前回、番外編を試験的に一週間間隔で投稿しましたが、まだ下書きの量が十分でないのと一週間だと私が辛くなるので今まで通り二週間に一回投稿することにしました。
「『ごめんね。アイツを倒すのにはこうするしか無かったと思う。でもこれでみんなが救われたと思うと後悔はないよ。』」
「『………本当にそう思うか?その代償に君はアイツの代わりをしなければならないんだぞ。』」
「『うん、そうだね。世界が救われたのなら本望だよ。』」
「なら…なんでそんな泣きそうな顔をするんだよ。』」
「『え?…っなんで!私は幸せだよ!本当にみんなを救えてよかったとっ!』」
「『阿呆、ここには私しかいないんだ。本心くらいさらけ出したらどうだ。』」
「『っ!あぁ!いやだよ…もっと生きていたかった!どうしてこんなことを私がしなくちゃならないの!助けてよ…。』」
「『すまない、私ではあの神域には行けない。だが、気休めにはならないかもしれんが、いつか私が君の元へ迎えに行く。だからそれまで待っていてくれないかな。』」
「『………そんな口約束じゃ信用できない。何か証をくれなきゃやだ。』」
「『はいはい、それじゃぁ………この短剣を預けよう。それは私の思いを込めて打った半身の様なものだ。必ず迎えに行く。だから待っていてくれ。』」
「『うん、待っているから。必ず迎えに来て。』」
「うぅ…。ここはどこだ。体が重い。」
ここまでひどい目覚めはあの火災の時以来か。私は上半身をむくりと起こす。しかし、いくら何でもいきなりほおずきに襲われるのは予想外すぎる。今まで私がいた世界の痕跡はまったく見当たらなかったはずが、急に現れるのは納得いかない。未だにぼやける視界を何とかしようと手を顔にやるが、途中、何か柔らかいものに当たる。
「…………またこのパターンか。最後に見たのは10年前だったな。」
何分、もう信陽の体に憑依してからもう10年経つ。段々と信陽の体に慣れてしまい、女性の体の感覚が薄れつつある。そう、私はまた前世の姿に戻っていた。
あたりを見回す。嗅ぎなれた薬品が鼻を刺激する。おそらくここは病院の類だろう。ヤーナムの使者、ほおずき、そして病院。これらから連想されるのはここがあのヨセフカの診療所であること。ならば最悪を想定しなければならない。
「もう一度あの悪夢を体験するのか…。」
獣狩りの夜。それは私が体験した中でもいい意味でも、悪い意味でも強烈な体験だ。底知れぬ恐怖と狂気の渦巻く世界で必死に戦い、そして最愛の彼女に出会った。仲間を失い、復讐心に溺れた私に手を差し伸べてくれた彼女は純粋な愛と気高い勇気を持っていた。彼女と出会えたからこそ、私は長い時間を生きていけた。
彼女のことを思い出していると、あることが頭をよぎる。彼女もこの世界にいるのでは?根拠のない仮説だが、可能性がないわけでもない。何より約束を果たせるかもしれない。決心した私は手始めに武器になるものを探したが、あいにくここにはそのようなものはない。仕方なしに私は素手のまま部屋を出る。まぁ最悪、この体なら素手でも問題はない。階段を下りて、下の階に行くとある違和感を覚える。
「記憶より綺麗になっているな。」
私の記憶の中の診療所は夥しいほどの血と割れた瓶のガラス片、こぼれた薬品があちらこちらに散乱し、お世辞にも整っているとは言えなかった。しかしここはそれらしい物は見当たらず、少し薄暗いだけの診療所という印象しか持てない。不思議に思った私は診療所から出る。
墓地を抜け、門を開け、ヤーナム市街を探索するが私の記憶の中のヤーナムとは雲泥の差があった。まず獣が存在せず、明らかに”獣狩りの夜”ではない。それに伴ってか街には死体を焼く炎や棺桶が転がっていないし、死臭もしない。中世ヨーロッパの綺麗な街並みと言う感想しか持てなかった。だがおかしい点も存在する。
―knock knock―
「…………返事はないか。ここは確か婆さんがいたはずだが。」
綺麗な街に澄んだ空気、これだけの好条件がそろっていながら人一人いない。本来なら何人かいたはずだ。私はさらに探索を続ける。墓地に神父はおらず、協会にも怪しげな男はいない。旧市街へ行こうとしたがつながる扉は固く閉ざされていた。協会に戻ると先ほどまで閉じていた聖堂街の門が開いていた。突如として現れた人の気配に私は警戒心を募らせる。まるで私を誘い込むように大聖堂の扉はわずかに開いていた。武器のない今、心もとないが開いていた民家から拝借したナイフ数本を手に上がる。
「ここに人が来るのはいつぶりだろうね…。久しぶりだね可愛くない方の後輩。」
「…いろいろと聞きたいことはありますが、お久しぶりです先輩。」
大聖堂の中央に一人佇んでいたのは、烏羽の狩人 アイリーンだった。彼女は静かに近づく私に気付き、声を掛ける。偽物の可能性を捨てきれなかった私はその声と揶揄する呼び名に本人と確証を得て警戒を解き、彼女に答える。
「あんた、どうしてここに呼ばれたか覚えているかい。」
「たしか、ほおずきの瞳を無理やりのぞき込まれて…。」
「………あんたよく無事にいられたね。その前に言われたことは覚えているかい。」
「……『月見台にて、彼女がお待ちしています』とは言われましたが、いきなり襲われて武器もなしにトラウマ量産した世界を平然と歩き回れませんよ。」
「ふふふ、まぁそうだね。あんたはこの世界のことを聞きたがっているだろうけど、まずは私たちが初めて会ったあの夜のことから説明しないといけないね。ここヤーナムは昔から獣狩りの夜事態はあったのさ。だから住民は皆おとなしく家に籠っていたんだがねだけどね。だけど、あの日はそうじゃなかった。あんた、嬢ちゃんと走り回っていたんだろ?ならはっきりとはしないまでも、粗方の予想はできてんじゃないの?」
「はい、あの日は複数の人間と上位者の思惑が重なってあの夜が起きたとは考えていました。」
「そうだね、それは正解だよ。ミコラーシュにゲールマン、メルゴーにあの月の魔物。その他大勢の思惑と行動であの悪夢が生まれた。私たちはただそれに踊らされていただけさ。そもそも”余所者”とはどう意味かわかるかい?」
「初めはそのままの意味でヤーナムの外から来た者だと思っていましたが、そもそもあの世界は”現実”になく、どこともつながっていない。元々居た狩人と私たちの違いを比較して分かったのは黄泉がえりの有無。」
「まず、獣狩りの夜とは”余所者”を退ける為にメルゴーか起こしたものさ。そこに”余所者”を閉じ込めて何度も何度も殺す。終ぞ黄泉がえりしなくなるまで。”余所者”ってのはあくまでも現実に生きる人間だからね、夢の中では死なないのさ。じゃあ消える者たちは何なのか。それは作られた存在か、夢の中で生き続け、現実の肉体を失ったものだよ。私もかつては黄泉がえりをしていたがある時突然、これ以上死んだらいけないと悟ったよ。その時こそ、私が現実で死んだ証拠さ。じゃあメルゴーはなんで余所者を殺すか。それは余所者の後ろにいるモノに抗っているせいさ。あんた、嬢ちゃんに目覚めた時の事聞いたことはあるかい?」
「たしか、ゲールマンに何かされた後、使者たちに囲まれて意識を失ったと聞いています。」
「ゲールマンに使者。彼らは文字通りとある奴の使者さ。あんた達が最後にあの工房で戦ったのは?…………月の魔物だろ。奴はゲールマン、つまり余所者と自分の手足である使者を使ってメルゴーの力を欲したのさ。奴は外の生き物だからね。こっちには来れないんだ。だから代わりの”駒”を使う。あの世界を回っているときに度々助言していたのは誰だい?血を媒介に強くしたのは誰だい?なぜ工房に戻る際に一々灯りを介さないといけないのは?全部余所者を介して魔物がメルゴーの力を得る為だよ。今回も嬢ちゃんと言う余所者をヤーナムに送り込み、メルゴーの居場所を探っていたのさ。そして望み通りメルゴーは倒され、工房に戻ってきた。そしてこのまま分身であるゲールマンに嬢ちゃんを介錯させて、ゲールマン経由で力を得ようとしたが、ここでイレギュラーが二つ発生した。一つ目は嬢ちゃんが新たなる上位者として目覚めてしまったこと。二つ目は、あんたさ。」
「わ、私ですか?」
「そうさ、本来ならあんたみたいなとびっきりのイレギュラーは入ってこれないはずだよ。いくら夢の中の出来事とは言え、現実にでは死人が出ている上位者同士の争いさ。抑止力が黙っちゃいないよ。抑止力はあんたをあの世界に送り込み、何とか被害を最小限に抑えようとしたわけさ。まぁ、その目論見も魔物は逆手に取ったんだがね。」
「それは?」
「魔物と戦った際、妙な動きをしてこなかったかい?あれはあえてやられるためだよ。あんたらの体に血液を付着させて、パスをつないだのさ。嬢ちゃんは空いた穴を埋める為に月へ。あんたは現実の世界へ。奴は上位者になった嬢ちゃんの体を奪って元の住処に戻る為に、あんたに着いた方は現実世界でパトロンになる奴を探して地球を奪うために、奴にとってはその方が効率が良かったのさ。そして奴は見つけたのさ最悪のパトロンをねぇ…。」
「桔梗…人理。」
あぁそうか…前世で人類が滅びる争いの原因は私ではないか!私は目の前が暗くなる感覚に襲われた。人類の存亡をかけた戦争の引き金が私だったなんて、私はあの人たちに、信陽にどう顔をすればいいのかわからない!そんな私の様子に呆れたアイリーンは私の頭を思いっきり殴り諭す。
「いいかい!あんたがいようがいまいが結局はあの魔物はいつか”人類”を滅ぼしていたさ!だけどねあの世界は死んじゃあいないじゃないか!それは紛れもなくあんたの功績さ!誇りなよ!それを否定することは嬢ちゃんの覚悟を否定すること同じだよ!!」
「…………すみません、取り乱しました。」
「まったく、相変わらず世話が焼けるね。話を戻すよ、ここまでがあの世界の話、ここからが本題だよ。」
そういえば、まだこの世界のことについて聞いていない。私は頭を振り、冷静を取り戻す。
「さっきも言ったがあんたが魔物と戦っているとき、嬢ちゃんも魔物と戦っていた。辛くも勝利したが、失ったものが多すぎたね。傷ついた彼女はボロボロの自我とわずかな記憶を頼りを守る為、この世界に移った。そこまではいいんだが作り出した人間の肉体と上位者としての彼女の精神がうまくあわなくてね意識が暴走して無意識のうちにこの夢を作っちまったのさ。」
「そんなことに…。この世界に害するものがいないのならばなぜ先輩はここに?」
「私かい?私はね、嬢ちゃんに助けられたのさ。死んで魂だけになってしまった私は上位者になった嬢ちゃんに拾われてね。彼女の作り出したものではないからここにいられるんだよ。」
私が戦っているとき、彼女も苦しんでいた。私はその事実に酷く傷ついた。最愛の人を守れず、命を落とすのはとても悔しい。できることなら助けてやりたかったが、彼女の居場所さえ知らなかった私にはとても無理な話だ。
「後輩、一つあんたに頼みたいことがある。どうか、嬢ちゃんを救ってはくれないか?私には無理だったがきっとあんたならば、嬢ちゃんを助け出せる。頼めるかい?」
「もちろんです!」
私はアイリーンの依頼に一つ返事で返す。もとより生前から私は彼女を助ける為に様々な文献をあさり、技術や知識を身に着けた。ようやくそのチャンスが巡ってきたのだ。これを手放すなんてできない。私の返事に安堵したアイリーンは彼女は月見台にいると教えてくれた。私はアイリーンにお礼をし、そこへ向かう。
月見台。それはビルゲンワース学舎の二階、月を映す湖が見えるバルコニーの事だ。私は何の障害もなく禁域の森を抜け、学舎に着く。記憶を頼りにバルコニーへの扉の鍵を三階で見つけた私は鍵を開ける。
波を立てていない湖は空に浮かぶ巨大な月を映し、まるでそこにもう一つの月があるかのような光景だった。バルコニーの一部は湖に飛び込むためか手摺が取り外されている。その縁から脚を投げ出して一人佇む、白いワンピース姿の少女がそこにいた。少女は扉の開く音に気付き、こちらに振り向く。少女の顔を目にした私ははっと息を呑む。目の前の彼女は私の記憶している彼女よりも随分と幼く、その瞳は光を失い生気が感じられなかったが、所々にしっかりと面影が残っており、私は目の前の少女が何百年も探し続けていた彼女だと確信した。
「あなたはだーれ?」
「っ!あぁ、私は三笠 冬扇。もしかしたら金城って言った方伝わるかな?」
「…ううん、どっちも聞いたことないよ。それで何しに来たの?ここには何もないよ。」
「私は、君に会いに来たんだ。」
「私に?」
少女特有の高い声で間延びした口調で私に問いかける彼女に私は自己紹介をする。以前彼女には金城の姓を伝えていたが、アイリーンの言う通り、彼女は私の名前を憶えていなかった。私は彼女が怯えないように、重厚な
外套を脱ぎ、彼女の隣に座る。彼女は私の一挙手一投足を観察するように見つめ続けている。その仕草に愛らしさを感じた私はゆっくりと彼女の頭を撫でる。突然のことに初めは驚いた彼女だが、次第に目を細め、心地よさそうにしていく。
私が悪夢から覚めてから死ぬまで数百年、一途に彼女のことを思い続けてきた。部下を失い、居場所を失い、古ぼけた基地の執務室で一人息を引き取るように眠りに着いた私は気付けばヤーナムに飛ばされていた。人として恐ろしいことは一通り経験してきたつもりだったが、ヤーナムの未知と狂気に満ちた恐怖に私は心を支配されていた。あわや堕ちる寸前のところで、私は彼女に手を差し伸べられ、救われた。そして彼女と共にあの世界を回っていく内に、私はどんどんと彼女に惹かれていった。自分に勇気と愛を与えてくれた最愛の人が、今目の前で壊れそうになっている。私は溢れ出す感情を抑え込むように小さくなった彼女を抱きしめるが、耐えきれずに涙を流してしまう。彼女は始め疑問の声を上げていたが、次第に涙を流す私に何か思ったのか、自分からも抱きしめ返す。
「なんで泣いているの?どこか痛いの?」
「あぁ、とても痛いんだ。とてつもなく心が痛いんだ。せっかく君に会えたのに、君はとてつもなくい遠くにいる。目の前にいるのに未だに君を救えずにいる。その事実がとてつもなく悲しいんだ。」
「………そんなに悲しいのなら一緒に落ちましょ。あの月の中へ。あなたとならなんだが思い出せそうな気がする。」
そうして私たちは互いに抱きしめ合いながら、湖面の月へ落ちる。
―plop!―
あの時と同じように湖に落ちたが、ロマがいないこの世界ではただの湖の為、私たちは抱き合いながら沈んでいく。思えば艦娘になってから”溺れる”という感覚を体験していない。前世の姿でありながら体内に水が入り込み、水底へ沈む感覚は私に恐怖を思い出させる。しかし今はそれすらどうでもいい。彼女といられるのなら。
ゴボッと下の方から音が聞こえる。それは突如として湧き出した泡だった。その泡は私たちに向かってくる。そしてそのまま私たちに当たるとパンッとはじける。すると不思議なことに頭の中に”記憶”が流れ込んでくる。
これは恐怖。目の前で人が獣になってしまった記憶。
これは怒り。何も罪のない人が実験台にされた姿を目にした記憶。
これは狂気。獣を狩ることに何も思わなくなったと気づいた記憶。
これは悲しみ。獣になってしまった者を殺した記憶。
これは後悔。自分のせいで住民を獣にしてしまった記憶。
これは慟哭。治療の甲斐なく、目の前で先輩が死んでしまった記憶。
これは喜び。いつも隣で支えてくれる人がいる記憶。
これは感動。共に元凶を倒し、世界を救った記憶。
これは愛情。幾千年も自分を探し続けてくれる人がいる記憶。
あの世界で体験した”彼女”の記憶が次々に流れ込んでくる。あぁ、私から見た彼女は気丈に振舞っていたが、やはり心では怯え、悲しみ、そして喜びを感じていた。彼女は待ってくれていた。不甲斐無い私の迎えを待ってくれていた。やはり彼女は私を幸福にしてくれる。私に無償の愛を与えてくれる。ならば私からも彼女に返さなければならない。
「あぁ…あぁ!思い出した!思い出せた!!私は貴女を待ち続けた!貴女を愛し続けた!!あぁお願い!どうか、どうか私の名前を呼んでくれないかしら!私を愛してくれないかしら!!」
「そうだ!私は君と愛を交わした!君を探し続けた!!そして今!幾許の時を経て再会できた!!君が望むなら何度でも呼ぼう!
”フォルト”!
”フォルトゥーナタ・ルーナ・ノッテ”!!
勇敢なる狩人よ、私の愛しい人よ!私は今ここにいる!三笠 冬扇!それが人に成り、与えられた私の名だ!」
「三笠…。三笠 冬扇…。あぁ、もう一度貴女を愛せるなんて!」
互いに見つめ合い、名前を呼び合う。今まで出来なかった分まで抱擁を交わす。彼女の熱が伝わる。その事実がとてつもなく喜ばしい。この至福がいつまでも続いてくれればいいのに!
「そこなお二人さん、いつまでイチャつくつもりだい。ここはもう底だぜ。」
すぐ近くから声を掛けられ、私たちは意識を戻し、現状を把握する。そこは湖の底ではなく。暗闇の中に一つ”篝火”が焚かれていた。私たちは水を注した声の主を不満げに探すと、篝火の向こう側に一人の騎士が地面に座っていた。重厚な鎧に身を包みその顔は兜によって見えないがその声は女性のものだった。彼女は再会を邪魔され苛立っている私たちの様子を見て軽快に笑い出す。おもむろに立ち上がり、彼女は被っていた兜を脱ぐ。
「君は!?」
「いきなり夢を見ていたと思っていたら、目の前で久しぶりに会う戦友がイチャづいているんだ。居心地悪いだろうが!」
兜の下には赤髪に頬に大きな切り傷の跡、そして私よりも幾分か高い背。間違いない彼女は私たちがロマを倒した後、火の無い灰である『戦士』のいる世界に飛ばされた。そして三人で旅をし、数々の敵と戦い、そして最後は火継ぎの終わりを見た。その後、私とフォルトは元の世界に帰ったが、彼女は火防女と共に世界を見て回ると話していたが…。まさかこんなところで会うとは思わなかった。
「よう、本当に久しぶりだな。お前らその様子だと無事にくっついたみてぇだな。」
「戦士なのか?君はどうしてここに?」
「お前さんたちと別れて、その後も火防女といろんなところを巡ったぜ。何十年かは生きていたが、使命を終えた灰は消える。俺と彼女は最後に美しい自然の中で静かに息を引き取った。しかし、目を覚ましてみれば個性なんて言う幼稚な力が幅を利かす世界に一人で生まれ変わっちまった。薪の王と戦った俺にこの世界はぬる過ぎる。どうせなら№1ヒーローにでもなって悠々自適な暮らしをしようと思っていたら、いつの間にか白くてちっこいバケモンに囲まれてな。目を覚ましたら生まれ変わる前の姿でこの篝火で座っていたってわけさ。それと今の俺は”エルシャ=ブラス・レオンハート”ていうちゃんとした名前を持てたんだ。まぁ、長いからエルでいいぜ。」
「あら、そうなの私も今は月野 千景っていう名前を持っているわ。でも貴方達には今まで通りフォルトって呼んでほしいわ」
「わかったよ。
私も前世で三笠 冬扇と言う名を恩師と部下からもらった。今も大切な宝物だ。」
彼女の話を聞いていた私とフォルトは彼女がちゃんと夢を叶えていたことのに喜びを噛み締めていた。あの過酷な世界で文字通り魂を擦切らせながら戦っていたころとは段違いに、彼女はいい顔をするようになっていた。そして私たちは今の名前を紹介し合う。
「フォルトは記憶はさっき見たからいいとして、そういう冬扇はどうしてここにいるんだ?」
「私かい、私はね………。」
エルの問いに私は二人と別れた後、約千年間に起きたことを掻い摘んで話す。
砂漠と銃の世界ではたった一人の男が愛と平和を歌いながら人々の幸せを願う様を見た。
異界とつながった霧の紐育では強大な存在に立ち向かう人間の強さを見た。
鍵の剣を持つ少年がいる世界では心の光と闇を見た。
夜の王がいる世界では人間らしさを見た。
海賊の世界では正義とは何かを問い、剣の道を歩んだ。
婆娑羅者達の世界では軍神に傅き、剣術や戦略を学んだ。
ギアがいる世界では法力を学び、人間とギアの戦争に参加した。
錬金術で繁栄を得た世界ではそれを学び、フラスコの中の小人と対峙した。
悪魔のいる世界では半人半魔の双子の決闘を見届け、敵の策略により亜空間に飛ばされた。
妖怪と人が共存する世界では半人半霊の剣士の極致を目撃した。
元の世界に戻った私は自身の深層心理に潜り、三笠 冬扇として生まれ変わり、桔梗人理と邪神と対峙した。
そしてこの世界にやってきて、桔梗の存在と信陽との誓いを話した。
「だから私は桔梗を倒すために、信陽との誓いを守る為にヒーローになることを誓った。」
「……そう、冬扇は長い時間をしっかりと歩んできたのね。お疲れ様、そしてありがとう。私を愛してくれて。私を忘れないでくれて。」
「おめぇも随分と長く生きたもんだ。薪の王どもとタメをはれるんじゃねぇか。」
「いや、ただがむしゃらに進んだだけさ。剣の道とフォルトの存在がなければ私はとこかで折れていただろう。」
私の道のりを話し終えるとフォルトは涙を流しながら私を抱きしめ、エルは豪快に笑い飛ばす。幾千年もの間夢見ていた光景が今目の前にある。その事実に目の前が霞んでゆく。しかし、ゆっくりとしてはいられない。こうしている間にも桔梗人理と言う脅威は確実に力をつけている。それは二人も感じているらしい。私たちはこの後どうするかを話し合う。
「なぁ冬扇、その桔梗の居場所はわかっていないのか?」
「そうだね、彼は今だ事を起こしていないし、この世界で桔梗人理と名乗っているかも怪しい。何も手掛かりがないのが現状だ。」
「だけど、彼が関っている可能性のある事件に巻き込まれたのよね。ならもう彼は粗方の力をつけてきているんじゃないかしら。」
「そうだ、人理はもう何時行動を始めてもおかしくはない。だから私は倒すために力を溜め、雄英でヒーローを目指す。」
「雄英か…。俺は傑物学園から声を掛けられているからそっちに進むつもりだ。」
「私は正直言って今まで学校に通えなかったからどうなるか分からないけど必ずヒーローになるつもりよ。」
「フォルト、大丈夫なのか?」
「えぇ。私の能力は異常だから観察しなければならないけど、みすみすヴィランに渡すくらいなら何処かの高校に入れてヒーローとして教育するらしいわ。寝てる間にアイリーン先輩が情報を集めてくれていたみたいね。これからはみっちり夢の中でも先輩にしごかれる予定よ。」
「それは大変だろうけど頑張らないとな。」
「一番頑張らなきゃならんのはお前だよ。無個性のレッテルを覆すんだろ。そっちの方がきついだろ。」
「それも覚悟の上さ。」
「ふーん。まぁいいけどよ。じゃあ各自目標が決まったってことで誓いを立てるぞ。こういうのは形式が大事だ。」
エルはそう言うと篝火の剣を抜き、まっすぐ上に掲げる。フォルトはすぐさま千景を取り出しエルの剣に合わせる。武器のない私はどうするか迷っていたが、二人の視線に耐えかね、仕方なしに拳を掲げる。
「私は三笠 冬扇! あの悲劇を防ぐために!」
「私は月野 千景! 愛する人の世界を守る為に!
「俺はエルシャ=ブラス・レオンハート! 気高き戦友たちと共に戦うために!」
「「「ヒーローになることをここに誓う!!!」」」