色々大変だったんだからね」

 

 そう言って沢井さんは恨みがましい視線を小恋ちゃんに向ける。

 

「あ、あはは……そうだろうね……。それは、想像に難くないです」

 

 実際、僕たちがいるクラスの人間は一筋縄ではなかった。そんな人達をまとめ上げたのだから沢井さんは本当にすごい人なんだと思う。

 

「ともかく、今日はさくっと決めるからね!」

 

「って言われても……文化祭にクリパに卒パを6年間繰り返したわけだろ。もうネタなんてないぞ?」

 

「ん~……別にもう新しいものを求める必要はないんじゃないかな?」

 

「ん? そりゃあ、どういうことだ?」

 

 僕の呟きに渉が反応して尋ねてきた。

 

「いや、6年間っていうけど……僕が来たのは付属3年の時だからね。それに本校からは小恋ちゃん転校してたわけだからそういった一部の人が知ってる部分に限りはあるでしょ?」

 

「うんうん」

 

 僕の言葉に頷く小恋ちゃんを横目で見ながら話を続ける。

 

「今回はただのパーティーじゃなくて、さくらさんの回帰を祝うための祭りなんだから、

 あの人が求めそうなものにしたらいいんじゃないかな?」

 

「そうだな。同士吉井の言う通り、俺たちが今考えるべきは目新しさでなく……懐かしさではないか?」

 

「それって……付属3年の頃の出し物を再現しようってこと?」

 

「完全再現とはいかないまでも、そこから考えをスタートさせるものも悪くない、と思うな」

 

「付属3年の頃の出し物ってぇと、何だったっけな?」

 

 渉が当時の出し物を思い出そうと頭をひねっていた。

 

「確か、文化祭はフランクフルト屋さんをやったよね?」

 

「卒パの時は、コーヒー屋台だったよね。それは覚えてる」

 

「どっちも無難な食い物系だったじゃないか。攻めてねえな、当時の俺ら……」

 

「でも、クリパの時は盛り上がってたでしょ? 正直、あそこで全力使い果たした感があったのよ」

 

「クリパって、何やったかしら?」

 

「いや、発案者が忘れないでよ。人形劇でしょ?」

 

「ああ、人形劇。あったあった」

 

「ああ、そういえばそうだったわね」

 

 ようやく思い出したのか、杏ちゃんがうんうんと頷いていた。

 

「あれ、いいお話だったよね~。エト~、エト~」

 

 主役のお姉さん役だった小恋ちゃんが当時の劇を懐かしむようにかつて練習していたセリフを繰り返す。

 

「でも、あんなにメルヘンチックな脚本を書いたのは、後にも先にもあれっきりだったよな」

 

 そういえば、あれからは何本かは手がけてたけど……あれ以降は少々リアルな作風なものが多かった。

 

「あれは、特別だったから」

 

「ねえ、どうやったらあんな話が思いつくの?」

 

「……あの話はね、子供の頃から何度も見た夢がモデルになってるの」

 

「それって、いつの頃?」

 

「いつの頃だったかしら? 確か、雪村流暗記術を覚えた頃だったと思うけど……」

 

「じゃあ、私が知り合った頃?」

 

「多分」

 

「へえ~、夢であんな物語を見るなんて、杏ってば、意外とロマンチストだったんだね」

 

「まんまじゃないのよ? ちょっと悲しい夢だったから、それが子供の頃からずーっと納得いかなくてね……。だから、夢はあくまでモデル。内容は、自分流にアレンジしてみたのよ」

 

 そういえば、結末のあたりで悩んでたって言ってたっけ。それで最終的にはハッピーエンドにするって言ってたんだった。

 

「いいんじゃない? あの人形劇、再演してみるとか」

 

「義之、小恋。台詞、思い出せる……?」

 

「え?」

 

「えっと……」

 

 杏ちゃんの疑問に義之と小恋ちゃんの表情が渋いものになる。

 

 僕も役はなかったとはいえ、話の大雑把の流れは覚えてるものの、どの役がどんな台詞を言うのかまでは覚えちゃいない。

 

「今の私じゃプロンプは出せないわ。これから台本渡して、明後日までに覚えきる自信……ある?」

 

「やれと言われれば頑張るけど……なあ、小恋?」

 

「う、うん……」

 

「これから演出つけて、対応できる?」

 

「ああ、えっと……」

 

「頑張ります」

 

「……無理ね。演劇をやってる身としては、そんな程度の低いクオリティーのものを人前で演じさせるわけにはいかないわ」

 

 杏ちゃんのプロ意識は高いようだ。もう何年もブランクもあって台詞も思い出せない中、残り時間も少ないこの状況では無理と判断したのだろう。

 

 僕が同じ立場でもあまりオススメはできない。

 

「それに、人形はどうするの? 前の人形を補修して使う?」

 

「あ、そういえばエトの人形、どこにしまったっけ?」

 

「あ、違うよ義之。エトのお人形もシャルルのお人形も……私のおうちに飾ってあるの」

 

 だとしたら、今更取りに戻っても間に合わない。

 

「今からセットに新しく人形を作ろうとすると、準備だけで数日はかかるだろう」

 

「明後日までとなると、かなりやっつけの仕事になっちゃうわね」

 

「じゃあ、尚更ダメね」

 

「だったら、どうすんだよ……」

 

 渉が肩を竦める。

 

「かと言って、ここで無難な食べ物屋にしてもね……」

 

 インパクトも弱そうだし、これでさくらさんの事を祝えるとも思えないし。

 

「だったらさ、杏たちが企画してたセクシーパジャマパーティーなんてよくね? 俺、ああいうの大好き」

 

 そういえば、本校の1年辺りだったか、ななかちゃんも同じクラスだったということもあって、人気が出そうだったからと杏ちゃんや茜ちゃんがそういった企画を持ち出したんだっけ。

 

 確かに圧倒的な人気を誇ってたものの、結局終盤辺りで生徒会に取り押さえられたんだけどね。

 

「でもなあ……今更、パジャマってのも、ちょっとマンネリだよね……」

 

「そうか? 俺は大好きなんだけど……だったら、他の衣装にしてみるとか?」

 

「かといって、水着ってのもマンネリだし」

 

「パジャマもダメ、水着もダメ……他に何か意見はないのか?」

 

「メイド服……てのは、なんか違うかな……」

 

「杉並、お前はどうなんだ?」

 

「もう少し板橋が頭を抱えている様を見るのを楽しむとしよう」

 

 杉並君含め、他のみんなも『見守りモード』に入っている。

 

 何度もこのメンバーが同じクラスになって、同じように出し物決めしている時にわかったが、僕らが同クラスにいる場合は僕たちに好き勝手意見を述べさせてそれを見るのを楽しむらしい。

 

「あ、そうだ。マーヤー様ぁ!」

 

 いきなり渉が突拍子もないことを叫んだ。

 

「な、何急に……」

 

「ほら、本校1年の秋季体育祭でさ、いいんちょ、変なコスプレしてたじゃん。悪の秘密結社の女幹部みたいなやつ!」

 

 そういえば、そんなことがあったっけ。その時の沢井さんの姿がすごくインパクトがあって、教頭先生もお気に入りになったようだ。

 

 それから僕もいつも真面目な姿を見てるからか、ものすごくギャップを感じて思わず見入ってしまってななかちゃんにすごく怒られて、機嫌を取るのが大変だった。

 

「俺、いいんちょのマーヤー様、もっかい見たい! 見ーたーいー!」

 

「ダ、ダメよ! 変なこと言わないでよ!」

 

「ついでに他の娘たちの色んなコスプレも見ーたーいー!」

 

「板橋!」

 

 渉のスイッチが入って変なテンションになってしまった。

 

 けど、渉の言葉にみんなもいいかもという反応が見受けられる。

 

「あ、だったらセクシーコスプレパーティーってことにしたらどうかな? それならパジャマや水着がいても可笑しくないし」

 

「いいね、いいね。それいいね。ただし、いいんちょだけはマーヤー様限定だけどな」

 

「そ、そんなの許さないわよ! ていうか、もうそんなのできる年齢じゃないでしょ、みんなも……」

 

「そんなことないと思うけどね」

 

 杏が周囲を見回すと、割とみんな乗り気になっているようで。

 

「ちょ、ちょっと……つ、月島さんは反対よね?」

 

 沢井さんは最後の砦である常識人の小恋ちゃんにすがるように言う。

 

「え~、うん。反対は反対だけど……」

 

「けど……?」

 

「……た、多分、もう私じゃ止められないと思うよ?」

 

「…………」

 

 小恋ちゃんの言葉に沢井さんは肩を落とした。このクラスの大半が騒ぎだせば、これを止めるのは不可能に近い。

 

「ふふふ、沢井よ。諦めるのだな。今回の我々の出し物はセクシーコスプレパーティーだ!」

 

「観念なさい、委員長。みんなあなたのマーヤー様が見たいのよ」

 

「よ! 人気者!」

 

「い、嫌よ! 私は絶対に嫌だからね!」

 

 教室に委員長の声が、虚しく響き渡る。図らずも僕たちの出し物はセクシーコスプレパーティーに決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、来た来た。待ってたよ、みんな」

 

 ところ変わって音楽室。そこには別クラスで既に出し物を決めた後だろうななかちゃんが待っていた。

 

「悪い、出し物の件で長引いて……」

 

「義之たちがヒートアップするから」

 

「いや、あれは主に渉と杉並がだろ」

 

「だってさ、コスプレだぜ? 女の子に合法的に色んな格好させられるんだぜ? ヒートアップするに決まってるだろ!」

 

 渉はいまだに嬉しいのかハイテンションの状態が続いていた。

 

「あはは、そっちのクラスは相変わらずだね」

 

「まあ、確かに懐かしいけど……こんな時までああだとね」

 

「おかげで私とか委員長が苦労してばっかりなんだけどね」

 

 小恋ちゃんがため息混じりに愚痴る。本人に言ったら怒りそうだけど、それが小恋ちゃんや沢井さんの宿命だとしか言えない。

 

「けど、またこのメンバーでこの音楽室に集まれたのはちょっと嬉しいね」

 

 ななかちゃんの言葉にみんなが同意して頷くが、

 

「あ、いや、そうでもないかな」

 

 言った傍からいきなり自分の言葉を否定する。

 

「いや、なんでさななかちゃん」

 

「ちょっとじゃなくて──かなり嬉しいかも」

 

 いたずらっぽく言葉を付け加えた。

 

「あはは、そういうこと……」

 

「それは私もだよ。なんていうか、私たちの青春っていうのかな、これ……」

 

「だな。クラスとはまた違った、このメンバーはこのメンバーならではの思い出ってのがあるしな」

 

 最初はちょっと合わせてと頼まれてなんとなく参加してみれば、急にオンコロに出るなんて言い始めて、驚きながら参加することになって、バンドができあがった。

 

 練習して、楽しいこともあって、途中悲しいことにぶつかった時もあったけど、それを通じてメンバーの仲が深まったと今なら当時の出来事がいい思い出に思える。

 

「だから、ちょっとじゃ足りないね」

 

「うん。僕もそう思う」

 

「さて、暖かい思い出話もここまでにして、早速ライブの打ち合わせしようぜ」

 

「賛成!」

 

「異議なーし!」

 

 昔の出来事を思い返すのもいいけど、ライブのことも考えないとね。

 

「でも、ステージとか大丈夫なのか?」

 

 そういえば、バンドのことは僕たちの間で決めたことでまだ生徒会には申し出てないからな。

 

「心・配・ご無用! その辺のネゴはできてるから安心してくれ!」

 

「へー、やるじゃん」

 

「仕事早いねー」

 

「ま、バンドに関しては俺に任せてくれていいってことよ」

 

 渉は昔から音楽に関しては本気だったが、それは今でも変わらない。

 

 こういう時の渉は頼もしい。

 

「なら、時間も惜しいし、早速合わせてみるか」

 

「うん、そうだね。1分でも多くみんなで練習しよー!」

 

「合点!」

 

 それからやる気に満ちたまま練習を始めたものの──

 

「や、やばいな。全然指が動かないぞ……」

 

「私もだよ。長い間触ってなかったから、かなり練習しないといけないかなあって思ってたけど、想像以上だった……」

 

「俺もだぜ。てか、ドラムが安定しないとみんなも困っちゃうよな」

 

「僕も……料理のことばかりでゲームもほとんどやらなくなったからなぁ……」

 

 競う相手もいないから音ゲーはおろか、アクションもRPGもやらなくなったからな。

 

 おかげでどんだけミスしたか。まあ、ななかちゃんの歌は相変わらずうまいけど。

 

「だいぶ、下手っぴになってるな……」

 

「でも、歌っててすっごく楽しいよ? 久しぶりにセッションできるだけでこんなに楽しいと思わなかった」

 

「そうだね! それに、みんなやればやるほど少しずつ勘を取り戻してる気がするし」

 

「おうよ、この調子でやってればきっと間に合うぜ」

 

「まあ、俺たち自身が楽しむのが重要だしな。そうすりゃ聞いてくれる人たちも楽しんでくれるさ」

 

「そうだね。じゃあ、このまま本番向けて楽しくいきますか!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 それから僕らは身体がガタガタになるくらい練習を続けたのだった。

 

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