夜明けを歩むノーマルヒーロー   作:双星シグ

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英雄の産声

本番当日。私は集合時間の一時間前に雄英の校門前で立っていた。来る途中でトラブルに会った時の為に早めに出たが結果的には何事もなく無事についてしまったため、出久と勝己の二人に挨拶をするため待つことにした。二人とはライバル関係になるわけだが、幼馴染のよしみとして声を掛けることにした。時間は進み三十分後、始めに着いたのは出久だった。彼は息を切らしながら慌てた様子ではしてきた。私は出久の姿を確認すると声を掛ける。

 

「おはよう、緑谷。やっぱり緊張しているようだね。」

 

「っ!あ、三笠君。早いんだね。……そうだね、いくらトレーニングしても心までは鍛えられなかったよ…。」

 

「でも、努力したんだろ。それはきっと実を結ぶさ。」

 

「どけデク、男女!!」

 

しばらく出久と会話していると後ろからドスの効いた声が聞こえてくる。振り向くとそこには殺気立った勝己の姿があった。出久は無謀にもそんな勝己に声を掛けるが、彼はガン無視。仕方がないので私も声を掛ける。

 

「おはよう、ボマード。どうした本物のニトロみたいに爆発寸前だぞ。」

 

「…………うるせぇ、今日は絶対にお前をぶっ殺してやる。」

 

勝己はそう言うとそそくさと学校内へ入っていた。私はため息をつき、出久とともに学校へ入るが、ここで出久が足を絡ませ、倒れてしまう。咄嗟に手を彼の前に差し出すが、一向に出久は倒れてこない。ふと見ると茶髪の女の子が出久に触れていた。

 

「大丈夫?私の個性で勝手に助けちゃったけど、転んじゃったら縁起悪いもんね。」

 

「へ?…あっ…えーと……。」

 

「緊張するよね。お互い頑張ろうね。」

 

 

 

― ぽけ~… ―

 

「…………(女子と喋っちゃった!)」

 

「女子と喋ったみたいな顔してるけど、今のは喋ったことにはならないよ緑谷。」

 

 

 

その後は無事に会場である講堂に入り、受験番号順に書かれた席に座る。私は席は勝己と出久の間だった。三人とも無言で待ち続けているとチャイムが鳴り壇上にプロヒーロー『プレゼント・マイク』が上がった。

 

「『今日は俺のライブにようこそ!!!エヴィバディセイヘイ!!!』」

 

― silence… ―

 

プレゼント・マイクの掛け声に受験生一同は答えない。しかし彼はあきらめずに声を張り上げる。どうやら彼は相当ハートが強いようだ。

説明を掻い摘むとポイントが割り振られた仮想ヴィランを倒す実戦方式だった。事前に持ち込みは自由と聞いていたので剣士の鍛えた刀を持ってきたがプリントの画像からしてロボットのようなので持ってきてよかった。説明が終わると一人の生徒が立ち上がり質問する。品行方正な佇まいの彼はひとしきり質問し終えるとくるりとこちらに振り返り、話しかけてきた。

 

「ぼそぼそと気が散る!物見遊山のつもりなら即刻ここから去りたまえ!」

 

「す、すみません…」

 

「…確かにそれはこちらの落ち度だが、そこまで言われる筋合いはない筈だ。」

 

開始前から生徒一同の緊張は高い状態にあり、ピリピリしている。それは私も例外ではない。あまりに高圧的な言い方に腹の虫がたった私は出久を差し置いて彼に反論する。すると会場の温度がぐんっと下がる。

 

「『オーケーオーケー、受験番号7111番、受験番号8093番、その気合は本番まで取っておこうぜ!』」

 

すかさずプレゼント・マイクが声を掛けたため、私は改めて前を向き彼の言葉を聞く。

 

「『最後にリスナーへ我が校の”校訓”をプレゼントしよう!

”Plus Ultra"!!それでは皆、良い受難を!』」

 

 

 

プレゼント・マイクの説明も終わり、私は二人と別れて、会場の更衣室へ。黒いプロテクトスーツの上に皮と金属のグローブ、肩当て、ロングブーツ、そして剣士の野太刀を腰に携える。ぱっと見た外見はあの島津義久と似ている。最後に金属の黒いドクロマスクを手に持ち、会場に入る。

 

 

 

「圧巻だな…。」

 

流石は日本一と称されるヒーロー校。試験の為にバカでかい街を再現するなんて。うちの研究所と遜色ないレベルだ。

私はいつ始まってもいいように手に持ったマスクをつける。これは俊英に頼んで作ってもらったもので低酸素マスクとガスマスクを併せ持った機能がある。実はこれ、私が前世でつけていたものと全く同じものである。私は戦闘の前、わざと通気の悪いマスクを着け、深呼吸することがルーティンである。極限の中、空気が薄くなるといつも戦場を思い出し、最高のパフォーマンスができる。このマスクはそれを引き起こすためのものだ。

マスクをつけると金属特有の冷たさが身に刺さる。深呼吸すれば、その少なさに心拍数が上がり、呼吸が早くなる。これだ…。これが戦場で感じる空気だ。

 

 

 

「ハイ、スタート。」

 

「『機関始動(エンジン・オン)』」

 

プレゼント・マイクの気の抜けたコールが聞こえた瞬間、紅い風が走った。

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…クソッ!」

 

始めは試験内容を聞いて楽勝だと思っていた。パワー系の個性の俺にとって何かを壊すなんて屁でもないことだと思っていた。だけど結果はどうだ?

俺含めこの会場の受験生は目の前の光景に唖然となった。何の個性かはわからないが、たった一人で次々にロボットを一本の刀で両断していく奴がいた。試験が始まってから何分かたったが、俺含め他の受験生は皆息が上り動きが鈍くなる。ただ物を壊すならこんなに疲労しない。しかし相手は攻撃してくる。なれない”戦闘”に体と神経が削られていく。

だけどあいつは息一つ上がっていない。それどころがだんだんと速くなっていっている気がする。敵を発見した瞬間、速攻で近づき、敵が攻撃する前に一撃で倒す。間違えない、あいつは戦闘慣れしている。

 

「『標的補足!ぶっ殺す!』」

 

「しまった!」

 

疲労で判断力が鈍ったのか。後ろから迫ってきた敵に気が付かなかった。俺は咄嗟に腕で防御する。初めて受ける攻撃に恐怖し、目を瞑る。

 

 

 

「そうはさせないよ。はあ!!」

 

しかし攻撃は来ず、聞こえてきたのはロボットの破壊音だけ。ゆっくりと目を開ければ、目の前にはあの紅い人影。

 

「大丈夫かい?」

 

「あ…あぁ…。」

 

「そうか、ならよかった。もうすぐ試験も終わる。互いに頑張ろう!」

 

………何が頑張ろうだ。俺はあの時、恐怖に負けて戦うことを諦めた。そんな俺がヒーローになれるわけなんてない。雄英に入れるわけない。

 

 

 

―BOOOOOM!!!!!―

 

俺が打ちひしがれていると、突然後ろから大きな破壊音が響き渡る。振り向けばあまりに巨大な0ポイントの敵が現れた。

先ほどよりも大きな恐怖が襲い掛かる。ダメだ。あれには絶対に勝てない。一目でそう思わせるほどの迫力がそいつにはあった。ほかの受験生は一目散に逃げだすが、俺はあまりの脅威に腰を抜かしてしまう。情けないなぁ…。この歳になって恐怖で涙が溢れてくる。

 

 

 

「安心してくれ!!私がいる!!!」

 

皆が恐怖で逃げ出す中、聞こえてきたのは大きな声だった。そこにいたのはあの紅い奴。奴は逃げ出さずにたった一人であの巨大な敵に立ち向かていた。無謀だ。いくらお前でもそいつを倒すのは不可能だ。そんなことを思うのが普通なのに、俺の心はどこか安心していた。

 

奴は刀をしまうと腰に付けたポーチから白のチョークを取り出し、地面に何かを書いていく。物凄い速さで書き上げると奴は両手を合わせる。それはまるで神を拝む姿のようだった。

 

「『錬金』!!」

 

そして奴は手を地面につけると、突如として書き上げたそれは青く光りだし、敵に向かって真っ直ぐ進んでいく。そして敵の足元から巨大な槍が生えてくる。その槍は敵の腹をに刺さり、串刺しにする。持ち上げられた敵は最後の抵抗かのように手足をばたつかせるが、次第に動きは小さくなり、そして止まった。

その光景に俺を含め、周りにいた受験生たちは驚く。まさに神に祈りが届いたのか、決して敵わないと思っていた敵はたった一人の手によって止められた。

 

 

 

「君、怪我してるね。手当てするから怪我したところを見せてくれるかな?」

 

そう言って俺の手当てをしてくれる奴の姿はまさしく正真正銘の英雄だった。

 

「『終了~!!』」

 

「(敵うはずがない!俺はこいつのように強くないっ!!)」

 

そうして試験官から試験終了が知らされ、圧倒的な実力を見せられた俺の泡沫の夢はここで覚めてしまった。

 

その後もそいつは救護隊と共に怪我人の手当てをしていく。手当てを受けている奴らは皆、自信を失い、憔悴しきった顔を浮かべている。それに気づいたのか、奴は俺らに聞こえるような声で話しかけた。

 

「君たちはヒーローになる為に色々な努力をしてきただろう。それは決して無駄になる事は無い。これから君たちは他の進路へ進むだろう。そこで君たちの能力が役に立つかもしれない。

今回はたまたま私の得意な試験だった。しかし、こんな私でもできない事はたくさんある。人間は互いの出来ないことを補い合ってここまで歴史を歩んで来た。

君たちはこの先、別の道を歩み、そこで誰かを助けるだろ。その助けられた者にとって君たちは正真正銘のヒーローになれる。だからそんな顔をしないで顔を上げろ!君たちには誰かにとってのヒーローになれる!!」

 

同じ歳のはずなのに彼はとてつもなく大人で、そしてその言葉は俺の心を救ってくれた。彼の言葉で前を向ける勇気をくれた。情けないなぁ。中3になったくせに感情が昂って涙が止まらない。けど言わなければならないことがある。

 

 

「ッ…ありがと………ありがとう…」

 

 

 

 

 

試験終了後、受験生の安否や案内を行うため、会場で先導する。毎年のことだが受験生たちは様々な表情をする。勝利を確信し喜ぶ者。逆に悲しむ者。怪我や個性のデメリットで苦しむ者など様々の顔が存在するが、今年は初めての光景を目にした。三笠のいる会場での出来事だった。周りから聞こえるすすり泣く声をほかの会場と変わらないが、その中には悲しみは含まれていなかった。救護隊に交じって手当てを行う三笠に皆が感謝の言葉を告げる。俺はその光景を見て、三笠の姿にオールマイトの姿が重なって見えた。………助田先生、彼はちゃんとヒーローの卵だ。だからこそこの後伝えなければならない事実に足が重くなる。

 

「受験番号8093番!あとは救護隊が処理する。君は早く着替えていなさい。」

 

「はい、わかりました。」

 

「…あと、校長から君に伝えたいことがあるそうだ。更衣室の外で待っているから終わったら声を掛けてくれ。」

 

「………はい。」

 

 

 

 

 

「準備ができました、相澤先生。」

 

「よし、それじゃあ付いて来なさい。」

 

試験を終え、着替え終わった私は相澤に呼び出され、雄英内を歩いていく。しばらく歩き、応接室と書かれた部屋に案内された。部屋に入ると雄英高校校長の根津とスーツ姿のオールマイトが厳しい表情で座っていた。校長の指示で座るが、先ほどから表情が変わらないのでもしやと思い質問する。

 

「…もしかしてノーマルである私は入学を認められないというお話ですか?」

 

「イヤ!?そうじゃ無いさ!本当はまだ話せないけど君の入学は確実だ。ただし……普通科として通ってもらうことになる。」

 

「理由をお伺いしても?」

 

「一番の理由は君が無個性…ノーマルであることだ。我が校は様々なヒーローを輩出してきたが、そのどれもが個性を持っていた。大抵のヒーロー科の授業では個性を伸ばし、その個性を巧みに使いこなせる様にする方針を取っている。しかし、君の様に全てが未知数の能力ではどのように指導していけばいいかその術がないのさ。

それに加え、ただでさえ世間のノーマルに対する風当たりは厳しい。私たち教師陣としてはそんな差別は無いが、もしヒーロー科へ入学すればマスコミや生徒たちからの君のヘイトはまず避けられないだろう。君へのヘイトや被害を少なくする為にも普通科に通ってもらうことになった。

大人の身勝手な理由ではあるが、君を守ることを最優先として考えた結果だ。どうか理解してもらえないだろうか。」

 

「……正直、ノーマルへの偏見は私も痛感しています。何もヘイトは私だけではなく学校側にも向けられるでしょう。普通なら入学を拒否されるものだと思っていました。何故そこまでしてくれるのですか?」

 

「何故、我が校がノーマルの受験禁止を撤回したかわかるかね?

先ほども言った通り、ノーマルへの風当たりは強い。悲しいことにそのせいで何人ものノーマルが謂れのない差別や心ない誹謗中傷を受け続けている。それによって様々な事件も起きている。我が校はそんな世間の目を変えてくれるヒーローの卵を待っていた。ノーマルの希望となれる者を待っていた。そこに君が現れた!君の志望理由を読んで私は歓喜したよ。ノーマルにとって希望となるのは同じノーマルで無ければならない。君ならその希望になってくれと思ったからさ。」

 

「私は平和の象徴として今までヒーロー活動をしてきたが…常々痛感するよ。衰えというものは皆平等に来る。いつか私もヒーローとして戦えなくなる日が来るかもしれない。しかしヴィランは依然猛威を振るっている。これからは一本の柱だけではなく、たくさんの柱で平和を守っていかなければならないと思っている!

君にはその中でもノーマルとして活躍してもらいたい!」

 

そう言うと根津とオールマイトは立ち上がり、私に向けて頭を下げる。三笠はゆっくりと思考し、そしてはっきりと述べる

 

「…これまでノーマルだけで様々な事を言われました。特にヒーローになると言った際はほとんどの人に否定されました。けれどここで私の夢を応援してくれる人に出会えた事に感謝します。その願い必ず実現してみせます。」

 

「…そうか、こちらこそありがとう。

普通科に通うと言っても、5月の体育祭でいい成績を残して君の実力を披露すれば、大手を振ってヒーロー科に編入できる。決して悪い方向に考えないでくれ。

話は以上だ。今回の試験よく頑張った。君の本校での活躍を大いに期待しているよ。」

 

 

 

これにて私の雄英入試が終わった。入学は校長の話では確定だが一応合格通知が来るまでは内密にする様に伝えられた。そして試験から一週間後、雄英から正式に合格通知が送られてきた。レントンから封筒を受け取り自室で一人で開封する。中には入学手続きに関する書類と小型の投影装置が同封されていた。投影装置の電源を付け、机の上に置く。するとスーツ姿のオールマイトが投影される。

 

「私が投影された!!!

三笠少年!入試以来だね。あの時も合格は伝えたが、改めて言わせてくれ。筆記試験ではトップクラス!実技試験では計100ポイントを獲得!もちろん文句なくの合格だが…

今回の試験での評価材料は何もヴィランポイントだけでは無い!教師陣による審査制の『レスキューポイント』!!ヒーローに必要な基礎能力も見ていた!その中でも君はその面でも評価が高かった!試験中、危機に瀕していた生徒を最速で動き助け出し、周りへの被害を最小に止める行動!巨大ロボが出現し、他の受験者が逃げ出している中、冷静に対処し被害を食い止めた技術!そしてこれは本来評価しないのだが、試験終了後の適切な応急手当も雄英の看護教諭から高い評価を受け、レスキューポイントは100ポイント!合計で200ポイント!!文句なしの首席で合格だ!!!

一週間前も言ったが三笠少年にはこの世界のもう一つの柱になってもらいたい!雄英が君のヒーローアカデミアだ!」

 

「フォルト、エル、信陽…。私はやっと誓いを果たせる道標ができたよ。」

 

 

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