夜明けを歩むノーマルヒーロー   作:双星シグ

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番外編 ヒーローコンプレックス

あの日から僕はオールマイトのように、そして彼のようになる為、体を鍛え始めた。手始めに体力をつける為、ランニングをしようと思いたった。公園から帰ってきた僕はお母さんに明日から朝早くにランニングをすることを伝えた。お母さんは急にそんなことを言い出した僕に驚き、心配してくれた。訳を聞かれた僕は公園で起きたことを話した。無茶をしたことについては怒られたが、僕と同じ無個性の彼が僕も同じようになれると認めてもらった話をするとお母さんは泣きながら僕を抱きしめてくれた。お母さんはいつも何かと涙を流すが、今回は嬉し涙を流した。しかし、まだ小さい僕一人で早朝にランニングを行うのは心配ということでお母さんも一緒にすることになった。始めの内は二人して短い距離でゼェゼェになりながら走っていたが、一ヶ月、半年、一年と続けると段々と慣れていき、今では長い距離を走っても息は乱れくなった。そしてお母さんと一緒に続けたのが功を奏したのか、お母さんはだんだんと運動にのめり込み、ランニングシューズやトレーニング用品を集めだし、僕もその恩恵に預かり、ランニング用のハイカットシューズやアンクルを買ってもらえた。

次に行ったのはヒーローの技や行動をノートにまとめ、分析を行った。彼がかっちゃんたちを倒したのは何も単純な力だけではない。的確に弱点を突き、最小の被害で鎮圧する。特に最後のあの”拍手”はすごかった。ノーモーションで放たれたあの拍手は、翼の子をいとも簡単に失神させた。あの技の原理さえ分かれば、力がなくてもヴィランを倒すことができる。なので僕はネットや実際のヒーローが活躍する現場でヒーロー達がどうやって戦っているか観察し、自分なりに分析を行う。

その他にも格闘技何かを習おうとしたんだけど…。

 

「ごめんね、うちは無個性の子は見ていないんだ。」

 

「えっ…君ね、常識的に考えて増強系がうじゃうじゃいるこの道場に無個性なって入れたらどうなるか。わかるよね。」

 

「無個性だと…?笑止!我が道場にはいらん。帰れ!」

 

…と、散々なことを言われては色々な道場や教室から無個性を理由に断られてしまった。道場がダメなら教本でも、と思ったけど多種多様な個性が生まれている中で一般向けのハウツー本は売っていなかった。

 

それでもあきらめきれなかった僕は何処かに困っている人がいれば積極的に助けた。そうしなければ彼のようになれないと思ったからだ。重い荷物を持っている人がいれば持ってあげたり、電車に乗った時は席を譲ったり、いじめられている子がいれば間に入ったり。とにかく、いろんな人を助けた。

そんなことをしているうちに、近所から『無個性なのが悔やまれるヒーロー』と言われるようになった。

 

 

 

 

 

「ねぇ、出久。確かに出久は色々な人を助けてヒーローみたいになった。でもね、お母さん、出久は少し急ぎすぎていると思うの。だからね、これからは少しゆっくりしてもいいじゃないかと思うの。お母さんのお願い、聞いてくれる?」

 

「え……?」

 

ある日、僕がいじめられている子の間に入って、傷を負いった。姿を見てお母さんは僕に目線を合わせ、手をぎゅっと握り、そう言った。始めは何を言っているのかわからなかった。だってそれは僕にヒーローになるなと言ってるのと同じ意味だったから。かっちゃんの様な強くてかっこいい個性がなければ、彼のように個性を圧倒する技術もない。彼らの何倍もの努力をしなければスタートラインにすら立てない。そうなれば僕の夢はっ!?

 

「………っ!嫌だ!僕はヒーローになるんだ!!」

 

「出久!?」

 

そうして僕はお母さんを振り切り、部屋に閉じこもる。初めてお母さんに反抗した。でもそうしなければ僕の大事な何かが壊れる気がしたから。オールマイトの人形を握りしめて布団に包まりうずくまる。そして戸を叩く音とお母さんの声が届かぬように耳をふさぐ。それから僕とお母さんの間に壁が出来てしまった。会話はするけど意思は通わず、一緒にランニングするけど以前よりぎこちなくなった。

 

 

 

それから時間は経ち、僕は小学校に上がったが、僕は変わらず人助けの日々を送っていた。もうすでに顔なじみであるおばあちゃんの買い物のお手伝いをし終え、帰路につく。日が傾いていく中を家に向かって歩く。ふと横を見るとそこはあの公園だった。僕はあの事件を思い出し、ふと彼がいるんじゃないかと思った時にはすでに足はその公園へと向かっていた。

半年と言う短い時間しかたっていないのにもかかわらず、僕は何処か悲しい気持ちになる。感傷に浸っていると、公園の隅で何かしている集団を見つける。僕ははっとして、その集団へ駆け出す。この半年で様々ないじめの現場を目撃した僕の経験から、かっちゃんみたいな例外もいるが、大概は大人を恐れて見えないところで行う傾向がある。手前まで行くと予想通り、一人が涙を流して地面に倒され、三人の男子達がそれを見て嘲笑っていた。

 

「やめろー!」

 

「っ!?なんだ!」

 

僕は思わず叫び、その間に入る。いきなりの乱入に驚き焦った男子達だが、僕が自分たちよりも小さい子供だとわかると、その表情は安堵に変わる。

 

「なんだ、ただのガキか。驚いて損した。まぁ、見られたんだ。大人に言えないほど痛めつけるしかないな!」

 

男子達の中でもおそらくリーダーであろう一人が個性を発動させて、脅してくる。僕は怯えながらもいじめられた子の前に立つ。かっちゃんの前に立った時よりとてつもなく恐ろしい。僕は体を震わせ、泣きながらも、盾になるように立った。……いや、あれは動けなかっただけだろう。

 

「俺の個性は『恐怖』だ。この手で相手の頭を掴めば、相手に恐怖を与えることができるんだぜ。さぁ、お前はどんな悲鳴を聞かさせてくれるんだ!」

 

その手が僕の額まで伸びてくる。僕は身の危険を感じながらも、それでも動けずにいた。僕はここで初めて純粋な悪意を感じた。小学生になったばかりの僕でもわかるような倫理を彼等は笑いながら破る。そこに善悪はなく、ただ自分の欲を満たせればいいと言う感情しかなかった。もうダメだやられる!そう思い、目を閉じる。

 

 

 

「おい、そこで何している。」

 

 

 

 

 

恐怖。それも死を思わせるほどの恐怖。そんな重圧が僕達のいる一帯に降り注ぐ。声が聞こえた瞬間、全員が金縛りにあったかのように動かなくなる。しかし何故だかわからないが僕はその声の正体を確かめるべく、言うことの利かない体を無理やり動かし、声のした方へ目線を向ける。

驚いたことにそこにいたのは、彼だった。公園で僕といじめられっ子を助けた彼だった。髪の毛の色は白くなり、瞳は紫色になっていたが、顔は間違いなく彼だった。僕は彼の変化に驚いた。髪色が変わったことにではなく、瞳が変わったことではなく、彼の持つ雰囲気にだ。あの時会った彼は確かにあの時と同じように静かに怒っていたがどこか優しさを感じた。しかし今彼から感じるのは怒りと死を錯覚させるナニか。

彼は恐らく何処かで運動していたのだろう、額に溢れる汗を拭うと静かにこちらに向かってくる。一歩一歩彼が近づくたび、さらに重圧が掛かる。後ろでに何かが倒れる音が聞こえた。どうやらいじめられていた子は重圧に耐えかねて倒れてしまった様だ。そうして彼は男子達の前までくる。ここまでくると彼が重圧を向けているのが僕ではなく彼らだというのがわかった。だって彼らは汗が止まらず滝のように流れ、今にも意識が飛びそうになっているのだから。その余波ですら恐怖を感じている僕にはとても想像の付かない。彼の両腕がゆっくりと上がる。それを見た僕は確信した。

 

「(あれを出すのか!?)」

 

僕はその瞬間、今まで感じていた恐怖も忘れて、僕は食い入るように彼の一挙手一投足を観察する。

何も知らない上級生たちの震えは最高潮に達する。呼吸もままならず、体も動かず、指導権は彼が握ている。

 

「クラップ」

-Clop!-

 

彼は男子達の顔の目の前で手を叩く。その瞬間、彼等の緊張が限界を超えてしまい。全員意識を失い、地面に倒れる。

僕は彼の一連の行動を頭の中で何度も反復させる。彼は指先を相手に向け、両手をピッタリ合わせるのではなく、半分ほどずらして叩いている。この技の要は“音”だろう。普通の拍手と違い、片方の手をズラして叩いているのはこの音に指向性を持たせているのかもしれない。しかし、ただ拍手をしても相手を気絶させることは出来ない。前回も今回も共通しているのはどちらとも相手側が緊張している点だ。相手との波長がうまく合わないとこの技は成立しない。そう考えるととても難易度の高い技だ。

 

「君は確か前にも同じような状況で会ったよね。」

 

「へ?…あっ!?」

 

つい癖で技に対する考察、分析をしていると彼の方から声を掛けられた。僕は意識を浮上させる。そしてあの死をも感じさせた恐怖を思い出し、再び震え出す。あの時会った彼と同じ姿のはずなのに違和感を感じる。そう、この前見た映画のように姿形は同じなのに中身が違う。そうゆう雰囲気を感じる。

だけど、僕は彼に聞かなければならない事がある。僕は恐怖を必死に押し殺し、彼に話しかける。

 

「……お、お願いがあるんだ。どうか…どうか僕に、君のような力が欲しい!僕に君の技術を教えてくれないか!!」

 

いくら体を鍛えても、いくら技を分析して真似ても、無個性がヒーローになる為にはどうしても届かない。マイナスの状況からは脱することはできない。僕はこの半年間、彼との再会を強く望んでいた。彼なら、僕と“同じような境遇”の彼なら!僕をこの状況から救い上げてくれる。僕の勇気を認めてくれた彼ならば!

僕が彼にそう懇願すると彼は呆気に取られた顔をし、そして次第に悲しげな表情を浮かべる。躊躇いがちに彼は口を開く。

 

「すまない、それはできなくなってしまった。」

 

「え?」

 

聞き間違いだろうか。僕は彼の言葉に耳を疑う。“できなっくなってしまった”?じゃああの時はできたと言うことだろうか。じゃあ何で出来なくなってしまったのか。僕に問い掛ける。

 

「出来なくなったて…どうして!?君なら教えてくれると思って!」

 

「………実は数週間前に政府の役人がいる前で、私の能力のテストを行った。その結果、私の力はとても小学生が有して良いモノではないという判断が下された。それから能力を使う時は必ずこの首にしてあるチョーカーの電源を起動させて政府から許可が下りなければ、非常事態で無い限り、能力の使用をした場合に罰せられる。更に許可が下りる状況はヴィランや災害による被害でなければ難しいだろう。政府としてはノーマルでこのような危険性がある事例が無かった為に、この様な措置を取ったのだろう。

もし私がこの制約を破れば私はヒーローになれないし、また私の様なノーマルがこの先出た時、印象が悪くなる。そうすれば君の様なノーマルに申し訳が立たない。」

 

彼の話を僕は静かに聞いた。彼はこの半年でヒーローになる為の道を順長に進んでいた。しかし、それに伴って義務も発生していた。当然、ヒーローにもそれ相応の義務が存在するが、彼のは特別重い。それもそうだろう。彼は僕と同じくらいなのに僕よりも大きな相手を三人も倒した。それだけども規格外だ。彼はそれを飲み込んでヒーローになる努力をしている。

 

 

 

「っ!?どうして!どうしてこうなんだ!!僕も君の様に、かっちゃんの様にヒーローのなりたいのに、いつも超えられない壁が僕の前に立ちはだかる!並大抵の努力じゃ到底無個性の僕はヒーローになれないのはわかっている!ならどうすればいい!この世界は無個性に厳しすぎる!僕はただ!オールマイトの様な誰かを救えるヒーローになりたいだけなんだ!!」

 

彼の置かれている状況は理解できる。道場や教室も、無個性を入れたくないのは理解できる。無個性向けの教本が無いのも理解できる。けど!心が納得しない!僕のこの想いは?この気持ちは?僕の夢は?それを叶えようとする努力すら許されない!ならどうすればいい!?僕はヒーローになりたいだけなんだ!!

彼の話を聞いた僕は心の底に溜まっていた不満を絶叫し、この現状に慟哭する。目の前の彼に対し、止めようとしたお母さんに対し、無個性を居ないものとしようとするこの世界に対し、そして…それらに対し泣き叫ぶしか出来ない僕に。僕は怒りを、悲しみを、心の底から叫ぶ。彼はそんな僕に対し、ただ謝る。違うんだ。僕は君にそれを望んでいない。

僕はただ………君に認めてもらったのに何もできない自分が不甲斐ないだけなんだ。

 

 

 

 

 

この後のことはよく覚えていない。目を覚ましたときには僕は自分の部屋のベットに包まっていた。リビングに行くとお母さんが心配そうに僕を見る。僕は罪悪感を感じながらも見てみるふりをした。それから小学、中学でも無個性を理由に馬鹿にされてきた。

 

 

 

「君はヒーローになれる!!!」

 

けれど今!僕は憧れのオールマイトに認めてもらい。その後継者に選んでもらえた。僕はもう出来損ないのデクじゃ無い!

僕は今、スタートラインに立ったんだ。必ずオールマイトの様なヒーローになってみせる。

 

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