オールマイトからの合格を発表された私はその旨と普通科に通う理由をレントンに伝える。彼は驚いた顔をするもどこか納得した顔を浮かべていた。
「やっぱり君はことごとく常識を壊していく。本当にすごい子だ。でも大変なのはこれからだ。とりあえず、合格おめでとう。」
「ありがとうございます。でも今私がここにいるのは先生のおかげですよ。先生があの時私の決意を真剣に受け止め、研究所で戦わしてくれたおかげです。私一人ではどうにもできませんでした。私にとって先生は父親のような存在です。」
「………そうか。そんな風に思ってくれていたんだね。それは思ってもみなかった。そうか……そうか…。」
「なので今日は豪勢に外食がしたいです。」
「君は…。まったく、君からそんなわがまま言われたの初めてだぞ。それじゃああの二人も呼ぶか。」
こうして私の合格を祝う会はいつもの四人で行われることになった。ちなみに二人からもちゃんと祝いの言葉を贈られた。
できればあの三人にも祝われたかったな……。
季節は移り、春。今日は雄英の入学式だが、私は相も変わらず家事を行う。これはもう習慣になっているのでいきなりやめるのはどこかむずがゆくなってしまう。今日は入学式と学校の説明だけなので昼前には終わるだろから今のうちからお昼ご飯の仕込みをする。今日はさっぱりな塩から揚げにしようかな。
鶏モモ肉二枚を一口サイズに切って、酒、胡椒、おろしたニンニクとしょうが、そして塩こうじを加えて揉みこむ。塩こうじのおかげて冷めてもおいしくやわらかなから揚げが出来上がる。一通り揉んだらジップロックに入れて冷蔵庫で漬け込んでいく。
仕込みが終わったら今度は朝ごはんの用意だ。今日は忙しいので簡単にできるやつを。ミニフランスパンを二本取り出し、それぞれを半分にカットし、横から斜めに切り込みを入れて開く。切ったフランスパンはそれぞれオーブンで焼いていく。焼いているうちに、中に挟む具材の準備をしておく。レタスは一枚ずつ洗い、細切りに。トマトは輪切りに。玉ねぎは切って水にさらしてアクを抜く。次に冷蔵庫からベーコンを二枚取り出し、温めたフライパンにで焼き上げる。そうしているうちにパンが焼けたので昨日のうちに作ったツナマヨとタマゴサラダを取り出す。焼きあがったフランスパンに野菜、ベーコン、卵の順に挟みBLTサンドが完成。もう一方にはツナとスライスチーズを挟んでツナサンドの完成。完成したサンドイッチはココアと一緒にいただく。
完食した後、今日は診療所がお休みなので、レントンは8時代に起きる。そんなレントンの為に残りはラップしておく。後片付けをしてふと時計を見ると7時を指していた。ここから学校まで40分。集合時間は8半なのでまだまだ余裕がある。なので私はゆっくりと身支度を済ませ。10分後に家を出た。
地下鉄を乗り継ぎ、着いたのは集合時間の40分前。プリントの案内通りに進み、普通科のC組の教室に着く。さすがはヒーロー学校。生徒に合わせてドアは物凄く大きい。175cmある私の何倍もある。ガラガラと扉を開けると、予想通りまだ人はいなかった。黒板を見ると席順が張られており、私の席は窓側の一番後ろ、所謂”主人公席”だった。荷物を席に置き、何もすることがないのでカバンから本を取り出し、時間まで暇をつぶす。
しばらくするとだんだんと人が集まっていき、集合時間を迎えた。チャイムが鳴って数分後、全員、席に着きながらもいまだにおしゃべりに夢中になっている中、担任と思われる人物が入ってきた。
「C組の担任を務める、『セメントス』だ。三年間、中には半年の間君たちを見守るつもりだ。早速だが今後の予定を説明する。今からプリントを配るから回してくれ。」
コンクリート色の四角いフォルムのヒーロー、セメントス。その名の通り、セメントを操る能力ならば、現代社会において最強といっても過言ではないだろう。セメントスは廊下側から順にプリントを配り始めた。プリントの内容は今日のことだけではなく、今週中に行われる予定が書かれていた。
「配る終えたかな。それじゃあ読み合わせを行うぞ。とりあえず今日の予定はこの行われる入学式と帰ってきてからのHRのみだ。式まではまだ時間があるから、列の順番や式中の注意事項を伝える………。」
それから時間になったので、講堂の方に移動し、入学式が行われた。しかしなぜかA組は全員空席のままだったが…。まぁ、校長や来賓の話や生徒会長の祝辞を聞き、何事もなく教室へ戻った。
HRではセメントスから親睦を深めるため、自己紹介の場を設けた。皆席を立ち、出身校や好物、個々の能力などを話していく。私は最後まで聞いていたが、やはり私以外のノーマルはいなかった。ついに私の番になる。私は立ち上がり、クラス全員が視界に入るように体を向け、はっきりとした声量で話す。
「静岡県、折寺中学校出身、三笠 冬扇です。好きなものは家事にトレーニングに照り焼きチキンサンド。得意教科は数学と科学。個性はノーマル。わかりやすく言えば無個性です。私はノーマルでもヒーローになれると証明するために雄英に来ました。これから長い付き合いになるかもしれませんがよろしくお願いします。」
話し終えた私は軽く礼をし、席に座る。教室内は私の最後の紹介を聞いてしんっと静まり返る。クラス全員が私を驚いた顔で凝視する。そして数秒後、教室内は騒然とする。当然と言えば当然か。ここにいるみんなの認識は能力を持っていて当然というものだろう。それから聞こえてくるのは様々な小言。やれ無個性がなんでいる。やれ雄英にふさわしくない。あまつさえ不正行為をはたらいたなんて言い出すものまでいた。ノーマルというだけで瞬時にこれだけのヘイトが集まったな。もしA組から始めていたらどうなっていたことやら。セメントスは少し考えた表情を浮かべた後、手を鳴らし、クラスを静かにする。
「はいはい、みんな驚いてるけど、雄英は無個性の入学を禁止していないよ。彼はちゃんと調査して雄英にふさわしいと判断したんだ。憶測で他人を批判してはいけないよ。」
セメントスのフォローが入り、自己紹介は終了した。それから今後の予定や連絡を聞いて、雄英生活初日が終了した。
翌日、今日は自分の実力を知る為、能力ありの体力テストを行う。普通科といえどここはヒーロー学校。普通科でも能力を使う授業は当然ある。試験の日に校長が言っていた通り、実力が認められればヒーロー科に編入できる制度があるため、普通科に眠っている玉を見つけるためにこうした授業を行うそうだ。
能力を大いに使える授業に、大半の生徒は興奮した様子である。普通科にはヒーロー科の入試を落ちた生徒が何人か居るためこういうヒーロー科ぽい授業は憧れがあるのだろう。その反面、能力が運動向きじゃない生徒はやる気のない様子だが。最初の種目は50m走。名前順で測定が行われ、次々と好成績を出していく生徒たちの中で私は一人で走ることになった。いやまぁ私の能力を考えれば不測の事態に備えてなのはわかるが、こう一人なのは些か精神的に来るものがあるな。………自己紹介のインパクトから友達すらいない私は自分の番が来るまで一人黄昏ていた。
「次、三笠。」
ついに私の番が来た。実は正式な測定は5歳の時以来なので、今の自分がどれだけの実力があるか、数値化されるのは楽しみではあった。白線の前に立ち深呼吸をする。周りからは嘲笑の声が聞こえるが、集中した私には関係ない。
「よーい………。」
「『
― bang! ―
― BOOOOOOM!!! ―
「三笠冬扇 3秒50…。」
告げられた結果はC組だけではなく、先に測定していたA組の中でも上位に位置する記録だったらしい。私の速さにクラス全員が呆然とする。ノーマルだと思って侮って、足元をすくわれたな。
私はその後も一種目を除外して好成績を残していく。
握力200㎏、立ち幅跳び400cm、反復横跳び140回、ボール投げ700m、上体起こし100回、長座体前屈50cm、持久走2.30分
結果、5歳の時よりも大きく伸び、クラス内1位を冠した。
しかし、次々と樹立されていく記録にクラスメイトの視線が恐怖に変わる。ただのノーマルが訳の分からない能力で自分たちよりも優れた結果を出す光景は人間の原始的恐怖を引き起こすのには十分だったらしい。やっぱりわからないものは怖いらしい。
そんなこんなで時間は進み、放課後。結局私は皆の恐怖を払拭できないまま距離を置かれ、更に独りぼっちが加速した。
「ちょっといいか。」
また一人で黄昏ていると、横から声を掛けられた。目を向ければ、そこには目に隈をこさえた青年がこちらを真剣な表情で見つめていた。確かこいつは…。
「君は…心操 人使君。だっけ?」
「あぁ、そうだお前に質問がある。」
「何だい?」
瞬間、体が硬直するがすぐに元に戻る。明らかに精神干渉系の能力を当てられた。
「…三笠、お前のその能力の秘密を教えろ。」
「…………残念、それは教えられないな。」
「っ!?なぜだ!なぜ洗脳が掛からない!!」
「洗脳…。それが君の能力か。ヒーロー学校だから油断していたよ。こういう風に能力を悪用してくる奴がいるなんて。さて、何が望みだ?」
「くっ!」
私は襲ってきた人使の手をひねり上げ、拘束する。
「(身のこなしはヴィランぽくないな…。単純に俺が気になった可能性もあるがこうも能力を使われると正直、敵だと思わざる負えないな。)……質問を変えよう。君はどこのヴィランだ?」
「ヴィランだと!?違う!俺はただっ!」
「いきなり能力を使われたんだ。はいそうですかとはいかないな。」
「確かにいきなり個性を使ったのは謝る。だが、俺はヴィランじゃない!」
「…………ま、君程度ならいつでも仕留められるな。」
私は拘束を解き、自由にする。確かに能力を使われたが出来心の可能性もある。彼がどうしてそんなことをしでかしたか、聞き出す。
「で、なんでこんなことを?」
「…さっきも言ったが俺の個性は”洗脳”だ。はっきり言ってヒーロー向きじゃない。この個性のせいで昔からよくヴィラン呼ばわりされたこともあった。」
「『あいつ、人を操れるんだって!怖いよな。』」
「『まんま、ヴィランじゃん!こわ!ハブろうぜ!』」
悪意を持って人を操ったことは一度もない。でもそんなこと言っても、噂ていうものは真実よりも信じられてしまう。
「『先生!俺そんなことやってません!操られたんです!信じてください!』」
「『心操、お前こいつに個性を使ったのか。』」
「『違います!そんなことしてません!』」
「『俺はやった記憶ないぞ!どうせお前が俺の事操ったんだろ!正直に言えよ!』」
「『心操、いくら友達でも個性をそんなことに使っちゃいけないんだぞ。今回は特別に見逃してやるから謝りなさい。』」
「『え…。違うんです!ホントにやってないんです!!』」
「『おい、さっさと謝れよ!』」
「『おら!ヴィランめ!俺が退治してやる!』」
「『やめろよ!』」
「『なんだお前、俺にそんな口きいていいのか?また先生に言ってもいいんだぞ。今度はなんて怒られるか見ものだな。』」
「『っ!?くそ…。』」
「『うちの子がすいません。しっかりと言い聞かせます。』」
「『頼みますよほんと、心操が原因の騒動は何件もありますから。』」
「『本当に申し訳ありません。』」
小さい頃から悪戯や悪事の原因は俺のせいにされていた。いくら否定しても、周りの人間は疑いの目を俺に向けていた。
年齢が上がってそんなことも少なくなったが、それでも敬遠されることはいくらでもあった。少なくとも俺は自分がこんな個性を持ったことが嫌で仕方がなかった。それでも
「『私が来た!!!』」
そんな俺でもヒーローに憧れたんだ。
「『心操、お前本当にヒーロー科を受けるのか?』」
「『はい、そのつもりです。』」
「『うーん…。まぁ普通科も受けるなら心配はいらないが、はっきり言って望みは薄いぞ。』」
「『それは元から承知です。それでも可能性があるなら俺はやりたいんです。』」
「『そこまで言うならわかった。成績書2枚書けばいいなだな。』」
けど現実はそんな夢をあっさりと砕けた。
「『ハイ、スタート。』」
「『標的補足!ぶっ殺す!!』」
「『ハァ…ハァ…クソ!まだ1ポイントも取れてない!』」
「『終了~!!』」
「『っ!?そんな!』」
「『心操!雄英普通科合格おめでとう!ヒーロー科は残念だったが普通科も高い壁だ。お前はわが校の誇りだぞ!』」
「『はい…ありがとうございます…。』」
「『埼玉県、名部中学校から来ました。心操 人使です。個性は洗脳です。よろしくお願いいたします。』」
「『洗脳!?えー怖え。』」
「『ヴィランみたいな個性ね。』」
わかってた。どこまで行っても俺はヴィラン呼ばわりされることは。でもこんな個性でもヒーローなれるって夢を見るくらいはさせてくれよ。
「『三笠 冬扇です。個性はノーマル。わかりやすく言えば無個性です。』」
俺は自分の耳を疑った。この学校にまさか無個性がいるなんて。そして俺と同じようにヒーローに夢を見ているなんて。
「『次、三笠。』」
「『あ、次無個性の奴じゃん』」
「『どうせ、ダメダメだよ。無個性がどうやってヒーローになれんだか。寝言は寝て言うもんだよな。』」
「『先生もなんであんな奴かばうんだろ。まさか何かの圧力でも掛けられてるとか?』」
「『えぇ!本当なら最低じゃん!なんでそんな奴が雄英にいるのか。正直、雄英もがっかりだよね。』」
でもお前は俺と違った。
― bang! ―
― BOOOOOOM!!! ―
「『『『『『!?』』』』』」
「『三笠冬扇 3秒50…。』」
お前は無個性でありながら、普通科どころかヒーロー科にも劣らない力を持っていた。周りの奴らは言葉を失ったが、俺は疑問に思ったよ。どうやったらそんな力が手に入るんだ。もしその力が俺にも使えれば…。
「だから俺はお前に近づいた。俺は自分の夢の為に初めて個性を使った。なぁ教えてくれ三笠。どうやったらお前みたいに個性がなくても強くなれる。お前みたいになれる!」
目の前にいるのはあの日の信陽のような傷ついた子供で、出久のような力を求める子供だった。彼はただ純粋に力を欲するために、私に近づいたのがこれでもかっというほど伝わった。私はノーマルの見方を変えるためにヒーローになることを誓った。目の前の彼はノーマルの私を差別せずに、逆に強いものとして見ている。彼なら少し信用してもいいだろう。
「強くなりたいか?」
「あぁ!強くなりたい!」
「夢を叶えるためなら、どんな代償を払ってもいい覚悟はあるか!」
「あぁ!もとよりそのつもりだ!俺はこんな俺でもヒーローになれることを証明したい!!」
彼はまさしく、河川の石の中にある光輝く宝玉だ。