夜明けを歩むノーマルヒーロー   作:双星シグ

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今回は番外編。心操視点の回です。


英雄を望んだ少年

三笠に俺を強くしてくれと頼んだ後、彼と一緒に職員室へ訪れる。三笠はあたりをキョロキョロとすると、セメントス先生を見つけて歩いていく。

 

「セメントス先生、お願いがあるのですが、よろしいでしょうか。」

 

「何だい?」

 

「校内で鍛錬できる施設はありますか?もしあればそこを利用したいのですが。」

 

「ふん…あるにはあるが、どういう目標を立てて鍛えるかは考えているのかい?」

 

「そうですね。メインは心操の為に基礎体力の向上や格闘技術の習得を考えています。基本的には組手を中心に実戦形式で訓練しようと思っています。」

 

「心操君の…。そうだね、君の能力は戦闘向きではなかったね。それをカバーするために近接戦闘の訓練か。いいだろう、君たちにTDLの使用を許可しよう。案内するから付いて来なさい。」

 

「わかりました。」

 

三笠とセメントス先生の会話がトントン拍子に進み、どうやら施設を使わせてくれることになった。

セメントス先生についていくととある体育館にたどり着いた。そこにはすでに何人かの生徒が訓練に明け暮れていた。中央ではヒーロー科であろうか、派手な個性の生徒が個性を思いっきり使って訓練していた。

…あんな個性なら俺もこんな苦労せずにすんだかも………いや、たとえそんな個性があったとしても三笠に勝てる未来が見えない。

 

「近接訓練なら端の方でもできるだろう。ここでは能力を盛大に使って訓練で来る施設だ。あくまでも監視の先生がいるときのみだけだが、もし使いたくなったら俺に声を掛けてくれ。それでは俺は戻るよ。」

 

「セメントス先生、案内ありがとうごさいます。」

 

「ありがとうございます。」

 

「いや、久々に普通科でここを使わせてほしいなんてお願いしに来た子は久しぶりだったよ。ヒーロー科を落ちた子はどこか無気力な子が多いからね。そんな中で二人は現状を打破するために努力しようとしている。もしかしたら君たちとは3年も経たずに担任ではなくなってしまうかもしれないが、それでも二人のことは応援しているよ。」

 

まだ知り合って日が短い俺達に対してセメントス先生はそう言い残し、施設を後にした。………ダメ元でもここに受けてよかった。俺は人に恵まれたと感じた。

セメントス先生が帰ったので早速、訓練を始めることに。まずは今どれだけやれるか知りたいと三笠が言ったので、先日の体力テストの結果を教えた。はっきり言って自分でも平均以下の数値ばかりでとてもヒーロー科と戦うどこではない。

 

「………やっぱり基礎能力が低いね。何か自分でやってたことは?」

 

「筋トレとランニングを少し。でもあまり伸びなくてな。」

 

「普段どんな筋トレしてる?ちょっと見せてくれない?」

 

三笠がそういうので俺は普段やっているものを実演する。しばらく筋トレをしていると三笠から声がかかる。

 

「うん、うまく体を使えてないみたいだね。素質はあるんだけどうまく生かしきれてない。無駄な運動をしているから余計な力がかかってる。」

 

「そんなにひどいのか?」

 

「試しに一戦やってみる?」

 

「……おう。」

 

急遽三笠と戦うことに。あいつは体力テストでクラス内一位の記録をたたき出している。生半可にやったら怪我するかもな。俺は素人なりにもやる気を持って挑むことにしたのだが…。

 

 

 

「くっ!…はあ!」

 

「甘い!そんなバカ正直な攻撃は通用しないよ。」

 

俺は見様見真似のボクシングスタイルで戦うも、三笠は右手一本で俺の攻撃をすべて捌き切る。顔や顎を狙っても、横から弾かれて躱されてしまう。こいつは戦うのもうまいのか!?しばらく続けるも攻撃は一向に当たらず、結局、時間だけが過ぎた。

 

「素人にありがちなのが、攻撃全部を当てようとすべて100%の力を使ってしまうことだ。これだとすぐにバテて、長期戦には向いてない。いいかい、当てるのは一発だけでいい。そのほかはせいぜい1割2割程度のジャブか、相手を騙すためのフェイントだ。」

 

「一発…。でもそれだけじゃ倒せないじゃねえか?」

 

「私のとっておきを見せよう。いいか本来拳を打つというのは腕だけじゃなく、体全身で振るうものだ。」

 

三笠はそういうとコンクリートの壁がある方に歩いてく。そして周りに誰もいないことを確認すると、三笠は腰を落とし、拳を構える。

 

「左脚で支え……右脚をトリガーに見立て……左腕のハンマーでもって…右拳の弾丸を撃つ………。『ヒュンケ・ファウスト』!!!」

 

― BOOOOM!! ―

 

「…。」

 

三笠が目にもとまらぬ速さで体がブレたかと思うと、コンクリートの壁には拳より一回り大きなクレーターができていた。俺はその光景に恐怖すら覚える。三笠はあのテストのとき、体に緑の線が現れていた。おそらくあれは何かしらの術で体を強化しているのだろう。しかし、今の三笠はそれすらせずに壁を叩き壊した。これがこいつのとっておき…。確かにこんなの一発でも当たればそれだけで敵は沈むだろう。でも俺にあれができるか?

 

「人には向き不向きがあるから全く同じのを覚える必要はないよ。それよりも自分の持っている能力とうまくマッチするものがいい。心操、お前の能力は”洗脳”だったよな。」

 

「あぁそうだが。」

 

「あの時、俺にはかからなかったが他にもかからない奴はいたか?」

 

「怪我で痛みを感じたり、精神が複雑な奴なんかはうまくかからないこともある。」

 

「そうすると、能力が効かなかった時の技もいるな。」

 

「なんかあるのか?」

 

「少しコツがいるけど、強力なやつがあるよ。私の前に立ってみてよ。」

 

俺は言われたとおりに三笠の前に立つ。三笠はそのまま棒立ちで俺の目を見る。しばらくしても何にもしてこないので不思議に思っているといきなり。

 

― Clap!! ―

 

目の前で音がして俺の視界は真っ白になった。

 

 

 

「はっ!」

 

「お、起きたか。」

 

「………何が起きた?」

 

「これだよ。」

 

はっと気が付くと俺はいつの間にか床に倒れこんでいた。かばりと起きると隣に三笠が。俺が三笠に何をしたかを問うと三笠はもう一度それを繰り出した。

三笠がやったのはただの拍手だった。俺はそれで倒れたのか。

 

「これは”クラップスタナー”。所謂、猫騙しってやつさ。」

 

「猫騙し。でもそんなんで気絶したりするのか?」

 

「普通はしないね。相手の顔を見て隙をついてやって、やっと混乱させるぐらいが関の山さ。気絶させるには相手の波長を見るのさ。」

 

「波長ってそんなん俺には見えないぞ。」

 

「それでいいのさ、混乱ぐらいの隙があれば強力な一撃を与えればいい。」

 

「お前のあの技か?」

 

「いや、もっと簡単なの。」

 

 

 

 

 

入学したてのころを思い出していた俺は、意識を浮上させる。黒い霧が晴れ、周りにあるのは燃えたビルと大量のヴィラン。俺は確か三笠と一緒に相澤先生に頼まれて、ヒーロー科の授業の手伝いをすることになった。その提案をされたときは正直言ってチャンスだと思った。入れなかったヒーロー科の、その授業を目の前で見られると思っていたのだから。そしていざ始まろうとした時、まさかヴィランの襲撃が起きるなんて思ってもいないだろ。先生たちが何とかしてる最中、目の前に現れたのは黒い霧に覆われた1人のヴィラン。俺はその姿を見たときに背筋に寒気が走った。

 

「(こいつは!?あの時の!)」

 

俺はその声に聞き覚えがあった。以前、マスコミが学校に侵入したときに入ってきたヴィランの1人。そいつの声に似ていた。あの時は初めてヴィランに遭遇してそのあまりの圧倒感に恐怖で1日中震えていた。そんな奴が今目の前にいる。俺はまた震えが止まらずその場に立つしかなかった。そうしていると黒い霧は俺たちに向かって霧を放つ。なすすべもなくその霧に覆われる。

霧が晴れると、そこはい広場ではなく燃え盛るビル群に囲まれていた。瞬時に周りを確認するとそこにいたのはたくさんのヴィランとA組の生徒の1人だった。

 

「大丈夫か!?」

 

「…あぁ、どうやら待ち伏せされたそうだな。」

 

「心操だっけ?流石にこの人数を相手に君を守れない。君、戦える?」

 

しっぽが生えた奴からそんなことを聞かれる。たしかに俺はさっきまでヴィランと対峙して震えていたが、ここにいる奴らは彼奴等とは違う。そこまで恐怖を感じない。これなら戦える。

 

「もしかして普通科だからってなめてる?俺だってそこそこ戦えるぞ。」

 

「はは、やな奴。」

 

俺と尻尾のやつは背中合わせになり、戦闘態勢に入る。ヴィランたちは待ちきれず今にも襲いかかろうとしている。俺はそんなヴィランに向かって話しかける。

 

「全く情けないよな!二人の子供にこんな大勢で襲いかかるなんて!お前ら、そんな俺らが怖いのか!」

 

「あぁ!?何だてめぇ!なめとんのか!!」

 

「ガキだからって容赦しないぞ!」

 

「ぶっ殺してやる!!」

 

かかった!俺の挑発に乗って、5,6人が言い返す。もちろんさっきの挑発は洗脳にかけるためのもの。答えたヴィランたちはたちまち固まる。

 

「な!?どうしたお前ら!」

 

「残念だったね!俺の個性さ!」

 

俺は戸惑っているヴィランの1人に近づき、顔を思いっきり殴り飛ばす。三笠から教わったことの一つ。チンピラ程度の相手なら鼻を目掛けて殴ると出血が派手に出て、相手は戦意喪失しやすい。事実、俺に殴る飛ばされたヴィランはうずくまり、倒れている。

 

「この!ガキが!!!」

 

「っ!?」

 

ヴィランの1人が俺目掛けて突っ込んでくる。体が大きくなったことからおそらく増強系の能力だろう。なら避けるのは容易い。俺は相手の動きを観察する。そして襲ってきた拳を横に弾いて捌いていく。三笠から教わった2つ目、強力な個性ほど自身の能力に過信して、力任せでお大振りな攻撃が多い。だからよく相手の動きを見て、躱したり捌くことができる。

 

「よけんじゃねぇ!!!」

 

「棒立ちで殴られるやつなんていねぇよバカ。」

 

俺は相手の攻撃を躱し、懐に入ると顎を目掛けて左手で右腕の肘を持ち上げ、右掌を当てる。両手で相手の顎を殴り上げる形になり、相手は大きく仰け反り、倒れる。比較的大柄なやつを倒すと周りのヴィランたちに動揺が走る。このままビビらせばいくらか楽になるが…。しかし現実はそううまく行かない。

 

火火火(ヒヒヒ)、お前はどんな悲鳴を上げて焼かれる?」

 

「くっ!炎が!」

 

俺の目の前に現れたのは、白目を向き、全身から炎を吹き出すイカれたヴィランだった。初見でもわかる、あいつには洗脳は効かない。なんせ自分の個性で自分を焼いているのだから。本物のイカれ野郎だ!

 

火火火(ヒヒヒ)、逃げ回るだけじゃ俺を倒せないぞ?ほらほらどうした!かかってこいよ!!」

 

「あれを出すしかないか…。」

 

俺はヴィランを倒すため、あの炎に飛び込む決死の決意をする。怖い、心の底から聞こえてくる弱音が響く。だけど逃げたところであの火に焼かれる。戦うのは怖い。けど!死ぬのはもっと怖い!!

 

「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

()!勇ましいね!」

 

ヴィランに向かって叫びながら突っ込む俺。そんな俺に向かってヴィランは炎を投げつける。俺は三笠から教わったステップでなんとか躱しヴィランとの距離を詰める。次々に投げられる炎を何個かかすりながらも避け、ついに目の前に。

 

火火火(ヒヒヒ)!いいね!こうなったら大爆発だ!!!」

 

「させるか!!」

 

ヴィランは先程よりも大きな炎を出す算段だ。そんなことをすればどうなるかわからない。俺は懸命に駆け寄り、タイミングを伺う。相手は体を縮こませ、力を溜めている。

 

「うぅ」

 

まだだ…。

 

「ううぅ!」

 

まだ…。

 

「うおおぉ!!」

 

まだ耐えろ。

 

「おおおおお!!!」

 

ここだ!

 

「『クラップ』!!!」

 

― Clap! ―

 

相手が爆発する直前、俺はクラップスタナーを叩き込む。両腕をフリーにした状態でのクラップは相手の目の前で炸裂し、相手は見当違いな方向へ炎を放つ。混乱してる!今のうちに一撃を叩き込む!俺はヴィランの前に立ち、左足を後ろに下げ、両拳を腰の位置まで引き、力を溜める。

そして左足を前に出すのと同時に両拳を相手の胸に向かって放つ。

 

「『双銃拳』!!!!」

 

― BOOM!!! ―

 

この技は女性や子供でもできる護身術の元になった拳法の技を三笠なりに再現したものらしい。比較的かんたんな体さばきで繰り出すこの技は体重の乗った2つの拳を胸に叩き込むことで強力な攻撃力を持つ。俺の放った技をもろに食らったヴィランは、そのまま後ろへ飛ばされ、そのまま地面に転がる。………やった。俺の技が実践で通用した!俺にも戦う手段ができた!

ふと、尻尾のやつの方を見ると、あんだけいたヴィランは全員沈んでいた。身のこなしからして、こいつは格闘技を習っていたのだろう。場数、技術、練習量、その全てが俺より明らかに多い。ここまでの差があるのか…。俺はまだまだ鍛え始めたばかりだ。何もかもが足りない。もっと強くならなければ…。

 

 

 

ヴィラン全員を倒し終えた俺達は急いで広場まで戻る。そこには自分よりも大きな体格のヴィラン相手に一方的に戦っている三笠の姿があった。やはりあいつは強い。

 

「『ノッキング』!!」

 

そうこうしているうちに三笠が大男を倒した。そこからヴィランたちは逃走しようとする。移動の要であろう黒い霧のヴィランを抑えるため俺は近づく。そこに爆破の個性を持つやつがヴィランを倒したので俺はすかさず洗脳を掛ける。逆上したヴィランはまんまと俺の言葉に反応し、洗脳する。これで残すはあの主犯だけだ。それも三笠が簡単に倒し、これで襲撃は終わったかのように思っていたが…。

 

 

 

「大男が動くぞ!!!」

 

突然現れたヴィランの援軍により、形勢は逆転し、再び大男を倒さなければならない。しかし、A組総出で攻撃するも、相手は驚異的な回復力でたちまち回復してしまう。なすすべがないと思っていたその時、ボロボロに立ったはずの三笠が飛び出してきた。

 

「三笠!!」

 

「三笠さん!!」

 

「三笠君!!」

 

「行くぞ!!!『第三戦速 ヒュンケ・ファウスト』!!!!!」

 

― BOOOOOOM!!!!! ―

 

ものすごい轟音とともに三笠の放った拳は大男を彼方まで吹き飛ばした。………あいつは本当にすごいやつだ。先生を沈めたヴィランを立った1人で倒した。やっぱりあいつに声を掛けて良かった。そう思っていると、三笠が突然を倒れだす。急いで俺は三笠を抱える。抱えた三笠の体はボロボロで、傷だらけだった。

その後は到着した先生たちが後処理をしていく。今回大きな怪我を負ったのは先生たちと三笠の他に1人のみだった。俺は炎のヴィランを殴った際に負った火傷のみで軟膏と包帯だけで済んだ。

 

 

 

その日の帰り道、俺は電車に揺られながら、包帯を巻いて両手を見つめていた。初めての戦闘で俺はしっかりと立ち回りができた。でもA組や三笠に比べればまだ足元にも及ばない。より一層三笠との訓練を積んで、いつかヒーロー科に入る。そのためには何かが足りない。格闘や洗脳だけじゃなく、もっと別の何かが必要だ。この先の学校生活で俺はそれを見つけていこうと心に決めた。

 

そしてそれは体育祭後、あちらから現れた。

 

 

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