夜明けを歩むノーマルヒーロー   作:双星シグ

12 / 25
つかの間の幕間

三人で誓いを立てた後、ここから脱出する為に思案する。ここはフォルテの夢の中だ。ヤーナムの街並みを形成し、世界を確立させている。ならば彼女が創造すればここから出られる道ができる。試しにアイリーンがいる大聖堂への道を作り上げることを提案する。彼女は私の提案を受けて素直に道を創造する。しばらくして重厚な扉が地面から生えてきたので私たちはその扉をくぐる。その先は驚いた様子でこちらを見つめるアイリーンの姿があった。

 

「いきなり扉が生えてきたと思ったら、なんだい無事に戻ってこれたんだね。」

 

「アイリーン先輩!お久しぶりです!」

 

「あぁ、おかえり私の可愛らしい後輩。やっとお目覚めかい?」

 

「冬扇のおかげで全部思い出せました。先輩もご迷惑をかけてすみませんでした。」

 

「なに、かわいい後輩の面倒ならいくらでも見てあげるさ。」

 

「ほとんどは私がやったんですがね。」

 

「ふっ、あんたはただ泣きじゃくっていただけだろうに、偉そうな口を叩くんじゃないよ。」

 

「あー冬扇、この人は?」

 

「私たちの狩人としての先輩のアイリーンだよ。アイリーンさん、こっちは私たちの戦友のエルシャ=ブラス・レオンハートです。」

 

「あんたが火の無い灰って奴かい?ふん…なかなかにずぶとそうな顔してるね。まぁよろしく。」

 

「それで先輩私たちはそろそろ現実と帰りたいのですが、何か外の様子はわかりますか?」

 

「外の様子かい?あぁ…。気を悪くしないでほしいだけどね。ここと現実での時間の流れは全く違うんだよ。外では今ちょうど一ヶ月経って入りよ。」

 

無事に大聖堂に帰ってこれた私たちは、しばらくアイリーンとの再会の時間を噛み締める。これでフォルトも無事に現実で生きられるだろう。そう喜んだのもつかの間、私たちはアイリーンに現実世界の様子を聞くと信じられない回答が返ってきた。中学三年生の忙しい時期になんと一ヶ月も眠っているだなんて私とエルは慌ててアイリーンに現実世界への帰り方を聞き出す。

先輩は少しバツの悪そうな様子で懐から一丁の銃を取り出す。

 

「外の世界に帰る方法は簡単さ。この空砲を鳴らせば目覚めるよ。」

 

「そうですか…。それじゃあフォルト、エル。現実世界に戻ったらよろしく頼むよ。」

 

「えぇ、私は必ずあなたを見つけるから頑張ってね。」

 

「また会ったら今度は勝負しようぜ!だから絶対他の奴に負けんじゃねぇぞ。」

 

「準備はいいかい?それじゃあ…。」

 

―Bang!!―

 

アイリーンは銃を上に向けて発砲する。するとすさまじい脱力感に襲われ、意識が薄れていく。薄れゆく視界の中で私はずっと三人の姿を目に焼き付けていた。

 

 

 

 

 

「っは!?」

 

私は飛び起きる様に目を覚ました。体は汗でぐっしょり濡れ、服がまとわりつき、不快感を感じる。周りを見渡すとどうやらここは家の診療所のベットの上だった。長い間眠っていたせいか、頭と体の感覚が少しずれている。起き上がった格好のまま少し休み、ずれた感覚を直していく。

しばらくしてやっと回復した私は足を床に着けて、壁に掛けてある時間を確認する。どうやら丁度12時を回ったところだ。ベットの縁に手を掛けて立ち上がり、体中をほぐしていく。体中からぽきぽきと音が鳴る。相当凝っていたのだろう。入念に体をほぐしてから、リビングへと向かう。

リビングにはよほど疲れていたのか足を伸ばして椅子に座り、顔に医学書をかぶせたまま仮眠をとっているレントンがいた。呆れた私は彼が目を覚ました時の為に珈琲を用意する。彼は極端に甘いものが好きだが入れるのはブラックだ。ケトルで水を温め、上棚からインスタントコーヒーの瓶を取り出す。彼のマグカップにコーヒーを入れ、お湯が沸騰するのを待つ。

その間に冷蔵庫の中身を確認する。レントンは家事はからっきしだからそんなに期待はしていないが、やはり冷蔵庫の中身はあまりいい状態だとは言えなかった。それでも私の好きな食パンを買ってきてるあたりは日々の小言が少しは聞いたのだろう。私は冷蔵庫から使いかけのハムとマヨネーズ、余ったジャム類を取り出す。ほんとなら新鮮な野菜類も欲しいがあいにく冷蔵庫にはなかった。一斤のパンを切り分け、サンドイッチにする。粗方完成したところでお湯が沸いたのでレントンのコーヒーと私の紅茶を淹れる。レントンの分は彼の近くに置き、私は紅茶を蒸らしている間、牛乳をレンジで温める。蒸らし終えたらティーバックを振り、温めた牛乳を注ぎ込む。これで軽いお昼の完成だ。

 

「いただきます。」

 

私は寝ているレントンの向かいに座り、食事を取る。起こさないように注意しながら食事をしていたが珈琲の香りで目覚めたのか、彼はゆっくりと目を覚ます。

 

「…………おはよう。目を覚ましたら食事が出来ているなんて、やっぱり君は。」

 

「先生、それ以上言うと怒りますよ。せっかく珈琲を淹れたんですからさっさと飲んでください。」

 

「あぁ。…っ!?これブラックじゃないか!!」

 

「口は災いの元ですよ。」

 

「起き抜けにこんな仕打ちはあんまりじゃないか。」

 

「何年面倒を見てきたと思います?先生の言いそうなことはだいたい予測出来ますよ。」

 

ちょっとした悪戯は大成功。レントンは砂糖を取りにキッチンへ向かう。そして彼も食事を取り始める。

食後、この一ヶ月の間の出来事をレントンから聞く。あの事件の後、GPSで私が動かなくなったことを不審に思った役人が現場に駆け付け、倒れている私を発見した。そこから大慌て。なんせ私は魔術を行使しているというこの世界では未知の力だ何が起こっても対処できない。レントンは私に倒れた心当たりはあるかと聞かれたが、フォルトの事はぼかして精神干渉系能力の暴走に当てられたと説明した。レントンは何か思い当たる節があったのかその説明で納得した。

その後、半日かけて全身の検査をして異常が見られなかったので早めに就寝して翌日から学校に復帰した。その際に皆から退院おめでとうと祝られた。まぁ一名にはしかめっ面で舌打ちをされたけど。

 

 

 

 

 

「剣士、依頼していた刀の方はどうなっている?」

 

「順風満帆。既に作り終えました。どうぞご確認ください。」

 

「うん……振り回しやすい長さだね。これならいろんな場面で使えそうだ。ありがとう剣士。」

 

「いえ、当方にはもったいないお言葉です。」

 

「おーい、坊主。さっきの戦闘結果なんだが、しばらくあのレベルでいいか?」

 

「俊英さん。そうですね…。試験前にまた大怪我しても困りますのでしばらくはこのレベルで慣らしていきますよ。」

 

「ほいよ。じゃあ、昼休憩したらまた魔術の測定を頼むぞ。」

 

「……何ヶ月も測定してもあまり芳しくないんですよね。まだデータ取りの必要あるんですか?」

 

「言うな坊主。上からの指示がうるせぇんだよ。形だけでも取らねぇと小言言われんだよ。」

 

目覚めてからしばらくして、私は主に休日は俊英の研究所で雄英の実技試験対策の為に戦闘訓練をしている。と言っても怪我しないような訓練ばっかりしかしてないんだけど。見返りとしては私の魔術を調べているのだが結果はあんまり芳しくない。私の属性がかなり特殊なのが原因なのだろう。俊英も飽きたような顔で測定しているから本人も時間の無駄たと思っているのだろう。私は魔術を戦闘の為の戦法の一つとしか捉えていないため、そこまで深く研究しているわけじゃない。別になくても今は戦えるから不便はしていないし。だけどそれじゃあ納得いかないのは役人たちだ。彼らは知らないことは全て調べてあげて、あわよくばこちら側の技術として欲しているのだろう。まったくどこの役人ていうのは変わらないな…。

そういえば最近学校で爆豪が絡まなくなった。本人は否定するだろうがあの騒動とヘドロ事件でかなり委縮しているのだろう。

変わったと言えばもう一つ…。

 

 

 

「先生!緑谷の体調が良くなさそうなので保健室に連れて行ってもいいですか?」

 

「…そうだな。今の緑谷の状態は目に余る。三笠、連れて行ってやれ!」

 

「!?あの!僕は大丈夫です!なので…。」

 

「はいはい、どう見ても無理しているようにしか見えないから。肩貸すからさっさと行くぞ。」

 

「え?み、三笠君!?ちょっと!」

 

ヘドロ事件から数か月後、目に見えて出久の様子がおかしくなっていた。周りのみんなは受験ノイローゼなどと噂していたが、私は出久がオールマイトと特訓していることを知っている。オールマイトが無茶な課題を出しているのかそれとも出久が無茶しているのか…。どちらかはわからないが今の出久はあまりにも目に余る様子なので先生に報告し、半ば強引に出久を保健室に連れていく。

保健室のついた私は出久をベッドに寝かせる。

 

「三笠君、僕は大丈夫だから…。」

 

「緑谷、さっきの授業で先生がテストに出ると言った範囲は何ページだ?」

 

「え?…えーと……。」

 

「はい、時間切れ。お前最近授業の内容碌に聞いてないだろ。」

 

「……。」

 

「はぁ……緑谷、トレーニングメニュー持っているか?ちょっと見せてみろ。」

 

「え!なんで…。」

 

「三年になっていきなり鍛え始めたってことはやっと見てくれる人が見つかったってことだろ。お前のことだ。雄英のその先まで見据えて無茶しているだろ。」

 

私は緑谷からトレーニング表を受け取り、その内容を読む。どうやら予想通り無茶しているのは緑谷の方だった。私はもう一度ため息をつきもらった紙を出久に返す。

 

「やっぱりな。緑谷、このままこのトレーナーのメニューを無視すれば、本番前にぶっ倒れるぞ。」

 

「でも僕はまだ弱い。その人のためにも強くならないと!」

 

「……緑谷。お前は今のままでも十分に強いと俺は思っている。」

 

「えっ」

 

「覚えているか?ヘドロ事件のこと。実は私もあそこにいたんだ。周りにいるヒーローは襲われている爆豪に対して誰も命を懸けて救おうとしていなかった。だけど緑谷。お前だけが、あの時助けを求めている爆豪を助けようとしていた。お前の勇気は並みのヒーローを超えている。後は自分のことも大事にしてやれ。厳しいこと言うけど、”自分の身も守れない奴が誰かを守れるとは思わない”ほうがいい。」

 

「……ありがとう、三笠君。ちょっと疲れたから眠るよ。」

 

「そうか、授業のノートは私が取っておくから心配せずに休んでおけよ。」

 

私は出久にそう伝えると保健室を後にする。数日後、私の忠告が効いたのかわからないが、出久の顔色は疲労しているようだがだんだんと良くなっていった。

 

 

 

 

 

季節はあっという間に過ぎ去り、雄英の入試まであと三日を残すところまできた。私は実技試験の対策のためのに研究所で最後の調整を行っていた。その調整も終わり、ロッカールームで着替え終わった後、自販機の横のベンチに座って休んでいると、レントンがやってきて横に座る。

 

「お疲れ様、調子はどうだい?」

 

「筆記は合格範囲内ですし、戦闘の調整も高ランクを維持できているので実技も不安はありませんよ。」

 

「そうかい?本当に君は相当規格外な子だよ。雄英の歴史上初のノーマル受験者ひいては合格者になる可能性だってある。」

 

「可能性ではなく必ず実現させますよ。私は悩んでいるノーマルたちの為に必ずヒーローになってノーマルに対する世界の見方を変えます。」

 

「君は本当に初めから変わらないなぁ…。普通なら笑い飛ばされて終わるようなことを実現させるために努力している。それは並大抵の覚悟じゃあできない。

僕はね、君に初めてそのことを言われたときは周りの人間と同じように思っていたさ。ただの子供の癇癪だ。現実は甘くない。そんな風にね。でもそれはあの事件の日に打ち消された。傷だらけの君が起き上がり、撃ち込まれる攻撃をものともせずに叩き潰し、咆哮する姿は、画面越しでも恐怖を感じた。君は子供の皮を被った怪物ではないかと思ったよ。それからの君との生活は私にとっては緊張の日々だった。初めて君が料理した時はのどを通らなかった。………聞かせてくれないか。君はこの世界をどう思っている?」

 

「今だにノーマルに対する差別や偏見は醜いと思っています。能力を持っている者はその能力の種類にかかわらず、その有無で個人を判断する。そして本当の意味でのヒーローを知らない。私から見れば大概のヒーローは街中でヒーローショーをしているようにしか見えませんよ。」

 

「そうか…もう一つ最後にいいかな?

君は本当は何者なんだい?」

 

「私はただ自分の守りたいものを奪われるのが怖いだけの”ただの人間”ですよ。今はまだ。」

 

「ただの人間…か。」

 

レントンから告げられる事実に私は静かに聞き、答える。彼が私を警戒していたことは知っていたし、客観的に考えても戦車を叩き潰す子供なんて恐怖だろう。彼は僕がヴィランサイドに落ちるのが怖いだろう。確かに私の目標は一歩間違えればヴィランの主張と何ら変わりない。だからこそ強大な力を持つ私を警戒しているのだろう。

しかし、私が信陽との誓いを、フォルトとエルの三人で交わした誓いがある限り、決してヴィランに落ちない。それが私の心の支えなのだから。

 

それから私とレントンは俊英と剣士に別れを告げ、帰路に就く。明後日は本番。明日は筆記の最終確認をするために今日のうちに明日の分の家事もしておく。レントンに任せたらめちゃくちゃになる未来しか見えないのでここだけは譲れない。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。