体力テストから数日が経ち、その間の生活といえば学校でヒーロー学校特有の授業を受け、放課後は人使とともにTDLの端っこで鍛錬をし、家に帰ってからは家事をする多忙の日々を過ごしていた。
そんなある日のこと、今日の朝刊の一面にオールマイトが雄英で教師をしていることが報道されていた。特に秘匿はしていないだろうが、こうも公にされると、ヴィラン側に情報を渡していることになっているとおもんだが…。そこは流石マスメディアというべきか。とにかくネタになりそうなことは後先考えずに発信するのはどこの世界も変わらないと痛感する。…前世で海軍にいたときのことを思い出すと憂鬱になるな。嫌な予感がするし、今日は早めに登校しよう。
と思ったのだが…。
「オールマイトの授業はどんなかんじですか?」
「”平和の象徴”が教壇に立っていることについて様子を聞かせてください!」
「教師オールマイトについてどう思いますか?」
校門の前には既に多くの報道陣が列をなしていた。いや、そこに溜まられると普通に邪魔なんだが…。やっぱりマスメディアは。登校して目の前の報道陣の多さにめまいがする。雄英には入り口が一つしかないので裏口からこっそりともいかず、声を掛けてどいてもらうよう頼もうとした途端に囲まれてしまった。めんどくさいので授業がありますのでの一点張りで躱そうとすると、記者の一人が声を上げる。
「あれ。君確か無個性の生徒じゃないか。」
瞬間、報道陣からの視線が変わる。嘲笑、嫌悪、疑念。様々な負の感情を孕んだ視線が突き刺さる。そして報道陣は取材の方向を私に変えてきた。
「無個性!?どうして雄英に無個性の生徒が!」
「君!名前は!どうやって入れたか教えてくれないか!」
「数ある受験生の中でも無個性の生徒が選ばれた!まさに奇跡の子!」
聞こえてくる雑音は全てシャットアウト。ついでに写真を撮られないようにマスクと帽子で顔を覆う。足早にこの場から去ろうとするが、私はとある質問に足を止めてしまう。
「無個性の君が本当にヒーローになれると思っているんですか?」
半笑いで蔑みながら問われた質問。心を無にする。別に怒っているのではない。その扱いは何百回も言われたのだ。今更どうこう言われようが感じない。しかし相手の思う壺は“面白くない”
「私の将来の夢はヒーローになること。周囲からどう言われようが必ずなりますよ。その証明は今年の体育祭で見せます。期待しててください。」
マスクと帽子を脱ぎ去り、とびっきりのキメ顔で答える。すると報道陣は虚を突かれ、固まる。その瞬間を見逃さず私は包囲網から脱出する。校門をくぐると、そこに相澤が立っていた。相澤はそのまま私に近づくと、頭をポンポンと撫でる。確かに今の私は子供だがこういうのは少し照れ臭いな。それが表情に出ていたのか、相澤は一瞬驚き、わずかにほほ笑む。私は挨拶をしてごまかし、その場を後にする。
時間は進み、お昼休み。私は人使と一緒に中庭で昼食を取っていると、通りかかったセメントスにあとで職員室に来て、資料を取ってほしいと頼まれる。私たちは二つ返事で了解し、ご飯を食べ終えた後、職員室に向かう。
「失礼します。」
そう声を掛け、扉を開けると、職員室には先生は誰一人といなかった。おそらくまだいる報道陣の対応に追われているのだろう。とりあえず、資料はセメントスの机にあると言われていたので、机に向かう。
―ウゥ――――!!!―
「『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください。』」
セメントスの机にあった資料を取ろうとしたその時、低いサイレンの音とアナウンスが学校中に響き渡る。私は窓から外の様子を見る。校門を守っていたゲートは無残にも破壊され、記者たちが敷地内まで押し寄せていた。まさか報道陣がゲートを?いや、それはあまりにもヴィランじみた行為だ。自分たちの不祥事を報道したくないマスメディアたちがそんな手段を取るとは思えない。おそらくあの人数の中に雄英を襲うつもりのヴィランがやったのだろう。
「三笠!俺たちも早く非難するぞ。」
「あぁ、そうだね…。っ!?隠れるぞ心操!」
「お、おい!いきなりなんだ!!」
「しっ!少し静かにしてくれ。」
サイレンが今だに響き渡り、生徒たちが混乱しながらも避難している様子を見た人使と避難をしようとした時、背筋に刺さるような寒気が走る。この気配はヴィラン!?やはり報道陣に紛れて侵入してきたか!私は人使を引っ張って机の下に隠れる。そして物音を立てないように人使の口をふさぐ。しばらくすると、いきなり二つの足音が現れた。足音はしばらく職員室を探索していると、私たちの反対側の机まで来た。
「…これが予定表と校内の地図か。」
「持っていくとヒーローたちに気付かれます。ここは写真だけ撮りましょう。」
「そうだな…よしこれでいいだろ。それじゃあ帰るぞ。」
話声とシャッター音が聞こえた後、ヴィランは音もなくいきなり立ち去った。もう寒気はしない。私は机から少し顔を出し、周りを確認し、安全を確保する。職員室はヴィランが訪れる前と同じ無人のままだった。安心した私は机から出る。人使を机から出そうとした時、人使が真っ青な顔で震えているのが見えた。…まぁそうだろうな。普通の生活をしていて、ヴィランを見るのは慣れているだろうが、その被害者になる経験なんて普通はない。人使は今、未知の恐怖に体が震えている状態だ。
「心操、落ち着け。もうヴィランはいない。すぐに先生も来る。もう大丈夫だ。安心しろ。」
「三笠…お前は…。怖くないのか?」
「怖いさ、でもヒーローになるっていうのはこういう体験を何度もしなければならないんだ。しかし、今回は運がよかった。もし、今回の目的が襲撃なら危なかったな。」
「そうか………そうだな。こんな恐怖何度も体験するんだな。」
少し落ち着いたのか。顔は青いままだが人使の震えはいくらか収まった。私は人使を机から引っ張る上げると、職員室の扉が開かれる。入ってきたのは、少し疲れた様子の相澤だった。
「お前たち、避難していなかったのか。ってどうした心操。青い顔をして。」
「ヴィ…ヴィランが…。」
「っ!?どういうことだ!?」
「先生が校門で報道陣の対処をしている際、ここに二人のヴィランらしき侵入者が入ってきました。私たちは咄嗟に机の下に隠れて事なきを得ましたが、ヴィラン達は学校内の地図と予定表を撮影してそのまま消えていきました。」
「…やられたか。今回の騒動も奴らの計画の内、てことか。」
「いえ、そうでないと思います。」
「と言うと?」
「ヴィランは気配もなくいきなり現れました。相手側は何かしらの移動手段があります。つまり今回の陽動は少なくとも必要なかった。その気なら誰もいない深夜に忍び込めばいいだけの話です。でもそうしなかった。」
「…………戦線布告か…。」
「おそらくは。」
私は相澤に今回のヴィランのおおよその行動目的の推測を話す。そう、合理的に考えれば誰もいない深夜に忍び込む方が安全だろう。しかし、ヴィランは敢えて目立つ形で事を荒立て、侵入した。相手は間違いなく、こちらを挑発している。今回の事件の主犯は精神的に成長しておらず、自分を強者だと思い込んでいる。こういう手合いは自分の世界の中で生きているので大半は実力はそんなになく、すぐに捕らえられるのだが、厄介な頭脳や味方がいる場合は簡単には捕まらない。今回のヴィランは後者のようだ。音もたてずに自由に移動できる能力。学校内の地図を盗まれたのは非常に痛い。こういうワープ系はいつ、どこに現れるかわかりずらく、守備範囲を広く取らなければならない。しかし、雄英は広大な敷地を有している。その案はとても現実的じゃない。
しばらくすると、続々と先生たちが帰ってくる。相澤は校長に先ほどの内容を説明する。すると校長から私と心操からも話を聞きたいといてきた。私は先ほどの説明をする。全てを聞き終えた校長は私たちに今回の事件の緘口を指示し、今だ青い顔をする人使を保健室で休ませるようにと提案した。確かに、人使は未だに心ここにあらずといった感じなので、このまま午後の授業に出ても頭には入らないだろう。私は人使を連れて職員室を後にする。
保健室に着いた私はノックをして入る。中には看護教諭のリカバリーガールがいた。どうやら校長から先に話が入っていたらしく、私たちの顔を見るなり、私たちをテーブルに座らせ、ココアと飴玉を出してくれた。それと私たちは今日の授業は出なくていいと、言ってくれたのでとりあえず放課後までここにいることにする。と言っても、流石に2,3時間何もしないのは手持ち無沙汰なので、保健室に置いてある本を何冊か適当に取る。
しばらくココアと読書に没頭していると、人使から声を掛けられた。
「なぁ、三笠。なんでお前はそんなに平気なんだよ。」
「ん?まぁ一言でいえば慣れているからかな。昔からなぜかヴィランに狙われることが多くてね。」
「………怖くないのかよ。」
「怖いよ。怖いのはいつまでたっても克服できないよ。でも自分の大切にしているものを壊される方がもっと怖い。それに恐怖心がなかったら、あの時、ヴィランに見つかって、殺されていたかもしれないしね。
…ヒーローになるってことはそんな恐怖と毎回戦わなければならないと思うよ。恐怖に負けても駄目だし、勝ちすぎても駄目だ。」
「恐怖に勝ちすぎる?」
「恐怖がないっていうヒーローは多いけど、それが本当なら危険な状態だよ。引くべき場面で引けずにそのまま死んでしまえば守ろうとしたものを危険にさらすのと何にも変わらない。カッコ悪くてもいい。生きてさいすれば、挽回のチャンスはいくらでもある。」
「………お前は…強いな…。」
「まぁでも、初めてヴィランに対峙したときは私も震えていたけどね。気にしなくてもちゃんとヒーローを目指す気概さえあれば、いつかは恐怖に勝てるよ。」
私の言葉が気休めになったのか、それともココアのおかげなのか、人使の顔色はよくなってきた。その後は、二人とも放課後になるまで保健室で読書をして暇をつぶしていった。ちなみに訓練所の使用は今日はなしとのことで放課後私たちはおとなしく帰ることにした。
それから数日経った昼休み。人使と一緒に中庭でお弁当を食べていると今度は相澤が話しかけてきた。
「三笠、心操、ちょっといいか。」
「はい大丈夫ですよ。」
「俺も大丈夫です。」
「実は明日の午後のヒーロー科の授業でお前たちに手伝ってほしいだが。」
「ヒーロー科の授業ですか?いったいなぜ?」
「今日の授業は自然災害を想定した救助訓練だ。そこで二人に救助役とそて出てほしい。」
いきなりのお願いで、救助役というちょっとした仕事だが、ヒーロー科の授業を実際に見れるのは大きい。これを断るなんてとんでもない。人使も同じ考えだったらしく。二人顔を合わせて頷き、返事をする。
「そういうことなら喜んで手伝いします。」
「俺もヒーロー科の授業に興味があるので手伝ってみたいです。」
「そうか、感謝する。セメントスには俺から伝えておくから、それじゃ、明日の昼休みが終わったら体操着に着替えて、職員室前で待っていてくれ。」
そういうと相澤は職員室へ戻っていった。些か急だが、このチャンスはかなり大きい。体育祭を前にA組の対策を取れれば、いくらかアドバンテージが得れる。少々ずるいが、私は本気でヒーローを目指すためには体育祭で結果を残さなければならない。そのためには少し躍起になる。
授業当日、私たちは体操着に着替えて、職員室の前で待つ。すると出てきたのは宇宙服を来た先生だった。
「よろしく。僕はスペースヒーローの13号だ。三笠君と心操君だね。今日はよろしく。」
「はい、よろしくお願いします。」
「お願いします。」
「それじゃあ、さっそくバスに向かおうか。」
私たちは13号に連れられ、バスに乗り込む。到着まではしばらくかかるそうなので、私は気になっていたことを13号に聞く。
「13号先生、何故私たちに今回の救助役を頼んだんですか?」
「君たち二人は普通科にもかかわらず、セメントス先生に頼み込んでTDLで訓練を積んでいるね。普通科でTDLを使わせて欲しいなんて頼み込む生徒は久しぶりだし、何より監督の先生から君たち二人のトレーニングは評価に値すると褒めてたよ。雄英はそう言う生徒の努力を決して無碍にしない。君たちなら今年の体育祭でいい結果を残し、ヒーロー科に編入すると僕は思っている。そんな君たちに参考までにヒーロー科の授業を受けてもらい、感触を掴んでもらいたい。」
あぁやっぱりこの学校を選んでよかった。私は笑みを浮かべる。そうこうしているうちにバスが目的地に到着した。
「その名もウソの災害や事故ルーム。略してUSJだよ!」
毎回思うのだがこの学園のネーミングセンスはなんでこういろんなところと摩擦の起きそうなものなんだ。
しばらく談笑していると、入口の方から声が聞こえてきた。どうやらA組が到着したようだ。相澤の先導でセントラル広場前に生徒を整列させる。そこから13号が挨拶をし、A組に今回の実習の内容を説明する。そして13号は私たちを紹介する。
「さて、今日は授業の手伝いに来てくれた生徒を紹介しよう。普通科の心操 人使君と三笠 冬扇君です。それじゃあ二人とも自己紹介よろしく。」
「普通科の心操 人使。個性は…洗脳。よろしくお願いします。」
「同じく普通科の三笠 冬扇です。個性はノーマルです。よろしくお願いします。」
「…ノーマルとはどのような個性なのですか?」
「わかりやすく言えば無個性だよ。」
A組全員が驚きの表情を浮かべる。すると奥から勝己が物凄い形相で私に突っかかってきた。
「おい、男女!お前、居やしねぇと思ったらこんなところで何してんだ!!」
「爆豪!久しぶりだな。相も変わらず、ボマードの名にふさわしい爆発っぷりだな。」
「テメェ!喧嘩売ってんのか!!」
「爆豪、黙れ。三笠、お前はこいつを煽るな。確かにこいつは個性はないが、それでも並みのヴィランなら簡単に倒せる実力を持っている。油断していると痛い目を見るぞ。」
相澤に止められ、おとなしく戻る私。第一印象からかなりのインパクトを与えたが、A組からは疑問の声は上がるも、悪意のある声は聞こえてこない。逆にノーマルで雄英にいることを純粋に褒められる。さすがはヒーロー科。人間性は出来上がっているようだ。
その後は13号から小言と称して、能力の恐ろしさを説いた。確かに爆破や炎、増強系なんかは簡単に人を殺めることができるし、精神干渉系はその者の人格を壊すことなんかもできる。それを幼いころから持っているということは何よりも恐ろしいのだ。力を行使することは、それ相応の覚悟と責任を伴う。しかし幼少期からそんな力を覚悟なしに与えられれば、自分の能力に対する危機感がなくなってしまう。喧嘩やいじめで簡単に能力を使ってしまい。大事件になることも少なくない。私はそのこともヒーローになって伝えられたらと思う。
ーゾクッ‼―
13号の話も終わり、相澤が授業を始めようとした時、私の背筋に寒気が走る。これはヴィランの気配!振り向けば、そこには黒い霧が現れ、中からヴィランがのぞき込んでいた。
「一かたまりになって動くな!!」
相澤も気配を感じて振り向き、ヴィランに気付くと大声を上げる。黒い霧からは続々と大勢のヴィランたちが出現している。中にはかなりやばい気配のする奴もいる。惜しくも平和な授業はできそうにないな。